46話〜答えと祝福〜
「ただいま〜」
「おかえり〜」
「お、帰ったか」
「おかえりなさい」
家に帰った俺を皆が出迎えてくれる。
久し振りに帰って来た我が家。
やはりここが一番落ち着く。
「で、どうだった?」
「どうだったって何がだよ」
「レイェスとお楽しみだったんだホゲェ!?」
「ロウエン。あまりそういう事を聞くのはその……ねぇ?」
「あ、ハイ。エンシさん、サーセン」
「分かればよろしい」
「で、相手の目的は達成できたのか?」
「おう。まぁ、上手くいったと思うぞ」
「そうか、なら良かったな」
「あぁ……あ〜、そういやユミナは?」
「ユミナ? ……アイツなら買い物に行っているはずだが」
「そうか……」
「何か用でもあるのか?」
「ま、まぁな……」
行く前に交わした約束を果たそうと思ったのだが。
(焦るな焦るな……今いないという事は、何を言うか纏める時間ができたという事だ。落ち着け、落ち着け……)
「ただいまー。あ、ハヤ兄おかえり〜」
はい、お話に行って来ます。
「で、話って何?」
「いや……その、ほら言ってたろ? 帰ったら返事をするって」
「……うん」
ユミナを連れて来たのは村で一番、夕陽が綺麗に見える丘の上。
そこでユミナと向き合っていた。
「向こうに行きながら俺なりに考えたんだ」
「……うん……私もずっと考えてたよ。ハヤ兄の事……ううん、ハヤテの事」
「……俺は、お前の事……多分、好きだよ」
「……」
俺がそう言うとユミナは、まるで花が咲く様に明るい表情をした。
でも、だからこそ伝えなきゃいけない。
「けど、まだ……」
俺の心に巣食う疑念の事を伝えなくてはいけない。
けど、その前にユミナが口を開く。
「分かっているよ。ハヤテの事。まだ、心の傷が癒えていない事。分かっているよ」
「……うん。だから、俺は多分ユミナでも疑うかもしれない……いや、疑うよ。お前が俺と離れている時とか。辛くなったら帰って来てから聞くかもしれないよ」
「良いよ」
「良いよって……」
「それも含めて私はハヤテが好きだよ」
「……」
「傷付いているから嫌だ。弱っているから捨てる。そんなの好きって事にはならないよ。相手の事、本当に好きだったら傷付いている時や弱っている時にこそ一緒にいなきゃだもん」
「……ユミナ」
「だから私は、ハヤテの傷も、弱い所も好きだよ」
ニコッと笑ってそう言うユミナ。
「だからね、ハヤテは無理に傷を治そうとしないで良いよ。辛い時、誰かに側にいて欲しい時、弱音を言いたい時、私が側にいるから」
彼女はそのままそっと俺を抱き締める。
「だから、少しずつ傷と向き合えば良いよ。私は待つから……ね?」
「……っ、ありが、とう……」
俺もユミナを抱き締める。
「あ、えっと……ハヤ、テ?」
「ありがとう……俺、もう……裏切られたりするの本当に怖くて、でも……お前の言葉は嬉しくって」
「うん、うん……」
「でも、ちゃんと話さないでいるのはお前に失礼だと思って」
「うん」
「だから……でも言うの怖くて」
「そっか……」
「でも、ありがとう」
「ふふ。これだとハヤテの方が歳下みたい……でもいっか。側にいるって決めたんだから。気が済むまで、泣いて良いんだよ」
その言葉を聞いて俺は泣いた。
今まで溜まっていた感情を爆発させて、泣いた。
そんな俺の背中を彼女は優しくさすってくれた。
「た、ただいま」
「ただいま〜」
気が済むまで泣き、落ち着いてから二人で家に帰ったのだが……
「な、なんだよ……」
「いや〜? 別に?」
「……あ、アニキ」
「さぁて、俺は風呂に入るとしようか……」
男性陣はニヤニヤし、女性陣はユミナを連れて行くや囲って何か話してはハイタッチしている。
「……何があったんだよ」
「ハヤテ」
「何だよロウエン」
「今夜から、俺は別の部屋で寝るからな」
「は?」
「ほら、部屋も整理できたしよ。俺はカラトと部屋を使うから」
「ど、どうした?」
「安心しろ。エラスはミナモとエンシと同じ部屋になったから」
「お、おい?」
「今夜からユミナと寝れるぞ」
「お、おいおい」
「若いからとはいえ、余り騒ぎ過ぎないようにな」
「よーしロウエン表出ろ!! どっちが上かハッキリさせてやるぜ!!」
