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42話〜燻る火種〜


「お待たせ」

「よっ」


 買ったパンを家に置いてからロウエンの待つ河原に向かう。

 そこにいるのはボンヤリと川を眺めるロウエンだった。


「んで、話は?」

「おう。そうだなぁ……フリストに俺が魔族だったって事は聞いたんだってな」

「お、おう……それと、お前が奥さんとかも」

「あの野郎そこまで話していたのか」

「マズかったのか?」

「……いや、そこまで既に聞いているのなら話す手間が省ける」

「そ、そうか……」

「んじゃ、俺の親父が王族の護衛の騎士って話は覚えているか?」

「おう。確か普段は表に出てこないって」

「その通りだ」

「その親父さんがどうかしたのか?」

「俺の親父が仕えている相手」

「お、おう。王族なんだろ?」

「その王族っての、魔王なんだわ」

「……え」


 突然の言葉に驚愕する。

 だってそうだろ。

 初めての仲間の親が魔王の護衛を務めている騎士だったなんて。

 驚かない方が無理だ。


「え、ちょっと待ってくれ。魔王って、あの魔王?」

「人間の世で魔王が複数いると伝えられているのなら分からないが、おそらくは想像している魔王だろう」

「……つい最近また目覚めたって言われている魔王か?」

「そうだな。その魔王だ」

「マジかよ……」

「俺の家は代々そういう役職の家だったんでな」

「そうだったんだ……ん? でもどうして傭兵やってたの?」

「親父と大喧嘩して家出したから」

「わーおザックリ大説明。ちゃんと説明してもらおうか」

「分かっているよ。そのために呼んだんだから」


 そう言って手近にあったちょうど良い大きさの石に腰掛けるロウエン。

 それを見て俺も石に座る。


「本当の名前はカイナ。父親の名はエンジ。魔王の近衛騎士団団長をやっていたんだ」

「ロウエンは?」

「……当時は魔王軍幹部の、いわゆる四天王の一人だったんだよ」

「マジか。すげぇな」

「そうでもないさ。当時の俺は全然強くなかったからな。ただ親父のっていうか、家のために使われていたんだ」

「お前も大変だったんだな……」

「当時は分かっていたつもりだったんだがな。何も分かっていなかったんだ……言われた通りに部下を動かして、言われた通りに敵を切って。時には部下を見捨てたよ」

「……それは仕方ないだろ」

「いくら四天王は魔王の部下とはいえプライドが高い奴等の集まりだったからな。素直に指示を聞かない事もあったんだ。だから、親父は気軽に使える部下として四天王としての俺が欲しかったんだよ」

「……」

「その証拠に俺の知らない所で許嫁が決められていてな」

「知らない所ではキツイな……」

「ハハッ。それも十五人だぜ?」

「ブッ!?」


 その言葉に思わず吹いてしまった。

 気分を悪くしただろうかと思い、慌ててロウエンを見るが苦笑いしているだけで済んで良かった。


「まぁ、貴族の娘だったり、親戚だったり、全員美人だったけどな」

「そ、そうなのか……」

「だからって俺の事を愛しているとは限らなくてな……」

「……聞くのが怖いぞ」

「全員親父の女だった」

「……聞かなきゃ良かった」

「すまんすまん。でも、一人だけは俺だけを見てくれたんだ」

「え……良かったじゃんか」

「まぁ、そいつが嫁になったんだけどな」

「……あ」


 そこまで聞いて俺は思い出した。

 ロウエンは“妻子”を失っている事を。


「親父が適当に街で買って来た女だったんだけど可愛い女だったぜ。そんで俺にはもったいないぐらいに良い女だったよ」

「……今でも思い出すのか?」

「……忘れた時なんて無いさ」

「そう、だよな……なぁロウエン。なんで魔王軍を抜けたんだ?」

「……エンナを……嫁なんだけどな。アイツと過ごす内に怖くなったんだ」

「怖くなった?」

「……敵を切るたびにエンナの顔がよぎる様になったんだ。子どもが泣きながら逃げるのを見て、まだいないはずの俺の子を思い浮かべた。敵の全てが、俺に置き換えられたんだ」

「……」

「だから、戦うのが辛くなった」

「……そっか」

「ただそれは親父にとっては都合が悪くてな……エンナを人質に取るような真似をされてよ」

「うん」

「キレてさ」

「うん」

「親父と大喧嘩してさ……」

「うん」

「そのまま家出よ」

「……そんな事があったんだ」

「親父からすれば俺は、都合の良い私兵代わりだったんだよ……」

「……それは辛いな」

「だから俺は耐えられなくなって、エンナと一緒に逃げたんだ……」

「それで傭兵に?」


 俺の問いに彼は一度だけ頷く。


「少しずつ、仲間が増えていった。四天王だった頃の俺を知らない仲間が増えていって……エンナとの間に子が産まれた時も皆で祝ってくれたよ」

「……良い仲間じゃん」

「あぁ。皆、良い仲間だったよ……」


 そこでまたロウエンの顔が暗くなる。


「ロウカ……娘の三才の誕生日の日だったかな。家族だけじゃない。仲間も食わせなきゃいけなかった俺はその日も数名の仲間を連れて仕事に行っていたんだ」

「……」

「帰って来て、仲間が襲われていたよ……」

「……そんな」

「襲っていたのは魔王軍の奴等。それも、親父の部下達だったんだ」

「……酷いな」

「いや、分かっていた事だったんだ。いつかは追っ手が来るって理解していたつもりだったんだ」

「……」

「でも……やっぱり辛かったわ。目の前で冷たくなっていく仲間達も、ロウカを守りきれずにはぐれてしまった事を俺に謝るエンナの姿を見るのも。その時の事は今でも夢に見るよ」

