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51話〜双狼疾走〜

 教国からの依頼を受けて、迷いの森へと向かう俺達。

 既に二度程休憩を取ってが、もう道のりは残り半分を切っていた。


「はぁ……ウルさんとルフさんって足が速いんですね」


 と教国の女騎士のカルアは驚いていたが当然だ。

 レイブウルフは食った相手の特長を吸収し、自らに反映させる。

 その他にも住む環境に順応する能力も非常に高い。


 そしてウルとルフは俺達の仲間になってから野原をよく走っている。

 その結果脚力が鍛えられている。

 ただやはり個体差は生まれる。

 ウルは速度ではルフに劣るがスタミナで勝り、ルフは速度ではウルに勝るがスタミナで劣る。

 それでもその辺のモンスターや使役獣と比べると上位ランクに入る力を彼等は持っている。

 タイラントベアー程では無いが強力な顎を持ち、馬並みの速さで走る。


 おまけに知能も高く、その人の似顔絵を見せて助け出せといったようなある程度難しい指示も理解して実行できる。

 連携を取れるだけで敵からすればかなりの脅威となり、自分達からすれば非常に心強い味方となる。


「あ、あの……休憩はどうしますか?」

「ウルとルフはまだ平気そうだし、そちらの馬の様子次第だ」

「そ、そうですか。でしたら少し飛ばしますが良いですか?」

「だそうだ。行けるな? ウル」

「ガウ!!」

「ルフも頼むぜ?」

「ガル!!」


 二頭の地を蹴る力が強くなり、グンッと加速する。

 この速さなら明日には森に着けるだろう。

 森に着いてからも当然、ウル達には働いてもらう。

 その為の余力を残した上で、到着は明日。

 今のウル達はもうあの頃の可愛い子狼では無い。

 あの時の母狼と同じ、気高いレイブウルフなのだ。




 翌日の昼少し前頃、俺達は迷いの森へと到着していた。


「っと。前に一度来たが……やはり鬱蒼としているな」

「一度来ているのか。なら案内は」

「いや、流石に無理だな。迷いの森ってのは鬱蒼としている事。晴れの日でも曇りと間違える程暗い」

「それは出発前に聞いたけどよ」

「それにこう言っては何だが、そう簡単に案内できるような森なら、迷いの森なんて名前は付けられていねぇよ」

「それもそうか……じゃあどうするんだ?」

「おい、何の為にウル達を連れて来たと思っている?」

「……あ、鼻か」

「そうだ。俺達にはそれが出来ないが、ウル達なら道中に残る俺達の匂いを辿って森を出る事ができる。現に冒険者達はこういった深い森に入る際、鼻の良いモンスターを連れて行くと聞くぞ」