「よーし上等だ。返り討ちにしてやるぜ」
メチャクチャ乗り気で先に外に出るロウエン。
俺は冷静に立ち止まり、戸を閉めて鍵を閉める。
「あっ!?」
「そこで反省しろ」
「ぐぬぬ……」
ロウエンを外に締め出し、俺は自分の部屋に向かう。
なおこの後、ロウエンは家の壁を登って自分の部屋に向かったそうです。
「はぁ、疲れた……」
「お……」
「お?」
「お疲れ様」
「おう、ありがとうなユミナ……って」
「ん?」
「何でいるの?」
「え、えっとね……エンシさん達から今日から同じ部屋だって言われて、その……」
「エンシさん達から?」
「う、うん……その、嫌……かな。嫌だったら元の部屋に戻るけど」
「い、嫌じゃないけど」
「よーし、じゃあイチャイチャしよう!!」
「ちょっと待てお前そんなキャラだったっか!?」
「良いでしょ!! 今まで……したくてもできなかったんだから」
「そ、そうか……」
「という訳で、イチャイチャするぞー!!」
その夜、俺はユミナの夢だったという腕枕をしてやるのだった。
「おはよー……」
「おう、おはようさん。昨晩はどうだった?」
「……お前どうやって戻ったんだよ」
「壁を登ってカラトに窓を開けてもらった」
「マジか……」
「んで、どうだったんだよ」
「腕枕して痺れた」
「……は?」
「だから、腕枕」
「腕枕ってあの腕枕か?」
「それ以外に何があるんだよ」
「ち、ちょっと待ってろ」
そう言うとロウエンはアニキやエンシさん、ミナモと何か話し始める。
ただ俺に聞かれたくない内容なのか、声が小さめになっている。
なんとか聞き取れたのは奥手と仕方ないだった。
話している雰囲気から馬鹿にしている感じはしなかったが……
「何話してんだよ」
「ハヤテ、お前には関係無いぞ」
「おいアニキ、何様のつもりだ」
「サーセン」
「んで、何の話をしてたんだ?」
「それは……すまん。話せない」
「……はぁ。なら良いや」
多分ロウエンとかから口止めされているんだろう。
俺がこれ以上聞いた所でアニキは話さない。
兄弟だからなんとなく分かる。
「ふぁ〜、おはよ〜」
「あらユミナさん。おはようございます」
「エンシさんおはよー」
欠伸をしながらユミナが起きて来たのだ。
「あ、ハヤテおはよ〜」
ぽわぽわとした笑顔で俺を見ながら手を振るユミナ。
昨日から付き合い始めて言うのもなんだが、メチャクチャ可愛い。
この、付き合い始めた頃のこの感じが凄く懐かしいと思い出す。
(セーラとも初めはこうだったんだけどな……)
いかんいかんと思い出した事を忘れる。
今の俺の彼女はユミナなんだ。
前の彼女の事を思い出すなんて失礼だ。そう思い、俺は頭を振る。
「は、ハヤテどうしたの!?」
「おおかた、ユミナが可愛すぎるから荒ぶってんだろ」
「そ、そうなの!?」
「おいロウエン何言ってんだよ!?」
「可愛いんだろ?」
「可愛いよ!!」
「ほらな?」
「え、えへへ……」
照れながら嬉しそうに笑うユミナがメチャクチャ可愛い。
と思っていると
「あ、忘れる前に言う事があったわ。ハヤテ、王都行くぞ」
「急だな……どうしたんだよ」
「お前が祝福を受けた可能性があるからな。それを見てもらいに行く」
「祝福って……」
「心当たりはあるだろ?」
「……」
セーラと戦った時、盗賊団の団長と戦っていた時。
左肩が熱を持ったのを思い出す。
「ほらな? っつー訳で今から行くぞ」
「マジかよ」
「あ、あの!!」
「ん? どうしたユミナ。もしかしてハヤテとデートする約束でもあったか?」
「んーん。無いよ」
「そうか。で、なんだ?」
「私も行っていい? 王都で買いたい物があって……」
「それは構わんが……ならエンシ、一緒に来てもらえるか?」
「え、私ですか。構いませんが」
「よし、あーそれとカラト。お前も来い」
「え、俺も!?」
「文句言うな。来い」
「う、うっす」
こうして俺達は急遽王都に行く事になったのだった……
「久し振りに来たなぁ」
「じゃあ私はエンシさんと買い物に行くから」
「おう、気を付けてな」
「ありがと。ハヤテもね」
「お、おう……ユミナの事、よろしくお願いします」
