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44話〜緊張しかない!!〜


 ガタガタと馬車に軽く揺られながら俺は両手を膝の上に乗せていた。

 俺の両脇にはウルとルフがおとなしく座っている。

 そして目の前には


「今回は本当にありがとうな」


 皇国最強戦力であるレイェスさんが座っている。

 結論から言うと、俺は彼女に協力する事にした。

 ユミナを始め、群狼のメンバーに話もした。

 その時一番驚いたのが、ユミナが賛成してくれた事だ。


 ただそしてその時に、戻って来たら答えを言うと約束も交わした。

 それが、賛成する条件とも言っていた。

 俺ももちろん、帰ったら返事は必ずすると約束した。

 その時にエンシさんからは、護衛としてウルとルフを連れて行く事を提案された。

 レイブウルフは強力な魔獣だ。連れていれば力の誇示になると思ったそうだ。

 そのとう二匹はというと……


「ワフワフ」

「ワウ〜」


 外の景色を見ては楽しいのか、尻尾をブンブン振っている。

 さっきまでおとなしく座っていたのに。


「元気だね」


 それを見て微笑むレイェスさん。


「君には本当に申し訳ないと思っているよ」

「あぁ、いえ。気にしないで下さい。皆にもちゃんと言ってありますし」

「それとあるが、君にはその……」

「……あぁ、セーラの事ですか」

「すまない。調べさせてもらったよ。一応、恋人になってもらうからね」

「いえ。良いんです。俺もそろそろ進まなきゃって思っていましたので……」

「恋は、怖いか?」

「……まだ少し怖いです。でも、帰ったら返事をすると約束をしました」

「ハハッ。フリとはいえ今から恋人になる相手にそう言うか……」

「あ、……すみません」

「良いさ構わん……いや、少し」

「はい?」

「……何でもない。さぁ、着くぞ」

「うわ……すげぇ……」


 屋敷の門が開き、馬車は敷地内を進んで行く。

 ヒモリの家も屋敷だったけど、その比にならない程こっちの方が広い。

 庭の植木はうまく剪定されており、銅像の様にポーズを取っているように見える。


「長い間お疲れ様。ここが私の両親が住む屋敷だ」

「……で、デケェ」

「さ、こちらに」

「あ、はい。ほらウル、ルフ。行くぞ」

「ワフ」

「ワウ」


 レイェスさんに先導され、屋敷の中を進む。

 壁には高そうな絵画がかけられており、ウル達が興味を示している。

 汚さないか凄い不安だ。

 屋敷の中にはメイドさんや部下の騎士、それとレイェスさんの両親が雇っているのかレイェスさんの部下の鎧と違うデザインの鎧を着た騎士がいる。


 皆俺を興味深そうにジロジロ見てくる。

 まぁそうだろうな。

 だって俺、レイブウルフ使役してますんで。

 ドヤァ。


 個体によっては狩猟するのに騎士団総動員しなきゃいけないレベルのバケモノになってしまうレイブウルフの子を二匹も使役してんだぞ。

 どーだ羨ましいだろーと心の中で自慢しとく。


「ここだ。んんっ……父上。レイェスです。よろしいですか?」

「……入れ」

「ん? ……失礼します」


 戸をノックし、中からの返事を受けて中に入るレイェスさんと俺達。

 父上と呼ばれた男性は仕事の途中だったのか、書類を机の端に寄せるとかけていた眼鏡を取ってこちらを見る。


「やぁ。よく来てくれたね。私が君の義父になる予定のロンド・フロスフィアだ」

「あ、ハヤテです」


 俺の挨拶に笑顔で返してくるロンドさん。

 空を思わせる水色の髪。笑った目元には皺が少し見える。


「さて、レイェス。ちゃんと紹介してもらおうか」

「私がお付き合いさせてもらっているハヤテだ」

「ほう。いわゆる、恋人かな?」

「そうです」

「どこまで行ったんだい?」

「え?」

「恋人ならするだろう?」

「い、一体何の事でしょうか」

「恋人ならキスぐらいするだろう? どこまでしたんだい?」

「え、えーっと……」

「……すまない。少しからかい過ぎたな」

「父上」

「だが、そういう事は私にも一言言って欲しかったね」

「え?」

「……ロウエン殿から手紙が来ている。リーダーがそちらで世話になる、とな」

「ロウエンが?」

「……あの狼め」

「馬鹿娘が。そこまでする程嫌いならばそう言えば良いだろうに」

「で、ですが……」

「相手がいくら教国の勇者の子孫とはいえ、娘が嫌がる相手のもとに嫁がせる阿呆が何処にいる!!」

「父上です」

「そ、それは……うん、反省しているよ。イリダにコンコンと言われたし」

「す、すみません……」


 速報。

 ロウエンによってすべて通達済みでした。


「全く……ハヤテ君。本当に済まないね。家の馬鹿娘が……」

「あ、いえ。お気になさらず。協力するのに変わりはありませんので」

「……済まない」

「いえいえ……あの、さっきのは本当なのですか?」

「さっきの、とは?」

「教国にいる勇者の子孫が見合い相手、というお話です」

「……」


 無言の肯定をするロンドさん。


「名前はガーラッド・バーデルヘル。かつて世界を救った勇者の子孫にしてバイオレンススレイブのリーダーで、教国内でもそれなりに力を持っている冒険者がどういう訳かレイェスに見合いを申し込んで来てな。相手が相手なだけに断り辛くて……」

