63話〜日の出〜
皆さんに速報です。
〜最後の方を読む際、悲しい子が出ます警報が発令されました〜
ご注意ください。
エクメノのもとに来て二週間。
俺はレミーナにボッコボコにされていた。
「ったくあの女。手加減ってものを知らねぇのかよ……」
木陰で休みながら体力の回復に集中する。
エクメノに言われたからだろうが、レミーナは文句を言いながらではあるが鍛えてくれている。
と言ってもアイツは特に語らない。
俺に勝手に学べと言ったスタンス。
故に……
「分からねぇなぁ……」
俺が勇者だろうと関係なくボッコボコにしていくレミーナ。
あのロウエンならもっと違った教え方をするんだろうが、エクメノもエクメノだ。
俺に合った奴をつけてくれれば良いものを。
「不親切、だよなぁ……」
いや、俺がアホ過ぎるのかもしれない。
でも、強くなるためには。
償うためにはもっと力が必要なのだ。
弟を守るためにも、弟の大切な物がもう二度と失われないためにも。
俺は強くなる必要がある。
俺は強くならなければならない。
勇者としてではなく、兄として。今度こそ……
「黄昏ている所悪いが、再開するぞ」
「げっ……」
「……分かった。とびきり厳しくしてやろう」
「お、お願いします」
「初めからそうしろ」
戻って来たレミーナ。
一見すると男性にも見える女性。
イケメン美人な彼女だが、残念ながら彼氏はいないそうだ。
「おい」
「はい?」
「今失礼な事を考えていただろ」
「……滅相もございません?」
「本気で行くか」
「嘘だろ……」
まぁ、この通り勘が鋭いのだ。
これじゃ彼氏は
「……」
うん。無言の圧がすごく怖い。
「まぁ良いか。始めるぞ」
「お願いします」
「……」
「……どうしました?」
「いや、来たばかりの時は始めるぞと言っても、はいやらうっすとかそんなだったのに急にどうした? 変な物でも食べたか?」
「い、いや」
「ではどこかに頭をぶつけ……投げ過ぎたか」
「いや、それも」
「じゃあ急にどうした?」
「ま、まぁ……何となく。一応っていうか、教わっている訳ですし」
「……そうか。ま、まぁ良い。始めるぞ」
「はい!!」
再開される特訓。
だが結果は……
「ぐ、ぐふぅ……」
「まだまだだな。だが、初めよりは良くなっているぞ」
「そ、それは良かった……」
「……水を汲んでこよう。少し休んでいろ」
地べたに寝転がる俺を見下ろしながらそう言うと近くの川へと向かうレミーナ。
相変わらず彼女は全力でぶつかって来る。
殴打、蹴り、投げ、締めといった全てを使って来る。
俺も、それを見様見真似でやってみるが上手くはいかない。
年季が違う、と言えば良いだろうか。
その道に通じ、学んだレミーナとそれを真似する俺ではレベルは当然違う。
「どうすれば……」
どうすれば彼女と対等に戦えるだろうか。
果たして俺は彼女から何かを学び取れているのだろうか。
学び取れているのなら俺のこのザマはなんだ。
全くもって相手にならない俺は果たして本当に学んでいるのだろうか。
何かが足りない。
決定的な何かが足りない。
「何かが足りないんだよなぁ……」
ムクリと起き上がり、頭を掻きながら呟く。
まず俺と彼女の違いからだ。
彼女は体術が得意だが俺はそこまで得意ではない。
俺は魔術系が得意だが彼女が使っている所を見た事は無い。
彼女は魔術系が苦手なのだろうか。
そう思いつつ、俺は今の自分の様子を確認する。
俺が使える魔術の大半は戦闘に向いたもの。
サポート用は少ないが一応覚えている。
(試してみる、か……)
考えてみれば簡単な事だったんだ。
「お……起きていたか。様子はどうだ?」
「もう大丈夫です」
「そうか。ほれ、水だ」
レミーナから水を受け取り飲み干して立ち上がる。
「お、おい。もうやるのか?」
「はい。試したい事があるので」
「試したい事? ……良いだろう。かかって」
俺は全身に魔力を纏う。
「……ほう? 面白いな」
俺の様子を見て目を細めて笑うレミーナ。
「ちょっと試してみたいんだ」
「そうか。それは良いな!!」
「っ!?」
構える事なく肉薄し、俺を吹っ飛ばすレミーナ。
前ならただ吹っ飛ばされていただろうが、今回は違う。
両腕でのガードに成功したのだ。
俺がした事を一言で言うなら魔力による身体機能の強化。
足りないのなら補えば良い。
それだけの、簡単な事だったのだ。
「成程。ドーピングという訳か」
「まぁそんな所ですね」
俺が自分に付与した効果は複数ある。
攻撃速度アップ、防御動作速度アップ、回避率上昇、直感強化、そして遮光だ。
「ふんっ!!」
「っと、危ねえ!!」
レミーナの一撃を躱し、魔力で作ったカードを投げる。
「っ!? ……目眩しか!!」
そのカードは彼女の目の前に行くと爆発し、数多のカードをその場にばら撒く。
ばら撒かれたカードは宙をヒラヒラと漂う。
「だが所詮は」
ブォンッと腕を振るい、カードを払おうとするレミーナ。だが次の瞬間
カッ!!
