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39話〜歪んだ心と真の心〜


 (ハヤテ)の目の前には大砂漠が広がっている。

 あたり一面砂、砂、砂。

 全てが砂で時々ポツンとサボテンが生えているぐらいだ。

 ここで俺は今から、共にここへ来た群狼のメンバーや騎士達と共に盗賊団の掃討作戦に参加する。


「待っていろセーラ……」


 俺はこの大砂漠のどこかにいる相手の名を呟く。


「あんまり気負うなよ。肩の力抜いとかねぇと、いざって時しくじるぞ」

「分かっているよ……」


 俺に話しかけて来たロウエンにそう返し、近くに来たウルの頭を撫でる。

 そうしてやると、いつもは気持ち良さそうに目を細めるウルだが今回は違い、耳をパタパタっと振るだけだった。


「緊張しているのか?」

「グルルルル……」

「大丈夫、大丈夫……」

「……グル」

「よしよし」


 ウルを落ち着かせながら自分も落ち着く。


「……そろそろ行こうぜ。他が待っている」

「……あぁ。そうだな」


 ロウエンに言われ、ウルを連れて皆の所へと戻る。

 戻った先にいるのは群狼のメンバーとアニキ達。

 それと王国の騎士と皇国の騎士。

 更にフリストさん、ゲンエンさんにフォンエンさん。

 それと真っ白な服に身を包んだ露草色の長髪の女性がいる。


「ロウエン、彼女は?」

「ん? あぁ、皇国のレイェスだな」

「レイェス?」

「皇国で最強と言われる騎士だ」

「こ、皇国最強!?」

「おう。絶対凍結のレイェスとも言われている」

「おう。そのあだ名の通りなんでも凍らせられるんだよ」

「マジか……」

「火事の時は火だけを凍らせたりしたとも聞くぜ」

「ヤバくねぇかそれ……」

「ヤバいだろうな。あぁそうだハヤテ。ミテイ大河であった合戦は知っているか?」

「ミテイ大河の合戦って確か五年ぐらい前にあった、皇国と対岸にあった国との間で起きた戦争であった戦いの一つだよな」

「そうだ。その合戦の前までは互いに譲らず、膠着状態ともいえる状況だったんだ。が、その合戦で皇国が勝った事で相手は白旗をあげたんだ」

「え……膠着状態だったの? だってレイェスが出れば」

「そうなんだ。だがアイツ、始めはどこで何をしていたのか。サボってたらしいんだ」

「え……」

「んで、やっと出たのがミテイ大河の合戦。ミテイ大河は大河っていうだけあって川幅はあるわ川底は深いわで相手は船を用意したんだ。だが皇国は船を用意しなかった」

「……じゃあどうやって戦ったんだよ」

「レイェスが川を凍らせたんだ」


 ロウエンの言葉に驚き、返す言葉が見つからない。


「川が凍れば船は動けねぇ。しかもそれだけじゃねぇ。レイェスは凍った川を自在に操り、氷の槍で船を貫き砕いたんだ」

「そ、それで?」

「そこからは簡単さ。川岸からの投石。石に当たらなくても氷が割れて川に落ちる。そして最後に、レイェスが持つ聖装を使ったんだ」

「聖装!? ……アイツ、聖装持っているのか?」

「あぁ。持っているぞ」

「って事は今回の作戦に聖装持ちが二人も参加するのか」

「あぁ。だからって訳じゃないが、失敗はしねぇだろ。アイツも育っているはずだしな」

「……ん? 育っている?」

「……さ、そろそろ時間だ。行くぞ」

「あ、おいロウエン」


 俺の言葉に返す事なくルフに跨り、騎乗した騎士達のもとへと向かうロウエン。

 たいした事じゃないだろうと思い、俺はウルに跨って騎士達の列に加わるのだった。




 打ち合わせをしてから出発した俺達。

 向かう先にあるのは地下洞窟の入り口だ。

 それは大砂漠のど真ん中でポッカリと口を開けている。

 そこの前に陣を敷き、最後の確認をする。


「水良し、ポーション良し、槍良し、聖装良し……」


 槍は手で、聖装は背負って行く。

 報告によると奴等のアジトはアリの巣のように地下に張り巡らされているとの事。

 その中をいくつかのグループに別れて進むのだ。

 俺は群狼メンバーにアニキとエラスを加えて進む事になった。


「……ではレイェス殿。お願いします」

「言われなくてもやるさ」


 そっと手で地面に触れるレイェスさん。


「さて、始めようか」


 ピシ、ピキッと小さな音が聞こえる。


「凍れ!!」


 バキィンという音を立て、円を描くように周囲が凍る。と同時に彼女は


「奴等のアジトの外側を凍らせた。これで、崩れる事は無いだろう」


 と、髪を払いながら話す。その様子から、彼女にとってこの程度の事はたいした事では無いようだ。


「よし、行くぞ!!」


 今回の指揮を執る騎士の言葉を受けて突撃する。




「敵襲だぁぁ!!」

「んだと!?」

「騎士のくせに襲撃かよ!! 正々堂々来やがれ!!」

「黙れ!! 盗賊団に見せる誠意など無いわ!!」

「今日が貴様等最後の日だ!!」


 通路内で盗賊団と騎士達が衝突し、騎士に討ち取られていく。

 というのも騎士達は鎧、盗賊団達は動きやすいように軽装の為簡単に切り倒されて行くのだ。

 俺も槍で奴等を貫き倒して行く。


「ほう。内側も硬質化で補強しているのか……レイェスの補強はいらなかったか? いや、奴等の砦だ。崩す手段があると考えて間違いない。ならレイェスの補強は無駄ではなかったか」

