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トライブレイバー・番外伝  作者: 窓井来足
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「ツチノコを取りに行こう その1」

『超伝神トライブレイバー』本編終了後のある春の日。


境川の神であり蛇神でもある高座水槌は、友人の女子高生・桑林識句(通称くーちゃん)から。

「話があるから来て」というメッセージを受け取り、それに応じたのですが……。


(本編終了後の内容ですが本編の結末に関するネタバレは無い作品となります)

「という訳で、ツチノコを取りに行こうと思うのだけれど」


「って言われても、どういう訳なのかさっぱりわからないんだけど」


 くーちゃんに訳の分からない提案をされたあたしは、仮にこの状況を小説として誰かが読んでいたとしてもそう思ったんじゃないかっていう感想をごくごくストレートに伝え。

 そして春シーズン限定ブレンドのコーヒーをブラック無糖のまま口にした。


 ちなみに今あたしたちがいるここは、町田駅からも近い場所に昔からある喫茶店で。

 落ち着いた雰囲気が魅力のこの店に、あたしはくーちゃんに「話があるから、来て」とSNSで呼び出されたから来たんだけど。


 そんなあたしに、くーちゃんはあれこれ説明した後、最終的に先の提案をしたのだった。


 が、しかし。

 あたしとしては、くーちゃんの説明を聞いても何故最終的にそうなったのか全くわからないのだ。


 何故なら。


「さっき、くーちゃんが話していたのってタケノコ掘りの話だよね?」


 あたしがここに呼び出されて、最初に聞かされた事は確か、タケノコ掘りの話だったはずだ。


 ……と思ったけど、もしかしてあたし。

 くーちゃんが「ツチノコ取りに行きましょう」と誘ったのを「タケノコ掘りに行きましょう」と誘ったのだと思ってたのかもしれない。


 って、いや。

 待て待て。


 確かに最初の一言だけならそういう誤解だった可能性もあるけど。

 じゃあその後、彼女が話していた内容まで全部誤解して聞いてたって事になるんだろうか?


 うーん。それは流石のあたしでもありえないだろうから。


 つまり、くーちゃんは。


「ええ。だから言ったじゃない。昨日テレビでタケノコ掘りの番組を見て思ったのよ。タケノコが出てくる時期ならツチノコも出てくるんじゃないかって」


 やはりそういう事だったか。


 話としては最初からツチノコ取りに行く話題で、それを思いついたきっかけがタケノコ掘りだった――というのがここまでに彼女が話した内容だった訳だ。


 まあ、確かに。


 ツチノコも蛇の仲間だと仮定したら、野生の蛇が冬眠から覚める春には出てくるかもしれないし。

 そしてさっきあたしが聞き間違えたように、タケノコ掘りとツチノコ取りは言葉としては似ているかもしれないけど。


 でも。


「出てくるも何も、くーちゃんツチノコっていると思う?」


 あたしとしては、まずそこが問題になる。


 だってツチノコはいわゆる未確認生物、つまりUMAの一つである。


 ――いや勿論。

 あたしだって、UMAは実在しないなんて言うつもりはない。


 例えばゴリラみたいに「かつてはUMA扱いだった生き物が実際に発見された」という事もあるから、ツチノコも何か新種の動物として存在する可能性だってあるだろうし。


 それに、仮にツチノコの正体が「既に知られている動物の見間違い」だったりしたとしても、それを突き止める事はそれはそれで重要な発見になるとは思う。


 ので、あたしとしてはツチノコ探しそのものは否定しないのだけれど。

 あたしとして気になっているのは、くーちゃんがどう思っているのかという事である。


 何せ、くーちゃんは普段はクールかつ論理的に物事を考えるタイプで。

 むしろあたしに対して毒舌……とまでは言わないけど、ツッコミをしたりしてくるような女の子である。


 が、一方動植物に詳しい上に、ちょっと変な……いや、独特の好みを持つ彼女は。

 自分が気に入っている動物に関係する事になると、やや暴走気味に物事を考えたりするのだ。


 なのでこのツチノコ取りの話も、おそらくは彼女なりの理屈があった上で、実際に取りに行こうというやや無茶な発想にいたったのだと思うのだけれど。

 果たしてその理屈とは何なのか。


 と思ったので、あたしはまず、肝心なターゲットの存在自体について、どう考えてるのかから問いかけたのだけれど。


 これに。


 くーちゃんは「何を言っているの」とでも言いそうなキョトンとした顔をして……あ、いや実際に小声で言っていた気もしたけど。

 とにかく、そんな感じの表情で。


「怪人がいるのだもの。ツチノコがいないなんて道理はないわ」


 と言ってきた……って。


 ええ……。

 そういう発想な訳?


 っていうか、多分この短い発言。表情から読み取ると。


「あなた自身、元・川の神であると同時に蛇由来の怪人よね? そのあなたがツチノコなんて架空の蛇だからいないと思っているの?」とか、そういう意味な気がするけど。


 つまりそれって、あたしとツチノコを同類として扱っている訳?