「話が来た時はだいぶノリノリだったじゃないですか……」

「それは済まん……でもイリダに言われて目が覚めたんだ!!」

「いやそれは遅いですよ父上」

「本当に済まん……」

「なら、私がどれだけ今回の話を断りたいか、分かりましたね?」

「あ、あぁ……その事なんだが」

「……まさか、前向きに考えると言ったんじゃないでしょうね?」

「……それより悪いかもしれん」

「……父上、全て話して下さい」

「……はい」


 怒りからか冷気を纏うレイェスさん。

 そんな彼女に圧倒されたロンドさんが話したのは


「三日後に我が家でやるパーティーに奴等が来る!?」

「……う、うむ。見合い相手の様子を見に行くと言われてな」

「断れば良いではないですか!!」

「教王からの手紙もあってな……流石の私でもそこまで言われたら」

「……確かに教王から言われては断れませんね」

「あぁ、そこでだハヤテ君」

「はい?」

「そこのパーティーでレイェスの恋人として振る舞って欲しい!!」

「……マジです?」

「大マジです」

「……帰りたい」

「安心しろ。お前は私が守ってやる」

「安心しておくれ。パーティーが終わってから君とは別れた事にするから。当然、君には迷惑がかからないようにさせてもらうから」

「……マジで帰りたい」


 思ったよりも面倒な事に巻き込まれた俺なのであった……




「あの……大きくないですか?」

「そうかい? まぁ、少し大きいかもしれないが問題無いだろう」

「うむ。似合っているぞ」

「そ、それはどうも……」


 三日後のパーティー当日。

 俺はロンドさんが着ていたという服を貸してもらった。

 服といってもコートに近く、裾が長い黒服だ。

 パーティー用の服とか持っていなかったし、正直助かる。


「にしても……ウル達にもありがとうございます」

「いえいえ〜。可愛いワンちゃんですね〜」

「ワフゥ……」

「ワウウゥ……」

「キャー!! 可愛い〜!!」

「お似合いだよ〜!!」

「あぁ!! 取っちゃダメだよー!!」


 せっかくだからウルちゃん達もおめかししようと一人のメイドが言い出したのをきっかけに、メイドとレイェスさんの部下の騎士によって着せ替え人形にされているウルとルフ。


 めちゃくちゃイラついているが、噛み付くのを我慢している。

 多分ウルとルフの表情的に、メチャクチャ嫌だけど雰囲気的に悪気があってやっている訳じゃ無さそうだし、敵じゃなさそうだから噛み付きにくいなっといった感じだ。


「うーん。やっぱりここはシンプルにだね」

「そうねぇ……これが一番スッキリしているし」

「可愛いわね!!」

「アンタさっきからそれしか言ってないわよ」


 結果、二匹とも蝶ネクタイを首輪みたいに着けるだけになった。

 が、慣れないのか前足で取ろうとしている。

 ただ、取れないと分かると素直に諦めた。

 良い子だ、後で褒めてあげるとしよう。


「にしても本当に二匹とも連れて行って良いんですか?」

「あぁ。構わないよ。使い魔を連れて来る人は割といるからね。問題無いよ」

「そ、そうですか。なら……良かったです」

「うんうん。では行くとしようか」

「で、ですねぇ……」

「ウル君とルフ君にもご馳走があるからな!!」

「ワフ!!」

「ワウ!!」


 ロンドさんに連れられ、会場へ向かう。

 ある程度の打ち合わせはしたが、ちゃんとできるだろうか。

 不安になりつつ、それが悟られぬように俺は会場へとロンドさんやウル達と共に向かった。




「それでは皆さん、ごゆっくりお楽しみくださいませ」


 ロンドさんの長い挨拶が終わり、来ていた客達がそれぞれ話し始めたり出された料理を楽しみ始める。

 客達から少し離れた窓辺でウル達と共に俺も話を聞いていたのだが、何を言っているのかサッパリだった。

 挨拶するのも大変だな〜と思いつつ聞きながら、ロンドさんの隣に立つレイェスさんを見ていた。

 彼女はそのままロンドさんと共に会場を周りながら挨拶をしている。その姿を目で追いかけてしまう。


