94話〜再会、再開〜
リヒティンポス神国に向けウインドウッドを発った俺達。
ローライズ教国を経由し、マインスチル王国を通って目的地に向かうはずだった俺達は今、そのマインスチル王国で戦っていた。
途中で寄ったローライズ強国を始め、クラング王国にウィザルド帝国。
更にはハクガネ皇国という国までが援軍を出しているのだ。
そのマインスチル王国だが現在、魔族による襲撃に遭っていた。
突如現れた魔族は東の砦を襲い、国内に入り込んだのだそうだ。
その魔族達は即座に討ち倒されたのだが、そこで終わらなかった。
その日を境に魔族が続々と侵入。
東側の地区に住んでいた国民は例外なく全員避難。
初めのうちは騎士達だけで対処できていたのだが、ある日を境にそれだけでは追い付かなくなった。
というのも、国民が騎士を襲い始めたのだ。
目を血走らせた青年にパトロールをしていた騎士が噛み付かれ、そのまま亡くなられたのだ。
前日までは普通の青年であり、見回りをしていた騎士達に礼儀正しく接していた彼が、翌日目を血走らせて襲い、そして騎士を噛み殺したのだ。
それを皮切りに国の東側で国民が暴徒化。
それの対処の為に別の騎士が駆り出される事となったのだ。
それはまぁ分かる。
国内の問題を対処する為に騎士が駆り出されるのは当然の事だから。
だが問題はそれで終わらなかった。
死んだはずの騎士が起き上がったのだ。
仲間の復活に、騎士達は喜ばずに泣きながら葬った。
何故なら、起き上がった騎士の目は虚ろで口はだらしなく半開き。
更に重心の定まらない様子でヨタヨタと歩いていたのだ。
明らかに普通ではない様子に、騎士の元同僚は彼を斬り、彼の体を調べた。
結果、その体内から相手を屍者化させる未知の何かが見つかったのだ。
どうしてこんな物が。
心当たりはある。
そう、青年に噛まれた事だ。
それは正解だった。
同じように、目を血走らせた国民に噛まれた騎士達は屍者化し、騎士達に襲いかかったのだ。
それからはもう大変だった。
同じ国を守っていた騎士同士の殺し合いが始まり、そこに暴徒と魔族が加わる。
結果、気付けば戦いはマインスチル王国騎士対魔族、暴徒、屍者連合の戦いになっていた。
何とか騎士達の尽力のおかげで、侵入した魔族、暴徒と屍者は何とか殲滅、追い出す事に成功。
現在は砦付近に防衛線を敷き、魔族軍の侵入を阻んでいる。
そこに俺達増援も入り、戦闘になっているのだ。
「にしても……」
「あぁ……ひとまず波が途切れたか」
俺とアニキは背中合わせの状態で一息つく。
敵は一体一体はそこまで強くないのだが数が多い。
屍者化した騎士達は一応、生前の剣技をある程度は使えているが戦略も無くただ使うだけ。
その為、自分の技で仲間を吹き飛ばしたり、逆に仲間の技で吹き飛ばされたりしている者も大勢いる。
「疲れたぁ……」
「まだ終わりじゃねぇぞアニキ」
「……分かってるよ。それに、一応鍛えてもらったんだ。この程度でへばってられるかよ」
「疲れたって言ってたくせに」
「そういうお前だって、槍を支えにしてんじゃねぇか」
「うるせぇ」
そう返しながら俺は息を整えつつ、水分補給をする。
水。ふとそれを見てある事を思い出した。
敵はそれを利用していたのだ。
国内に侵入した敵は、飲んだ人を凶暴化させる物を井戸に放り込んだのだ。
曰く魔族領でした採れない木の実とキノコ、そして薬草を混ぜて作られた物らしい。
それを飲んだ人が凶暴化し、更に噛む事で相手に移る。
そして噛まれた相手は屍者化し、更にそれを他者に移す。
完全な悪循環だった。
その為マインスチルの王は民に、生活の全てにおいて井戸水の使用を禁止。