「任せろ。これでも私は騎士だぞ」
「そうでしたね」
「さて、俺達は俺達で行くぞ」
「おう」
「あーい」
エンシさんにユミナの事を任せ、俺はロウエンに連れられて歩き出す。
「……さっきはからかって悪かったな」
「……別に良いよ。アイツの事を悪く言わなきゃ」
「……その逆なら、ユミナが怒るさ」
「……そうかな」
「そうもんだよ」
「……そっか」
「……そういやカラト、お前等ってどこまで行ったんだ?」
「え? ……どこまでって?」
「エラスとだよ。恋人なんだろ?」
「んな訳……俺に、誰かの恋人になる資格なんかねぇよ」
「……自分への罰のつもりか?」
「……」
「カッコ付けて勝手に苦しむのは結構だが……それに他人の好意を巻き込むのだけはやめておけ」
「……どういう意味だよ」
「……無いと思って接すれば、一生気付く事はできないぞ」
「だからどういう」
「着いたぞ」
話を切り上げ立ち止まるロウエン。
着いたのは教会だった。
「ここでハヤテの祝福を見てもらう。まぁ、目覚めていない可能性も十分にあるけどな」
そう言って教会へと入っていくロウエン。
「こんにちは。えっと」
「神父さんはいるか?」
「あ、はい。神父様でしたらお祈りの最中かと」
「どうも。行くぞ」
「あ、あの今日はどういったご用件で」
「んー? 知り合いが祝福を受けたみたいでな。それがどんか祝福なのかを診てもらいに来たって訳」
「あ、そうでしたか……って祝福ですか!? い、今呼んできます!!」
「あ……って行っちまったか待つとするか」
「勝手に話進めすぎな気がするんだが」
「まぁ気にすんなって」
神父さんを呼びに行ったシスターさんを待ちながら日向ぼっこをする。
多分今頃ウル達はエラス達に散歩に連れて行ってもらっている頃だろうなと思いつつ、神父さんを待つ。
「お待たせして申し訳ありません。お祈りの最中でしたので」
「いえ、こちらこそ急な来訪に対応していただき、感謝です」
「ありがとうございます」
「どうも」
ロウエンの言葉に続く様に頭を下げる。
出て来たのは柔らかい笑顔のおじさん神父さんだった。
「えっと、皆さんがですか?」
「いや、見て欲しいのはコイツだ」
「おやっと……ハヤテです。よろしくお願いします」
「ハヤテさんですね。ではこちらへ。皆さんも中へどうぞ」
教会はカザミ村を出てから来た事が無かったせいか、妙に懐かしく感じた。
小さい頃はエラスの家の教会でかくれんぼして怒られた事も今では懐かしい。
「ではハヤテさん、こちらへ」
「はい」
礼拝堂に着くとら俺は神父さんに呼ばれ、彼の前に出る。
「では診させていただきますね……っと、少ししゃがんでもらえますか?」
「え? ……あぁ、すみません」
「いえいえ、ありがとうございます。いや〜、背が高いのですね」
「そ、そうですか? ……」
神父さんはニコニコと笑いながらしゃがんだ俺の頭に手をかざす。
「では、診てみましょうね……」
ポワァ ……と温かい光が神父さんの手から生まれる。
「うーん……むむむむぅ……」
温かい光が少しずつ強くなっていく。少し……
「熱い……」
「熱いですか? 申し訳ありません。もう少しですので」
「……熱い? 俺の時は熱くはなかったんだけど」
「……ふむ。興味深いな」
俺の様子を見ながらアニキとロウエンが何か話している。
その後すぐ、神父さんの手が俺から離される。
「分かったのか?」
「はい。ハヤテさんには祝福が与えられておりました」
「ほう? それは一体?」
「はい、ハヤテさんに与えられた祝福。それは……」
会った時の笑みとは違う、真面目な顔で神父さんは言った。
「勇者・陰です」
今回もお読みくださり、ありがとうございます〜
ユミナ、良かったね……
留守番中しながらウル、ルフの面倒を見ているエラスとミナモ。
果たして無事かなぁ……
そしてハヤテが受けた祝福。
それは一体どんなものなのか……
ブクマ、高評価ありがとうございます!!
励みになっておりますー!!
誤字脱字や文章でおかしい所、教えてくださり本当にありがとうございます!!
あれって何で書いている時には気付かないんですかね〜
不思議!!
次回もお楽しみに!!