「ワフ」

「んだよ……その顔は」


 俺の足をふにっと踏み、見上げるウルの顔は人間ならニヤニヤしている顔だった。

 俺がレイェスさんを見ていたのが分かったのだろう。

 だって美人だったんだもん。

 そしたら見ちまうよ。

 初めて会った時と違い、化粧もしているしドレス姿だし。


(やっぱ主催の娘だから……か)


 そんな事を思っているとルフがソワソワしだす。


「ん? ……あぁ、飯か。ちょっと待ってろ」

「ワウ!!」

「あ〜、吠えるな吠えるな。他の人達が驚くからよ」

「ワウ〜」

「機嫌が良いなぁ」


 ウル達を連れて使い魔用の食事の所へと向かう。


「おやおやこれは珍しい。レイブウルフの幼体ですか?」

「いや、もう成体直前だ」

「そうですかそうですか。何に致しましょうか?」

「そうだな……ってリクエストが出ているか」


 無言で、涎を垂らしかけながら二匹がガン見しているのは焼かれた肉の塊。

 コンガリと焼かれており、表面はカリカリ中はジューシーといった具合だろう。

 メチャクチャ良い匂いがする。


「これを、お願いします」

「はい、ただいまご用意致しますね」


 ニッコリスマイルで肉を切り分けるシェフさん。

 ただウル達は丸ごと食べる気だったのか、肉を切り分ける光景をまるでこの世の終わりのような顔で見ていた。




「美味いか?」

「ワフ!!」

「ワウ!!」


 もらった肉をペロリと平らげ、更にその後に魚や別の肉料理も食べて満足したウル達は欠伸をしつつ良い子で座っている。


 俺も軽く食べたり、メイド達から貰った糖果水を飲んで楽しむ。

 中には酒がダメな人もいるので俺が飲んでいる酸果水という飲み物が出されているのだ。

 酸果水とは簡単に言うとジュースだ。

 ただ値段が高い。

 ただその分味も濃く、シュワシュワしていて美味しい。

 ただそのシュワシュワ感が苦手な人向けに糖果水というジュースも用意されている。


「うめぇなぁ……」

「あの、お話よろしいですか?」

「……え?」


 邪魔にならないように窓辺でおとなしくしていた俺に話しかけて来たのはドレス姿の女性。

 真っ赤な髪に真っ赤なドレス。

 スラッと伸びた手足に勝気とまではいかないがキッとした目の女性だ。


「私の名前はミラージュ・シンローラ。皇国では一応十大貴族に名を連ねさせてもらっている」

「は、はぁ……」

「以後、お見知り置きを」

「あ、こちらこ……」

「グルルル……」

「ガルルル……」


 突然唸り出す二匹。


「お、おいお前等?」

「……嫌われちゃったかしら……ってそうか。ちょっと待ってね。消臭(スメルリセット)。これでどうかな?」

「……ワウ」

「ワフ」

「ごめんなさい。どうやら香水の匂いがキツかったみたい……」

「あ、成程。それでか……」


 ウル達はレイブウルフ。

 当然嗅覚も鋭いのだ。

 そのせいか彼女の香水の匂いが辛かったそうだ。


「それで、何か用ですか?」

「あ、ごめんなさい。貴方の事、結構噂になっているのよ」

「噂、ですか?」

「えぇ。先日の盗賊団掃討作戦の時に大活躍だったって」

「大活躍と言われましても……」

「すっごい槍を投げたって部下が言っていたわよ?」

「部下って……騎士なんですか?」

「んーん。私の家は代々物流を生業にしていてね。あの時も騎士達だけじゃ運ぶのが大変だから手伝っていたの」

「あ〜、成程。それでですか……あの時は助かりましたよ」

「いやいや〜。これも仕事だからね。また何かあったら、ご指名よろしく〜」


 最後にパチッと可愛らしいウインクをして別の人の元へ挨拶に向かうミラージュさん。

 その後もいろんな人に挨拶されたが、皆俺に対して好意的だ。

 それにウルとルフに対しても好意的で中には撫でたそうに見ている人もいた。

 一応ここにはレイェスさんの恋人として呼ばれているし、それでだろうか。

 でもそうなると既に知らされている事になるが……


(……細かい事は良いか)


