88話〜亡国にて〜
本年1発目ー!!
俺が暴走し、アニキ達と戦って一週間。
俺は死んだように眠り続けていたという。
当の俺は夢も見ず、気が付けば一週間経っており、かなり驚いた。
そしてその一週間の間に、ガーディアナ帝国はなくなった。
怒れる民衆による革命の結果だった。
ミクリスアはその地位を追われたが、死を免れる事はできた。
彼女が無知であり、周囲の人間が半ば操り人形として彼女を利用していたからだ。
かといって無罪放免はできないとして、女帝の座を下ろされる事となり、国民によって彼女の兄が選出され今は国の代表の座に収まっている。
彼は元は騎士団の一部隊の長を務めていたそうだが、今回の革命の際に民衆と共に立ち上がり、部下の騎士を率いて勇敢に戦ったそうだ。
その後彼は再び騎士団に戻るつもりだったのだが、国民が国の代表を選ぶ際に一番票を多く獲得した事もあり、民が望むのならと王の座に座る事にしたのだそうだ。
その後は国としては、今までミクリスアを良いように使っていた大臣の中でも、使えない大臣達は処刑。
能力のある大臣は、位を落として引き続き雇用。
まぁ、給金はだいぶ減らされたようだが。
他にも大臣達の意に反したせいで地方に飛ばされたり、閑職に追いやられていた役人を中央に呼び戻し、立て直している最中なのだそうだ。
そして勇者としての肩書きを傘にやりたい放題をしていた勇者グリトニーだが、俺が目覚める前日に遺体となって見つかった。
背後から急所を貫かれており、戦闘の形跡が無い事から相手は余程の力量を持った者と推測されている。
また相当恨まれていた事もあり、顔も分かっていない犯人に対して感謝する者が大半。
ゴタゴタが片付いていない事もあり、捜査人数も必要最低限となっており、犯人に繋がる手がかりは何も掴めていないそうだ。
「そんな事があったのか……」
「まぁな……にしても無事に目を覚まして良かったよ」
「……アニキは?」
「ん? アイツなら昨日目を覚まして元気そうだったぞ」
「……そうか。良かった」
「ま、そりゃそうだが……後でミナモに謝っとけよ?」
「……あぁ、そうだな。ちゃんと謝らないとな」
「あんな事言ったせいでユミナ達に問い詰められていたからなぁ……」
「……そっちでか」
そう。
ミナモは俺を止める為に俺の前に立ってくれた。
ただその際に、俺に向かって私の為にも戻ってくれと言ったのがユミナ達の耳に入り、俺の事をどう思っているのかをあの後問い詰められたそうだ。
「それは……うん、謝っておくよ」
「全く……」
「……ロウエンもありがとうな」
「気にする事はない。とは言い切らんが、今回の事はまぁ……収穫もあった事だし、良しとしておけ」
「……収穫?」
「あぁ。こっちの話だがな。まぁ、ちょっとな」
「ふぅん……そうか」
「そうだよ」
「……なぁロウエン」
「何だ?」
「ずっと寝ていたせいか腹減ってさ……何か食いもんあるか?」
「おぉ、悪いな。今何か持って来よう。少し待っていてくれ」
そう言って部屋を出て行くロウエン。
しばらくして部屋に来たのはお盆を持ったミナモだった。
「……見た所、元気そうね」
「お、おう。おかげさまでな……ロウエンは?」
「……出かけたわよ」
「そっか……」
「ほら、お腹空いてんでしょ? 皆で作ったから」
そう言ってミナモが差し出したお盆にはボウルが乗っており、その中には子牛の肉を柔らかく煮込んだスープが入っていた。
「……病み上がりだし、そんなに噛む必要は無いわよ」
「……そうか。ありがとうな」
「それは皆に言いなさいよ」
「そ、そうだな……」
頷きながらスープを食べ進める。
「……美味かったよ」
「そう……」
「……悪かったな。俺が暴走したせいで」
「気にする必要無いわよ。誰だって怒る時はあるし、悲しむ時はあるもの」
