74話〜父子再会〜
「ここか……」
翌日、俺達はギルマスからの依頼である遺跡の入り口に来ていた。
洞窟の中にあると言う遺跡。
幸いな事に中は迷路ほど入り組んではいないという。
ただ、土砂崩れの影響で地図通りの道ではなくなっている可能性があると言う。
「まぁ、なるようになる……か」
「そうですね。とりあえず貴方には遺跡内を照らしてもらいます。良いですね?」
「分かってるよ。んな睨むなって」
「いえ、私は貴方にされた事を忘れてはいませんので」
「うぐっ……あれは、悪かったって」
「次やったら、分かってますね?」
「ピッ!?」
あの時の痛みを思い出したのだろう。
両手で股間を押さえるアニキ。
「お前等無駄口叩く暇があったら手を動かせ」
「ガウッ!!」
「ワルッ!!」
「す、すまん」
「すみません」
ロウエンとウル、ルフに怒られるアニキとエンシさん。
今回の遺跡調査は俺とロウエン、アニキ、エンシさん、ウルとルフで行う。
出入り口は確かに土砂崩れのせいで閉ざされているが、誰かが入る際に作ったのだろう。
人一人が通れる程の隙間ができている。
中は真っ暗。
だが確かに誰かが通ったのだろう。
ウルとルフが地面の匂いを嗅いで反応している。
「一応探ってみますね。探知」
コーンと槍で地面を突き、遺跡内の状況を探るエンシさん。
その背後ではアニキが光の玉を作り出し、周囲を照らす。
「確かにいますね。五人ほど地下にいます」
「五人か……こちらの方が数は上だけど気は抜かないように」
俺の言葉に皆が頷いたのを確認し、俺達は先に進んだ。
エンシさんの探知によると遺跡は地下深くにあり、地下水脈とも繋がっているそうだ。
遺跡付近には魔鉱石と呼ばれる魔力の結晶が大量に眠っており、昔は魔鉱石を狙った盗賊が後を絶たなかったそうだ。
その盗賊達対策として警備用ゴーレムが配置されたそうだが、既にその寿命が来ており、動いていても大した脅威にはならないそうだ。
「昔は魔鉱石が重要な資源だったが、今はそれほどではないからな」
「そうなのか?」
「あぁ。技術の進歩で人工魔鉱石が作れる様になったからな」
「すげぇな……」
魔鉱石も俺達の生活には欠かせない物となっており、街灯の灯り等に使われている。
昔はこれを巡って戦争にもなっていたぐらいだ。
それがこの地下に大量に眠っているのだ。
「もしかしたらそれを狙った盗賊の可能性も」
「否定はできんな……ま、正体もすぐに分かるさ」
「そうだな。穏便に済むと良いんだけどね……」
「それは同感だ」
ロウエンとそんな事を話しながら先へと進む。
どんどんどんどんと俺達は地下へと進んだ。
「これは……相当だな」
現場に到着しての第一声はロウエンのそれだった。
大量の魔鉱石に囲まれた遺跡の姿を一言で説明するならば、儀式の最中だった。
「一体これは……」
妖しく光る魔鉱石と遺跡内に描かれた陣。
「何かの、転送陣でしょうか?」
「さぁな……でもこれだけ明るければ、俺が照らす必要は無さそうだな」
遺跡内をグルッと見て周る俺達だったが、突如ウルとルフが足を止めて唸り出す。
「……グルルッ」
「ガルルル」
「どうした?」
「……誰かいるな」
アニキのその言葉に全員が身構える。
すると
「おいおい、そう構えんなって……」
「……その声」
遺跡の柱の向こうから一人の男性が現れる。
ヘラヘラとまではいかないが、軽い表情の男性。
「っと、久し振りだな。ちったぁ大人になったか?」
「……何故だ、何故お前がここにいる!!」
その男性はロウエンの様に真っ黒なコートを着て腰に刀を差していた。
「そう言うなよ。俺はお前の」
「どのツラ下げて俺の前に立っている!! オヤジ!!」
