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65話〜兄帰る〜

皆さん、大変です!!


〜このキャラ痛い目に遭うんだろうなぁ警報が発令されました〜


ご注意ください。


「ただいま〜」

「お〜、おかえりアニキ」

「疲れた〜」

「……少しやつれたか?」

「多分な」

「エラスさんもお疲れ様です」

「ありがとうございます。エンシさん」


 バリーナが訪ねて来た日から三日程経った日に、アニキは帰って来た。

 ので早速アニキがいない時に起きた事を話そうとしたら


「お帰りなさい。義兄(おにい)さま」

「……ハヤテ、このお嬢様は誰だ?」

「あ〜……えっとね、訳ありで家で預かる事になったマリカ・カリバーさん」

「マリカ・カリバーって……あの帝国のか!?」

「そうだけどって、あぁそうか。アニキは一時期は帝国にいたもんね。今ってそこん所どうなってんの?」

「それはまぁ……セーラがあんな事したからな。俺の方から悪いけどやめさせてもらったわ」

「簡単に行くんだな」

「そりゃあお前と違って俺は聖装を持ってないからな。聖装を持っていたら引き止められたと思うぜ」

「そっか……じゃあ聖装を持ってなくて良かったな」

「本当だよ……っと、他にも話す事があるんじゃないのか?」

「あぁ、そうだったそうだった。あのな……」


 そこから俺は今度教国の勇者の子孫であるガーラッド達と試合をする事になるかもしれない事を伝えた。


「……え、マジで?」

「あぁ。まだ決まってはいないんだけどな」

「……どう思う?」

「ん?」

「向こうは飲むと思うか?」

「……どうだろうな。俺としては乗ってくると思うが、ロウエンはどう思う?」

「そうだな……俺も乗ってくるとは思うぞ」

「そうか……にしても試合を隠れ蓑に王様を救う、か……そんなに上手く行くだろうか」

「一応、協力者はいるが……その点は相手を信じるしかないな」

「それもそうだな。ま、疑っていたら相手に失礼だしな。ここは相手を信じるとしようれ

「ハヤテの言う通りだな。まぁまずは相手が俺達との試合をやってくれる事を期待しようか」

「それはそうとアニキはちゃんと強くなったのか?」

「ん? 当然だろ。なんなら確かめるか?」


 アニキの言葉に俺はニヤッと笑って答える。


「それは良いね。是非やろう。今すぐにやろう!!」

「おう!! 驚くなよ?」


 俺の返しにニッと笑うアニキ。


 その日は夕方まで、家の裏からアニキの悲鳴が聞こえたそうです……




 その日から五日後。

 俺達は教国に来ていた。

 なんとか無事、試合をする事になったのだ。

 ただ、ルクスィギスさんは忙しいらしいので挨拶は一切無し。謁見も無しとなった。


「とはいえ……暇だな」


 ルクスィギスが用意してくれた宿から街に出て思う。

 試合は明後日。

 試合は各パーティーから三人ずつ代表を選出し、先に二勝した方の勝ちというルールで行われる。

 群狼からは俺、ロウエン、アニキが出る。

 本当ならさっさと二勝したいのだが、今回は別にも目的がある。

 極力時間を長引かせた方が良いのだが、観客も来るのでだらだらとはできないのが難しい所だ。


 怪しまれず、飽きられない程度に長引かせる。


(難しいなぁ……)