「……それでも、あれだけの力を持つ俺が感情をやたらめったら取り乱させたら危ないだろ」
「……それもそうね」
「……」
「……」
しばしの静寂の後、口を開いたのはミナモだった。
「にしてもアンタのせいで大変な目に遭ったわよ」
「あぁ、ロウエンから聞いたけど……済まん」
「全くよ」
「……でもあれ言ったのはミナモの勝手だし」
「ハイ? よく聞こえなかったんだけど」
「……何でもありません」
「全く……」
空になったボウルを見ながら次の言葉を探す。
探しながら疑問に思った。
いつもよりも食のペースが早いのだ。
余程お腹が空いていたのか。
いや違う。
もしそれ程腹が減っていたとしてもペースが早すぎるのだ。
何かが俺の体の中で起きているのだろうか。
そう思っていると
「……ねぇ、ハヤテ」
「……ん、何だ?」
「私の話、聞いてくれるかな」
「お前の話?」
「うん。何であの日追われていたのか……私が何処から来たのか」
「……良いのか?」
「うん。いつかは話さないとって思っていたし……その、まずはそれを伝えないとその先には進めないと思うから」
「……そうか。分かった」
「ありがとう……じゃあまずは私が何処から来たかだけど」
一呼吸置いてミナモは話し出す。
「私の生まれはネレウシア」
「ネレウシア ……聞いた事、無いな」
「当然よ。だってネレウシアがあるのは魔族領なんだから」
「……えっ」
「……黙っていてごめんなさい。私は魔族領の出身。本当の名前はティヤキ・セクトラ」
「凄い、名前だな……多分」
「……それで、何で逃げていたかって事なんだけど」
「おう」
「お母さんが逃がしてくれたの」
「逃がした? ……何から」
「後継者争いから私を守る為に……」
「後継者争いって、家督とかか?」
「家督、か……その程度ならどれ程良かったか」
「違うのか?」
「……家督、うん、広い意味で言ったら家督なんたけどね、私の場合は規模が違ったの」
「規模?」
「うん……私の父親はね」
彼女は意を決した表情で俺を見ながら、自分を安心させるように悲しそうな笑みと共にこう言った。
「魔王だったの」
魔王。
以前会ったロウエンの父親がクーデターがあったと言っていた事から、前魔王が父親だったのだろう。
「それでね……どうやら死んだみたいなの。アビルギウス兄さんの手で」
「……聞いたのか?」
「水がね、教えてくれたの。残っていた給仕の人達が教えてくれてね。だから、分かったの」
「……父親が死んだってのに、表に出さないから分からなかったぞ」
「ふふっ。まぁ、父親ってのは名前だけ。会った事なんてほとんど無かったから」
「……そっか」
「にしてもさ、私が魔王の子って聞いても驚かないんだね」
「ん? まぁ……あれだけ大暴れする化け物に俺がなれるとか、いろいろぶっ飛んだ経験したせいであまり驚かないっていうかさ」
「あ〜……順番間違えたかな」
「いやいや、そんな事無いよ。それで、お母さんとかはどうなったんだ?」
「……一応、生きているって話を聞いたけど……」
「捕まっているのか?」
「……」
「……そうなのか。じゃあ」
「……?」
「助けないとな」
「……良いの?」
「当たり前だろ。仲間の家族が捕まってんなら、相手ぶっ飛ばして助け出すのは当然の事だろ」
俺の言葉に驚いたのか、目を見開くミナモ。
「良い、の?」
「良いに決まってるだろ」
「だって私、魔王の娘だったんだよ!?」
「魔王の娘で、逃がしてもらって、逃げている最中にエルフ狩りに遭って追われている所を俺とロウエンに助けられたんだろ?」
「うぐっ……まだ話していないのに」
「だいたい予想がついたからな」
「あはは〜……」
「でも、嬉しかったよ。嬉しかったって言ってもらえてさ」
