68話〜その風は聖なる物〜
皆さんに速報です。
〜今回、所々読みにくい所があります。ゆっくり読んでください警報が発令されました〜
すみません。
今回マジで読みにくい場面が何箇所かあります。
が、そこが必要なんです。
「あーあー。ハヤテ〜聞こえる〜? 今ね、貴賓室にモンスターが現れたの〜。とっても怖いから私逃げるけど、貴方倒しておいてね? 聖装に選ばれたんだし、できるわよね〜」
セーラの声だけが聞こえる。
「無事に倒せたら〜、彼女に戻ってあげても良いよ〜?」
アイツは、何を言っている?
「本当はいっぱい謝りたいの。謝りたい事、たくさんあるの……だから、もう一回やり直す為にも、貴方の力を私に見せて?」
お前が謝るべきは俺じゃないだろ……
「ね? ハヤテならできるよ」
お前は何が言いたいんだ。
「私は危ないから一旦逃げるけど、私ハヤテの事信じているからね!!」
アイツは本当に人間か?
人の心が無いのか?
自分の為に他人を利用して……
人の幸せを壊して……
人の心を踏み躙って……
それで満足なのか……
「オォォォォォッ!!」
コロシアムの建材を取り込みながら巨大化するスライム。
その姿はやがて、異形のゴーレムへと変わっていく。
下半身はスライムで上半身がゴーレム。
「サ、ァ ……ラァァァァ……」
「あ、あぁぁぁぁ……」
そのゴーレム部分の胸元には取り込まれたラギルの、苦悶に満ちた顔が浮かび上がっている。
「皆さん落ち着いて下さい!!」
「係の者の指示に従って下さい!!」
「んな悠長な事言っていられるか!!」
コロシアムの中はパニックになった観客の叫びと避難誘導員の声で大騒ぎとなっている。
「こりゃヤバいな……」
「ヤバいで済ませられるかよ」
ロウエンとアニキが話している。
「遅れてすみません……ってこれは」
遅れてルフを連れてミナモとユミナも合流する。
「教王様早く避難を!!」
「……バカ息子が。国に迷惑をかけおって」
苦虫を噛み潰したような顔で呟き、騎士と共に非難する教王。
「ハヤテ、早くしねぇと俺達も危険だぞ!!」
「おいおい逃げる気かよ。それでも一時は勇者だった者の言葉か?」
「じゃあ何だよロウエン。お前はアレを退治する気か?」
「できない事は無いが、辺り一面が吹き飛ぶぞ?」
「ったく……それ脅しだからな!?」
ロウエンの言葉を受けて覚悟を決めたのか、袖を捲るアニキ。
「おいガーラッドチーム!! 手伝え!!」
「当たり前だ!! 俺達の国だからな……それに、俺にも責任はある。行けるな? お前等!!」
ガーラッドの言葉に頷いて返すメンバー。
どうやら、縛られていた魂が解放された事もあってか全力を出せるようになったらしい。
だがこの期に及んでただ一人、一歩も動けない者がいた。
俺だ。
逃げ惑う人がいるのに。
落ちて来た瓦礫に押し潰され、助けを求める人がいるのに。
親と逸れて泣き叫ぶ子がいるのに。
逸れた子の名を叫ぶ親がいるのに。
俺は動けなかった。
何でアイツはこんな酷い事を簡単にできるんだ。
何で……
こうなる事が分からなかったのだろうか……
いや、分かっていてもやったのだろうか……
どう して……
いや違う
こうなったのは……
セーラを止められなかった俺のせいだ。
アニキと再会した時にトドメを刺さなかったから。
大砂漠で生存を確かめなかったから……
「あぁ……」
いやそもそも、俺がアイツの異常性に早く気付けていればこんな事には
「そうか……」
モーラが死んだのも
「はは……」
全部……全部……
「俺の、せいじゃねぇかよ……」
俺がセーラの異常性に気付いてアニキに伝えられていたら。
そうすればモーラは実験体にされる事は無かったのに。
そうだったらモーラは死ぬ事は無かったかもしれないのに。
その時だった。
俺の真横に落ちて来た瓦礫が割れ、飛び散った破片が俺の額を切る。
痛かった。
痛みを感じれた。
その痛みはまるで、静かな水面に石が投げ込まれた際に波紋が広がる様に俺の心に広がっていった。
「エ、エエ、エェンシィ」
ゴーレムの胸のラギルが呻く。
「お、れは……王にィィ!!」
地響きの様な声を発するゴーレム。
内容からするに、声の主はルクスィギスだろう。
そこまでして王になりたいのか。
そんな姿になってまで求めるのか。
それ程までに権力にしがみ付きたいのか!!