「グフッ……グハッ」

「こ、こいつ強えぞ!! ガハッ!!」


 アジトの構造を呟きながら刀で次々と切り倒して行くロウエン。

 やはりと言うべきだろう。

 その動作は手慣れており、バッサバッサと切り倒して行く。


「射線さえ邪魔できれば!!」

「効かない!!」

「グェッ!!」

「ガッ!?」


 煙幕でユミナの視界を妨げる盗賊達。

 だがユミナはウルとルフの母親の牙で作られたネックレスに込められたスキル・母の慈愛によって視覚妨害を跳ね除ける。

 どうやらこの母の慈愛にはデバフ解除効果があるようだ。


「……ありがとうございます」


 ネックレスに手を当てて礼を呟き、矢を放つユミナ。

 その矢は盗賊達の眉間に次々と突き刺さっていく。


「エンシさん!!」

「ミナモさん、お願いします!!」


 ミナモによる強化を受けたエンシさんが水の槍を壁から生やし、数十名の敵を一斉に串刺しにする。

 アニキはそんな俺達の背後で待機しており、エラスは騎士達に回復スキルを使って援護していた。


「にしても広いな……ここはどうだ。一旦別れるか?」

「あまり得策とは思えないが……仕方ないな」

「何かあったら呼べよ?」

「当然だ。そっちこそ」

「あの女を見つけたら知らせるよ。行くぞ」

「え、私が一緒ですか!?」

「やれやれ……気を付けなさいハヤテ。嫌な予感がするから」

「ありがとうミナモ。そっちも気を付けて」


 そう言って俺はロウエン、ミナモ、エンシさん、ルフと一旦別れる。


 そして俺はユミナ、アニキとエラス、ウルとフーと共に進む。

 途中、襲いかかって来た奴等を迎え撃ちに二匹共行ってしまったが、鬱憤が溜まっていたのだろう。

 いつもより勢いがやばかった。


 まぁ二匹共鼻が良いし、レベルもそこそこ高いのでやられる事は無いだろう。

 気が済んだら後から追いかけて来るだろうと思い、先を進む。


 そんな俺達が辿り着いたのは壁に戸が一つある部屋。

 中では植物が育てられており、部屋に入った時はオアシスかと思ってしまった。

 そしてそこで


「やっほ〜。遅かったねぇ」

「……まさかこっちで見つけるとはな。別れるんじゃなかったよ」

「会いに来てくれて嬉しいよ。ハヤテ」

「セーラ……」


 踊り子の様に露出の激しい服装でニタニタと笑うセーラだった。




「お前、よくノコノコと出てこれたな。俺から奪った物。返してもらうぞ!!」

「アハッ。なぁ〜にバカラト〜。返して欲しい物があるの〜?」

「とぼけるな!! 俺から奪ったレベルとスキル。全て返してもらう!!」

「レベルとスキル? ……あぁ〜それって、これの事かし、ら!!」

「っ!?」

「アニキ!!」


 セーラから放たれる黄色い三日月状の衝撃波を槍を振るって打ち消す。


「何々〜? 今更クッサ〜い兄弟愛って訳?」


 目を細めて笑うセーラ。

 ただその笑みは新しいオモチャを見つけたと言わんばかりに醜い物だった。


「まぁだまだ行くよ〜!! はい」


 そう言って右手を前に突き出すセーラ。


聖なる光流れ(セイクリッド・レイ)!!」


 右手から放たれる光の奔流。

 だがそれは、アニキが使った時と違って紫色の光だった。


「この程度!!」


 それを俺は槍を高速回転させて受け止める。


「やだ〜、ハヤテカッコいい〜。もっと頑張っている所見せて♪ ね? 荒々しき清流ワイルド・クリアストリーム!!」

「ぐっ……うっ」


