37話〜手は握る〜
「モーラがね、ハヤテの事が好きだったってコ・ト」
セーラから告げられた言葉。
それを聞いた俺の心は荒れた。
「ハヤテ。落ち着け」
「……分かっている」
ロウエンの言葉に頷き心を鎮める。
荒立った状態では勝てる相手にも勝てない。
「ねぇねぇ無視〜?」
ニヤニヤと笑いながらセーラが話す。
「聴きたいんじゃないのー? なんでカラトとモーラが一緒に行動していなかったのか」
「聞けば答えるのか?」
「分からないよー? 土下座すれば話すかもだし?」
「……」
「アハハッ。ジョーダンだから笑って笑って〜……あんなの、ただの実験よ」
「……実験だと?」
「そ、実験。ヒモリが心移しのスキル覚えたから、アンタの事を好きだったモーラで実験したってわけ。お分かり?」
「……なんのために」
「なんのためにってそりゃぁ、ちゃんとスキルが使えるか〜とか、まぁその程度かなぁ〜。にしてもさぁ、あの時の顔は最高だったわ〜」
「あの時の顔だと?」
「そうそう。私に押さえ付けられて〜、ヒモリに恋心を弄られて〜、ハヤテに向けられていた愛が興味の無いカラトに向けさせられちゃうんだよ? それが本人の意思関係無く強制的にされちゃうの。ぷっ……その時のモーラの涙と鼻水でグチャグチャになった顔。今思い出してもお腹痛くなるわ〜」
「……そうか」
「でさ〜」
「もう良いぞ」
「……は?」
「もう、黙って良いぞ」
「……あ?」
風が吹き抜け、その場にいる者の髪をなびかせる。
「何のつもり?」
「お前を捕らえて騎士に引き渡す。それだけだ」
「……できると思ってんの?」
「その問いに答える義理はない。ただお前は、さっさと地獄に行ってモーラに詫びろ」
「ハッ、元彼だから見逃してやろうと思ってたけど計画変更だわ。おい、アイツは生捕にしろ。連れ帰ってから四肢を落としてオモチャにするから」
「へい。おい、聞いたな」
セーラの指示を受け手下達がそれぞれ得物を手に歩み出てくる。
「……ったく」
「分かっているな、ロウエン」
「極力殺さねぇよ。ま、さっきまでで捕らえた数もあるから多少は事故も起きるかもな」
「……セーラは殺すな」
「そんな事、全員が分かってるよ」
ゾワリと隣に立つロウエンの気配が変わる。
「援護は任せて……と言うまでもないか」
「余波から皆を守ってやってくれ」
「分かった。ユミナはハヤテ達が打ち漏らした敵を頼むよ」
フーから飛び降りたミナモの言葉にユミナは森の中から応える。
「おいおい、俺達の相手を二人でするってのか〜?」
「二人? まさか……」
「おん?」
手下の一人が突如姿を消した。
「な、何が……」
「フー、やれ」
「クルルッ!!」
直後、姿を消した手下が空から落ちてきた。
ドサリという音と共に低い呻き声をあげてから動かなくなる手下。
仲間達が上空を見上げるとそこにいるのはミナモをここに連れて来た飛竜のフー。
ミナモを降ろして早々、行動したのだ。
「ちっ、待てよ。確か他にも……」
「ウギャァ!?」
「まっ、来んなぁぁぁ!!」
「グルァァァァァッ!!」
「ガルルガァァァァッ!!」
別の手下はウルに首に噛み付かれて押し倒され、茂みへと連れ去られる。
更に別の手下はルフに足を噛まれて別の茂みへと連れ去られる。
ただ共通しているのは、その茂みの中から“何か”が噛み砕かれる音がしたという事。
そしてその茂みから、口元から喉にかけて毛を赤く染めたウルとルフが現れる。
「ヒッ!?」
それを見て盗賊団とは言えビビったようだ。
ウル達が近付けば後退る。
先程までの威勢が嘘みたいだ。
「どうした? 来ないのか?」
そこへ刀を抜いたロウエンが切っ先を向けて尋ねる。
「っ、獣の力を借りなきゃ俺達と戦えねぇくせに……」
「や、やってや」
「「グルガアァァァァァァァァァァッ!!」」
「ひぃっ!?」
ウルとルフが声を合わせて吠える。
それと同時に手下達が怯える。
二匹が威圧のスキルを使ったのだ。
