89話〜新しい関係〜
ティヤキことミナモとも恋人となり、ガーディアナ帝国を去り、ウインドウッドに戻って来た俺達。
家で留守を任せていたサフィアとラピスはジンバに城に戻るよう文を貰っていた為、俺達が家に着くなり王都へと帰って行ってしまった。
またサフィアさんが淹れてくれたお茶が飲みたいと思っていたので、少し残念だ。
そう思いつつ懐かしの家でくつろぐ。
ウルやルフは日当たりの良い窓辺でくつろぎ、フーは外の枝でくつろいでいる。
そして俺はと言うと
「この浮気者……」
「す、済まん……」
「隠しているつもりかバレバレでしたし」
「うぐ……」
「私はご主人様が宜しければ良いのです」
「カガリ……」
「私も愛人で良いですし……」
「マリカ……」
「楽しそうじゃない……ハヤテ」
「ミ、ミナモ……」
結構視線が痛いです。
結局あの後ミナモとの事は俺から話す前に速攻で皆に知られる事となった。
ただ、そんな事で皆の仲が悪くなる事は無く、むしろミナモの過去を知って同情していた。
「にしてもミナモさんにそんな過去が……」
「本当に驚きです……」
「ま、まぁ黙っていたのは私の勝手だったし……ね。それにほら、マリカの方だって私よりその」
「私、ですか? ……あっ、お父様の事ですね」
「うん……」
「もう良いんです。それに、全て終わりましたから」
「……終わったって?」
不思議に思うミナモに一通の手紙を差し出すマリカ。
そこに書かれていたのは……
「ふ、ふざけるな!!」
時は二週間程遡る。場所は帝国のカリバー家本邸。
そこの家主の部屋でカリバー家当主のアーク・カリバーは怒りに怒鳴り散らしていた。
机の上の書類は床にぶちまけられ、本棚の本も床にぶちまけられている。
その原因は皇帝からの一通の手紙だった。
内容は非常に簡潔な物。
領土、爵位、全てを没収し、カリバー家を取り潰す。
また、己が権力を強めるために子ども達を利用した行為は見過ごす事が出来ず、皇帝が選出した監査官による調査を行う事が決定。
その内容次第では貴殿を裁く。
というものだった。
彼は今まで、権力を持つために力のある貴族の子息に自身の娘を嫁がせていた。
相手もそれを喜んで受け入れた。
それも当然。
嫁がせた全ての娘が剣聖の祝福を持っていたからだ。
更にアークは娘の夫となる男性が娘に逆らえないように、ありとあらゆる技術を教え込んだ。
料理や裁縫、音楽はもちろんの事、夜の事も教え込んでいるのだ。
しかもその送り出す際に娘の体に、異性に対して発動する強力な魅了スキルを施して送り出すのだ。
結果、夫婦となってから夜の時間を過ごすと旦那は妻の体にかけられた魅了スキルの効果により妻に夢中となってしまう。
その後はアークの指示通り、旦那を操り人形に変えるはずだったのだが、妻達の大半が旦那を本当に愛してしまい、操り人形にする事はせず、中には自身の体がアークによって相手を籠絡するための策が施されている事を暴露してしまう者もいたそうだ。
結果嫁ぎ先は激怒。
すぐにでもアークの元に怒鳴り込もうとした所もあったが、愛する妻の体を元に戻すのが先だと旦那達の大半が判断。
その結果、この事が皇帝の耳に入るのが遅れてしまったのだ。
ただ、そこにハヤテの件が来れば別だ。
皇帝はその権限を使ってカリバー家から嫁を貰った家を徹底的に調べたのだ。
その結果、今回の件が発覚したのだが問題はそれだけじゃない。
なんと、嫁いで行った娘の中に剣聖の祝福を持った娘がほとんどいなかったのだ。
では、どうやって剣聖と思わせたか。
それはアークの妻が関わっていた。
彼の妻が持つ祝福・偽装によって、剣聖の祝福を持っているように偽ったのだ。
ただ、偽装効果といつまでも続く訳では無い。
ではどうやって誤魔化すか。
簡単だ。娘の様子を見に来たと言って訪問し、偽装を行おうと考えたのだ。
自分の娘の様子を見るという、親として当然の行いを彼等は自らの権力を強化する為の道具にしようとしたのだ。
更にそこに加えて娘達の出自も調べられた。
結果、娘の半数以上がアークと血の繋がりが無い事が判明。
ではどこから来たのかを調べた結果、恐ろしい事が判明した。
なんとアークは、見た目の良い、男に好まれそうな外見の娘を買っていたのだ。
帝国内で禁止れている人身売買を行っていたのだ。
これで皇帝はブチ切れた。
皇帝は子がいる事もあり、娘を嫁がせる、嫁をもらうという行為にある意味の神聖さを感じていた。
その行為は両家の信頼関係によって成り立つと考えていた皇帝にとって、アークの行いはまさに愚行も愚行。
報告に来た側近は後に
「話を聞くに連れ、皇帝は部屋を飛び出してアークを斬りに行くんじゃないかと思った」
と言ったそうだ。
当然だ。
子どもの祝福を偽装し、中には祝福が無い事を偽装して剣聖持ちに偽ったケースもある。
つまりアーク達は嫁ぎ先だけでなく、嫁がせる子達も欺いたのだ。