あぁ、そうさ!!
俺の母親もそうだった。
二言目にはアニキがどうだ。
勇者がどうだ……俺は影に控えて支えて立てろと!!
アニキもそうだ。
勇者になるからと。
支えてくれと言っておきながら騙されて!!
心が荒れる。
俺の周りの風が黒く染まり始める。
そして、セーラ。
アニキが勇者になるからと。
ついて行けば将来安心だからと。
アニキに取り入って俺を捨てた。
アニキを捨て、王国に捕らわれ、逃げ出してからは盗賊団の首領に取り入って近隣の村を襲い。
それがダメになったら今度はラギルを利用して教国の王子と来た。
アイツに、人の心は無い。
金があれば良い。
力があれば良い。
愛よりも、他者を踏み付ける力があればアイツは良いんだ。
そんな奴に……モーラは……モーラは!!
「ッ!! ……ァ 」
「……っ!? 伏せろ!!」
俺が天を仰ぐと同時にロウエンが叫ぶ。
いつもの余裕に満ちた声とは違い、焦りを含んだ声を聞いた群狼のメンバーは慌てて姿勢を低くし、それを見た周囲の騎士達も慌ててしゃがみこんでいる。
直後に、嵐が来た。
「ァァァァァアアアアアァァァッ!!」
天を仰ぐ俺の喉から発せられる咆哮。
それは憎悪と憤怒が込められた咆哮。
絶叫に近い咆哮に応じる様に、俺の背中から黒い翼が生える。
翼と言っても鳥や天使の様な翼では無い。
茹でる前のパスタの様に固く真っ直ぐな棒が繋げられて作られた様な節だらけの細い翼。
翼というよりは骨だ。
その骨の様な翼に、俺の周囲の黒い風が纏わり付いて翼に変わる。
「ァ 。ァァ……ァ ……」
力が他者に不幸を招くのなら
「ァァ……」
「何だ、その目……はぁ!!」
そんな力、壊してしまおう。
「王である私を……敬えェェェッ!!」
振り下ろされるゴーレムの右腕。
「ハヤテ!!」
「避けろハヤテ!!」
ロウエン達が叫ぶ。
「潰れろ!!」
俺を潰すために振り下ろされた右腕はその直後、翼によって切り刻まれて塵になった。
「へ?」
「何が……」
何が起きたのか理解できないといった周囲の声。
「……ほう。あれが」
ゆっくりと顔を上げてゴーレムスライムを見る。
ブクブクと太った下半身のスライムに愚鈍そうな上半身のゴーレム。
「tゥrァnゥkェ」
舌と顎をほとんど動かさずに呟く。
頭が、痛い。
直後翼がまるで槍の様に形を変えてスライムゴーレムの身体を刺し貫く。
「グギャアァァァァッ!?」
翼の槍が引き抜かれ、緑色の体液を撒き散らすスライムゴーレム。
「ア、アアアア!! コノフケイモノガァァァ!!」
「tァtェ」
下半身のスライムをバンウドさせながら俺へと迫るスライムゴーレム。
だが直後、鋭利な刃物へと変貌した翼によって上半身と下半身が切り分けられる。
「エ……ボ、ボクノカラダガァァァッ!!」
頭が痛いから、そんなら大声で叫ばないでくれよ。
「ゥ、ゥ、ゥ……dァ 、mァ 、rェ」
翼がゴーレムの口から体内に入り込み、中で無数の針に変化。
その針は頑丈なはずのゴーレムの体表を何の抵抗も感じさせずに貫き、表面に現れる。
激痛のあまりに叫ぼうとするゴーレムだが、口を侵入した翼によって塞がれており声を上げられずにジタバタ暴れる事しかできないでいる。
また下半身のスライムの方はゴーレムと合体しようとしているのか、ブルブル震えながら迫っている。
邪魔だな。
鬱陶しい。
そう思うだけで黒い風がスライムを包み込み、その体をズタズタに切り刻んでいく。
「あ、悪魔だ……」
その光景を見た騎士の一人が呟く。
「あれは、人間の技なのか? 人ができる技なのか!?」
