81話〜そうだ、家に帰ろう〜
その日、教国にある聖勇教会の教会は大変な騒ぎになっていた。
「お、お待ち下さい勇者様!! お話を聞いて下さい!!」
「聞くような話は無い。以上だ」
廊下を歩く俺達を引き止めようとついて来るスティラに構う事なく、先に進む。
「何が!! いったい何があったと言うのですか!?」
「そろそろ家に帰らないといけないからな」
「ここを家にすれば良いではないですか!!」
「そうもいかない。ウル、ルフ。走れるな?」
「ワオォン!!」
「ガウ!!」
「お願いですから待って下さい!!」
俺の服にしがみ付き、俺の歩みを止めようとするスティラ。
だが俺は筋力強化スキルを使って進む。
「何が!! 何がダメだったのですか!?」
叫びながら必死に俺を止めようとするスティラ。
「何が、か……」
「言って下さい!! 直してみせますから!! 何でも致しますから!!」
「勇者様!! 我々からもお願いします!! どうか!!」
スティラだけでなく、聖騎士達も俺達の前に立ちはだかる。
「……退け」
「退きません。我々には、貴方が必要なのです」
「どうかここに留まり、我等をお導き下さい」
「勇者様!!」
「どうかどうか!!」
数名に至っては跪き、頭を下げてすらいる。
「……」
「勇者様。我々には貴方が必要なのです……ですからどうか、お考え直しを」
「勇者様を引き止められなかったとなれば、どれほどのお叱りを受けることになるか……」
「どうか我等も救うと思ってお願いします!!」
「……結局は自分の為、か」
「そういう訳では……」
俺の言葉にスティラは俯き、俺の服から手を離す。
「……俺はアンタ達じゃなく、聖勇教会の上の者達が信用できない。だから出て行くんだ」
「そんな……」
「悪いな。そういう事だから……」
「お許しを!!」
数名の騎士が剣を抜き、その切先を俺に向けて来る。
「な、何をするつもりですか!!」
「ご容赦を!!」
「怪我が治癒するまで滞在していただきます!!」
「貴女達、まさか!?」
「……あぁ。力尽くって事か……」
「お許しを!!」
「行きます!!」
床を蹴って迫る聖騎士。
「……俺を斬る、か」
だがその剣は、またもや吹き抜けた黒い風によって瞬く間にボロボロにされ、崩れ去った。
「……さて、お許しをとか言っていたが、俺の返答がまだだったな」
「あっ、そんな……」
「も、申し訳ありません!!」
ガバッと額を床に押し当て、半泣きで謝り始める聖騎士。
まぁそりゃ、俺を帰したくないのは分かるが、俺は俺の都合で動く。
ここにいても疲れるだけだからな。
「アンタ達には世話になったからな……一度は目を瞑る……退け」
「は、はい!!」
「申し訳ありませんでしたぁ!!」
サッと道を開ける聖騎士達。
「……という訳だ。俺達は帰る……ウル!!」
「ウオォォォォン!!」
教会の外に出た俺はウルにカガリと共に跨り、ルフにはロウエンとマリカ、フーにカラトとエラス、ウェイブにエンシとユミナが乗る。
俺の乗ったウルを先頭にし、教会を出る俺達。
その後を追いかけて来る者はおらず、俺達は俺達の家に向かって走った。
場所は変わってクラング王国の王都にあるとある宿。
俺とステラさんは今、そこに泊まっている。
フカフカの大きなベッドは俺とステラさんが一緒に大の字で寝てもまだ余裕があるほど大きく、飯も美味い。
クラング王国は俺の故郷であるオーブ王国やローライズ教国とはまた違った賑わいを見せてくれる。
「にしても、教国は大変みたいだねぇ」
「……そ、そうですね」
俺はステラさんに頭を撫でられながら朝の微睡みを楽しむ。
「この記事によると、ルクスィギス王が魔獣化。それを勇者様が押さえ込んだようだね……」
「勇者、ですか……」
「あぁ、勇者と言ってもあの自称勇者ではなく、本物らしいよ」
「……凄いですね」
片腕で俺を胸に抱きつつ、風魔法で新聞を宙に浮かせて起用に読むステラさん。
俺は俺でステラさんの話を聞きつつ、今日は何をしようかボンヤリと考える。
「にしても凄いな……記事によるとほとんど一人で押さえ込んでいるじゃないか」