俺達の前に立つ男性はなんと、ロウエンの父親だった。
「あの人がロウエンの」
「ん? 俺の話を聞いているのか? そう。俺がソイツの父親のエンジだ。よろしくな」
ニッと、不器用な笑みで俺に軽く手を振るエンジ。
だが警戒は解かない。
彼からは隠す事無く濃い敵意が感じ取れたからだ。
「……お前、ここで何をしている」
「んー? おいおい、父親にそんな口の聞き方はないんだじゃないか?」
「黙れ!! お前が俺にした仕打ち、忘れてはいないぞ!!」
「仕打ち? 仕打ち仕打ち仕打ち……あぁ、お前を連れ戻すために追いかけて行って時の」
「お前が放った追手によって、俺の家族は死んだ!!」
「家族? 馬鹿を言うな。犬が狼と共に生きられると思ったか?」
「もう良い、話すだけ無駄だ……」
「相変わらず、血の気が多いな。カイナ」
「その名の俺は死んだ……俺の名は、ロウエンだ!!」
「おっと」
刀を抜き、跳んで襲いかかるロウエンと抜いた刀で切り結ぶエンジ。
「お前が俺に敵うと思っているのか?」
「あの頃の俺とは違う!!」
「ロウエン!!」
「お前達は手出しするな!! これは、俺の問題だ!!」
「……だ、そうだ」
ロウエンに応えるように刀を振るうエンジ。
攻めるロウエンに対し、受け流すエンジの姿はまるで遊んでいるかの様だった。
「っ、あぁは言われたけどやっぱり……」
「そうですね。手伝いに」
「おっと、親子水入らずの時間を邪魔させる訳にはいかねぇなぁ?」
「だよなぁ!!」
「邪魔はさせません」
エンジの言葉に応じ、柱の影から現れる二人の女性。
一人は山賊のような格好をしており、もう片方は踊り子の様に肌を露にしつつ隠密の様に暗い色の服を着ている。
「アタシの相手はお前だぁ!!」
「っ!!」
「では、貴方の相手は私がしましょう」
「上等だ!!」
山賊の姿がエンシさんに襲いかかり、俺の方には踊り子隠密が向かって来る。
「アニキとウルルフはエンシさんのサポートを!!」
「……分かった!!」
「ガウ!!」
「バウ!!」
俺の指示を受けてエンシさんのサポートに向かう一人と二匹。
それを見送る事無く、俺は踊り子隠密と対峙する。
「貴方、面白い匂い。嫌いじゃないです」
「生憎だけど、俺はアンタの事苦手だな」
「……そうですか。でしたら残念ですが、気に入ってもらえる様に説得させてもらいましょうか」
扇子を広げる様に小刀を構える踊り子隠密。
彼女が持つそれはロウエンが以前教えてくれたクナイという武器に似ている。
「残念だけど、その説得が届く事は無いと思うぞ」
「やってみなければ、分かりませんよ?」
槍を構える俺と、両手に扇子の様にクナイを持つ踊り子隠密。
「私の名前はエイイン。以後、お見知り置きを」
そう言ってまず右手の宮内を投げるエイイン。
「こっちの名乗りは無しか……よ!?」
寸手の所でクナイの軌道が変わり、慌てて槍で弾き返す。
「よく、反応できましたね……驚きです」
「目が良く無いと障害物を見付けられないんでね」
驚きつつも感心した様子でクナイを回収するエイイン。
どうやら手袋の指先とクナイを細い糸で繋いでいるようだ。
指先の僅かな動きだ投げたクナイを操っているのだ。
「これを初見で回避できた人を見たのはこれで二人目です。素晴らしいです……ますます……」
「っと……こりゃぁ」
ニッチャアァァァッと音が聞こえそうな笑みを浮かべながらエイインが俺を見る。
「貴方が欲しくなりましたぁぁ」
「本当に面倒な事になったなぁ」
こうなるんだったら、こんな依頼受けるんじゃなかったと俺は後悔した。
「アハハハハハハッ!! ッウゥゥン!! 好きィ……好きィ、ダァイ好きィ!!」
