53話〜答えを探して〜
ハヤテ達が教国の第三王女を王国に送り届けている頃。
俺はロウエンから紹介された人物の元を訪れていた。
山の中にある小さな村の一角にある小屋以上一軒家未満の木造の家。
「ここに……いるのか」
「行きましょう」
「お、おう」
エラスに促され、戸をノックする。
中からの反応が無いのでもう一度ノックする。
「すみません。誰かいますか?」
呼びかけてみるが反応は無い。
留守だろうか。
もしかしたら中で倒れているかもしれない。
そう思った俺はドアノブに手を伸ばし、戸を開けようとしたその時だった。
ガチャッと音を立てて戸が開く。
「あ、いたのか……えっと俺は」
中から現れたのは白い服を着た女性。
一見すると青年に見えるが、女性だ。
短い黒髪にキッと吊り上がり気味の目はメイクのせいか、ちと怖い。
「あ、俺は」
ひとまず挨拶だと思い、口を開く俺だったが
「カラト危ない!!」
「え?」
「鼻の下が……」
スッと彼女はほとんど音を立てずに動いていた。
「伸びているぞ!!」
握られた拳が俺の胸に打ち込まれる。
ただエラスのおかげで後ろに下がっていたため、ある程度ダメージを抑える事はできたと思う。
「っ、いきなり何すんだ!!」
「……シッ!!」
「っこのぉ!!」
俺の言葉に答える事なく、彼女は打ち込んでくる。
「おい!! 話を聞けよ!!」
何とか静止させようとするも向こうは聞く耳持たんと言わんばかりに仕掛けてくる。
「っあ!!」
身体を反らしてアッパーを躱すも、そのまま逆側の掌が打ち込まれる。
「……身のこなし方。体重のかけ方。重心移動……全てがなっていないな。貴様、ただのチンピラか?」
「っ、こほっ……て、てめぇ」
倒れはしなかったがメチャクチャ痛え。
「貴様の様な者、合わせる訳にはいかん」
「お前なぁ……」
「ふん……来い」
かかって来いと言うようにチョイチョイっと指先だけ動かして挑発してくる相手。
完全に俺の事を下に見ている。
少し前なら誰でも俺を見れば勇者様と言って頭を下げたのに。
(いや……今はそれを捨てろ。勇者である前に、俺を育てなきゃいけねぇんだ……)
深呼吸。
一度だけして落ち着き、腰に下げていた剣を鞘ごと外して地面に置く。
「……ほう?」
「同じ立場にならなきゃ……相手は見えない」
見様見真似で相手と同じように拳を構える。
「面白い……良いんだぞ? 剣に頼っても」
「いや、俺は剣が苦手なんでな……得意分野で行く。まだまだだけどな」
「ほう……良いぞ、来い」
「言われなくても、行くさ!!」
今度は俺から仕掛ける。
見様見真似で、先程相手がやった様に腕を動かす。
威力なんてほとんど無い。
相手も防いで来るが、その度に鳴るのはペシペシという情けない音。
当然だ。
体重も乗っていないただの拳骨。
あくまで見様見真似なのだ。
「動きだけは良いが……重みが一切無いな」
「見様見真似なんでね……それにこれは本命じゃ無い!!」
喧嘩の時にする様な右ストレート。
だが相手はそれをヒョイっと躱して背後を取る。
が……
「それで良い!!」
振り返ると同時に俺は、生成した高貴なる剣を相手目掛けて投げる。
ブンブンと音を立てながら、まるでブーメランの様に回転しながら飛ぶ光剣。
当たれば刺さるし切れる光の刃。
当たればどうなるのか分かるエラスは両手で目を覆っている。
だが相手はその光剣を、目で追えない程の速さで繰り出した蹴りで砕いた。
「……成程。本命はその剣だったか。魔法か……ふむ」
「ダメか……」
「いや、なかなか良かったとは思うぞ……だが」
パッと砂を蹴って相手が迫る。
「私には届かんよ」
眼前に迫る拳。
あっ、これ終わってわと思った時だった。
「クッキーが焼けたわよ」
のんびりとした声が開けっ放しのドアから聞こえた。
直後、ビタッと綺麗に相手の動きが止まる。
鼻先スレスレで止まった拳。