元々今日はステラさんと買い物に行こうかと話をしていたのだが、モヤモヤする。
「……ステラさん」
「ん? なんだい?」
「……」
「ん? ……あぁ、そういう事か。済まないね。でも安心しておくれ。私が愛するのは君だけだからね」
そう言って額にキスを落とすステラさん。
「不快な思いをさせたね。済まない……これは私の落ち度だね。済まない済まない」
「べーつに不快なんて……」
「お詫び、という訳では無いが今日は私にエスコートさせてくれないかい? 忘れられない日をプレゼントする事を約束するよ」
「っ……」
「どうかな?」
俺の頭を撫でながら微笑むステラさんに、俺は頷く。
「そうと決まれば着替えて行くとしようか」
ニコリと微笑むステラさん。
その笑顔を見て俺は、まだ短いながらステラさんと共に過ごした時間を思い出し、マリナのパーティーを抜けて良かったとつくづく思った。
「うーむ、これなんて似合いそうだと思うのだがな」
アクセサリー店にてイヤリングを取って俺の耳に当て、似合うか確かめるステラさん。
ピアスもあるが、良いデザインが無かったようだ。
「これも良いなぁ」
イヤリングの他に髪飾りや指輪も見ているステラさん。
俺は俺でステラさんに似合いそうなブレスレットを見て周る。
「……あ、これ」
そんな中、一つのブレスレットが目に止まった。
ステラさんに似合いそうだと思い、それを迷わず購入する。
「何か欲しい物はあったかい?」
「もう買いましたから平気ですよ〜」
「そうかい。私も買ったし、行くとしようか」
良い物が買えたのだろう。
ホクホクとした笑顔で店を後にするステラさん。
俺も、良い物が買えたので嬉しい。
そのまま俺達が向かったのは噴水のある公園。
そこにあるベンチに座り、少し休憩だ。
「さて、どうだろう」
ステラさんが袋から取り出したのは先程アクセサリー店で買っていたアイテムだ。
「これは……」
「どうだい? 気に入ってくれたかな?
見せてくれたのはイヤリングとピアスだ。
どうやら探している内に俺に似合いそうなピアスを見つけたらしい。
イヤリングは鳥の形をしており、着けると広げられた片翼が耳に沿う形になっている。
ピアスはチェーンタイプといえば良いだろうか。その先に羽飾りが一つ付いている。
「この鳥……」
「あぁ。この国で大事にしれているオウワシというらしい」
「オウワシ……」
「言うには、昔王様の子が拐われた時に取り戻してくれたのだそうだ」
「凄い……」
「それを着けていれば、離れたとしても必ず会えると思ってな……気に、入らなかったか?」
「……あの」
「ん?」
「ステラに、着けて欲しい……俺の耳に、ステラの手で」
俺の言葉を聞いてステラが目を見開く。
というのもオーブ王国では、恋人の手で自分の耳にピアスやイヤリングを着けてもらうという風習がある。
そしてその意味は、自分の人生を捧げたい。
「……い、良いのか? 私で」
「……ステラさんがその、助けてくれたから……お礼はできるか分からないけど。それに」
「うん?」
「小さい頃の約束……」
「あぁ、懐かしい約束だね」
「それもあるけど、でもやっぱり俺はステラさんの事が好きだよ」
「……うん。私も君の事、好きだよ」
そう言ってステラさんは俺の左耳にそっと触れる。
「良いかな? 着けさせてもらっても」
「……うん。お願いします」
コクリと俺が頷くと鳥の形をしたイヤリングが耳に着けられる。
「……うん。思った通り、似合っているよ」
「……あの、俺からも」
「うん?」
俺は買った物をステラさんに見せる。
俺が買ったのは青く透き通った丸い石を連ねて作られたブレスレットと、同じイヤリングだった。
「こ、これは!?」
「……その、似合うと思って」
「……あぁ、とても嬉しいよ!! なぁ、君の手で着けてくれないかい?」
「……うん。分かった」
俺の手に渡されたイヤリングを、俺の手でステラさんの左耳に着ける。
「良かった。似合ってます」
「当たり前だ。君が選んでくれたのだからな」
幸せそうに微笑むステラさん。
俺もそれに応えるように笑む。
俺達は今、確実に幸せだった。
そんな俺達がいる公園の近くを彼等が歩いていた。