その代わり、有事の際にと城に貯めておいた水を配給という形で配り、暴徒化の影響を食い止めようとした。
実際これは成功し、暴徒化する人の数は激減した。
「……俺達も一度退くか」
「そう、だな……」
しばらく警戒を続けるが敵の再襲撃は一向に来ず、俺達は砦へと戻る事となった。
「っくぁ〜……一仕事終えた後の酒は格別だな!!」
「そうだなぁ!!」
夜、砦の食堂は騎士だけでなく、増援で来た者達でごった返していた。
並べられた長テーブルの上には豪勢な料理が並べられていた。
豪勢と言っても唐揚げやハンバーグ、魚のフライといったガッツリした物ばかりが並んでいる。
食堂の料理長達が言うには
「戦えない俺達の代わりに戦ってくれている人達にできる最大限のお礼がこれなんだ」
「この飯を食べるために生きて帰って来て欲しいんだよ」
「食事面でサポートするぜ!!」
と言って気合い満点で料理を作ってくれている。
「にしても、聞いたかハヤテ。どうやって魔族がここを通り抜けたか」
「ん? ……知っているのか? ロウエン」
「あぁ。大きい声では言えんが……耳貸せ」
「お、おう……」
身を乗り出し、ロウエンの話を聞く。
周囲に聞こえないよう、声量を抑え目にして俺に話すロウエン。
その内容というのが……
「……マジかよ」
「あぁ。マジだ」
魔族軍の大将を務める魔族の手で騎士が寝返らされ、徐々にその魔族の手に落ちていったそうだ。
その事が分かってからはこの砦にいた騎士達は全員、療養施設に今いるそうだ。
「ま、俺が聞けたのはその程度だ」
「聞けたって……どうせ立ち聞きだろ?」
「それはぁ〜……お前の想像に任せるよ」
ニヤァ〜ッと不敵な笑みを浮かべ、肉を頬張るロウエン。
「あ、いたいた〜」
「遅れて申し訳ありません」
「お待たせ」
「うわっ、美味しそうな料理だね!!」
「あ、ロウエンさん先に食べてたんですか?」
「ガル!?」
「わう!!」
「ガァ〜ウ」
遅れて来たのは群狼の女子達とフー達だ。
今回の戦いでフー達は大活躍。
結果砦に戻って来た際は血に塗れており、そのままの姿で砦ないを彷徨くのは良くないとしてユミナ達は騎士に頼んでフー達を洗わせてもらったのだ。
「おっと、遅かったな。先に食ってたぜ」
そんな女子達に片手を挙げ、肉にかぶりつきながら応えるロウエン。
女子達と席に着くなり空腹を満たす為に次々と料理に手を伸ばし、食べ始める。
カガリはフー達がおとなしく座っている所に近いので、更に適当な肉料理を取ってはそれぞれの前に置いてあげている。
「にしても急遽の寄せ集めにしてはちゃんと機能していたな」
「アニキ……今のを誰かに聞かれていたら喧嘩になるよ?」
「す、すまんすまん」
「全く」
「だが気を抜けばこちらは一気に崩される。数では向こうが上なんだからな……」
「あぁ、そうだな……」
そうだ。敵の方が数ではこちらを上回っている。
なんとかこちらが持ち堪えられているのは、一人一人のポテンシャルがこちらの方が上だからだ。
「いやいや、このまま行けば何とかなるだろ?」
「甘いなカラト。俺達が来るまでに数日あった。それでもここの奴等は持ち堪えてみせた。となれば」
「向こうもそろそろ業を煮やす頃、ですかね?」
「エンシの言う通りだ。そろそろ相手の大将が動く頃合いだろうよ」
「……じゃあ」
「ササッとその大将を討って、終わらせるぞ。俺達には俺達の目的があるんだからな」
ロウエンの言葉に群狼全員が頷いて応える。
「ワウッ!!」
「あ、ごめんね。お代わりだね」
ウルの催促に若干空気を和ませ、俺達は夕食を食べ続けた。