「ッ!!」
息をする時間すら惜しい程の勢いで槍を振るい、雪崩れ込むクナイを弾き返す。
「好きになっちゃったからァ !! 私の物になってェ!!」
「このっ……」
「ちゃんとォ可愛がってェ、あげるからァ !!」
叫びながらクナイを投げるエイインと、そのクナイを打ち返す俺。
正直言って疲れて来た頃、遺跡内を光が走った。
「実験は成功か……エイイン、イルド。もう良いぞ!!」
「はぁ〜い!!」
「ざァんねェん……」
「おいクソオヤジ!!」
俺達から離れ、エンジのもとへと戻るエイイン達。
ロウエンもエンジに蹴り飛ばされ、吹っ飛んだ所をアニキに受け止められている。
「成程。天然の魔鉱石だとこの程度の消費か……いや、一人でこの消費なら」
「何を言ってんだよ!!」
「なぁに。ちょっとしたおつかいさ」
「おつかいだと?」
「あぁ。せっかくだから教えてやろう。近い内に魔王軍の部隊が攻め込む。それの下調べに来たのさ」
「何だと?」
「攻め込んで来るのはガオンの隊だ。お前達が皇国と呼んでいる国に攻め込んだ奴だよ」
「皇国を攻め込んだって、あの時の!?」
「あの時がどの時を言っているのか分からんが、つい最近の事だ」
「ッ!?」
じゃあ、ソイツのせいでモーラが
「……そこの少年。面白い目をしているな」
「……」
「まぁそういう訳だ。あ、俺から聞いたって話は内緒で頼むぜ?」
「何故そんな事を話す……」
「んー? まぁなんて言うかさ、今こっちもクーデターとやらがあったりで色々とグチャゴチャでな」
「だから何だって言う」
「まぁそんな事はどうでも良くてよ……アイツの価値がほとんど無くなってなぁ。新しい魔王様がソイツの事を嫌っていてな、処分しなきゃならねぇんだよ」
「……俺達にやれと?」
「いやいやまさかまさか。ただ、アイツにヘマやらせて処分のきっかけを作りたいだけさ。どうやらガオンの奴、お前等との因縁もありそうだしな。利害の一致ってやつで、どうよ?」
「ふざけるな!! 誰がお前なんかの!!」
「お隣さんは、そうでもなさそうだぞ?」
「隣? ……って、ハヤテ」
「……」
「おおかた、知り合いでも殺されたか? 死に目に会えなかったって感じだな」
「……何故分かる」
「そんな顔をしているからな」
「……」
ボリボリと頭をかきながら応えるエンジ。
「まぁ良いか。要件はそれだけだ。じゃあな」
「ふざけるな!! 俺はまだ!!」
去ろうとするエンジとなおも噛み付こうとするロウエン。
だがその時だった。
「なっ!? 地震!?」
突然遺跡が揺れ始めたのだ。
「っと、魔鉱石の力を使い過ぎたか……遺跡の力も弱まっているし、ここはもう用済みだな。引き上げるぞ!!」
「おうよ!!」
「はァい」
「っ、待て!! ……っと」
徐々に強くなる揺れ。
そんな中、遺跡の奥へと下がって行くエンジ達。
追おうとするロウエンだったが、遺跡や洞窟が崩れ始めた事もあってそれを断念する。
「……チッ!! 仕方ない、俺達も」
「分かっているよ。このままじゃ生き埋めになっちまうからな」
そう言いながら元来た道を戻ろうとした時だった。
地面が抜けた。
揺れに耐えきれなくなった地面が崩壊を始めたのだ。
「っ、クソ!!」
崩れるなか、地面から地面へと跳び、何とか進んで出口を目指す。
が……
「ッ!?」
落ちて来た天井の一部が俺の背中に直撃したのだ。
痛みと直撃の衝撃でバランスを崩し、真っ逆さまに落下して行く俺。
「ハヤテくん!!」
「ガウッ!!」
エンシさんとウルがそんな俺へと進路を変えて落ちて来る。
「ハヤテ!!」
「ガルゥッ!!」