「……そ、そう」
「だから……俺は帰って来れたんだよ」
空っぽのボウルを見ながら呟く。
「……本当に、ありがとうな」
「……うん」
俺の言葉に頷くミナモ。
「……なぁ、これからは何て呼べば良い?」
「……好きに呼べば良いわよ。それに、ずっと長い間ミナモって言ってたんだし、急にティヤキに変えるのも大変でしょ」
「それもそうだな……」
「で、でも……」
「うん?」
「その……二人きりの時はティヤキ、って呼んでほしい」
「……お前そんな性格だったっけ?」
「う、うるさ」
「分かってよ。ティヤキ」
「……っ、うん……ありがとう。それとハヤテ、ずっと言えなかったんだけどね」
「うん?」
「あの時私を助けてくれて、ありがとう」
笑いながらそう言うティヤキの両目からは、清流のように綺麗な涙が流れていた。
「あ、あれ? ……おかしいなぁ……私、嬉しいはずなのに、悲しくなんてないのに……あれっ、あれっ……おかしいなぁ、おかしい、なぁ……」
「……ティヤキ」
ボウルを近くの小さなテーブルに置いて彼女を引き寄せ、抱き締める。
「……今は、俺だけしかいないから」
「あっ……ぅっ」
「俺しか、聞いていないから」
「うぅー……っ」
「よく、我慢したな」
「うぅーっ……」
「泣いて、良いんだぞ」
その直後、堰を切ったようにティヤキは泣き始めた。
ずっと一人で頑張って来たのだろう。
仲間とも別れを繰り返して来たのだろう。
溜まっていたものを全て吐き出すように、彼女は泣き続けた。
辛かった事も全て吐き出した。
吐き出して吐き出して、全てを吐き出して……
「ありがとう……ハヤテ」
「スッキリしたか?」
「うん……おかげさまで」
「そうか。なら、良かったよ」
俺の腕の中で頷くティヤキ。
おそらく、これが彼女の本当の姿なのだろう。
長命な魔族といえど、俺達と同じように成長する生き物。
肉体面も精神面も成長するには時間がかかる。
本来なら誰かと接しながら成長する時期を一人で過ごしたのだ。
寂しかっただろう。
心細かっただろう。
辛かっただろう。
そんな中、強いミナモとしての自分を作りあげ、彼女は俺達に力を貸してくれていたのだ。
その中に、ティヤキという弱い自分を隠して。
その弱いティヤキとしての姿を見せてくれたのだ。
俺を信頼して見せてくれたのだ。
なら、それに応えてやらないとな。
「……なぁ、ティヤキ」
「ん……」
「……俺、もっと強くなるからな」
「……もう、じゅうぶん強いんじゃないかな」
「まだ、だろ……」
「それもそうだね……」
「おいおい……」
「……あのねハヤテ」
「……ん?」
「私……その、ティヤキとして言うけど……私はハヤテの事、好きだよ」
「……ありがとう」
「ハヤテは私の事、好き?」
好き、と言えば良いだろうか。
このまま言ってしまうのは軽い男だろうか。
でも嫌いでは無い。
なら、好きと言えば良いだろうか。
少し前までは恋愛はしばらく良いかなと思っていたのに、今では複数の女性と交際関係になってしまった。
ただ、その中からいつか一人を選ばなければならない時が来る。
いつか俺も誰かと結婚するだろう。
でも、結婚できるのは原則一人とまで。
ユミナ、エンシ、カガリ、マリカの中にティヤキも加えて良いのだろうか。
魅力的な五人の中から選べるだろうか。
「……ハヤテ?」
いや、その時が来たら考えれば良いだろう。
心配そうに見上げるティヤキを見てそんな事を思ってしまった。
そうだ。
それに選べなかったら無理に一人を決めずに何処かで皆と一緒にひっそりと過ごせば良い。
そう決めた俺はティヤキの目を見て彼女に答えを告げた。
その答えを聞いて彼女は一拍置いてから目に涙を溜め、笑おうと目を細めて涙を流した。