 続けて左手から放たれるのは黒い光の濁流。


「ねぇねぇどーう? まだやるー?」

「っ、まだ槍は……耐えている!!」

「へぇ〜……じゃあ」

「ハヤ兄!!」


 セーラが動く前にユミナが矢を放つ。


「あ〜、お前か……この前はよくも!!」


 黒い光の剣がセーラの背後に出現し、ユミナが放った矢を切り落としていく。


「ハヤ兄を傷付けた事、絶対に許さない!!」

「お前に何が分かる……男を知らないガキンチョが!! やれ!! 高貴なる剣(ノーブル・エスパーダ)!!」

「人の痛みから目を逸らす貴女には負けない!! 針鼠の針刺ヘッジホッグ・スティング!!」


 セーラが放つ光剣とユミナが放つ矢が激突する。


「クソガキのくせに……さっさと潰れろ!!」

「うるさいクソババア!!」

「なっ!? ……私を撃つだけじゃなくババアだと? ……は、はは。アハハハハハハ!! 良い度胸しているじゃない!! 良いわ、アンタは特別に最後まで生かしておいてあげる。その後に」

「口だけはベラベラと!! 良く回るね!!」

「ハァ? ……ギャアァァァッ!?」


 話していたせいで集中力が切れたのだろう。

 緩い弧を描きながら右肩に刺さった矢が爆発する。


「あぁ……あぁ!! 私の顔がぁぁぁぁっ!!」


 顔の右側を押さえて叫ぶセーラ。


「アニキから奪った物!!」


 好機と見た俺は床を蹴って迫る。


「返してもらう!!」


 槍で足を貫き、逃げる手段を断つ。その後にアニキの奪われたレベルとスキルを取り戻して始末する。

 そのつもりだった。


「ハヤ兄止まって!!」

「全く……分かりやすい程に素直で助かるよ。ハヤテ〜」


 セーラの顔を覆う手。

 その手の指にはめられた一つの指輪にはめられた石が紫色に輝く。


「なっ!?」


 次の瞬間。

 俺の体は石のように固まり、身動きが取れなくなっていた。


「アッハハハ!! イイザマねぇ……私に逆らうからこうなるのよ……ふふっ、予想通り。後ろのバカ共全員動けなくなってるわね」

「まさか……あの光は」

「あら〜。エラスは知っているのね。そうよ。停滞化の状態異常を付与するスキルよ。おかげでアナタ達は私の許可が無ければ動けないの。残念ね〜」


 先程の光で俺達の動きを止め、勝ち誇るセーラ。


「あぁそれと。ハヤテ、アナタにはもう一つプレゼントをあげるわね〜……はい」


 そう言って俺と目を合わせるセーラ。

 慌てて目を逸らそうとするも奴は俺を逃さなかった。

 俺が目を逸らすより早く、セーラの目がピンク色に妖しい光を発する。


「ッ!?」


 次の瞬間、心臓が跳ねたと思う程激しく脈打った。


「私ってさ、盲目の心ってスキル。あったじゃない? それをね、すこ〜しばかりいじってみたの。幸いな事に盗賊の中にそういうのに詳しい子がいてね……一緒に寝てあげたらあっさり技術を私にくれたの」

「っ、おま……え……俺に、なにをした!!」

隷従(スレイブ)化よ。それもただの隷従じゃないわ」

「セーラ、お前まさか」

「アンタは黙ってなさい」

「ぐうっ……っ」

「カラト!!」

「ダ〜メ。私を見て?」

「ぅっ……」


 俺の顎に手を当て媚びるような目で見つめるセーラ。


「私ねぇ、本当はぁ、カラトよりハヤテの方が“好き”なの〜。だからお願ぁい。今までの事許して、私の旦那になってぇ? ねぇ? 私の事、“好き”にして良いから〜。ユミナみたいな傷だらけの体と違って、私の体は綺麗だからぁ〜」


