58話〜今度は帝国から〜
「ハッ!! ヤッ!! セイッ!!」
「動きがまっすぐ過ぎる。もっとバリエーションを増やせ!!」
「あだっ!? ……っくぅ〜」
家の裏。
薪割り場の近くの広場で俺はロウエンに稽古をつけてもらっていた。
素手による戦闘を想定した稽古だがロウエンの動きは速い。
俺より後に動いても、先に動作を終えて形を成して俺の攻めを受け止め、受け流す。
「スピードは良い。慣れもそこそこ」
投げ飛ばされ、呻く俺を見ながら分析するロウエン。
「この程度じゃないだろう?」
「ったりまえだ……」
立ち上がって構えを取る。
「……ハッ!! ダッ!! ヤァッ!!」
「気合は十分。だが……」
「おわっ!?」
「捻りが足りん」
腕を掴まれ、そのまま投げ飛ばされる。
「相手の勢いを利用して投げる。簡単な技だぞ」
「いっ……てて……」
「投げは相手の重さも威力に加わるが、相手の勢いも乗せれば更に上がる。覚えておいて損はない」
「そりゃ、良い事を聞いたよ!!」
「っと」
今度は立ち上がると同時に立ち向かう。
飛び上がり、連続で蹴り付ける。
それをロウエンは何の苦もなく手で弾く。
着地し、俺が蹴りを放つと同時にロウエンも蹴りを放つ。
同時に蹴りを受け止め、俺は足を引き戻すやそのまま回転して裏拳を見舞う。
だがロウエンは軽く身体を反らせてそれを躱し、ガラ空きになった俺の胸に掌を打ち込んで吹っ飛ばす。
「がはっ!? ……だっ!? いっ、いだだだだ……」
割った薪を積み上げて置いた所に吹っ飛ばされ、ガラガラと薪が崩れては俺に降り注ぐ。
「いってぇ……」
「クッション代りには良いだろう?」
「あのなぁ……」
「何で負けたか分かるか?」
「……そんなの、お前の方が速いし一撃も重い」
「違うな。速さだけで見れば、同等かお前の方が速い」
「でも実際に……」
「お前が見ている俺は、本当に正しいか?」
「……は?」
「その目で見ている俺は、本当に正しい情報か?」
「……」
本当に正しい情報かって、俺が見て得た情報なんだから正しいに決まっている。
と、カザミ村にいる頃の俺なら思っただろう。
でも今の俺は、村を出て戦って、色んな人と出会って学んだ。
だから俺は、ロウエンが言いたい事を理解できた。
そしてロウエンも俺が理解した事が分かったのだろう。
満足そうに口角を下げる笑い方をしつつ構える。
俺も立ち上がって構えを取りつつ、ロウエンの言いたい事を整理する。
ロウエンが言っている事は単純だ。
スキルによる強化を考えろと言いたいのだ。
肉体強化にも様々ある。
オーソドックスな腕力強化、筋力強化や脚力強化。
視力や聴覚を強化するタイプ。
珍しいものでは複数人の言葉を同時に聞いてそれを個別に理解するものもある。
そんな中でロウエンが使っているのは、筋肉が盛り上がらない筋力強化スキルだろう。
珍しいが、そういうスキルもあるのだ。
他にも呼吸器系を強化するスキルや視力強化スキル、俺が仕掛けるタイミングを測るために聴覚強化を使っているかもしれない。
(なら……)
意識を集中させ、静かにスキルを発動させる。
ユミナの親父さんから教わったのだ。
獲物に仕掛ける時は気付かれてはいけない。
気付かれる事なく静かに準備をするのだと。
だから俺は静かに脚力強化と速度上昇、それに加え消音スキルを発動させる。
俺の音が抑えられたのが分かったのだろう。
ロウエンの表情が変わる。
(スキルレベルが低いから完全には消せないが……無いよりかは、だな)
仕掛けるタイミングを計る。
そんな賢い事はしない。
「ッ!?」
タイミングを計る事なく突っ込んだ俺に驚いたロウエンが、一瞬だが目を剥いた。
ユミナの母親から教わったのだ。
考えるなと。
正確には、考える事は戦う前に済ませておけと習ったのだ。
自分が考えている時間は相手も考える時間になる。
自分が長く考えていれば相手もそれだけ長く、迎え打つプランを考えられると。
だから俺はタイミングなんて計らずに突っ込む。
「ウラァッ!!」
「ほっ、よっ……っと!!」
イメージは槍だ。
俺の手は槍。
足は刃。
速度上昇スキルの効果もあり、俺の一撃は槍の一突き一振りに近いものになっていた。
「やれば、できるじゃないか」
「まだまだぁ……あっ!?」
ゴキッという嫌な音が俺の肩から聞こえた。
直後肩を襲う激痛。
「……おいおい大丈夫か?」
「いでで……これ、もしかしなくても」
「外れたな……どれ」
「おぐっ!?」
「急に速くしたから身体が追い付かなかったんだろう」
カコッという音を立ててロウエンが俺の肩をはめる。
「わ、悪い」
「いや。俺も熱くなっていたし、そこは俺が止めるべきだった。すまない」
「いやいや……あ、でも学べる事も多かったぜ」
「そうか、なら良かったよ」
「また時間がある時に頼むぜ」
「任された」
ニッと笑うロウエン。
肩が外れたという事もあり、今日の稽古はここまでとなり家に戻る俺達。
だったのだが、なんか家の前に馬車が停まっている。
「君がハヤテ君かな?」
「……え、まぁそうだけど」
多分この人が馬車で来たんだろうな。
スーツを着たおっさんが急に話しかけて来た。
うーん、最近来客が多い気がするぞ。
ロウエンはロウエンで何か感じ取ったのか、俺を守るように俺とおっさんの間に入っている。
「済まない。私の名はアーク・カリバー」
「アーク……カリバー……というと帝国騎士団のカリバーか?」
「おや、私の事をお知りでしたか。嬉しいですね」
「ロウエン、知っているのか?」
「あぁ。帝国の騎士団の長だったはずだ」
ロウエンの言葉にうむうむと満足そうに頷くアークさん。
「それで、帝国の騎士が何の用だ?」
「いやいや、話は簡単でね……ハヤテ君、私の娘と結婚してはくれないかな?」
「……」
面倒くせぇ話がやって来ました。
「どうだろうか?」
「嫌だ」
「そう言わずに」
「ヤダヤダヤダ」
「せめて娘と会ってはくれないかな?」
「ヤダーヤダヤダ」
「おーい、マリカ。おいでー」
「人の話を聞けよー」
俺の話を聞く事無く、馬車にいる娘を呼ぶアーク。もうさん付けなんてしてやるかよ。
「初めまして。マリカ・カリバーです」
馬車から降りて来たのは水色の髪の少女だった。
「娘のマリカ・カリバーだ。どうだろうか? 話だけでも聞いてはくれないだろうか?」
「……どうするロウエン」
「お前の話だ。お前が決めろ……まぁ、俺としては馬に水ぐらい飲ませてやっても良いとは思うがな」
「……どうぞ」
「ありがとう。ロウエン君もありがとうね」
「俺は馬の事を思っただけだ」
「またまた」
「……ふん」
笑顔のアークと、こいつ苦手だわといった表情のロウエン。
うーん、追い返した方が良かったかもと俺は思うのだった。
お読みくださり、ありがとうございます。
ハヤテ、いきなりトップスピードはダメだぞ!!
徐々に慣らしていかないとね!!
危ないし。
にしても見合い…ですか…
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
メチャクチャ励みになっております!!
次回も読んでいただけると嬉しいです!!
次回もお楽しみに!!