その事実が皇帝の怒りの炎に油を注いだ。
まさに怒りは大炎上。
止まる事を知らずに燃え盛る怒りの炎は当然、アークに向けられた。
結果カリバー家の領土と爵位に金、全てが没収となったのだ。
力に固執し、本当の娘だけでなく、金で買った娘まで利用した男は一瞬で全てを失った。
後日、彼等は帝国の騎士達に捕らえられた。
高い食材をたらふく食べ、綺麗な服を着て、悠々自適な暮らしから一転。
アークと妻を待っていたのは質素な食事にみすぼらしい服。
他者を見下す立場にいた者が、見下される側に落ちたのだ。
そしてそんな彼等に下された刑。
それは……
「アーク・カリバー。貴様には今後25年間!! ボーンリッシュ牢獄で暮らしてもらう」
「に、25年!? しかも、ボーンリッシュ牢獄!?」
ボーンリッシュ牢獄とは、帝国の中でもトップクラスの極悪人が入れられる牢獄だ。
「その間、牢獄で己が犯した罪と向き合うが良い!! そしてニューヤ・カリバー。貴様も今後20年の間、ボーンリッシュで罪と向き合うが良い!!」
「そんな!? どうかお慈悲を!!」
「貴様等外道以下にかける慈悲などありはせんわ!!」
アークの妻であるニューヤも驚愕する。
因みにだがボーンリッシュ牢獄では出るのだ。
白くてフワフワ飛ぶ、半透明のアイツが出ては獄中の極悪人の魂を吸い取るのだそうだ。
果たしてアークとニューヤは無事に刑期を終えて出て来れるのか。
そんな事は、どうでも良い事なのだった。
因みにだが、アーク達によって体を弄られ、人生を狂わせられた子達だが、嫁ぎ先の人達が良い人だった事もあり、しっかりとした治療を受ける事ができ、今では普通の夫婦生活を過ごせているそうだ。
そして時と場所は戻ってウインドウッドの俺達の家。
マリカが渡して来た手紙を読み終わった俺達にマリカは申し訳なさそうにこう言った。
「あの……私も心配になって祝福がどんなものか診てもらったんです。そしたら」
「……そしたら?」
「私の本当の祝福は討伐者……剣聖では、なかったんです……」
討伐者。
手に持って使う刀剣類による威力を上昇させる祝福だ。
一応スキルには刀剣類の威力を上昇させるものはあるが、討伐者の方が上昇率は多い。
ただし、手に持って使う刀剣類でなければいけないので、弓矢やハンマーとかでは効果が無く、自然と使う武器が限定されてしまうのだ。
「討伐者……」
「剣聖じゃない、こんな私でも……ハヤテさんの事が好きなんです」
「マリカ……」
「ですからお願いします。夜伽の相手も致します。イラついた時の捌け口に使って頂いても良いです。ですから、ですからどうか私を」
「マリカ。それ以上言うな」
「ですが……」
「言うな」
そう言って俺はマリカを抱きしめる。
「安心しろ。そんな事で俺はお前を捨てたりしない。そんな事で捨てるぐらいなら、群狼に受け入れたりしていないさ」
「あっ、あぅ……うぅ……」
「ちゃんと話してくれてありがとうな」
背中をさすりながらマリカに言い聞かせる。
すると
「そうだよ!! そんな事気にしないよ!!」
「そうです。祝福が何ですか。ジンバの部下には騎士に向かない祝福を持ったにも関わらず、騎士として立派に務める者もいましたよ」
「そうですよ〜。祝福なんて気にするような私達じゃないですよ〜」
ユミナ、エンシ、カガリも頷いてマリカを慰める。
「そうそう。そんな事でお前を捨てるようなハヤテなら、とうの昔に俺は斬り捨ててるよ」
「そうだな……人の事を言えた義理じゃないけど、俺としては祝福に振り回される辛さを少しはわかっているつもりだぜ」
「その事を素直に話せる貴女は強いお方ですよ」
更に散歩から帰って来たロウエン、部屋から出て来たアニキとエラスもマリカに彼等なりに温かい言葉を投げかける。
「み、みなさん……あ、ありがとうございます」
「な? 気にする事は無いんだよ」
「はい……はいっ」
俺達の言葉を泣きながら頷いて受け取るマリカ。
この日、こうしてマリカは改めて群狼の一員になった。
剣聖ではなく、討伐者のマリカは俺の腕の中から出ると皆に向かって頭を下げる。
「これからよろしくお願いします!!」
笑ってそう言う彼女を、俺達は心から迎え入れた。
お読みくださり、ありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます!!
いや〜、マリカの父親の件すっかりやるタイミング見失ってましたわ〜。
やっとやれて良かった良かった。
……子どもは大切にね!!
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
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次回も読んでいただけると嬉しいです!!
次回もお楽しみに!!