 そんな事を思いつつ、当日試合をするコロシアムまで来る。


「……でっけぇなぁ」


 デカイし、広い。

 これなら多少は暴れても大丈夫だろう。

 アニキもパワーアップしているし、自分なりの戦い方も見付けられたと言っていたし、当日に期待するとしよう。


「さて……後はどうす」

「だ〜れでしょうか?」

「……マリカさん?」

「はい!! マリカです!!」


 突然俺に目隠しだーれだをして現れるマリカさん。


「お一人でお暇そうでしたので」

「あぁ、成程ね」


 マリカ・カリバー。

 家の力を強める為に親に利用されていた少女。

 俺に嫁がせ、体にかけた魔術の効果で家に引き込むのに使われかけていたのだ。


 この事は彼女を調べたサフィアさんから伝えられ、その時は俺にメチャクチャ謝って来たのを覚えている。

 泣きながら何度も頭を下げ、最終的には自分の剣で首を切ろうとしたので、俺とロウエンで慌てて止めたのだ。


 そこまで彼女は俺の事を想っていてくれたと同時に、親に利用された事で心を痛めたのだ。

 ただロウエンが言うには、悲しんでいるマリカさんを俺が慰めそのまま引き込もうという計算の可能性もあると言っていた。


 ただ、既にミナモによってかけられていた術は解かれているので問題は無いのだが、マリカさんに手を出すつもりは無い。


 そりゃ美人さんだし下心が無いと言えば嘘になるが、だからと言って今手を出せば彼女の父親と同じくクソ野郎になってしまう。

 それだけは、俺の意地が許さない。


「お散歩ですか?」

「まぁね。マリカさんも?」

「はい。でも何と言いますか……」

「まぁ、お祭り騒ぎだしね……疲れた?」

「はい。実を言いますと疲れましたね……」

「そうか……なら、一緒に帰るか?」

「まだ見たい所があったのではないのですか?」

「いや、俺は暇に思っていただけだから気にしないでくれ」

「そうですか。でしたらその……」

「ん?」


 そっと左手を差し出すマリカさん。


「そ、その……夢、なんです」

「夢?」

「はい。その……好きな人と、手を繋いで帰るのが」

「……あ、あぁ……」


 素朴な願いだなと思いつつ、そんな彼女を利用したマリカさんの父親に対する怒りがまた込み上げてくる。


「……ハヤテさん?」

「ご、ごめん……うん、良いよ」


 彼女の手を取り、宿へと向かう。

 これで彼女の受けた傷が少しでも癒えるのなら、この程度で彼女の夢が叶うのなら。


 俺と手を繋いで宿へと向かうマリカさんは少し恥ずかしそうに俯いていた。

 でもどこか嬉しそうというか、緩みそうな口元を必死に引き締めている様子がどこか可愛く見えた。




 さて、その日の夜。俺達はレストランに来ていたのだが……


「風月の群狼のハヤテ様ですね? どうぞこちらへ」

「え、俺だけ?」

「いえいえ皆さん順番にご案内させて頂きますが、まずはハヤテ様からどうぞこちらへ」


 そう言って俺はスーツを着た男性に連れられ、とある部屋へと通された。


「……俺、頼んで無いけど」

「申し訳ありません。もてなしてやれ、と言われているものでして」

「……」

「そんな怖い目をなされずとも、お仲間様に危険は及びませんよ。そこは信じて下さい」

「……証拠はあるのか?」

「……我々も、プロですのでプライドがあります」

「……分かった。信じるよ。でももし何かあれば分かっているな?」

「当然です。貴方が聖装という力を持っている事も知っております。あくまで我々がするのはお代分だけですので」

「……なら、これを渡しておく」

「……これは?」

「お代分、なんだろ?」

「……かしこまりました」


 彼は俺がおもむろに取り出した金を受け取るは一礼した。


「包まなくて悪いな」

「いえいえ。お金に変わりはございませんので」

「……そう言ってもらえると助かるよ」

「そうですか。さ、ここです」


 ここから先は俺だけとでもいうように彼は、戸をノックして中からの返事を受けて開ける。


「どうぞ、ごゆっくり」


 そう言って彼は戸を閉めた。


「いやいや〜、急に悪いね。ハヤテ君」

「……全くだ。こっちにはこっちの予定があるんだけどな」

「全くもってその通りだな。済まない済まない」


 馴れ馴れしく、笑顔で俺に話しかけてくる男。

 ドップリと出た腹に脂ぎった肌に糸のように細い目。

 着ている服は多分、高いんだろうな。

 全ての指には宝石が散りばめられた指輪をはめている。


「私はハラグロ。この教国にて大臣をやらせてもらっておる者です〜」


 ニヘニヘと笑いながら手を揉みながら俺の元へと歩み寄って来る。


「何の用だ」

「そんな警戒しないでくださいよ〜。遠路はるばる来て頂いたのですからね。忙しいので代わりにもてなしてやれとルクスィギス様からの命を受けて馳せ参じた次第でございますよ」