セーラに裏切られ、誰かを愛する事が怖くなり、恋から逃げていた俺と初めて仲間になった女性と俺は恋人となった。
そんな風に、俺が優しい時間を過ごしている頃……
「有力な情報を提供した者には金貨を出す、か……」
街に出たロウエンは騎士の詰所の壁に貼られたチラシを見て呟きながら歩いていた。
「……まぁ、無理だろうな」
そんな事を思いながら、彼はハヤテが目を覚ます前日の早朝。まだ日が昇る前の暗い時間帯の事を思い出していた。
時は戻って前日の早朝。
「ようグリトニー。大変そうだな」
「っ、お前は……」
場所はガーディアナ帝国の街道沿いにある林。
そこでロウエンはグリトニーと会っていた。
会っていた、と言うより待ち構えていたと言った方が正しいか。
「何の用だ!! まさかお前、俺を捕まえて奴等に引き渡す気じゃ……」
「んな面倒な事するかよ……」
「じゃあ何で!!」
「おいおい、こんな夜更けにデカい声出すなよ」
「っ……」
「安心しろって、俺はお前が不憫に思えてよ……ここから逃がしてやろうと思って来ただけだよ」
「な、なんだよ……そうだったのか。いや、ありがたいよ。で、どうすれば良いんだ?」
「簡単だ。この道を真っ直ぐ行けば良い。そうすれば、ここから逃げられるさ」
「そうかそうか……本当にありがとうな!!」
ロウエンの肩に手を置き、笑顔で礼を述べて歩き出すグリトニー。
「いや、気にするな。本当にお前が不憫に思えたからだからよ」
そしてロウエンは彼に聞こえないよう、小さな声で呟く。
「本当に、不憫だよなぁ……お前」
キンッ……と小さな金属音が鳴る。
「だってよ……」
次の瞬間、グリトニーは背後から刺し貫かれた。
「ガハッ!? ……な、なん……で」
「言ったろ? ここから逃がしてやるって。この、現世から逃がしてやるって」
「ふ、びぃ……んって」
「あぁ、不憫だよな……勇者として活躍する事なく、ここで死ぬんだからなぁ」
「っ、くぁぁぁっ……」
背後から急所を刺し貫かれ、事切れるグリトニー。
そんな彼にロウエンはあるスキルを使う。
魂喰らい。
相手のスキルを初めとする力を奪い取るスキルであり、強奪系スキルの中では上位に位置するスキル。
スキルのレベルが最大まで上がれば奪えない力は無いとまで言われる力。
それを使いロウエンはグリトニーから目当ての力を奪い取る。
その力の名は……
勇者・呑。
グリトニーが授かった勇者の祝福。
だがロウエンはその祝福を即座に破壊する。
だって……
「この力を使えば、ハヤテも目覚めるだろう……」
眠ったままの群狼のリーダーを目覚めさせる為に。
そして……
「分かたれた力は一つになるべきだ……その日まで、器となってくれよ」
勇者・呑の力を、ハヤテ達にも見せた事の無い莫大な力でエネルギーに還元し、クリスタルに封じ込めるロウエン。
その顔もまた、ハヤテ達がまだ見た事の無い、冷たいものだった。
お読みくださり、ありがとうございます!!
遂に!!遂にミナモがハヤテにデレたー!!
しかも偽名でなんと出身が…………
これは初めから決めていた事なんですけどね……
名前だけ決まっていなかったのにこの話が来ちゃった、本名考えていたら元旦投稿に間に合いませんでした。すみません…… orz
そんでもってラストよラスト!!
多分こういう所なんでしょうね。
一部の方達にロウエンラスボス疑惑かけられるの。
あぁご安心を。ラスボスじゃないとは言っていませんので。
じっくりお悩みなさい!!
年明け故の変なテンションで申し訳ありません……
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます。
いつも本当に励みに繋がっております!!
本年も、よろしくお願いします!!
次回もお楽しみに!!