57話〜動き出す者達〜
教国の外れにある森の入り口。
普段ならクエストを受けた冒険者達がいるはずのそこでは今、捕らえられた盗賊達が跪かされ、騎士達によって数を数えられていた。
「こいつらが第三王女を……」
「許せんな」
「全くだ」
捕らえられた盗賊達を見ながら憎々しげに話す騎士達。
第三王女は騎士達からは慕われていた事もあり、彼等の憎悪は余す事無く盗賊達に向けられていた。
一部の騎士達に至っては縛られて満足に抵抗をできない盗賊に暴行を働いてすらいる。
「こんな事やめてよ!! 貴方達、騎士なんでしょ!?」
「あぁそうだ。彼等騎士は国民を守る為に戦う。その中に、君達のような者達は含まれないんだよ」
「だ、誰よあんた!!」
「に、ニック様!?」
「ニックって……あの勇者チームの」
「勇者チームじゃねぇ……勇者の子孫のチームだ」
「お前は」
そこに現れたのはガーラッド。
どうやらニックに話があるようだが、その顔はかなり険しい。
「何の用だガーラッド」
「何の用だじゃねぇぞニック。何故首領を殺した!!」
「連れ帰ったとしてもどの道処刑だ。早いか遅いかの違いだろ」
「仮にそうだとしても、誰の指示だ!! バイオレンススレイブのリーダーは俺だぞ!!」
「ルクスィギス王子からの命だ。妹君であるクリスティア様を危険な目に遭わせた彼等を許すなとな」
「これでクリスティア様が何処へ行かれたのか分からなくなっただろうが!!」
「彼女が行ったのは迷いの森。そこに騎士団を派遣すればすぐに見付かるさ」
「そういう問題ではない!!」
「どうしたガーラッド。そんなに暑くなって」
「お前こそ……脳筋のお前らしくないぞ」
「ハッハッハッ。能ある鷹は爪を隠す、と言うだろう? 私は今まで、爪を隠していたのさ」
「……もう良い!!」
話すだけ無駄だと判断し、ガーラッドは不機嫌な表情を隠す事無く歩いて行ってしまう。
「やれやれ。あれではただの子どもだな」
その後ろ姿をニックは肩をすくめながら見ていた。
その頃、教国の王城では第一王子のルクスィギスが自室にて上機嫌に笑っていた。
「カッハッハッハ!! これで良い良い。これで私がクリスティアを消すべく、奴等を動かしたという証拠は消えた」
彼は酒を煽るや満足そうに笑う。
「次は邪魔な父上だが……流石に娘が死んだとなれば心労は相当。父上はクリスティアを特別可愛がっていたからな……ククッ。その娘が死に、悲しむ父上に盛大な葬儀を見せてやれば俺へ恩を感じるに違いない。そうすれば、第二王子……ハルフェスなぞ敵ではない。国民? 臣下どもからどれだけ人気だろうと、父上が指名すれば俺が王だ……ククッ」
と、その時だった。部屋の戸がノックされる。
「誰だ? こんな時間に」
「私でございます」
「これはこれは……マリスフィアじゃないか。何の用だ?」
「至急の用件と言う方が来ておられます」
「ほう? 全く……礼儀の知らない奴がいるもんだな」
「はい……そうですね」
彼を呼びに来たのはマリスフィア・ヴェルデ・ローライズ。
第二王女であり、彼女もまたクリスティア程では無いが可愛がられていた存在だ。
そして、ルクスィギスの妻の一人だ。
「分かった。今から行こう。お前は部屋で待っているように」
「……かしこまりました」
ただし、妻とは言ってもそこに愛は無い。
彼女の役割はローライズの血を濃く残す、いわば母体であると同時に、ルクスィギスの正妻に何かあった時の予備なのだ。
部屋を出て行くルクスィギスに頭を下げるマリスフィア。ただその顔は悔しさで歪んでいる。
彼女がルクスィギスの妻になったのは死にたくなかったから。
もし断っていれば、クリスティアのようになっていただろう。
(……今は耐えなさいマリスフィア。いつか、いつか誰かが、アイツを討ってくれるから)