「……そうか」

「ではではどうぞ席へ。ささっ、ずすいっと」


 ハラグロに促され椅子に座る。

 目の前のテーブルにはまだ料理は来ていないが、テーブルの大きさからするに相当な数の料理が来るのだろう。

 そしてハラグロは俺の目の前の席に座る。

 信用できない笑みを浮かべながら彼は


「では皆々様〜。お料理をお願い致しますね〜」


 チリンチリンとテーブルに置いてあった鈴を鳴らしながら呼び込む。


(……おいおいマジかよ)


 料理を運び込んで来た人達を見て来るんじゃなかったと思ってしまう。


「ささっ。どうぞどうぞ、腹だけでなく目もお楽しみ下され」


 解した笑みを浮かべながらハラグロが話す。

 料理を運び込んで来たのは全員女性だったのだ。

 いや、そこは別に良い。女性の店員だっているからな。

 問題はその後だった。

 女性の服装だ。

 全員、肌を見せる服装なのだ。

 それこそ、恥じらいを捨てたと言われても違和感を感じない服。

 踊り子でもそんな服は着ないと思うぐらいのレベルの子もいる。


「お疲れでしょう。どうかごゆっくりお楽しみください。さぁ、おもてなしをしてあげなさい」

「は〜い♪」

「分かりました〜♪」


 ハラグロの言葉を受けてサササッと目の前に料理が並べられる。


「あぁ〜、ハヤテ様は大丈夫ですよ〜」

「私達が食べさせてあげますからね〜」

「何が食べたいですか〜?」

「……」


 この状況で食えるかよ。

 ロウエンにも教わった。

 明らかに敵地と分かる地で、ホイホイ飯を食うのは死にたがりか馬鹿だけだと。


「ホッホッホッ。そんな警戒しなくても、毒なんて入れてませんよう?」

「……毒も一つだけじゃねぇだろ」


 そう言って俺は目の前の皿を一つ、ハラグロの前に滑らせる。


「……ホホーウ?」

「まずはお前が毒味をしろよ」

「……面白い子供ですねぇ。おい、そこの」

「ハァイ? 何でしょうかぁ〜?」


 ハラグロは料理を置き、暇そうにしていた少女を呼び寄せる。

 ウェーブのかかった金髪に小麦色の肌の、いかにも遊び慣れている感じの子だ。


「何でしょうって……君が」

「ふえっ?」

「食べるんですよ!!」

「うぐっ!? ……むぐもぐ!?」

「おい!?」

「なぁにを驚いておられますかぁ? 私は大臣ですよぉ〜? 毒味なんてできる訳無いじゃ無いですか〜」


 ハラグロは料理をおもむろに手で掴むと少女の口に押し込み、無理やり食わせる。


「ほら食べるのですよ!! ハヤテ君から毒味のご命令ですよ!!」

「んぐっ!? むぐふっ!? ……ふっ!?」

「ヨォシヨシ。良い子ですね〜」


 何とか食べ切った少女だったが様子がおかしい。


「はぁ、はぁ……はふぅ」

「……やはり何か盛っていたか」


 息を荒げ、うっとりとした目で少女が俺を見ている。


「えぇえぇ、当然ですよ。そっちの方でも、楽しんで頂きたいですからねぇ」

「下衆が」

「何が下衆なものですか。ここにいる女は皆、その事を話した上で雇っておりますからねぇ。貴方がその気になれば、皆喜んでご奉仕なさいますよ? なぁ〜? お前等」

「はぁい♪」

「そうでぇす♪」

「お姉さんとぉ、良い事しよ〜?」

「お断りだな」

「おやおや。この娘達では気に入りませんでしたかな? でしたら、新しい娘を呼びましょうか。どんな娘がよろしいですかな?」

「いらねぇよ」

「そんな遠慮なさらずにぃ〜……おや?」


 ハラグロが下の動きを止めて俺を見る。

 ゾルゾルゾルと、湿った音を立てながら俺の足元から黒い風が上り始めたのだ。


「二度も同じ事を言わせんなよ」

「ホ、ホッホッホ〜ッ? 脅しですかな〜?」

「それはこっちのセリフだ。女使って、試合でわざと負けろとでも言う気だったか?」

「ホホ〜ウ。ハヤテ様は話が早いですな〜」


 ニチェラと湿った笑みを浮かべるハラグロ。


「いかがですかな〜? わざと負けてくれませんかね〜?」

「……俺に得がねぇな」

「もちろん、ご用意はさせていただきますよ〜う? 貴族を束ねる貴族連合の名誉会長の椅子に、騎士団団長の椅子。あとそうですね〜、憲兵団団長の椅子もお付けしますよ〜う? いかがですかぁ?」