「すげぇ……レイブウルフが二頭とスワローワイバーンにリバーホースまでいる」
「本当だ。どちらも高レベ……」
「ステラさん?」
「か、彼だよ。あの黒い方のレイブウルフを連れているのが、教国で活躍した勇者っていうのは」
「あの人が勇者」
その勇者とは緑の髪の青年だった。
そして彼が連れている仲間の中には
「あっ、王国への馬車を教えてくれた人もいる」
「勇者の仲間の一員だったんだね」
「……凄いな……」
そんな事を話している内に彼等は歩き出し、行ってしまった。
「さっ、彼等も行った事だし、私達も行こうか」
「そうですね。あ、ステラさんお腹空きませんか?」
「ん? ……まぁ、少し空いて来たかな」
「じゃあ少し早いですけどご飯行きませんか? 美味しいお店、見付けたんです!!」
「ほう、それは楽しみだな……よし、行くとしよう」
お揃いのイヤリングを着けて、手を繋いで、俺達は歩き出した。
場所は変わって魔族領にある屋敷。
そこはただの屋敷ではなく、主に魔術やスキルに関する研究が行われている研究所。
そこで今とある実験が行われているのだが……
「ンギィィェァッ!? ウヒッ!? イィィィッ!!」
檻の中にはオーガに組み伏せられ、半狂乱になって叫ぶ裸の女性がいる。
「ギッ、ギッィィィッ!! も、もうやめてよォォォッ!!」
目の前の研究員に命乞いする様に叫ぶ女性。
彼女の名前はセーラ。
ハヤテにやられた後、聖勇教会の力で凶悪犯として手配され、皇国に入れずにうろついていた所をなんとエンジに拾われ、とある実験で魔族領へと転送されていたのだ。
そう、彼女に行われた転送実験によって得られたデータを解析し、ガオンの軍団は教国の近くに現れたのだ。
「……首尾はどうだ?」
「エンジ様!!」
「今はそういうのは良い。で、奴の様子は?」
「ハッ。素晴らしいですよ。ここまで魔族を受け入れられるとは……」
「魔族の血を入れる事により、後天的に魔族化させる実験」
「はい。まだ血の量は少ないのですが、まさかここまで拒否反応が無いとは」
「ふむ……余程人をやめているか」
「えぇ、あの様子からするにそのようですね」
「それとも自らの力とするべく食らっているか……」
「そうだとしたら恐ろしい奴ですね」
研究員はセーラを一瞥すると歩き出し、エンジもそれの隣を歩く。
「こちらに送る前に軽く調べたが、向こうでは好き勝手やっていたみたいだぞ」
「おやおや」
「勇者にも目を付けられている。向こうでは並の生活はできまい」
「それはそれは、恰好の実験材料ですな」
「あぁ。上手く行けば良い母胎になるやもしれん」
「そうですねぇ……まぁ、上手く行けばの話ですがね」
「行くさ。その為のここだろ?」
「……仰る通りでぇ」
エンジの言葉に蛇のような笑みで返す研究員。
「アビルギウス様は何と?」
「身体は好ましい。魔族に変え次第連れて来いとの事。無事魔族化できれば、報酬をたんまり出すそうだ」
「それは僥倖。前魔王の時は非人道的だと認められなかったこの研究が、遂に認められる日が来るのですね」
「その為にも、まぁ頑張れや……」
「ハイ!! ありがとうございます!!」
研究員は一礼すると屋敷を出て行くエンジの背中を見送る。
「……さて」
と彼はクルッと反転するやセーラのいる檻に向かう。
「あっ……ぅ……ひへぇ」
檻の中には既に反応も鈍くなったセーラと、そんな彼女に飽き始めたオーガがいる。
「さて、彼女はどんな魔族に改造しましょうかねぇ……」
そんなセーラを見て研究員は蛇のような笑みを再び浮かべた。
お読みくださりありがとうございます
家に帰ろうって……ほとんど内容と関係無いじゃーん!?
……まぁ良いか。
あ、カナト視点はハヤテ視点の数日後になっております。
にしても、カナトとステラ、良かったね〜
からのセーラ!!
絶賛実験材料中でーす!!
ざまぁ見ろ!!
いったいどんな魔族に改造されてしまうのか……
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
めちゃくちゃ嬉しいです!!
次回も読んでいただけると、嬉しいです!!
次回もお楽しみに!!