「……」

「そこから親父達の追撃が何度もあって、気付けば俺達はバラバラになって……気付けば俺一人になっていたよ。それでも俺はロウカを探したよ」

「……ロウエン」

「そこで分かったんだよ。ずっと一人でいれば良かったって。エンナと両思いにならず、一緒に逃げずにいれば、俺が一人でいればこんな辛い目を知る事はなかったんだってな」

「……」

「それと一緒に気付いたんだ。せめてアイツ等のために……いや違うな。俺から全てを奪った親父に復讐しようと、俺はカイナの名を捨てたんだ」

「……それで、ロウカさんとエンナさんからとってロウエンか」

「あぁ……復讐心を忘れないために」

「……違うだろ」

「……何?」

「二人と、名前だけでも繋がっていたかったんだろ? だから、二人から名前を取ったんじゃないのか?」

「……敵わないな。お前には」

「……で、それからは?」

「……お前と会うまでは傭兵として生きて来た。そんであの日、お前と会った。初めはどこかで嗅いだ懐かしい、面白い匂いだと思ってよ……暇潰しがてら近付いたんだ」

「暇潰しかよ……」

「悪かったな……でも、お前がアクエリウスで聖装を抜いた時お前となら俺の復讐を果たせると思ったんだ」

「おいおい……」

「でもそれは間違ってたんだ……モーラが死んで、失意と後悔に押し潰されていたお前の姿を見てそう確信したよ。お前のような奴を、俺の復讐に利用しちゃいけねぇって」

「……ロウエン」

「だから、少々手荒だったが引き上げだんだ。お前を生きさせてほしいって、聞こえた気がしてな」

「……」

「それに、お前の匂いは俺が四天王時代に嗅いだ覚えがあったのも思い出してな。なおさらこちら側に来させてはいけないと思ったよ」

「そうか……ありがとうな」


 俺の素直な言葉を受け、一瞬驚いたような顔をした後照れたように指で頬をかくロウエン。


「……す、すまない。本当の事を言うと俺、長い間独りでいたせいかこういう時どういう顔をしたら良いのか、よく分からないんだ」

「マジか……ロウエンにも苦手な事があったんだな」

「おう。俺も完璧ではないからな」

「そうなのか……」

「当然だ……」

「はははっ……でもありがとうな。話してくれて」

「いつかは話そうと思っていたんだ。気にする事じゃない」

「そっか……あ、そうだ俺も忘れないうちに良いか?」

「何だ?」

「以前貰った刀、返そうと思うんだけど」


 以前貰った刀とはボスビートル討伐戦の時にロウエンから貰った刀の事だ。


「俺って結局槍しか使わないしさ……その、持っていても意味が無いし」

「槍の内側に入られた時の為にも持っておけ」

「でも……」

「頼む。持っていてくれ……」

「……ロウエン?」

「……今の俺より、お前が持っていた方が良いって俺が思ったから渡したんだ」

「そっか。なら、預かっておくよ」

「……あぁ、そうしてくれ」


 多分だけど、俺が渡された刀には何か思い入れがあるのだろう。

 でもロウエンは今の自分にはそれを持つ資格が無いと思っているのかもしれない。

 だから、俺がその時が来るまで預かろう。


「……あぁそれと、話が変わるんだが良いか?」

「おう。何だよ」

「話は二つある」

「おう」

「盗賊団のアジトの中を探索した騎士達からの報告なんだがな、セーラの遺体は見つからなかった」

「……そうか」

「彼等が言うには、地下に水路を見つけたと言っていてな。その流れに乗って逃げたか、水路に落ちた可能性もあると言っていた」

「……」

「それともう一つ。モーラが皇国で死ぬ原因になった魔獣達の襲撃」

「!!」

「それを仕向けた野郎に心当たりがある」

「本当か!!」

「……魔王軍四天王の一人、剛大のドルフの右腕。獣使いガオン。おそらくそいつだ」

「……ならそいつを」

「今のお前では難しい」

「強いのか……」

「あぁ。四天王の右腕だからな」

「そうか……」

「でも慌てる必要は無いだろ」

「どうしてだ?」

「お前のアニキは勇者なんだろ? なら」

「……いずれ戦う事になる」

「そういう事だ。だから、その時が来るまで慌てずに強くなれば良い」

「……」

「安心しろ……彼女の仇を取りたいと願っているのはお前だけじゃない」

「……良かった」

「ん?」

「そこまでモーラは、皆に受け入れられていたんだなって思うとさ。嬉しくって……だから」

「……なら、なおの事仇は取らねぇとな」

「あぁ。もちろんだ」


 その時だった。


「あ、いたいた。ハヤテさーん」

「エンシさん?」

「おや、ロウエンも一緒でしたか」


 俺を探しに来たのか、エンシさんが駆けて来る。

 が、ロウエンを見つけるや態度がキッとした固いものに変わった。


「どうかしましたか? あ、パンが届いたとか?」

「いえ。パンは先程来ましたが別件です」

「別件?」

「はい。皇国からお客さんです」

「皇国から?」

「はい、落ち着いて聞いてください。お客さんはあの、皇国最強のレイェスです」


 その瞬間、面倒事だと俺の本能が告げた。

お読みくださり、ありがとうございます。


ロウエンの過去はいかがでしかた?

復讐が目的だったロウエンでしたが、ハヤテ達と関わる事で少しずつ変わっていったようです。

でも、ケジメはつけようと考えているみたいです。


それと行方不明で生死不明のセーラ。

今後出てくるのでしょうか……


そして急な訪問のレイェス。

一体どんな要件なのか……


ご感想、ブクマに本当にありがとうございます!!

めちゃくちゃ嬉しいです!!

次回もお楽しみに!!

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