 好きという単語を言われるだけで、俺の中でのセーラの存在感が増していく。

 それも、まだ恋人だった時と同じく恋慕としての存在感がだ。


「言ったでしょハヤテ。ただの隷従じゃないって。でもカラトは気付いたみたいね。そうよ。相手の中で私の事が愛おしくて愛おしくてたまらなくなる隷従。差し詰め、偽愛の奴隷って所ね」

「クソが……悪趣味だな」

「あ〜ら〜カラト〜そんな悪趣味だなんて〜……」


 ツカツカとアニキの元へと歩いていくセーラ。


「お褒めに預かり光栄よ!!」

「ぐあっ……あぁぁっ!!」


 アニキを蹴りつけ、踏みつける。


「や、やめてセーラ!!」

「うっせぇ!! 純情ぶっておいて夜な夜なバカラトで一人寂しくしてんの知ってんだぞ!!」

「キャッ!!」

「アハハ!! なーにがキャァよ。可愛子ぶってんじゃねぇぞクソシスター!!」

「アガッ!? ガヒュ……」


 倒れたエラスに馬乗りになり、片手で首を絞めるセーラ。


「お前みたいな女にカラトが靡くと思うか〜? お前みたいに祈ってばかりで!!」

「うぐっ」

「胸が平らで!!」

「あうっ!!」

「見持ちの硬い!!」

「うあっ!!」

「そんな田舎に引っ込んでいた方がマシな芋女にカラトが欲情する訳ねぇだろ!! ちょうど良い機会だ。ここで成就しないカラトへの恋心を抱いたまま私に殺されろ!! そしてスキルを寄越せ!! アハハハハハハ!!」

「うっ……くぅ…………る、しい……」

「首絞めてんだから苦しいに決まってんだろ!!」

「や、やめろ……」

「あぁらカラト〜。安心してぇ? エラスが死んだら、彼女の前で抱いてあげるから。クフフッ!!」

「この外道!! 悪魔!! 畜生!!」

「何とでも言いなさい傷だらけの小娘。お前がいくら叫んだ所で、この女は救えな」

「尻軽!!」

「……あ?」

「淫乱女!!」

「……」

「色情魔!!」

「あぁもー良いや。お前からぶっ殺すわ」

「はん!! 的を射ているから言い返せないんでしょ!! だから暴力に」

「うっせぇんだよ傷女!!」

「っ……ふん。何今の。ビンタのつもり? 笑わせないで。熊に引っ掻かれた時の方が痛かったわ!!」

「っ……こいつ、言わせておけば」

「やりたいならやれば良いわ!! 私はアナタに負けないから!!」

「っ……あっそう。なら良いわ。その心ごとへし折ってやる。アンタのその恋心と一緒にね!!」


 そう言うとセーラはユミナの胸ぐらを掴んで俺の前に連れてくるとなんと、ユミナの服を脱がし始めた。


「あーら。あんたの大好きなハヤ兄の前で脱ぐなんて、あんたの方が色情魔じゃないかしら〜?」

「くっ、このゲスが!!」

「私にとっちゃ褒め言葉よ。さ〜ハヤテ。大好きな私のために、この女をここでグチャグチャに犯しなさい!!」

「っ!? ……っ、ざける……な、……んな事、できっかよ」

「……ふぅ〜ん?」


 下着姿のユミナを俺の前に放り投げるようにして寝かせるとセーラは俺の背後に回り込み


「好きよ。大好き……今度こそちゃんと愛してあげる。アナタと結婚もしてあげる。アナタが望むなら子どもだって産んであげるわよ。勇者の弟の血を引く子よ。きっと……私の役に立ってくれるわぁ……だから、大好きな私の幸せのために。目の前の傷女を、犯しなさい」

