84話〜次の戦いへ〜
ガタガタと馬車に揺られながら俺達群狼は、皇国の西にあるガーディアナ帝国へと向かっていた。
ガーディアナ帝国は女帝によって治められている国で、資源も豊富。
そのせいかレイェスさんのいる皇国や近隣の国とはしばしば小競り合いを起こしている国なのだ。
資源も豊富、資源を他国に狙われたり、自国の領土を増やそうと他国へ攻め込んだりとやっている事は少し前の普通の国と変わらない。
が、内状は違った。
重税を課せられた市民は苦しみ、市民から巻き上げた税を使って豪遊する貴族。
そして即位したばかりの女帝はそれに気付かない。
蝶よ花よと育てられた彼女に、周りの人達は外の景色を見せなかった。
税を重くするのも、新しい税を作る際も
「全ては国のためです」
「国を守るためのお金を集めるのです」
「両親から譲り受けた国を存続させるためです」
と言われ、周囲が言う通りに新しい税を作り、また重くした。
その結果国民からの反感は強くなり、一部では治安の悪化。
悪い所では騎士の詰所が襲撃され、逮捕者が出るようにもなった。
そして気付けば国民の中にある考えが生まれた。
「この国はもうダメだ」
「城の奴等は腐っている」
「俺達は上の奴等の奴隷なんかじゃない!!」
「俺達の底力を見せてやろうぜ!!」
と、そこから反抗する勢力が生まれてしまったのだ。
これを貴族達は武力で押さえ付け、無理矢理従わせようとする。
だが国民達はそれに屈せず、むしろ反抗心は増して行った。
その様子を見て周囲の国はこう思った。
「この国は長くは続かない」
「近い内にあの国は倒れる」
「その前に付き合いを切っておくか……」
と判断し、貿易を始めとした国交を切りはじめたのだ。
結果貿易面での収入が減り、国民への税が重くなり、国民の反抗心が増すという悪循環に陥っていた。
そんな中、俺にある依頼が来た。
依頼主はレイェスさんがいる方の帝国の皇帝。
レイェスさんを通して言われたが、要約すると革命起きそうだから内状探って来てくれという事。
「全く、無理難題言ってくれるよな」
「本当に済まないとは思う」
「いや、レイェスが謝る事じゃねぇだろ」
帝国から一応護衛代わりとしてレイェスさんが同行してくれる事になったのだが、仲の悪い国の人が行って良いのだろうかと思ってしまう。
「我が皇国としても情報は欲しくてな」
「仮に革命が起きたとして、その混乱に乗じて攻め込むってことか?」
「否定はできんな……まぁ、すぐに起きそうかどうかぐらいは知りたいのさ」
「国民の我慢の度合い、か……」
レイェスさんとロウエンの間で交わされる難しい話をイマイチ理解できないので、俺は隣に座っているエンシに体を預けて少しだけ眠るのだった。
「んー……よく寝た」
欠伸をしながら馬車を降りる。
着いたのは王城前。
着くなり俺達は騎士達に連れられ、女帝の元へと連れて行かれる。
中は綺麗に掃除されており、廊下には赤い絨毯が敷かれている。
「見える所は綺麗だな……」
「ワフゥ……ウゥ……」
「どうした? ウル」
「ワウ〜」
廊下を歩きながら擦り寄るウル。
尻尾を振っているし、落ち着いてはいるようだ。
「話、か……ロウエン、そういうのは任せた」
「はいはい。任せておけって。エンシ、お前も手伝え」
「分かったよ」
そうして通された玉座の間。
そこで俺達を待っていた女帝というのが……
「来たわね!! クラング王国の勇者!! 私の名はミクリスア・ガーディアナ!! この国の王よ!!」
エヘンと言うように腰に手を当てて胸を張る金髪の少女。
多分俺より年下だ。
豊かな金髪の先はクルクルとロールをかけている。絶対洗う時大変だと思う。
豪華なドレスを着て、キラキラ輝く宝石を身に付けたミクリスア。
その表情から察するに、苦労をした事が無かったんだろう。