 そんな事を思いつつ、撫でろと頭を押し付けてくるウルと撫でてと寄りかかってきたルフの頭を撫でる。


(あ〜、モフモフで最高だ)


 おとなしく俺に撫でられる二匹を見て周囲がヒソヒソと何か話している。


「おい、あそこの子が連れているのって」

「確かレイブウルフよね」

「凄いな。ちゃんと良い子にしている」

「それよりあの子、確か聖装に選ばれた子だろ?」

「あれが噂の!? 思ったよりタイプかも」

「娘を紹介した方が良いか……」

「繋がりを作るに越した事は無いからな」

「私の娘も紹介した方が良いな」

「娘も連れてくるべきだったか……」

「息子は剣の腕が良いからな……紹介して損は無さそうだ」


 あぁ、分かる。

 分かってしまう。

 面倒な事が今まさに起こりそうだと言う事が。

 いやまぁ、こういう所に来る以上はある程度は覚悟していたができる事ならやめて欲しい。

 と思っていると入り口の方が賑やかになり、それと同時に皆さんの意識がそちらに向けられる。


「おいあの人達って……」

「確か教国の」

「……初めて見たよ」


 遅れて来た客人。彼等を見てその場の人達が驚きつつ憧れの眼差しを向ける。

 というのも彼等は


「教国の勇者達が来るとはね。驚きだよ」

「……あの、貴女は?」

「あぁ、突然済まない。私の名はカレン・フェニア・イグニス。レイェスの級友さ」

「は、はぁ……」

「一応、騎士をやらせてもらっているよ」


 カレンと名乗ったのは俺より少し背の高い女性。

 炎の様に真っ赤な髪。

 腰程まである髪。

 キリッとした目にスッと通った鼻。

 髪短くして服装整えたら、どこぞの王子様と間違えてしまいそうな程、イケメンだ。


「あの金髪の青年がガーラッド・バーデルヘル。先代勇者の子孫でバイオレンススレイブのパーティーリーダーさ」

「へぇ……」


 ガーラッド・バーデルヘルという名の青年は一見すると好青年に見える。

 短めに切り揃えられた金髪に鍛えられた体。

 冒険者としては多分、俺より上だろう。


「そんでその両脇にいるのがシュヴェル・マッターダークとバイシュ・マッターダーク」

「姉妹か?」

「その通り。シュヴェルが姉でバイシュが妹。バイオレンススレイブで魔術を担当しているって聞いたわ」


 マッターダーク姉妹。

 姉妹共に露出の激しい服を着ており、姉のシュヴェルは胸元が開いた服を、妹のバイシュは脇腹辺りまでザックリとスリットの入った服を着ている。

 そしてシュヴェルは長い金髪に真っ白な肌、対するバイシュは銀髪に小麦色の肌と正反対の姿をしている。


「そんでその後ろの筋肉ムキムキの彼がニック・マチョ・キンマス。バイオレンススレイブの剣士で前衛担当」


 ニック・マチョ・キンマスという名の青年は服の上からでも分かる程に筋肉ゴリゴリマッチョだった。

 あそこまで筋肉が凄い人は初めて見る。

 日に焼けてなのか真っ黒な肌。

 髪は細長い三つ編みをポニーテールの様に垂らしている。

 そんな彼は来るなり肉料理ばかり食べている。


「そんで、女の子に料理を取って来てあげているのがバリーナ・ヘンリー。確か孤児出身で余り話さない子なのよ」

「ほぇ〜」


 バリーナ・ヘンリーは煤の様な色の髪、目の下には濃いクマを持った少年だった。

 身体も細く、首にはマフラーを締め、袖から覗く手引きは包帯が巻かれている。

 明らかに、異質な外見をしている。


「んで、バリーナ君が料理を持っていってあげた彼女がクリスリル・チャーチちゃん。バイオレンススレイブの魔術師で、主に回復担当みたいよ」

「そうなんですか……にしても詳しいですね」

「そりゃ騎士だからね。いろんな情報が入ってくるのよ」

「成程……」


 クリスリル・チャーチはおっとりとした印象を与える少女だった。

 彼女はフード付きの白いローブを着ており、バリーナから料理を受け取るとニッコリと笑ってお礼を言っている。

 彼女もシュヴェルと同じく金髪だが、クリスリルの方は短い。

 おまけに空の様に澄んだ碧眼。