その効果で彼等は威圧され更に後退る。
「おら、来ねぇのかよ」
「さっきまでの威勢が嘘のようだな」
「く、来るんじゃねぇよ……」
「グルル……」
「ガルルル……」
「く、来るなって言ってんだろ!!」
槍を持つ俺、刀を持つロウエン、牙を剥いて唸るウルとルフ。
更にそこに
「だ、だずげで……ぐれ」
「だ、頼む……がら」
茂みの向こうへ連れ去られた手下が這いずりながら現れる。
その様を表すのにふさわしい言葉がある。
血塗れ。
ただそれだけで足りる。
それだけで十分だ。
身体中を噛まれ、引っ掻かれ、至る所から出血している。
だが生きている所からすると、ウル達はちゃんと加減をしたようだ。
その結果……
「な、なんて怪我だ……」
「た、助けろぉ……」
「俺達、仲間だろぉー」
痛みに苦しむ仲間へと駆け寄ろうとしてもウル達が唸ってそれを阻む。
すっかり怖気ついた手下共。
だがそれを気にしないバカが一人いた。
「全く情けない。アンタ等それでも男なの?」
「す、すんません……」
「まぁ良いわ。ほら、私には便利なスキルがあるからね……ね、ハヤト。またあの日みたいに、愛しまいましょ?」
そう言って俺を見つめるセーラ。
「これが私のとっておきの盲目の心。これでハヤテの心は私の……」
そこで奴の言葉は途切れる。
ガクンッと体を落とし、片膝をついたのだ。
「は? ……え?」
何が起きたのか分からないのだろう。
目をパチクリさせ、自分の足を見るセーラ。
その足には何と矢が深々と刺さっていた。
「は? あ、え? ……て、テメェかユミナァァァァァァッ!!」
矢を力任せに引き抜きながらユミナが潜む森へ叫ぶセーラ。
その声に返事代わりと言わんばかりに、森の中から放たれた矢がセーラの右肩を貫通する。
「アァァァァァッ!? ユミナァァァァァァッ!! テメェェェェッ!! 私に!! 何してくれてんだオイ!!」
その声に答えるようにまた弓が放たれる。
ビュンッと風を切り、森の中から現れた矢は次は左腕を貫く。
「ギャアァァァァァッ!?」
「せ、セーラさん!?」
「このマヌケがァ !! さっさと矢を抜けぇ!!」
「す、すんません!!」
暴れないよう、手下に押さえつけられ矢を抜かれるセーラ。
だが痛かったのだろう。
「いっ、てぇんだよこのヘタクソ!!」
「ひっ!? す、すんません!!」
「つっかえねぇなお前本当に!! おい」
セーラは別の手下から剣を受け取り、矢を抜いてくれた手下の胸を剣で突き刺す。
「うっ……ど、どうし……て」
「私を不快にさせた時点でお前の価値はねぇんだよ」
「そ、そんな……」
「私の人生だ。私が幸せになる要素以外はこの世界に必要無いの」
「う、うぅ……」
「だ・か・ら、ここで死ね」
ニッコリと、邪悪な笑みで手下を手にかけるセーラ。
分かっていた事だが、そこに俺の知るセーラはいなかった。
俺の背後ではアニキも驚いている。
驚きのあまり、手で口を覆っている。
「そ・れ・でぇ〜? ハヤテ達はぁ、私にとって幸せになる要素なのかしらぁ〜?」
「どう思う?」
「ん〜……そうねぇ、とりあえず。ユミナは私を撃った事を後悔させてあげなきゃねぇ……例えばぁ〜、そうだ。私の馬で汚してあげま」
最後まで聞く必要は無かった。
セーラの頬を一刃の風が撫でる。
「いっ……え?」
フリストさんの所で学んだ事を応用して俺が作ったスキルの風月刃だ。
その名の通り風の刃を飛ばすだけのスキルであり、既に風刃というスキルはある。
俺はそれに少し手を加え、ブーメランのように三日月状の風の刃を飛ばせるようにしたのだ。
その刃がセーラの頬を浅く切る。
「は? え、おい?」
「お前は俺の敵だ」
「……え? えっと〜?」
「聞こえなかったか? お前は俺の敵だって言ったんだ」
「……は、ハァァァァッ!? ふざけた事言ってんじゃねぇぞハヤテェ!!」
髪を振り乱し、身を振りまきながら叫ぶセーラ。