その目は悪い意味で輝いている。
「えっと、それでどの方が勇者様なのかしら?」
「ミクリスア様。勇者様はそこの緑の髪の方です」
「そうなのね!! 貴方があの聖装に選ばれた勇者なのね!!」
キラキラと輝く笑顔で俺を見るミクリスア。
苦手なタイプだなと思っていると彼女はそんな事気付く訳もなく
「この国にも勇者がいるのよ!! 貴方みたいに聖装には選ばれていないのだけれど、とっても強いの!!」
「は、はぁ……」
「良かったら会ってあげてね!!」
「……」
なんだこの世間知らずは。
いや、だから担ぎ上げられたのだろう。都合の良い駒として利用するために。
確かに、この国はそう長くはないかもしれない。
俺はそう思った。
これがまだ、ミクリスアにもう少し経験があって外を見ていれば違ったかもしれない。
が、おそらくこれは手遅れだろう。
だとしてもやる事は変わらない。
依頼は依頼だ。
きっちりやって、貰うものは貰う。
だって俺はこの国の人間じゃないから。
だから、この国がどんな道を辿ろうが気にしないし、気にならない。
群狼やウインドウッド、アクエリウスやダークエルフの里の人達が無事なら俺は良い。
むしろ、そこの人達を傷付けるようなら俺は許さない。
……あぁ、あとクラング王国で世話になった人達もか。
そんな事を思いつつえっと……あぁ、ミクリスアだミクリスア。
ミクリスアの話を流す。
俺が流している事も気付かずにペラペラペラペラ話し続けるミクリスア。
隣ではウルとルフが飽きたのだろうな。
ウトウトしはじめているし、フーに至っては自分の尻尾で遊び始めている。
ロウエンとエンシ、レイェスさんは顔にこそ出さないが早く終わってくれと言った様子になり、ユミナは眉間に皺が寄り始め、マリカとカガリはお互いに支えるように寄り掛かり合っている。
ミナモは目を回しかけている。
「ミ、ミクリスア様。そろそろ」
「ハッ!? 私ったらいけないいけない……つい夢中になってしまったわ」
宰相だろうか。オッサンに言われて我に帰るミクリスア。
「今日はどこに泊まるか決めてあるのかしら?」
「はい。私の知り合いがやっております宿に泊まります」
「貴女は……うげっ、皇国の氷結女」
「……」
「そういう事ですので、お心遣いは必要ありません」
「うわぁ……とりつく島がねぇ〜。勇者様、そんな女より私の方が」
「ではそういう事ですので、我々は失礼します」
「あ、おいハヤテ待てよ」
おざなりか挨拶と共に立ち上がり、玉座の間を出る。
背後でアイツが何か言っている気がしたが、吹き抜けた黒い風のせいで全くもって聞き取れなかった。
「おいおい、あんな出方で良かったのか?」
「良いんじゃないのか? 何か問題があれば、追いかけてくるなりするだろ」
「まぁそりゃそうだが……」
「とりあえず宿に行こう。レイェスさん、案内をお願いします」
「あ、あぁ、分かった」
レイェスさんを先頭に進み出す俺達。
なんというか、来て早々だがさっさとやる事やって帰りたくなってきた。
レイェスさんの知り合いがやっているといい宿に着いた俺達。
壁に水槽が埋め込まれた割と豪華な部屋。
そこが俺達の部屋になった。
俺はユミナ、エンシ、マリカ、カガリと同じ部屋。
ロウエンがウル、ルフ、フーと同じ部屋に。
レイェスさんはミナモと同じ部屋に。
アニキはエラスと同じ部屋になった。
「ベッド大きいよ!!」
「大きな水槽ですね……」
「わー……実家の私の部屋より凄いかも」
「こ、この大きさなら皆さんで一緒に寝れますね」
女子連中は浮かれ気味。
疲れも加わっているのだろう。
無理もない。
俺だって一人だったらベッドにダイブしていただろう。
「皆、今日はお疲れ様。明日は街に繰り出してみようと思うからさゆっくり休んで」
「はーい!!」