 多分将来はメチャクチャ美人になると思う。

 それに加えて穏やかな様子に服装のせいもあってか聖女様かと思ってしまう。まぁ勇者の子孫のパーティーだし、いても不思議ではないと思う。


 その彼等の紹介を簡単に受ける俺の元へガーラッドとシュヴェル、バイシュが近付いて来る。うん、なんか嫌な予感がするよ。


「やぁ。盗賊団討伐の時の活躍は聞いているよ」

「ど、どうも……」

「僕はガーラッド。ガーラッド・バーデルヘルだ。こっちのは仲間のシュヴェル・マッターダークとバイシュ・マッターダークだ」

「よろしく〜」

「よろしくね」

「よく見たら可愛い顔してる〜」

「ねぇ、今夜私達の泊まっている宿に来ない? 姉様と二人で可愛がってあげ」

「ガルルルルル……」

「グルルルルル……」

「ちょ、何この犬」

「姉様、これただの犬じゃない。レイブウルフの子ども」

「え、……マジモン初めて見たわ」

「やめろ。ウル、ルフ」

「二人共。彼を困らせるな。済まないね……えっと」

「あ、遅れました。ハヤテです」

「ほう。ハヤテか。良い名前だね……えっと、フルネームを聞いても良いかな?」

「……済みません。俺、名字が無い家でして」

「え……」

「嘘……」

「マジ無いわ」

「バーデルヘル殿。それは失礼ですよ」

「おや、イグニス。いたのか。相変わらず貧相な体をしているな。もう少し肉を付けたらどうだ? 主に……なぁ?」

「全く。場を弁えていただきたい」

「まぁそう言うなよ。で、何で名字のねぇ田舎モンがいるんだ? 場違いにも程があんだろ」

「ちゃんと彼は招待を受けている。ロンドさんからな」

「はぁ? 嘘も休み休み言えよな」

「嘘では無い」


 何故か俺の代わりに怒ってくれるカレンさん。


「全くイグニスよぉ。いくらお前がレイェスと親友とはいえ、そういう嘘は良くないと思うがな?」

「嘘では」

「そうだ。嘘ではない」


 そこへ一通り挨拶を終えてやって来たレイェスさんがカレンさんの話を遮る様に割って入る。


「あん? ……ってレイェスか。いつ見ても美しいな。将来の妻よ」

「妻? おかしな事を言うな。貴様」


 ガーラッドの言葉に眉を顰めるレイェスさん。


「おかしな事ではあるまい? 俺達は見合いをした後、結ばれるのだから」

「あぁ、その事か。済まないがその話、私は蹴らせてもらう」

「なっ!? 蹴るだと!! 俺は勇者の子孫だぞ!! それを蹴るなんて……訳を話せ!!」

「訳だと? ふっ、そんなもの簡単だ」


 そう言ってレイェスさんは俺の腰に手を回して抱き寄せ


「彼が私の恋人だからな」

「なっ!?」

「え、そうなのレイェス!?」

「当然だ。私は彼を愛しているからな」

「お、俺だってお前を愛している!! そこの田舎モンより俺の方がずっと相応し」

「彼は、アクエリアスの聖装に選ばれし者だぞ」

「なっ……」

「同じく聖装に選ばれし者同士、お似合いだと思わないかい?」

「ぐ、ぐ……」

「それにお前、何かと付けて勇者の子孫と言ってくるが別にお前が勇者という訳ではあるまい」

「そ、それは……」

「私から、お前にやる愛は無い。貴様にやるぐらいなら、私は彼だけを見る。それを肝に銘じておけ」

「……おいマチョ!! いつまで食っている!! 帰るぞ!!」

「え〜、俺の筋肉育てなきゃだからよ」

「知るか!! お前等!! 帰るぞ!!」

「え〜、私何も食べてないんだけど」

「姉様に同じく〜」

「知るか!!」

「あーん、ガーラッド待ってよ〜」

「ぶーぶー」


 顔を真っ赤にさせて出て行くガーラッドとそれを追いかけるメンバー達。

 突然の騒ぎに静まり返る会場。


「全く……皆様申し訳ありません。どうぞ引き続きお楽しみください」


 ロンドさんの言葉でパーティーの空気が戻る。

 場慣れしていると言うか、突然のトラブルにすぐ対処する辺り大人だなと思う。


「済まなかったな。大丈夫か?」

「俺は大丈夫ですよ」

「そうか……疲れたか? 少し、部屋で休むか?」

