38話〜話す事〜
「帰って来て早々に次の支度か」
「仕方ないさ。戻るなりウゼルからの伝言を聞いちまったんだからな」
「集合は二日後か……」
「ま、少しは休めるから良い……って訳でもないか」
アニキと再会し、フリストさんのもとで魔術を習っていた時に、彼女のもとに騎士が訪ねて来た。
騎士が言うには、ウゼルが呼んでいるので来て欲しいとの事。
流石に断る訳にも行かなかった彼女は王都へと向かったのだが、それと一緒に俺達群狼も一度ウインドウッドへと帰る事にしたのだ。
そんな俺達にアニキとエラスも着いて来たのだが、問題は帰ってからだった。
俺達の家の前にも騎士が来ており、ウゼルのもとに来て欲しいと言われたのだ。
呼ばれたからには行くしかないと、俺とエンシさんで王城へ向かったのだが、そこで言われたのはなんと大砂漠の盗賊団を討伐するために王国、帝国、皇国の三国による討伐隊が結成されるので俺達群狼にも参加して欲しいという事だった。
突然の事で理解するのに少し時間がかかったが俺はそれを了承。
帰る前にアニキも共に参加する事を伝えて家へと帰ったのだ。
当然、家に帰ってからこの事を話したのだが、なんと満場一致で参加する事に賛成。
ユミナに至っては
「あのクソ女……絶対に後悔させてやる……」
と、ドス黒いオーラを出しながらぶつぶつ呟いている。
更にウルとルフに至っては鼻をやられた事をしっかりと覚えていたのでメチャクチャキレている。
あの時に使われた煙幕は追跡阻害の効果を持っていたのだ。
追跡阻害はその名の通り、主に追手をまく為に使われる効果だ。
目が良い者であれば視覚に作用し、耳が良い者には聴覚に。
そしてウル達は嗅覚をやられた。
幸いな事にフリストさんのおかげで鼻の異常は取れたのだが、やられたらままでは終われないようだ。
彼等の中に流れるレイブウルフの血が言っているのだろう。
「やられっぱなしで終わるな」
と。
「舐められたら噛み付き引き裂いて」
「「その息の根を止めろ」」
と。
彼等の中に流れるレイブウルフの血が彼等に言っているのだ。
次にフーもキレている。
キレているのだが何というかこう、自分の後輩に怪我をさせられた事に対してキレる先輩みたいな感じだ。
まぁ、種族は違えど仲間意識はあるようで良かった良かった。
他にもミナモもエンシさんもやる気に満ちているし、ロウエンもニヤリと笑っているが目がヤバい。
相手を狩る目をしている。
アニキも異論は無いようだ。
と言ってもアニキのレベルは低いので戦力になるとは思わないが、一応来るらしい。
そしてエラスは回復要員として来るそうだ。
「にしても三国の手際がずいぶん良いな」
「あぁ。噂で聞いたんだがな、あの日置いてかれた手下共。アイツ等に情報を出させたそうだ」
「よく言ってくれたな」
「その代わり、刑は軽減されて奉仕活動とかになるそうだがな」
「へぇ……ずいぶんと軽くなるんだな」
「それ程盗賊団の掃討には力を入れているんだろ。特に皇国がな。それに、掃討作戦が終わったら身柄は皇国が引き取るそうだ」
「そうなんだ」
「それにしても三国だと参加人数も多いんじゃない?」
「そこなんだがなユミナ。帝国は食糧を出すだけで兵は出さん」
「え? どうして?」
「どうしてって……そりゃ大勢で行ったらその分必要な飯も増えるからな」
「うーん。じゃあそれぞれの数を減らしたら」
「所属が別の者達を集めたらな、それはそれで大変なんだよ」
「そうなの?」
「そうなんだよ。それぞれの騎士にはそれぞれのやり方っていうか。おい、エンシから言ってやってくれよ」
