60話〜受け入れたは良いが……〜
皆様に速報です
〜引き続き、クズキャラ警報が発令されました〜
お読みの際はご注意ください
「っ、あ〜……よく寝た」
「おはよー」
「おうおはよ……」
マリカを引き取った翌朝。
昨晩は少し遅くまで起きていたのだが、窓から差し込む朝日と部屋に乱入して来たウルに顔をベロベロ舐められたせいで起こされてしまった。
隣では同じくウルに顔中をベロベロ舐められて起こされたユミナが、まだ眠たそうに目を擦っている。
とりあえず、ウルの涎でベトベトなままではたまらないので顔を洗いに行く。
「あれ、ハヤテおはよー」
「おう、ミナモ」
「おはようございます」
「おはようございます、エンシさん」
「よう」
「よっ、ロウエン」
「おはようございます」
「はよーさん」
「サフィアさんにラピスさん、おはようございます」
「ワフ〜」
「クルル〜」
「ルフ、フー。おはような」
皆ちょうど起きたらしく、洗面所は少しだけ混雑していた。
「おいミナモ寝坊か? 今日の朝食当番は確かお前だろ?」
「あはは〜……ごめんちゃい」
「全く……俺が手伝うからさっさと済ませるぞ」
「えー、ロウエンが手伝うと野戦食みたいになるからやだー」
「じゃあ次回からちゃんと起きる事だな」
「ぶーぶー」
「おや、ここに豚がいるな。ハムにするか」
「ごめんなさいごめんなさい」
「……さっさとやるぞ」
「はーい」
うん、どうやら今日の朝食までは時間がかかるようなので、のんびり行くか。
「な、何だこりゃ!?」
「わー!?」
と思った矢先、ロウエンとミナモの驚く声がリビングから聞こえた。
「どうした!?」
何事かと全員がリビングへと向かうが、俺達が見たのは……
「あ、おはようございます」
エプロン姿のマリカとテーブルの上にズラリと並んだ朝食だった。
「えっと……これは」
「あの……ご迷惑、でしたでしょうか」
「いや……ありがたいが、凄いな」
「ロウエンじゃ作れない物ばかりだな」
「……よしハヤテ、今日の稽古は厳しめに行こう。腹一杯食え」
「えげつな……」
「ま、まぁ見た目は良いけど味はどうか分からな……」
そう言いながらミナモはとろけたチーズの乗ったパンを手に取って食べ、うなだれた。
「何よ……胸だけじゃなく料理でも私って勝てないの?」
何かぶつぶつ言っているが聞こえない聞こえない。
「と、とりあえず食うか」
「そうだな。せっかく作ってもらったんだし」
「そうですね。いただくとしましょう」
それぞれ席に着き料理を食べ始める。
「本当だ、めちゃくちゃ美味いな」
「ここで料理番してもらいたいぐらいだな」
「確かに。いやでもこの味なら店出せんじゃない?」
「今度料理を教わりたいぐらいですね」
「うめぇ。めっちゃウメェ!!」
「こらラピス。そんなにがっつかないの」
「あれ。マリカさんは食べないんですか?」
「え? ……あ、あぁえっと……これは皆さんに作った物ですので、私は」
「んな事言わずに一緒に食おうぜ? ほら、椅子もあるしさ」
「……で、では。失礼します」
空いていた席に座り、食事を始めるマリカ。
ただ、食べるペースは遅く、量も少ない。
腹が減っていないのか、慣れない家で食欲が無いのだろうか。
「このチーズ乗せパン最高だな」
「サラダも行けるな」
「このスープ。とっても美味しいです!!」
「あ!! こらウル!! ハム返せ!!」
「ワウ〜ン♪」
「ルフさん、食べますか?」
「ワフ!!」
「おーい、フー。お前も……ってもう食ってるか」
「ガフゴフゴキュ……キュルル〜」
フー達三頭も気に入った様だ。
「三匹とも美味いってさ」
「そ、それは良かったです……あ、あの……私、もうお腹いっぱいなので失礼しますね」