「あっ……がっ……ぐうぅぅあぁぁぁぁぁっ!!」

「ハヤテ!!」

「ハヤテさん!!」

「は、ハヤ兄……」


 囁かれ、隷従化が強化される。

 俺の意思とは反対に足が動き出す。

 手がユミナへと伸びる。

 俺の意思はガラス玉に閉じ込められたかのように無視される。


「っ……や、め……」

「やりなさいハヤテ」

「ユミ……ナ。逃げ……」

「汚せ穢せ……」

「はや……く!!」

「犯せハヤテ!!」

「っ、あぁぁぁぁぁっ!!」


 俺の手がユミナを捉えた、その時だった。


「……あ?」


 まずセーラの間の抜けた声が聞こえた。

 次に、俺の首に腕が回されている事に気付いた。

 そして最後に、ユミナの唇が俺の唇に重ねられている事に気付いた。


「……はぁ。えへへ、こんな形でするつもりは無かったんだけどね……」


 そっと離れるユミナ。

 その顔は照れなのか、それとも恥ずかしさからか。

 頬が赤くなっている。

 操られて迫る俺が怖かったのだろう。

 目には涙が浮かんでいる。


「ここでも、ウル達のお母さんに助けられちゃった……」

「あ、ぅ……ユミ、ナ?」

「ハヤ兄……ううん。ハヤテ。大好きです」


 涙を溜めた目を細め、笑顔を作って俺に告げるユミナ。

 雰囲気のカケラもないこの状況での一世一代の告白だった。

 操られた俺に汚されるならその前にだったのだろう。


(あぁくっそ。俺は……何やってんだよ!! )


 悔しい。

 ユミナはせめてもと、俺に想いを告げてくれた。

 なら、そのユミナを助けられなくてどうする。


「ふ……ふざけてんじゃねぇぞクソアマ!! あぁ!? この期に及んで惚気姿見せやがって!!」

「くぁっ!?」

「良いだろう……なら望み通り、お前が好きなハヤテにブチ犯してもらえよ!! でも覚えておけ。そのハヤテはお前が好きなハヤテじゃねぇ。私の操り人形に成り下がったアホだってな!!」