 っていうか。


「そりゃあ、あたしの名前、水槌(みづち)の由来である(みずち)野槌(のづち)やツチノコとも共通する名前だけどさぁ」


「あら、私が言いたい事、わかっているじゃないの」


「でも、あたしのこの名前は人間社会用の仮の名前だよ? あたし自身はツチノコとは何の関係もないからね」


 そもそも。

 蛇の神様なら蛇に詳しいなんていう事自体がないというか。


 そりゃあまあ、普通の人間を基準にしたら職業的にっていうのか、そういう意味で詳しくはなるけど。

 流石にいるかいないかわからない蛇が何処にいるかを知っているとか、そういう方向で詳しくはなっていない。


 だからあたしにツチノコを探したいから手伝って欲しいと言われても、正直、普通の人間と同じ程度しか協力できないというか――あ。


「でも、あたしみたいな意味でのツチノコも、なくもないのか」


「あたしみたいな?」


「うん。以前あたしが大蛇伝説のモデルになった事があるって話したでしょ? それみたいに、どこかの蛇神とか妖怪がツチノコのモデルに……」


「そっちの方は認めないわ」


「え? 認めない?」


「そういう可能性も勿論あるでしょうけど、それだと困るのよ」


「困る? 何で?」


「だって、それだとツチノコを抱いたり撫でたりできないでしょう?」


「できないって……」


「いえ、できなくはないけれど。別に私、あなたとかを抱いて撫でたいとは思わないし」


「いや、それは……」


 うーん。その例えをそのまま想像すると。

 怪人のおねえさんを抱いて、頭とか撫でてる女子高生って事になるけど。


 確かに、色々と危ない気もする。


 いや、というか。

 流石に怪人態のあたしを、人間のくーちゃんが抱きかかえるのは難しいか。


 だったらここは、くーちゃんも怪人態の方でイメージ――

 ――って、友人相手に何考えてるんだあたしは。


「ちょっと何考えているのよ」


「え? あ、べ別に何でもないです」


 いや、そもそもこの妄想の発端はくーちゃんだから、彼女も何考えているのよ――って事になる……と思ったけど。

 彼女の場合、特に感情的にならず客観的に「これはないわね」とか思ってそうだよねぇ。


 まあ、それはともかく。


「えっと、話を戻すとくーちゃんはツチノコを抱きたいから、あれは神や妖怪じゃなくて、未発見なだけの普通の動物だって思っているって事でいい訳?」


「ええ、まあそうだけど」


「でもさっき、怪人がいてツチノコはいないなんて道理がどうとか言っていたよね?」


 この世界において、いや、少なくともあたし達が今まで戦ってきた限りにおいては。

 殆どの場合、世間の人がイメージする怪人に近い存在の正体は、あたしたちの業界では神や妖怪あるいは精霊などとして扱われるものだったりする。


 だからくーちゃんが怪人とツチノコを同じものと扱っているなら、ツチノコはやっぱり動物じゃなくて神や妖怪って事になるんじゃないだろうか?


「あれは、一般的に存在しないとされるものでも、実際に存在する事もあるっていう話よ。怪人とツチノコが同じ種類の存在って意味じゃないわ」


「うーん。それはUMAも幽霊も宇宙人もオカルトの範囲だけど、それらが全て同じ存在な訳ではない……みたいな?」


「そういう事」


 なるほど。


 この様子だとくーちゃんは、以前はツチノコはいないんじゃないかと諦めの意味で考えていて。

 でも、昨日テレビでタケノコ掘りについて見てツチノコについての事が頭に浮かび。

 そして今になって改めてツチノコについて考えると「怪人のような非現実的な存在が実在した以上、ツチノコもいないとは言えない」という発想に至った。


 ――のだろう。多分。


 まあ、それはいいのだけれど。


 動物の事になって興奮状態な彼女と違い、冷静にものを見ているあたしからしたら、流石に話が飛躍し過ぎ……。


「で、私はツチノコを神様や妖怪ではなく動物だと思っていた訳だけど。そうね。あなたが正体を知らない事でほぼ確信に変わったわ」


「ん? どうして?」


 あ、流石にさっきまでのままだと確信はしていなかったのか。


 っていや、それはもういいとして。

 今は確信しちゃったの? 一体なんで。


「あなたは一応は弁財天ともなっているけど、それは確か人間の感覚だと『弁財天という組織のメンバー』みたいなイメージなのよね?」


「メンバーというべきか、職員というべきかはわからないけど……まあ、そんなイメージだね」


「じゃあもし仮に『ツチノコ』という組織が神様か妖怪のチームとしてあるなら、その目撃情報から推測すると全国規模でメンバーがいる事になるけど」


「けど?」


「そんな規模の大きな団体をあなたが知らないって事があるのかしら?」


「うーん、ないとは言わないけど」


「勿論、悪い妖怪の集団とかならあなた達にも隠れて活動しているでしょうけど、だとしたら今度は普通の人間に見つかり過ぎでしょう?」


「まあ、確かに」


「だから私は、ツチノコは動物として存在すると思うのよ」


「なるほど」


 と、頷いてはみたものの。

 実のところ、あたしとしては。


「ツチノコ」を名乗る妖怪の集団みたいのがなくても、全国に妖怪としてのツチノコが出没する理由は想像できる――んだけど。


 これを今のくーちゃんに言ったところで、多分また別の反論をされるよねぇ。


 ……よし、ここはくーちゃんの気が済むまでやらせてみよう。

 まあ、あたしとしてもくーちゃんが何をしでかす……いや、何処まで頑張るか見てみたいし。


 ってな訳で、こうなったら。

 この水槌おねえさんもツチノコ取り手伝っちゃいますか。


「で、くーちゃん。ツチノコいそうな場所に心当たりあるの?」


 と、気持ちを切り替えたあたしは早速質問をする。


 すると、くーちゃんは待ってましたとばかりに。

 通学時にも使っているバックを開け、その中から書き込みのしてある町田の地図を取り出し。

 そして、赤いシールの貼ってある点を指さしながら。


「私が調べたところによると、この町田の――」


 と説明をし始めたのだった。


(続く)

こうして、二人は町田市のとある場所にツチノコを探しに行くことにしたのですが。

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