「……ちっとも旨味がねぇな」

「ホ!? 本気で言ってらっしゃりますか!? 貴族連合のトップに立てば貴族の好みの娘を抱き放題!! お金だって腐る程集まりますのよ!? 騎士団団長の椅子に座れば、お金だけでなく捕らえた敵の女も嬲り放題!! 憲兵に至っては」

「お前の舌、よく回るな。どんだけ脂が乗ってんだ?」

「ヒッ!?」


 やっと奴が黙る。


「俺の目は、その話を聞いて喜んでいるように見えるか?」

「ひ、しょ、しょれは〜」

「アァ!?」

「ブヒィン!?」

「……悪いが、帰らせてもらうぞ」

「お、お待ちなさい!!」

「……んだよ」

「お、お仲間様達はただいま楽しくお食事中でぞ。それを邪魔するのは」

「ほぉ〜? 食事中ねぇ……どうなんだ?」


 俺の言葉を受けて戸が開くとそこには先程、俺をここに連れて来た男性が立っていた。


「ホヒ? なぁーんで貴方様がここで出て来るのですか?」

「何でも申されましてもハヤテ様を呼んで来て頂きたい、と頼まれたからにございます」

「なな、なんですと!?」

「へ〜、俺を呼んでいる人がいるんだ」

「はい。お連れの皆様、お帰りの支度を終えまして既にハヤテ様をお待ちになっております」

「そうか。ありがとう」

「いえいえ。頂いたお代金分は、働かせて頂きますので」


 その言葉を聞いてハラグロは顔を真っ赤にさせて怒鳴る。


「おぉい貴様!! 金を払ったのは私ですゾ!! 私の命令を聞きなさい!!」

「申し訳ありませんが、ハヤテ様からも代金は頂いておりますので」

「私は大臣ですゾ!!」

「お金に、大臣もクソもありませんよ。豚野郎」

「ッキー!? 豚ですって!? この私を!! 豚と言いました!?」

「おや失礼。口が滑りましたね……」

「な、ななっな、なななっ!?」

「さぁハヤテ様。皆様がお待ちです。どうぞ」

「……ありがとう」

「いえいえ。これも仕事ですから」


 ブチ切れるハラグロをよそに俺に帰りを促す店員。

 彼の言葉に従い、俺はハラグロを残してさっさと部屋を出て行ったのだった。




「お、来たか。遅かったな」

「悪いな。色々とあってな」

「なら仕方ないか……」

「本日はご利用頂きまして、誠にありがとうございました」

「ご飯とっても美味しかったです!!」

「また来たいですね」

「そうだな……今度はゆっくり、味わいたいな」

「皆様でしたら、いつでも歓迎しますよ」

「……今日は本当にありがとうございました」

「いえいえ。お礼を言われるような事は何もしていませんよ。だって……」


 ニッと良い笑顔をして彼は言う。


「仕事ですから」


 自分の仕事に誇りを持つ者の顔をして彼は言う。

 そんな彼は俺達の姿が本当に見えなくなるまで俺達を見送ってくれたのだった。







「んー!! ぐやじい〜!! あのガキめー!! よくも私をコケにしてくださいましたね!!」


 一方その頃、一人部屋に残されたハラグロは悔しさを隠す事なく泣きべそをかいていた。


「んんー!! 良いですもんね!! 試合当日にはどうせ我々が勝つのですから!! 教国の勇者のお坊ちゃまが勝つんですから良いんですぅーだ!!」


 まるでガキである。


「この私を馬鹿にして……タダで済むと思ったら大間違いですからネ!!」


 彼の叫びが虚しく、室内に響くのだった……

お読みくださり、ありがとうございます〜


ハラグロほんとクズ。


対してレストランの店員さんはプロ。


そんでフー、ウル、ルフは宿で良い子にしてました!!

偉いね!!


ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!

メチャクチャ嬉しいね!!

ここ最近気温が下がってきました。皆さん、体調にはお気を付けて!!

次回も読んでいただけると嬉しいです!!

次回も、お楽しみに!!

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[良い点]  悪意に利用されていたマリカが哀れ。汚されても純な乙女心を持っているんだ……
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