「街に、ですか」
「あぁ。国民の様子を見るにはそれが一番だろうからな」
「そうですね……それが一番ですね」
「でしたら」
「カガリ?」
「ハヤテ様も一緒に休みましょう!!」
カガリに手を引かれ皆の所へと連れて行かれる。
「そうだよそうだよ!! ハヤテだって休まないとダメだよ!!」
「そうですよ。ハヤテだって休まないと」
「嫌だと言っても休んでもらいますからね」
「ご主人様。なんなりとお申し付けくださいね」
笑顔で話す彼女達。
「あぁ、そうだな。お前達の提案に乗るとしよう」
「やったー!!」
「そう言えば半露天のお風呂があるみたいですよ!!」
「それはそれは……良い事を聞きました。ここは私、エンシ・リバランスが貴方の背中を流すとしましょう」
「いえ、ここはやはり私がご主人様のお背中を」
「あー!! ずるい!! ユミナだって流したい!!」
「それは私も譲れません」
「あ〜、とりあえず皆仲良くな」
「譲れないものは譲れないの!!」
「そうです!! これは騎士以前に女同士の戦い!!」
「こればかりはハヤテさんのお願いでも聞けません!!」
「い、いやお前等……」
ユミナ、エンシ、マリカの間で視線がぶつかり、バチバチと火花を散らす。
俺としては仲良くして欲しいので、どうしたものかと思っていると
「ご主人様のお願い聞かない方達は放っておいて、私達だけで先に楽しんじゃいましょう」
「お、おいカガリ」
「あー!! カガリ抜け駆け!!」
「貴様!! 抜け駆けしないと取り決めしただろうが!!」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「勝負の最中に隙を見せる皆さんが悪いですよ〜」
「あ、おい……はぁ……」
こいつ等四人が仲良く過ごすのはいつになるのかなと思いつつも俺はどこか楽しいと思いながら、彼女達四人と半露天風呂を楽しんだのだった。
その後は運ばれて来た夕飯に舌鼓を打ち、壁の水槽の中の魚を見て癒されたり、窓から空の星を眺めたりと思い思いに過ごした。
先程までとは違い、仲良く過ごす彼女達を見て俺もひとまずは安心。
そんな中俺は、移動の疲れとミクリスアの疲れもあり、五人の中で一番早く睡魔に襲われてしまった。
それに一番先に気付いたカガリによってそろそろ休もうと提案。
ユミナ達もそれに賛同し、全員が横になっても余裕がある程広いベッドに何故か密集して横になる。
カザミ村を出た当初はこうなるなんて思いもしなかった。
そんな事を思いつつ、両隣に寝ているユミナとエンシを抱き寄せる。
するとマリカとカガリが自分もいると言うように密着して来た。
同じ村出身の可愛い女子。
スタイルの良い王国の女騎士。
帝国から来た剣士の少女。
そして強気だったのに上下関係を叩き込まれ、従順となった女魔族。
そんな魅力たっぷりの女性に両脇を固められて、すんなり寝付ける訳がない。
結局俺達五人はしばらく眠る事は無く、室内には洗い息遣いだけが聞こえた。
ガーディアナ帝国へと続く道を一人の女性が歩いていた。
歩く度にグズリグズリと湿った音を立てる女性。
その服は至る所が赤く染まっており、服の右袖は中が無いかの様に風に靡いていた。
「あいつ……手間取らせやがって」
戦闘で負ったダメージを引きずりながら、彼女はガーディアナ帝国を目指した。
お読みくださり、ありがとうございます。
お久しぶりです。
趣味のプラモ熱が再燃し、作っていたら腰をやらかしました…… orz
今回からまた面倒な依頼が来ましたね……
頑張れハヤテ!!
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
メチャクチャ励みになっております!!
次回も読んでいただけると嬉しいです!!
次回も、お楽しみに!!