「なんなんだあの力は……」
「あんな魔術見た事ない……スキルも見た事無いぞ!!」
「ば、化け物だ」
「魔族でもあんな事する奴見た事ないぞ!?」
「……味方、なんだよな?」
騎士達が不安そうに呟く。
その彼等の前で、俺はスライムとゴーレムを切り刻む。
ミンチにしても再生するから今度はスライスする。
それでも再生するから、ゴーレムでスライムを叩き潰す。
再生能力が割としっかりしているが、回数制限があるらしく、百回を超えたあたりから回復速度が目に見えて遅くなって来た。
百回。
そう百回。
いつもならやるのが億劫になる回数だが、少し念じただけで翼が勝手にやってくれるから楽だ。
翼が敵を刻んで潰して抉って叩き潰して挟み切る。
敵がもう抵抗しようなんて思わなくなるまで。
徹底的に潰す。
その度に悲鳴が聞こえる。
もうアイツが力を求めようと思わなくなるまで。
何度でも潰す。
その度に悲鳴が聞こえる。
不幸を招く源を求めなくなるまで。
幾度でも折る。
その度に悲鳴が聞こえる。
だから俺は、潰して、潰して、潰して潰して潰して……
気付いたらスライムはピクリとも動かず、再生する事が無くなったゴーレムは身体中にヒビが走っていた。
「この短時間で倒しやがった……」
割れたゴーレムの体表の一部がボロリと崩れ落ち、ラギルとハラグロが落ち出てくる。
「スライムのブヨブヨ要素はコイツだったか……」
騎士の一人がハラグロの腹を蹴り、気絶している事を確かめる。
また別の騎士はゴーレムの割れた所から上半身だけを出しているルクスィギスを掴んで引っ張っている。
「おーい!! 誰か手伝ってくれ!!」
「分かったー!!」
「こいつめ、手間かけさせやがって!!」
「行くぞ、せーの!!」
数名の騎士が引っ張る事で何とかルクスィギスが出て来るが、スライムと同じブヨブヨした物がルクスィギスの身体に纏わり付いており、数名がかりでも引っ張り出すのに苦労している。
その光景を見ながら俺は助けてあげるかと思う。
そう思うだけで翼は刃物の様に鋭くなり、ルクスィギスとブヨブヨを切り離す。
それもルクスィギスの身体に一切の傷をつけずにだ。
「うわっ!?」
「おっ抜けた!!」
「ありがとうな!!」
騎士達が俺の方を見て手を振っている。
が、その声が頭に響く。
痛い。
翼が出てから頭が痛い。
「っておいお前等何してんだよ!!」
「何をだと? 見れば分かるだろ!!」
「あんな恐ろしい力を使うなんて……貴方いったい何者なのよ!!」
おそらく教王を安全な所に連れて行った後に戻って来たのだろう。
騎士達が俺を睨んでいる。それも剣や槍、更には弓を構えて俺に向けている。
「……ゥ……ゥ、ゥゥ」
何をする気だ。
いや、分かる。
俺に向けられているのは、敵意だ。
ただその敵意は、憎しみや怒りからくるものではない。
彼等の目に宿っているのは恐れだ。
恐怖から来る敵意だ。
あぁダメだ。
今の俺にそんなものを向けるな。
そう思うだけで良い。
翼から羽が放たれ、剣を砕き、槍を折り、弓を塵に変える。
「何!?」
「こいつ……」
「我等の武器が!?」
「くっ!! 構えよ!!」
予備で持って来ていた剣を抜いて構える騎士達。
「や、やめろ!! 彼は俺達の代わりに!!」
「そうだぞ!! 彼は敵ではない!!」
「黙れ!! あんな力を持っていて、今は敵ではなくてもいずれ向けられるやもしれんぞ!!」
「そうだそうだ!!」
あぁ、騒がないでくれ。
頭が痛いのに、そんなに騒がれると頭に響く。
響いて辛いんだ。
黙ってくれないか。
そう思った時だった。