彼女はそう自分に言い聞かせた。
「至急の用があると言って来たのは貴様か」
「突然の無礼。大変申し訳なく思うと同時に、通していただき誠にありがとうございます」
玉座の間に通された男性は片膝を突き、頭を深々と下げる。
ただフードを被っている為、顔はよく見えない。
そしてその後ろには連れが同じようにフードを被った状態で頭を下げている。
「して、貴殿は誰だ。それと、連れは何者だ?」
「申し訳ありません。ほれ、フードを取れ」
「はい」
男性に促され、男性と共に連れもフードを取る。
「申し遅れました。私の名はラギル。王国を追放されし騎士です。こちらはサラ。挨拶を」
「ご紹介に預かりました。サラと申します」
「ふむ? 貴様、顔はどうした?」
「彼女は幼い頃火事にあい、顔の半分に火傷を負っているのです。周りからの目もありますので、こうして仮面を」
「そうか。ではその腕もそうか?」
「はい。火事から逃げる際に材木に挟まれてしまい、逃げる為に騎士が切り落としました」
「そうか。辛い過去を持っているのだな。そうかそうか」
サラと名乗った少女は顔の半分を覆うように仮面を着けており、左腕には銀色の義手を着けている。
「それでラギル。何の用で参った?」
「噂で聞いたのですが……第三王女のクリスティア様が王国に入られたそうです」
「……何?」
「ただの風の噂ですので、真偽の程は」
「ほう? ……まぁ無事ならそれに越した事はない」
「そうですね。大切な、妹様ですものね」
「……何が言いたい?」
「……さぁ? ただ私達、宿が無いものでして。剣に自信があるのですが、いかがでしょうか?」
「……部屋を用意させよう。それで良いか?」
「ありがとうございます」
ルクスィギスの言葉に穏やかな笑みで返すラギル。
「もう良い、下がれ。私は疲れているのだ」
「ははぁ」
「おい、空いている部屋があるだろう。そこに彼等を通せ」
「よろしいのですか?」
「良い。彼は今から私の友だ。問題は無い。反論も聞かん」
「は、はぁ……」
玉座の間にいた騎士の一人にそう言い付け、その場を去るルクスィギス。
その場に残されたラギルとサラも騎士によって部屋を与えられ、ゆっくりと過ごすのだった。
さて、最後は魔族領にあるモンスターの群生地。
獰猛なモンスターが跋扈しており、至る所にガイコツが転がっており、スケルトンへと変化して起き上がっている。
そんな中で、迫り来るモンスターを片っ端から切り倒している男性が一人。
真っ黒なコートを着た彼は、流れるような動作でモンスターを刀で切り倒して行く。
彼が扱う刀は刃が黒く、モンスターの血が着いてもまるで水が弾かれるように飛んでいく。
そんな彼に近付く人物がいた。
「相変わらず、剣の腕が良いですね」
「……これはこれはアビルギウス様。このような所へいかがなされた?」
やって来たのはアビルギウス。
現魔王の息子で現王子だ。
サラサラの銀髪にハチミツ色の目。
後ろに向かって竜のツノが生えている。
「分かっているはずですよ。エンジ殿」
「と、言いますと?」
「僕は、王位が欲しいです」
「……それはそれは、大きな物を強請りますねぇ……」
まるでオモチャを強請られた親のような口調で、ただし心の底から楽しそうに笑いながらエンジは言った。
「そろそろ世代交代、ですかね」
お読みくださり、ありがとうございます。
ラギルが久々の登場と思いきやあの野郎教国へ行きましたね。
それに連れのサラはいったい……
それとクリスティアを襲った盗賊団は壊滅。リーダーはニックによって……
そして最後にエンジの所に来た王子が欲しがるものが物騒!!
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