勢いだけは進み、俺の髪を揺らした。
「ごめんなさいね。クッキー焼いていて手が離せなかったから、相手をしてあげてって言ったのにこの子ったら……さぁさ、いらっしゃいな」
戸から現れたのは恰幅の良いおばちゃんだ。
髪はチリチリクルクルで目は穏やか。
エプロン姿で、近所にいたら人気だろうなと言った感じのおばちゃんだ。
「ほらほら、レミーナ。手を洗って来なさいな」
「……はい」
さっきまで俺とやり合っていた相手。
レミーナはおばちゃんに言われるや俺に一礼して家の中に入って行く。
「貴方がロウエンがよこした蕾ね。いらっしゃい」
「え、俺の事知っているんですか?」
「……見えたから」
ニッコリ笑って俺達を家の中に通すおばちゃん。
うん。
何となくロウエンが苦手だと言う理由が分かった気がする。
「お、お邪魔します」
「お邪魔します」
「好きな所にかけて……って、もうお茶は用意してあるんだけどね」
「あ、どう……も」
「どうも」
客間に通されソファーに座り、目の前のお茶を一口飲む。
「貴方達。今こう思ったでしょう? お茶が用意してあるのなら、好きも何も無いって」
「……は、はい」
「でも、貴方達がこの家に来るのは二度目なの。一度目の時、貴方達はそこに座っていた。だから私は、そこにお茶を用意しておいたの」
「い、いえ。私達は初めてここに」
「ええそうよ。一度目と言うのは私の夢の中。二度目は現実で」
「……え、えっと」
話が見え
「話が見えないのね。分かるわ。初めは皆そう。あのロウエンもね。遅くなったわね。私の名前はエクメノ。皇国の前の元老院の長よ」
ニッコリと、微笑むエクメノ。
なんていうか……俺達はとんでもない人の所に来たのかもしれない。
「さて、クッキーはどうだったかしら?」
「ソ、ソレハモウ」
「タイヘンオイシカッタデス」
「塩と砂糖を間違えましたね」
「あら、やっぱりね。間違えた夢を見たから間違えない様に気を付けたのだけれど、ダメね」
「……あ、あの」
「夢について聞きたいのね?」
「は、はい」
「フフッ。ごめんなさいね。不気味でしょ?」
「……少し」
「正直でよろしい。私はね、夢で未来を見れるの」
「それって、未来視ですか?」
「ううん。私のは少し違うわ。私ができるのは相手の背中を押してあげる事だけ」
「背中を?」
「未来を提示して、どうするか。選ばせる。それが私の役目よ」
「……選ばせる」
「貴方は、何を知りたい?」
手を差し伸べて尋ねるエクメノ。
「俺は……俺が勇者なのかを、知りたい」
自分が勇者の器なのか。
自分は勇者に相応しいのか。
自分は勇者になって良いのか。
それが知りたい。
だから俺は彼女に問う。
「俺は、勇者なのか?」
それに対する答え。それは……
「貴方は勇者では無いわ。けれど、その答えは既に貴方自身の中にあるわよ」
否定の言葉と謎の言葉。
「俺の中にあるって……どう言う事ですか?」
「迷路と一緒よ。迷いはしても、出口はあるわ。でも今の貴方にはその出口への道が分からない」
「い、いやだから……」
「私が出来るのは提示して背中を押すだけ。貴方は、何を選ぶのかしらね。部屋は廊下の奥にあるから好きに使って良いわよ」
「あ、えっ……」
「時間はあるわ。でも、そんなに残ってはいないわ。ゆっくり、けれど無駄の無いように答えを見付けなさい。後悔しない為に」
最後はエクメノは優しく微笑んだ。
お読み下さり、ありがとうございます。
最近投稿時間が安定しなくて本当に申し訳ないです。
それでも読んだくださる皆さんに本当に感謝です。
今回はカラトがロウエンの紹介でエクメノの元に行きましたが、彼は何を学べるのか……
何を学ばそうかな…
ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!
メチャクチャ励みになっております!!
次回もお楽しみに!!