夕食を終え、それぞれに割り振られた部屋で過ごす俺達。
と言ってもやる事はほとんど無い。
部屋にも限りがあるので、パーティーにつき一部屋。
その代わり人数が多いパーティーには魔浮寝具と呼ばれる物が支給された。
この魔浮寝具だがその名前の通り、魔力で浮かぶベッドなのだ。
魔力を使いはするがその量は微々たる物で、たとえ一晩使ったとしても翌日の戦闘にはなんら影響は出ないのだ。
その魔浮寝具の申請を出しておいた俺は、寝る前にそれを受け取りに行った。
巻物のように巻かれた状態で渡された魔浮寝具。
俺達男性人は布団と呼ばれる、床に直に敷くベッドで寝る。
その上で女子達に魔浮寝具で寝てもらう予定だったのだが、支給できる数の問題で俺達に渡された魔浮寝具の数は五つ。
女子の中で誰か一人、布団で寝てもらう事になってしまった。
「誰に布団で寝てもらうかな〜」
そんな事を呟きつつ、廊下を歩いていると
「こんばんは」
「あぁ、こんばんは」
一人の青年が俺に会釈と共に挨拶して来た。
確か彼は
「えっと……確か君はシキシーズンのシキだっけ?」
「覚えていてくれたんですか? 嬉しいです!! はい、シキシーズンのシキです」
彼はハクガネ皇国出身で、ウィザルド帝国に滞在中にこの話を聞き、駆け付けてくれたそうだ。
「噂には聞いていましたが、流石は群狼ですね。皆さん連携が取れてます!!」
「いや、それほどじゃ……」
「いえいえ!! そんな事ないですよ!!」
そう言って始まるのは世辞と言うかなんと言うか。
とにかく褒めてくる。
褒めて褒めて褒めまくってくる。
「ですので、貴方達がいれば百人、いえ千人力ですよ!!」
「あ、あはは……そうか。ありがとうな」
「いえいえ。っといけないいけない。自分も魔浮寝具を受け取りに行かないと……では、失礼します!!」
「お、おう……」
言いたい事を言うだけ言うと魔浮寝具を受け取りに行ってしまったシキ。
駆け出し感の残つつ、これからに期待だなと思いながら自分の部屋へと向かう。
途中で大人の女性に腕を組まれながら恥ずかしそうに歩く少年とすれ違ったり、久し振りにガーラッドと再会して立ち話をしたりした俺だったが、途中部屋の前で足を止めてしまった。
と言うのも、ある部屋の中から獣の鳴き声の様な声が聞こえたのだ。
しかもその声の主はだいぶ興奮しているらしく、声に切れ間がほとんど無い。
俺もウル、ルフ、フーを連れているが、そんなに興奮した所は見た事が無い。
助けに行った方が良いだろうか。
そう思いドアノブに手を伸ばした所で声がピタッと収まった。
あぁ落ち着いたんだな、魔獣系の世話って大変だよな〜と思いつつ、俺は再び自分の部屋へと歩き出す。
明日だって戦いはあるんだ。
寝れる時に寝るのが一番。
そう思いながら、俺は部屋へと急いだ。
そして翌日……
「……まさか、お前が大将だったとはな」
「人間を捨てたのかよ」
ロウエンの言う通り、魔族側の大将自ら攻め込んで来た。
だが俺達群狼はその大将の顔を見て驚愕した。
だってその大将というのが
「セーラ!!」
自らの欲望の為に他人を蹴落とす、魔女だったのだから。
お読みくださり、ありがとうございます。
うーん……昨日まで友だった人が敵になるってキツイですね…
にしてもガーラッドにシキくん、名前は出ていませんがカナトくんが登場したよ!!
次回は活躍するかな?
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます。
めちゃくちゃ励みになっています!!
次回も読んでいただけると嬉しいです!!
次回もお楽しみに!!