「そうなのか。じゃあ」

「その前にカルア。第三王女の私物は何か持っているか? ウルかルフに匂いを辿らせたい」

「私物、ですか……ハンカチでも良いですか?」

「十分だ。行けるな? ルフ」

「ワウ!!」


 カルアからハンカチを受け取り、ルフに嗅がせる。


「あ、でもどこで行方不明になったんだ? ここじゃ無いのなら辿れないんじゃ……」

「そこは大丈夫だ。空気中を漂う匂いでも嗅ぎ取れると言われているからな」

「マジか……凄えな」

「よし、行けそうだな」


 匂いを覚えたルフはまずは地面付近の匂いを嗅ぎ、匂いが見付けられなかったのだろう、鼻先を上に向けて匂いを探しながら歩き出す。

 ゆっくりと。

 あっちに行ったりこっちに行ったりしながら匂いを探す。

 そんな俺達に向けられる数多の視線。


「……ロウエン」

「分かってるよ。ま、入ったら避けられんと思っていたしな」

「へ、え、え?」

「カルアさんは馬を守ってくれれば良い。他は俺達で相手しますから」

「こっちの都合で住処に踏み込んだのは申し訳ないと思うが、襲って来るのなら仕方ないな」


 俺は槍を、ロウエンは刀を構えて出撃に備える。

 背後ではカルアも両腰の剣を抜いて構える。


 ただ、あまり襲っては来ない。

 襲おうにもレイブウルフ二頭には敵わないと判断しているのだろう。

 大半は遠巻きに威嚇しながら俺達を見送るだけで済ませている。

 ただこれがウルかルフの片方だけなら変わっていたかもしれない。

 それだけレイブウルフは野生の世界でも警戒されている存在なのだ。

 それを二頭も連れている俺達は非常に運が良い。

 しかも子どもの個体から育てている事もあり、非常に懐いている。

 ここまで人に懐いてるレイブウルフは珍しいんじゃないだろうか。


「キュルアァァァッ!!」

「っ、来る奴もいるよな!!」


 だが、遠巻きに俺達を見るモンスターの中には俺達に襲いかかって来るやつも当然いる。

 飛びかかって来たのはシナリイタチ。

 柔らかくしなやかな身体を持つ中型モンスターだ。

 がその程度なら敵ではない。

 ロウエンは刀で切り捨てるとすぐに次に備える。

 そう、恐ろしいのはこの後だ。


「ギュアァァァァッ!!」

「ガガガルァァァァッ!!」

「ギャオォォォォンッ!!」

「ブオォォォォン!!」

「ブヒヒヒィィィィィンッ!!」


 周囲のモンスターが一斉に吠えだす。

 敵が味方か分からない。

 とにかく強力なモンスターを引き連れた一行が別のモンスターを倒した。

 その刺激が緊張状態の中、踏みとどまっていた彼等の中の攻撃のスイッチを入れてしまったのだ。


「ちっ、来るぞハヤテ!!」

「分かっている。カルアはこっちは気にせず、馬を守ってくれ!! 俺達も極力離れないようにするから!!」

「は、はい!!」

「ウル!! カルアを助けてやれ!!」


 交戦開始。その直前だった。


「ガウガガアァァァァァァァァァッ!!」


 ウルが吠えたのだ。

 その途端、俺達には向かって突っ込んで来ていたモンスター達の足が一斉に止まる。


「な、何が起きた? ハヤテ、何を指示した?」

「いや、俺は特にはって……成程」


 俺は急停止したモンスター達の様子を見て何が起きたのかを理解した。

 モンスター達は皆、耳を倒し、尾を後ろ足の間に挟むように垂らしていた。

 怯えているのだ。

 それで俺はウルが何をしたのか分かった。


「プレッシャーバークを使ったんだな。でかしたぞウル!!」

「ガウッ!!」

「今の内に進むぞ!!」

「おう!!」

「は、はい!!」


 怯え、足を止めたモンスター達が動きだす前にその場を駆け抜ける。

 幸いな事にモンスター達が俺達を追って来る事は無かった。




「にしてもかっこ良かったですよ。ウルさん」

「……」

「えっと……」

「……」

「ウルさん……喜んでません?」

「いや、現状が現状なだけに喜びにくいだけだな……尻尾振ってるし、喜んでますよ」

「ほ、本当ですか!? 良かったです〜!!」


 休憩中にウルに礼を言っているカルア。

 少し離れた所ではルフが匂いを探している。


「にしてもなかなか見付からないな」

「この森も広いからな。そう簡単には行かんだろう」

「……そうだよなぁ。持って来た食料的にも長期はできねぇし」

「そうだな。長期になりそうだったら一度、道中にあった町まで戻らねぇとな」

「そ、それは困ります!! 王女を見付けていただかないと困ります!!」

「……引っかかるのはそこなんだよ」

「引っかかるって……」

「何で依頼を出すまで五日もかかったんだ?」

「……それは」

「自国の騎士達だけで何とかしようと考えたか?」

「……」

「それとも、他に理由があるのか?」

「……私の口からは」

「言えないか? ならその第三王女は見付け次第、教国に送り届けるとしよう」

「それは困ります!!」

「おいロウエン。お前、何が言いたいんだ」

「……あまりこう言う事は言いたかないが、王位継承争いに巻き込まれたんじゃないかと思ってな」

「……っ」

「どうしてそう思うんだ?」

「簡単な事よ。王族を一人で、こんな森に行かせるか? 普通行かせねぇだろ。護衛なり付けるのが普通だ」

「た、確かに……」

「仮に護衛がいたとすれば、何かしら森に異変があるはずだ。例えば、モンスターとの戦闘跡とかな」

「それは、まだ見ていないだけじゃ?」

「可能性はある。だが、モンスター達も常に同じ場所に居座り続ける訳じゃない。奴等にはそれぞれ縄張りがあるからな。そこの見回りで移動する。なら戦闘をし、人に傷付けられたモンスターが人を恐れて近付かないか、逆に見付けるなり襲いかかって来るはずだ」

「ふむ……」

「だがそのどちらも無い。ハヤテは気付いたか? さっきのモンスターに囲まれてからここに来るまでの間、ウルは時々木々の方をじっと見ていたんだ」

「……あったような」

「近くにモンスターがいたからだ」

「マジかよ……あ」

「そう言う事だ。そのモンスターは襲っては来なかった。俺達を警戒し、ウル達を警戒して距離を取っていたんだ」

「でもそれは王女様の護衛と戦っていないだけかもしれないだろ」

「あぁ。だから俺がここまで長々と話した事はただの仮説だ」

「……」

「だけどな考えちまうんだよ。王女が行方不明になってから依頼が出されるまで五日もかかった事。そして、王女が森に来たと言う話。そして王女は第三王女……王位継承権はある。傭兵をやっていた身としてはそういった話を何度も聞いたし、持って来られもした。何かあったと考えて良いだろう」

「確かに……」

「そんでそこに来て、カルア。お前の態度だ。俺が第三王女を教国に送り届けると言った時のあの反応。やはり王女が行方不明になった理由は」


 その時だった。


「ガウワウ!!」


 ルフが急に走り出したのだ。


「ルフ?」

「まさか、匂いを捉えたか?」

「だとしたらこうしちゃいられねぇ!!」


 俺達も即座に走り出し、ルフを追う。

 木の根を飛び越え、岩を飛び越え。匂いを辿って走るルフを追う。

 匂いの元に向かって真っ直ぐ走るルフ。


「ワウ!! ガウワワウ!!」

「いた!!」


 吠えるルフの視線の先。

 そこに俺達が探している彼女はいた。

 土で汚れたドレスを着た女性。

 腰を抜かしたのか彼女は地面にヘタレ込んでいる。

 見た所、大きな怪我は負っていないようだ。

 ただし……


「え、あっ……何だよこいつ」


 目の前に、めちゃくちゃ巨大なワームが蛇が鎌首をもたげるように頭を持ち上げていた。

お読み下さりありがとうございます〜


ウルとルフ、めちゃくちゃ頑張って走りましたー!!

それと、ウルが今回使ったプレッシャーバーク。彼等の母親も使っていましたが、こちらの方が威力と効果は上となっております。


ブクマと星ポイント、本当にありがとうございます!!

めちゃくちゃ嬉しいです!!

次回もお楽しみに!!

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