ある程度食べるとマリカはそそくさと立ち上がり、ひとまず昨晩寝るのに使ってもらった部屋へと戻っていく。
彼女は一応、ラピスさんとサフィアさんと同じ部屋で昨晩は寝てもらったのだ。
「ワフワフワフ」
テッテッテッと軽い足取りでルフが彼女の後を追いかけて行く。
「……どうかしたのでしょうか」
「さぁな。腹の具合でも、あむっ。悪いんじゃ。うめっ。ねぇの?」
「食べながら話すなよ、ロウエン」
「悪い悪い……ま、あいつもその内ここに慣れるだろうさ」
「……だと嬉しいんだけどね」
俺はパンを齧りながら呟いた。
「美味い飯を食った後はやっぱ気分が良いな」
上着を脱ぎ、斧を手に取り薪にする木を台に置く。
先程の発言だが、普段の飯もちゃんと美味い事は伝えておく。
「よっと……ほっと……」
初めは慣れなかったが、薪を割るのにもだいぶ慣れた。
「あ、あの……」
「あぁ。マリカさん。どうかした?」
「……いえ……」
「ん? ……もう少しで終わるから、少し待っててもらって良い?」
「……」
俺の問いかけに頷き、近くの意思に座るマリカさん。
何の用があるのか分からないが俺からも聞きたい事があるので、俺はさっさと薪割りを終わらせたのだった。
「ふぅ〜、ごめん。お待たせ」
「いえ。私の方こそ急にすみません」
「いやいや。俺の方も、聞きたい事があったからね」
「……聞きたい事ですか?」
水色の髪を揺らしながら尋ねるマリカさん。
「うん。何で朝ごはん食べなかったのかなって思ってね」
「……それは、その……」
「お腹、空いてなかった?」
「い、いえ!! その様な事は……」
「何か悩みでもあるの?」
「父から」
「ん?」
「父から、皆さんが食べ終わるまでは手を付けるな、と」
「え?」
「皆様に作る料理であって、私の料理ではないから私が食べるのは皆さんが食べ終わってからと言われて……」
「何だそりゃ」
まさに何だそりゃだ。
「私の家ではそれが普通でしたので。父や、兄様達が食べ終わるまでは」
「女性陣は食べなかったのか?」
「はい」
「マジか……」
「父が頂点の家でしたので……」
「だからって……」
「私の家ではそれが当たり前でしたので……すみません。不愉快な気持ちにさせてしまって」
「……」
「次からは食事の時間をずらしま……」
「いや、一緒に食おうよ」
「……よろしいの、ですか?」
「そりゃ寝坊して食えなかったとかなら話は別だけどさ、一緒に食えるんなら食おうぜ? その方が美味いしさ」
「……ですが」
「良いから良いから。な?」
「……はい」
「よし。んで、俺に何か用だったか?」
「……あの、昨晩の事を」
「昨晩……あぁ、サフィアさんの事か?」
「……」
俺の言葉に無言で頷くマリカさん。
「悪かったな。でも」
「いえ……突然押しかけましたし、警戒されて当然です。それで」
「それで?」
「何か、ありましたか?」
「……何かって、あ〜……まぁ、うん」
「ありましたか……」
俯く彼女にかける言葉を慎重に選ぶ。
寝る前にサフィアさんから報告は受けたのだ。
彼女が言うには、異性に対して発動する魅了魔法がかけられていたのだという。
発動条件も限られており、男女の営みをすると発動する様に設定されていたのだ。
サフィアさんが言うには、俺が何も知らないでマリカさんを抱いていれば俺は彼女に魅了されてしまい、そのまま恋人という名のカリバー家の道具になっていたと言う。
この事は記録水晶に記録し、ロウエンからジンバに届けてもらう事となった。
勇者程では無いが聖装に選ばれた者は国にとっては大切な存在。
それを勝手に引き抜こうとする事は到底許される事ではない。