とカードが光り、レミーナの視界を埋め尽くす。
「こ、この光は!? ……ダメだ、目が」
あまりの光の強さに腕で目を覆うレミーナ。
動きの止まった彼女へと、今度は俺から接近する。
「っ!?」
伸ばした手で彼女の腕と襟をガッシリと掴む。
「さんざん投げられたからな!!」
「っ!? ……くっ、きゃあぁっ!?」
そのまま投げ倒す。
初めて倒した。
いや、これが実戦だったらまだ勝ちではないのだが、それでも嬉しい。
「いたた……やるじゃないか」
「うぉっ!?」
「何だ? 終わりだとでも思ったか?」
「い、いや……」
「まぁ私も油断したしな……次はきっちりと、本気を出そう」
「うげっ……」
そこからトレーニングが再開されたのだが、再開される度に俺は天を仰ぐのだった。
「いっ、てて……」
「我慢しぃ……ほれ、しみるぞしみるぞ」
「いっだあぁぁぁぁっ!? それ!! それだよ!! そうするからいだだだだだ!?」
「ホッホッホッ。おとなしくせいせい」
「ぐっ、ぐぬぬぬっ!!」
家に帰ってから俺はエクメノに傷の手当てをしてもらっていた。
「何でそんなにグリグリするかなぁ!?」
「気のせいだね」
「いでぇ!?」
いや絶対に気のせいじゃない。
そう思ってみるとやっぱりそうだった。
傷薬を染み込ませたガーゼをニコニコ笑顔でエクメノが押し当てていた。
しかも指でグリグリしている。
うん。
「どおりで痛え訳だよ!!」
「生きている証拠さ」
「そうだけどよ……いたっ」
「でも……傷の数も減って来たね」
「……そうか?」
「うん。手当てをして来たから分かるよ。初めの頃と比べると傷は少ないし、腫れも酷くない。アンタは確実に成長しているよ」
「……まだまだだよ」
「うん。お前さんが目指してある所がもっと高い所にあるのは分かっているよ。まだまだ手が届かない事も」
「……」
「それでもお前が頑張っているのは十分伝わっているよ」
「……ありがとう」
「レミーナもその事は分かっているはずさ」
その言葉。
めちゃくちゃ嬉しかった。
「本当の事を言うとね、初めはレミーナを外して私が教えようと思ったの」
「え? ……」
「でもね、レミーナが自分が教えたいって聞かないから続けさせたのよ」
「……な、何で?」
「多分、息子に重ねたのね。生きていれば貴方と同い年かしらね」
「……レミーナって今幾つ何だ?」
「自分で聞いてみなさい」
「まだ死にたくねぇよ」
「そうね。なら、黙ってなさい」
「おう」
「話を戻すけど……多分彼女は、貴方を自分の息子だと思っている。だから、厳しく接しているんだと思うよ」
「……そうなのかな」
「そうさ。でも、この話を私から聞いたというのは」
「分かっている。内緒、だろ?」
「ありがとうね」
「……手当ては終わりましたか?」
ちょうどそこへやって来たレミーナ。
「夕飯の用意ができた。早く来ないと、冷めるぞ……今日は、ハンバーグを作ってみた」
「……え?」
「……エラスから聞いた。お前が好きだと」
「……ありがとうございます」
その日レミーナが作ってくれたハンバーグは、メチャクチャ美味かった。ただ、ちょっとしょっぱかった。
場所は変わり魔族領の森。
あと少し行けば魔族領の外に出られるといつ所にある小高い丘で、一人の魔族が来た道を振り返っていた。
ボロ布をフード付きマントの様に被る魔族の子。
「お母様……」
その声は女性のように高い。
ただその目には涙が浮かべている。
その視線の先には先程までいた、昨日までの暮らしていた彼女の家。
彼女の家は貴族の一つで、母親は現魔王の妻の一人だった。
なのに、家は襲撃を受けた。
幼い頃から面倒を見てくれたメイド達。
庭でかくれんぼの相手をしてくれた庭師。
いたずらをした時、母親に一緒に謝りに行ってくれた爺や。
そして愛する両親は、襲撃して来た騎士達によって殺された。
泣きながら逃げた。
僅かに生き残ったメイドと執事に連れられて森に逃げた。
そのメイド達も一人、また一人と追っての手にかかり、気付けば一人になっていた。
「……お母様。お父様……皆……」
泣いている暇は無い。
今ここで捕まってしまえば、逃がしてくれた皆の死が無駄になってしまう。
「いつか、いつか仇はとります……だから、だからそれまで」
さようなら。
私の故郷。
風にかき消される程か細い声で、そう呟いて魔族の子は魔族領を出る。
愛する者達との思い出を胸に抱いて。
故郷に背を向けて。
全てを奪った者に復讐を誓い、人の世へと踏み出した。
お読み下さり、ありがとうございます。
カラト。少しずつ成長はしていますね。
そしてラストに出た魔族の少女。
いったい何が……
ブクマ、星ポイント本当にありがとうございます!!
最近ブクマが増えてメチャクチャ驚いております!!
でも、メチャクチャ嬉しいです!!
皆様、本当にありがとうございます!!
次回も、お読みいただけると嬉しいです。
次回もお楽しみに!!
……最近、他に書きたい事が頭の中に出てきている〜