「俺は良いんですけど、ウル達が疲れたみたいで……そうさせてください」

「そうか。うん、分かった。部屋まで送ろう」

「え、いや場所さえ教えてくれれば一人で行けますよ」

「遠慮するな。それにお前は私の恋人だ。送る方が自然だろう」

「……それもそうですね」


 そうだ。

 仮とはいえ今は恋人。

 そっちの方が自然だと俺も思い、部屋に送ってもらうのだった。

 ただその日の夜に問題は起きた。




「落ち着かねぇ……」


 初めて使うフカフカベッドとフカフカ枕。

 慣れない環境に加えて更に……


「……いくら恋人のフリとはいえここまでするか」


 隣でレイェスさんが寝ております。

 しかも俺を抱き枕にするように抱き付いて寝ているのだ。

 そんな彼女から少しでも距離を取ろうにもしっかり抱き締められているためそれができない。

 しかもベッドもデカいので同じベッド上のしかも俺の目の前にウル達が寝ている。

 その事もあってか彼女から離れる事が出来ないのだ。


(と、とにかく背中から意識を離そう。でないと寝れない……よーし、無だ。無我の境地無我の境地無我の境地……)


 なんとか背中に当たる柔らかい感触を意識の外へ追いやろうとする俺。

 だが、追いやろうとすればする程意識してしまう事になるのだった。

 が、そんな時レイェスさんがある事を呟いた。


「……もう、泣かせないから……私が、守るから……な」


 どういう意味だろう。思わず聞いてしまいそうになるが俺の耳に届くのは彼女の規則正しい寝息。

 尋ねる前に彼女は眠りに戻って行ってしまった。


(な、なんだったんだよ……泣かせないからっ、て……あ、やべ。眠い)


 気になりつつもパーティーで緊張したりしたせいか思ったより疲れていたらしく、俺も気付けば眠りに落ちていった。





「ちっ、あのガキ。俺を馬鹿にしやがって……」

「も〜気にしても仕方ないよ」

「そうそう、ガーラッドはガーラッドなんだからさ」

「うるせぇよ。それにアイツは俺が持っていねぇ聖装を持っているって言ってたな……ちっ、俺だってアレさえあれば」

「全く……アレは欲しくて手に入る物じゃないんだからさ」

「分かってるよ……ったく」

「ねぇねぇそんな事より続きしよーよー。マチョはずっと部屋で筋トレしてるし、バリーナは不気味だからそもそもやだし」

「……仕方ねぇなぁ」


 ベッドの上でくつろぎながら両脇に寝かせたシュヴェルとバイシュの頭を撫でるガーラッド。

 それの隣の部屋ではマチョが筋トレをしている。

 そしてガーラッドが泊まっている階の下の階に部屋を取ったクリスリルは自分の部屋で祈りを捧げている。

 そんな彼女の部屋の真下の部屋でバリーナは休んでいた。

 ただ……


「……安心しろクリスリル。君は、俺が必ず救うから」


 虚ろな目をしながら彼は身体をギギギと引っ掻く。


「必ず……約束だ……フッ、ク……クシッ、クシヒヒハッ」


 乾いた笑みを溢しながら彼は壁に背中を預けて休んだ。

今回もお読みくださり、ありがとうございます。


帰ったらユミナに返事をする約束をして皇国に行ったハヤテ。

帰ったらどんな返事をするのですかね〜


それとレイェスの寝言。あれはいったい……


それとレイェスの友人のカレンと家族のミラージュ。

彼女達もまた出したいな〜とのんびり思っております。


他にも教国の勇者の子孫が率いるパーティー……いろいろと大変そうですが、彼等がこれからどう物語に関わってくるのやら……


ブクマ、ポイントありがとうございます!!

メチャクチャ嬉しいです!!


次回も、お楽しみに!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「ぐ、ぐ……それにお前、何かと付けて勇者の子孫と言ってくるが別にお前が勇者という訳ではあるまい」 このセリフ誰のものですか?前後の文章から察するとレイェスとガーラッドが言い合いをしてい…
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