「違う!!」

「あぁ!?」

「ハヤテはお前なんかに負けない!!」


 顔を掴まれ、床に押し付けられながら叫ぶユミナ。


「っ!!」


 その言葉が俺の耳に届く。


「ハヤテはお前が思っている程弱い人じゃない!!」


 その言葉が、俺に届く。


「ハヤテは、ハヤテは!!」


 ユミナの言葉が


「ハヤテは最高にカッコいいんだから!!」


 俺に力をくれた。


「っ、おぉぉぉぉぉぉあぁぁぁっ!!」


 気付けば叫んでいた。

 それと同時に、俺の左肩が輝く。


「な、なによ……」


 その光景に驚くセーラ。

 その隙を俺は逃さない。


「アニキ!! ユミナを!! もう動けるはずだ!!」

「え!? ……あ、本当だ。任せろ!!」

「っ、人形風情がぁっ!! 図に乗るなぁ!!」

「女の顔は傷付けるなと教わったが、テメェはクズだから女じゃねぇ!!」

「イギィッ!?」


 アニキの渾身の回し蹴りがセーラの側頭部を捉え、壁まで吹っ飛ばす。


「大丈夫か? ユミナ」

「う、うん……ありがとう」


 アニキに支えられ、エラスの影で服を着直すユミナ。

 その三人を守るように俺は立つ。

 その俺を見てセーラは叫ぶ。


「な、なんで……どうしてだ!! 私の隷従は確かに機能していたはず!! なのにどうして!!」

「そんな事俺が知るか!!」

「な、ならもう一度……」

「そんな時間が与えられると思うか?」

「は? 何を……」


 その時だった。


「グルァァァァァァァァッ!!」


 遅れて来たウルがセーラに飛びかかり、左腕に噛み付いた。


「ギアァァァァァァァァッ!! こ、このクソ犬がァァッ!!」

「ウゥゥゥゥッ!! …………ガウッ!!」


 深々と牙を突き刺し、力を込めるウル。


「や、やめろやめろ離せ!! このクソがァ ァァッ!!」

「グルァ!!」


 そしてその牙はセーラの腕を容易く断つ。


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 私の!! 私の腕ぇぇぇぇっ!!」


 そしてそこで終わらない。


「ギギャアァァッ!! ……グァ!!」


 更に遅れて来たフーが、何かをセーラの顔に吐きかける。

 その吐きかけた物はセーラの顔にべチャリと着くや、白い煙を立て始める。


「ウギャァァァァァッ!? 顔!! 顔が熱い!! 熱いぃぃぃぃっ!!」


 残った手で顔を押さえてのたうち回るセーラ。

 フーが吐きかけたのは新しく覚えた技の一つのアシッドブレス。

 付着した対象を溶かす酸を吐きかけるものだ。

 なので、当然……


「あ、あぁぁっ!! 手が!! 手も熱いぃぃぃ!!」


 うん。

 バカってこの事を言うんだなと思った。

 そしてその隙を逃しはしない。


「アニキ!!」

「え? ……あ、おう!!」


 のたうち回るセーラを押さえ付け、ロウエンから渡された蓄石をセーラに押し当てるアニキ。


「返してもらうぞ!! 俺の……力を!!」

「や、やめ!!」


 押し当てられた蓄石に刻まれた模様が輝く。


「や、やめろ!! 私の力!! 私の!! 私の力がァァァッ!!」

「違う……これは、俺の力だ!!」

「ふざけるなよカラトォォッ!! ベッドの上であんだけ良い思いさせてやっただろうが……このぐらい寄越せぇ!!」

「それはこっちのセリフだ!! よくも俺を利用してくれたな……この借りは高くつくぞ!!」

「ふぅざけるなァァァァァ!!」


 叫びながら悪あがきで暴れ、アニキを突き飛ばすセーラ。


「アニキ!!」

「……いや、大丈夫だ。全て取り戻した!!」


 セーラに奪われたレベルとスキルを蓄石に取り戻したアニキはすぐさま石から自分へとレベルとスキルを移す。


「……よし、大丈夫だ」

「あぁ……熱い……熱いぃ……水、水ぅ……


 対するセーラは室内にある水桶に迷う事なく顔を突っ込む。

 付着した量が少なかったせいか、取り切れたのだろう。

 やがて水桶から顔を上げ、振り返って俺達を睨みつけるセーラ。


 その顔は今のセーラの。

 いや、セーラの本性を表していると言って過言ではない。

 顔の半分が赤く爛れているのだ。

 まるで、本性を覆い隠していた仮面の半分が割れたようにも見える。


「ふ、ふざけやがって……もう許さない……許してやらない。お前等全員、殺されろ!!」

「あ、おい待て!!」


 壁にある戸を開け、そこへ逃げるセーラ。

 慌てて追うも戸の向こうはスロープになっており、どこかへ繋がっている様子。


「……どうする?」

「どうするって、行くしかないだろ」

「でもここまま行くのは……」

「エラスの言う通りだな。ロウエン達と合流しよう……ウル。ルフを呼んでくれ」

「ワフ……ウオォォォォォン!!」


 よく通る澄んだ声で吠えるウル。

 数分後、ルフに連れられて来たロウエン、ミナモ、エンシさんと合流する。


「……成程。セーラはこの中に逃げた、か」

「罠だと思うか?」

「ここは敵のアジトだ。罠じゃない訳がない。十中八九何かが待ち受けているだろうよ」

「……やはり危険か」

「だが、危険だからと何もしなければ相手は体制を立て直すだろう」

「なら……」

「行くしかないと思うぜ」

「なら……行くか」


 俺の言葉に皆が頷く。


「俺が先頭で行く。エンシ、最後尾を頼めるか?」

「承知した」

「よし。行くぞ、ハヤテ」

「おう!!」

「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか!!」


 そう言ってスロープを滑るロウエン。

 それを追う俺達。

 果たして、俺達を待っているのは一体……

今回もお読みくださり、ありがとうございます。


ユミナァァァッ!!

想いは届くんだよ!!やったー!!

ってな事で、くさいぐらい王道も好きです。


やっぱ偽りの愛よりも真の愛よね。

うんうん。


セーラボッコボコにされたね。

あの二匹がいない時点で警戒してなかったし……残念な子だね。


前回もご感想ありがとうございました!!

本当に嬉しいです!!


次回もお楽しみにー!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさに、ざまぁですかね。他者から奪ったものを奪い返される。アニキとユミナ、良くやったという感じですね。 [一言] 更新お疲れ様です。 セーラ、本当に惨めですね。奪うだけで与えられないから…
[一言] うーん、セーラに関してはこれが本性だとしても、昔の面影もまったくなく、正直なところちょっと引っ張りすぎて微妙な感じに思えてきました・・・こんなんの為にモーラが悲惨の末路を迎えたと思うと、この…
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