「う、うむ……そうだな。私がいた王国の騎士団と帝国の騎士団、皇国の騎士団では陣形の組み方、戦い方の癖に違う所もあるのだ。その癖がそれぞれの騎士団が辿って来た歴史であり誇りなんだ」
「つまり、自分達の誇りを譲って他所様に合わせるのが難しいんだよ」
「ふーん。めんどくさいんだね〜」
「一言で言えばそうですね。ですが、私にもその誇りがありますし」
「それに帝国はどっちかというと盗賊団の被害が少ないからな……」
「そうですね。逆に一番盗賊団を潰したいのは皇国ですしね」
「それに協力する形で恩を売りたいのが王国と帝国って訳だ。分かったか? ユミナ」
「う、うん分かった。ありがと〜」
ロウエンとエンシさんの説明に納得するユミナ。
「今回の作戦に教国の彼も参加してくださると助かったのですがね……」
「教国の彼?」
「……ユミナ、教国は知っているか?」
「んーん。知らない」
「そこからか。一言で言うと教王をトップにした国が教国で、教王ってのは教国内の教会のトップでもあるんだよ」
「ほえ〜、すごいんだねー」
「んで、教国には先々代の勇者の子孫がいるんだよ」
「え!? うそ!!」
「マジだ」
「一応彼にも協力を要請したそうなのですが……」
「ダメだったのですか?」
「はい。協力する代わりに、教国の教会を置く事を条件に出して来たのです」
「……ま、そりゃこっちから断るわな」
「え、そうなの?」
「……言ったろ。教会のトップが王だって。その王の管轄下である教会を置かせろなんて普通許可しねぇよ」
「ふーん」
「ま、噂じゃ体制に対する不満を持つ者が増えて来ていると聞く。まぁその不満も、勇者の子孫が王を支持しているからという事で抑え込んでいるそうだが……な」
「勇者ってそこまで影響があるのか……」
「そうなんだよ。そこの所を何処ぞの阿呆は分かっていなかったようだがな〜」
「うっ、す……すまん」
「お、名指ししてねぇのに伝わるとはな。自覚あったのか」
「うぐ……」
ロウエンの言葉に俯くアニキ。
「ガウバウ!!」
「おいおい怒るなって。悪かったよ……そうだよな。今そんな事言っても仕方ないよな」
ウルに吠えられ謝るロウエン。
「んで、お前がここにいるって事は何か話があるんじゃないのか?」
「……あ、あぁ。少しな」
「遠慮せず話せよ」
「……じ、じゃあ。セーラについてなんだが……」
俺達の事を見回してからアニキが話す。
「多分、アイツはドレイン系のスキルを持っている……俺からレベルといくつかのスキルも盗んだ」
「ドレインか……厄介だな」
ドレインスキル。
普通の冒険者は覚えないスキルの一つだ。
他者のレベルを奪うレベルドレイン、スキルを奪うスキルドレイン、体力を奪うエナジードレイン、記憶を奪うメモリードレイン。
他にもあるが、有名なのはこの辺りだろう。
アニキの口ぶりからするとおそらくセーラはレベルドレインとスキルドレインが使えるようだ。
「基本的にはスキルドレインで奪えるのは自身も使えるスキル……ますます厄介だな」
「奪われたスキルとかって取り戻せないのか?」
「……取り戻せない事も無いが……」
「どうすれば良い?」
「ドレインすれば良い」
「……マジかぁ」
「それが一番手っ取り早いな。他には強奪のスキルとかがあるが、バカには無理だろ」
「他に方法は?」
「これだな」
そう言ってロウエンが取り出したのは模様が刻まれた石だ。
「これは?」
「蓄石と言ってな。スキルやレベルを一時的に蓄えておける物だ」
「へぇ、そのような物が……」
「エンシさんは初めて見るの?」