当人同士の恋愛の末に結ばれるのなら話は別だが、今回は手段が悪質だ。
そして多分、マリカさんはその事を知らない。
父親に良い様に利用された被害者だ。
「……マリカさんは、何か知っているの?」
「……いえ。何も。嘘だと思うのでしたら、術を使って下さって構いません。ですが、ロウエンさんに昨晩も言いましたが、私はただ」
どうやらロウエンとは似た話をしているようだ。
「ただ……噂でも、貴方の話を聞いて……」
「俺の噂?」
「はい。聖槍に選ばれ、魔族達を退けた話も聞きました。大砂漠の盗賊団を退治した話も聞きました。まるで、絵本に登場する勇者様みたいだ、と」
「……なんか、照れるな」
「だから、父に相談したのです。ハヤテ様のお力になりたいと。幸いにも私は剣聖の祝福を受けた身。何かお役に立てればと思いまして……そうしたら父は喜んでその話を受けて下さいました」
「そこから料理とかを?」
だとしたら相当努力したんだろうな。
あの戦いからそんなに長い時間は経っていないし、血を吐く様な努力を……
「あ、いえ。料理や裁縫は元から嗜んでおりましたので」
「え……」
「同じように歌等も」
「じゃあ……」
「はい。父からは殿方を喜ばせる方法を教わりました」
「……!!」
「何と言えば相手が喜ぶのか、どういった仕草で相手は喜ぶのか。手取り足取り教えてくれました」
彼女の言葉を聞いて俺は言葉を失った。
だってそうだろう。昨日会ったあのオッサンは、自分の娘に手を出したんだ。
彼女の思いを利用して……
「……っ」
「あの……」
必死に歯を食いしばって俺は、込み上げて来る怒りの声を抑え込む。
歯を食いしばっていなければ、俺は怒りのままに言葉にならない叫びをあげていただろう。
「ハヤテ、さん?」
「……ごめん、大丈夫だよ」
「そ、そうですか」
「……マリカさん」
「はい?」
「……ここにいる間は、やりたいように過ごしてくれ」
「……それは」
「好きに過ごしてくれて良いんだよ。ただし、飯は一緒に食べる事。良いね?」
「……はい!!」
「よし」
「あ、あのでしたら私、ウルさん達と買い物に行って来ます!! お夕飯も美味しいご飯を作りますからね!!」
「うん……お願い」
「はい!!」
初めて彼女が笑った。
笑って俺に返し、家に戻るマリカさん。
しばらくして彼女はウルとエンシさんを連れて村へと買い物に出掛けて行った。
「……聞いていたな。ロウエン」
積み上げた薪の山の向こうから現れるロウエン。
どうやら昼寝をしていたようだ。
「悪いな。盗み聞きするつもりはなかったんだけどな」
「……頼めるか」
「そう言うと思って、ほれ。録音済みだ」
「……俺では倒せない」
「だろうな。ハヤテでなくとも、俺達で殴り込みをかけた所で、カリバー家に勝てたとしてもその後に負ける」
「だから」
「だから、俺のコネを利用する」
「……頼んだぞ」
「へいへい。ま、長年生きて来た俺としても、あの話は見過ごせないからな。お灸を据えてやるとしよう」
「あぁ……頼んだぞ」
俺の言葉を受けて歩き出すロウエン。
その背中を見送る俺の足元を、黒い風が吹き抜けた。
お読みくださり、ありがとうございます。
マリカさん、利用されてるだけなんやな……
ハヤテの、この家にいる間はやりたいように過ごして良い、好きに過ごして良いって発言は多分、怒りの中で彼がマリカさんに変な心配をさせない為に絞り出した答えなんだよね…
ただ、また黒い風が吹き抜けましたね…
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
めちゃくちゃ励みになりますー!!
次回もお読みいただけると、嬉しいです!!
次回もお楽しみに!!