「おやめなさい!!」
コロシアム内にスッと。
よく通る声が響く。
凛っと澄んだ美しい声。
その声の主がこちらへ向かって来る。
しかもその道は、俺に剣を向けている騎士達が自ら空けて作っているのだ。
「せ、聖女様。どうして、ここに?」
あぁ、どうやら彼女は教国の聖女らしい。
白い法衣を着た少女。
腰より長い銀髪におっとりとした目の大人しそうな少女だ。
「彼への攻撃行為の一切をこの私が禁じます!!」
「なっ!?」
「何を言っておられるのですか聖女様!!」
「お黙りなさい!! これは教会の決定事項でもあります!! ここで異議は聞きません!!」
「なに、教会が……」
何だろう。
何か話しているけれど分からない。
頭が痛くて、整理できない。
理解できない。
そんな事を思っているとガクッと足から力が抜け、両手を地面についてしまう。
どうやら思ったよりも消耗していたようだ。
「勇者様!!」
そんな俺に駆け寄り、背中をさする聖女様。
あ、そんな事をしたら翼がと思ったが、その翼はいつの間にか消えていた。
「せ、聖女様……今、何と?」
「聞いていなかったのですか騎士団長。彼はこの世に生まれ落ちました勇者の一人。伝承によれば滅多に現れないはずの力を宿した勇者」
「……伝承に……まさか!?」
「彼が宿すのは勇者・陰。勇者にして魔の力を持つ聖なる者」
「勇者……陰!?」
その言葉を聞いてその場にいる騎士達がザワ付く。
「勇者でありながら勇者を律し、時に力を合わせ、時に討つ役目を担う勇者。彼が必要と思えば、ガーラッド。貴方は彼に討たれるのですよ」
「……そんな、力を持っているのか」
「あの翼こそがその証です。彼が破壊すべきと判断した物を、それこそ必要とあれば文明すら消し去る力」
「……文明なんて大袈裟な」
「書物によれば、過去にいた権力に溺れた勇者を領地ごと消滅させたともあります」
「……マジかよ」
勇者を殺せる勇者の存在に顔を見合わせる騎士達。
そんな騎士達を押しのけるように、別の騎士が現れる。
「すみませんね。通りますよっと」
彼等は教国の騎士が使う鎧と違い、鎧とローブが合わさった鎧を着ていた。
「聖騎士の皆様。よく来てくださいました。彼を運んで下さい」
「彼が特別な勇者ですか……」
「はい」
「ち、ちょっと何を」
「彼は我々教会で保護致します」
「そんな勝手な!?」
「教会の決定事項です。異議でしたら、教会本部にまで、お願い致します。では」
俺を持って来た担架に寝かせ、持ち上げる聖騎士達。
「貴方達もどうぞご一緒に。お仲間様ですよね?」
「あ、……あぁ。でも」
「ここの処理は俺達に任せてくれ」
「……済まないな。行こう」
この場の処理をガーラッド達に任せ、俺と一緒に聖女様と聖騎士達と一緒に歩き出すロウエン達。
どこへ行くのか分からないが担架の揺れを心地良く感じた俺は消耗していた事もあり、いつの間にか眠りへと就いていた。
お読みくださり、ありがとうございます。
セーラは本当に余計な事しかしないですね……
今回のハヤテのは果たして覚醒なのか、それとも闇落ちなのか…
小文字アルファベットと小文字ア行の組み合わせの発音は……特に考えてません!!
書いてあるように、舌と顎をほとんど動かさずにア行だけ言う感じで良いと思います。
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
本当に嬉しいです!!本当に応援していただき、ありがとうございます!!
次回も読んでいただけると嬉しいです!!
次回もお楽しみに!!