「はい。聞いた事はありますが実物は」
「あまり出回っていないからな。ドレイン対策やまだ習得できていないスキルを一時的に使う為に使われるからな。あ、一個一個職人の手作りだからな」
「お、おう……使い方は?」
「石に入れる時は簡単だ。握ってどのスキルを入れるか、レベルをどれだけ入れるかをイメージすれば良い」
「なるほどな。逆に戻す時は?」
「握るでも何でも良い。触れろ。他にもパーティー全員に迅速に付与させる為に石を砕く事もあるな」
「え……そんな使い方もあるのか」
「そんなに無いけどな。緊急の時とか、それこそ数を揃えられなかった時とか、もうボロボロの蓄石だった場合とかだな」
「ボロボロって……」
「そりゃ石だからな」
「……それもそうか」
「貸してやる。これで取り戻せ」
「……良いのか?」
「勘違いするな。今のままのお前じゃ足手纏いだから貸してやるんだ。後でちゃんと返せ」
「お、おう……ありがとうな。ロウエン」
「……フン。三つありゃ足りるか?」
「おう」
アニキに蓄石を投げ渡すロウエン。
「それでちょうど話題にもなったが主。セーラの身柄はどうする?」
ロウエンの言葉を聞いて全員の目が俺に向けられる。
「……城に行った際、出来るだけ生きて捕らえろと言われた。それは仕方ない事だとは思う。でも、抵抗が激しい場合はその限りでは無いとも言われた。それだけだ」
「……了解だ」
「承知した」
「はーい」
「ん、分かった」
俺の言葉に群狼全員が頷く。
「アニキもそれで良いな?」
「勿論だ。それに今の俺では勝てないだろうしな」
アニキの言葉にエラスも頷く。
魔女として裁かれ、帰る場所の無い彼女。捕らえられたとしてもどの道火刑。死ぬ事に変わりは無い。
なら、俺が討っても問題は無いはずだ。
「んじゃまぁ取りあえず俺達の会議は終わりって事で……解散で良いな?」
「あぁ。出発までゆっくりしよう」
俺の言葉を最後に解散したのだった。
「……アニキか」
「……悪い。邪魔か?」
「……いや、んな事ねぇよ」
家の枝に寝転がり、夜空を眺める俺の所に来たのはアニキだった。
「……面白い家だな」
「そうか? まぁ俺達は慣れているから問題無いけどな」
「そ、そうなんだ……」
その時、空の散歩から帰って来たフーが枝に止まる。
「あ、あれ……中で寝ないのか?」
「フーは外で寝る方が好きみたいでな。他にも見張りもやってくれているよ」
「そうなんだ……凄いな」
「あぁ、皆凄いんだよ。俺よりな」
「……そんな凄い奴らのパーティーのリーダーを俺は蔑ろにしたんだな」
「……それはもう良いよ」
「でも」
「どれだけ謝った所で、その過去が変わって無くなる事は無いんだ。気にするのは勝手だが、俺は何も思っていないぞ」
「……そうか」
「……俺にできる事は走る事。走る俺に、振り返る余裕は無いんだ」
「……」
「この足がある限り、俺は走り続ける」
「……あ、おい。どこへ」
「散歩だ。アニキはもう寝ろ。明日の朝の薪割り、アニキが当番だろ」
「あ、あぁ……じゃあ」
「おやすみ……」
「おや……」
俺はアニキの言葉を最後まで聞かずに枝から飛び降り、散歩へと出る。
今の俺には、アニキと実になる話ができる気がしなかった。
つまり俺は、アニキから逃げたのだ。
「……情けないな」
でも、情けなくても進むんだ。
俺には走る事しか特技は無い。
なら、どれだけカッコ悪くても、無様でも進み続ける。
「にしても……」
ウル達の母親が眠る墓の前で足を止めて空を見上げて呟く。
「星はいつ見ても綺麗だな……」