落ちて行く俺に向かってロウエンとルフの声が最後に聞こえて、俺は地下水脈に落ちた。
上も下も分からないなか、俺が唯一分かったのは流されているという事だけ。
そして俺が意識を失う直前に感じたのは、襟首を何者かにグイッと引っ張られる感触だった。
「行ってきまーす」
場所は変わってアクエリウスから歩いて数時間の所にある村。
そこにはダークエルフと少数の他の魔族がが平和に暮らしていた。
そんななか、元気に家を飛び出したのはダークエルフの女性。
持っている道具からして近くの川に釣りにでも行くようだ。
「今日はたくさん釣れると良いなー!!」
そんな事を言いながら川へと走って行く彼女。
だが彼女は川について早々、今日の釣りを諦める事となる。
「あれ? どうしたんだろう」
川に着くなり彼女が見付けたのは人だった。
それも藍色の髪の女性が川原に倒れているのだ。
「た、大変!!」
慌てて助けようと駆け寄る彼女だったが、すぐに動きを止めた。忙しい事である。
「な、何……」
彼女が見ているのは川からびしょ濡れで上がって来るレイブウルフ。
まさか川原に倒れている女性を狙っているんじゃ。
いや違う。
そのレイブウルフは既に獲物と思われる青年の服の襟を咥えて岸へと引き上げようとしている。
「ど、どうしたの?」
「ガァル!! ガルガガァ!!」
「と、取らないから安心して!?」
声をかけた途端レイブウルフは青年を離し、振り返って威嚇を始める。
毛を逆立て、牙を剥いて唸る。
「あ、あの……」
「グルァッ!!」
それも獲物である青年を奪われない様に威嚇しているのではない。
倒れている女性も渡さないぞという様に、青年と女性の中間に立って威嚇する。
「……だ、大丈夫だから」
「グガアァァァッ!! ガウゥゥゥルルルル……」
ちょっとでも話しかけようとすると前進して吠える。
ただし川で転んだりでもしたのだろうか、後ろ足を少し引きずっている。
そこで少女は思った。
余程お腹が空いているか、待っている家族がいるのだろうと。
が、次の瞬間その考えは否定される。
「グゥ……グゥル……」
なんとレイブウルフは青年の体の下に鼻を入れ、体を潜り込ませて背負ったのだ。
青年だけじゃない。
続けて女性の事も同じようにして背負ったのだ。
まるで、大切な家族を安全な所へと連れて行く様に。
「ま、待ってその足じゃ!!」
「ガウッ!!」
痛めた後ろ足も踏ん張りながら、ヨタヨタと歩き出すレイブウルフ。
でもそこが体力の限界だった。
ドサリ……と崩れる様にレイブウルフはその場に倒れた。
ただし、背負った二人が投げ出されないように真横ではなく、まるで二人に潰されるように倒れたのだ。
「……はっ!? ちょっと待ってて!!」
彼女はそれを見るや助けを呼ぶために慌てて村へと戻って行く。
釣り道具をその場に放り投げて村へと戻って行く。
そしてこの行動が村を救う事になると、彼女はまだ知らない……
お読みくださり、ありがとうございます。
皆さん、なんと!!PVが60万を超えましたー!!
本当にありがとうございます!!
さて、オヤジー!!何やってんだよオヤジー!!
何やら遺跡で実験をしていたと思ったら身内の情報を渡すし……
ロウエン以上に何を考えているか分からないキャラですね…
……考えているのかな…
そしてラストはダークエルフ達が暮らす村のお話。
ダークエルフの女性が出会ったレイブウルフと青年と女性はいったい……
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
メチャクチャ励みになっています!!
次回も読んでいただけると嬉しいです!!
次回もお楽しみに!!