その呟きは誰にも聞かれない。
星にも、届かない。
「はぁ……はぁ……はぁ……疲れた」
翌朝、俺は当番である薪割りの途中で小休憩をしていた。
周囲には大小バラバラの薪が転がっている。
「ヘッタクソだなぁ」
「……ロウエン、さん」
「呼び捨てで良い。ったく、そのやり方は危ねぇって言ってんだろが」
「……すまん」
「慣れないうちは斧を一気に振り下ろすんじゃなく、刃を食い込ませて割れって言ったろうが」
「でもロウエンやハヤテは……」
「そりゃある程度慣れているからな」
「そうか……でもなんで今更」
「何事も経験になる。無駄になる事ってのは諦めた瞬間だ」
「……進み続けている間は無駄じゃないってか?」
「そんな所だな。って、誰に聞いた?」
「……いや、ハヤテが走り続けるって」
「ほぉ〜。そりゃ面白い事を言ったもんだ」
「……心配じゃないのか?」
「んー? そりゃ心配さ。だがな、俺達がどれだけ心配しようが、どれだけ言おうがアイツが進む道はアイツにしか決められない」
「……そ、そうっすね」
「だから、俺達にできる事は結局は一つしかないんだよ」
「ひとつ?」
「アイツが道を踏み外しそうになった時に、全力で引き戻してやりゃ良いんだよ。それが仲間に課せられた一番重要な役目だ」
「……」
「それだけできれば良いんだ。言葉ででも、殴ってでも引き戻してやるのが重要なんだ」
「……」
そう言ってロウエンは薪にするために積まれていた木の一つに斧を食い込ませ、その持ち手を俺に向ける。
「お前はどうだ?」
そして尋ねる。
「お前が道を踏み外しかけた時、引き戻してくれる仲間はいるか?」
そして更に尋ねる。
「お前には、道を踏み外しかけた時に引き戻したい仲間はいるか?」
「……俺は」
斧の持ち手を持って考える。
「……俺にはまだ分からない。でも、俺はハヤテの力になりたい」
「……そうか。まぁそれがお前のやりたい事なら協力はしてやるよ」
「ロウエン……」
「そういえばエンシには謝ったのか?」
「……も、もちろん。謝ったよ」
「何で言ってた?」
「次やったら蹴り潰すと」
「そりゃそうだろうな。くくっ、まぁ頑張れよ。あぁそうそう。昨晩は俺とハヤテの部屋で休んでもらったが、今日からはエラスだっけか。あいつと同じ部屋で寝てもらう」
「……え!?」
「何驚いてんだよ。俺達と合流するまでは同じ部屋で寝てたんだろ? なら問題ねぇだろ」
「そ、それはまぁ……」
「よし、なら問題ないな」
ニヤリと笑うロウエン。
コイツは少し苦手だ。
「……安心しろ。仲間である内は斬らねぇからよ」
「……お、おう」
「んじゃ、薪割り頑張ってな〜」
「おう……」
言うだけ言うとさっさと帰ってしまうロウエン。
やっぱり俺は彼が苦手だ。
そんな事を思いながら俺は残りの薪を割る。
そして二日後、俺はハヤテ達と共に王都へ向かい、騎士達と合流してから盗賊団討伐へと向かう事になる。
俺から奪われた物を取り戻す為に、そして俺とハヤテの心をズタズタにしたクソを倒す為に。
俺はハヤテ達と共に向かった。
お読みくださり、ありがとうございます。
今回はやっと二人が話す事ができましたね。
でもハヤテはあまり話したくないみたいですね。
謝って話したい兄と、謝罪を必要とせずに話したくない弟。
ちゃんと和解はできるのだろうか……
そして前回の事を絶賛ブチギレ中のウルとルフとフー!!
あんな事されたら、当然だよね。
前回もご感想ありがとうございます!!
本当に燃料になっておりまして、感謝です!!
次回はハヤテ視点で討伐回です!!
お楽しみに!!