「お前!! 村にいる時はあんだけ好きだって言ってただろうがぁ!! 私が、私も好きだって言ったらヘラヘラ笑ってたろうがぁ!!」
目を見開き叫ぶセーラ。
「抱き付いて!! 胸を押し当てても!! 喜んでも一線は超えねぇヘタレ野郎が!!」
「だから兄貴に変えたか?」
「……ハッ。ちょっと違うかな〜? 私はさぁ、幸せになれりゃ良かったんだよ」
「だから何だよ」
「初めはハヤテで良いかな〜って思ってたんだけどさ〜。カラトが勇者って分かったらさ〜、そっちの方が魅力的に見えんじゃん」
欲望に満ちた目で俺達を見ながら話し続けるセーラ。
「でもさぁ、勇者ってなったら将来の相手の競争率は高い。私でも勝てるかは分からない。だ・か・ら、ハヤテ。あんたと付き合い続けて一緒に旅に出て、旅先で不慮の事故に遭ってもらって、弱ったカラトをやさ〜しく慰めて取り入ろうと思ったんだけどね。その前にカラトが良い具合に弱ってたのよ」
「アニキが?」
「そう。勇者の剣の稽古が大変だな〜って。魔法の方が得意なのにって言うからさ〜……本当にラッキーだったわぁ」
「そんな、セーラ……じゃあ、お前は」
「そういう事。そこからは分かるでしょ? 勇者としての期待。なかなか上達しない剣。それがカラトを精神的に追い込んでいったおかげで……貴方は私の盲目の心にかかってくれたって訳。それもバレないように、少しずつ、少しずつ……気付いた時にはそれが当たり前と思う程深くにね」
「そ、そんな……」
「セーラ、お前って奴は……」
「でもゴメンね〜? 剣じゃなくて魔法をちゃ〜んと習っていたら、今頃は魔王軍の四天王の一人ぐらいは倒せていたんじゃないかな〜? あ、って事は〜。私人類にとって大損害な事しちゃったのね〜♪」
ケラケラヘラヘラと笑うセーラ。
「でもさぁ……私に堕ちたバカラトが一番悪いよねぇ〜?」
ニチャァと下唇を舐めながら笑むセーラ。
こう言っては彼等に失礼だと思うが、それでも呟いでしまう。
「悪魔が……」
「悪魔ぁ? ……おかしな事を言うねぇ? 自分の人生を豊かなものにして、幸せを願う事の何が悪いのかしら?」
「お前……」
槍を握る手に力がこもる。
「アハッ? 何怒ってんの? そんなんだから、時間稼ぎされちゃうのよ」
「時間稼ぎ? ……まさ」
「バクナ!!」
セーラの背後に控える手下どもを飛び越える一頭の馬。
その馬に乗った女性がセーラを馬上へ引き上げる。
「遅いわよ」
「悪いわね。向こうでちょっと厄介な事があってね……っとそうそう。忘れないうちに接続」
次の瞬間、手下達の足が地面にまるで縫い付けられたかのようにビタッと止まる。
「バクナさん!?」
「どう言う事っすか!!」
「騒ぐな騒ぐな。クラックからはアンタ等をどれだけ死なせても良いからセーラだけは連れ戻せって厳命されてんの。お分かり?」
「そ、そんなぁ……」
「って訳だから、足止めの壁。よろしく〜。ほれ」
「ヒヒィィィン!!」
「っ、逃がすか!!」
「逃げるわよ。アンタ達のおしゃべりが無駄に長くて助かったわ〜」
逃がすまいと駆け出す俺。
いくら馬でも俺の足なら追い付ける。
だが馬上のバクナは
「それじゃ失礼〜」
地面に球状のアイテムを投げつける。
そのアイテムは地面に当たるや爆発し、周囲を灰色の煙で覆う。
「っ、煙幕か……」
「ウル!! ルフ!! 追え!!」
視界が悪くともウル達の嗅覚なら追えるはず。そう思ったのだが
「ゲフッ!! ガフゲフ!!」
「ギャウッ!! ゲフガフ!!」
二頭共咳き込み苦しんでそれどころでは無い。
「フー!! 空から追え!!」
「グルァ !!」
煙幕の外にいたため無事だったフーはそのままバクナとセーラを乗せた馬を追いかける。
「……逃したか」
煙幕が晴れた頃にはその場にいるのは当然、置き去りにされた手下達だけ。
そしてしばらくしてからフーも戻って来たが、その表情は明るく無かった。
「で、何でついて来たんだよ」
「その……謝りたくて」
そして更に少し時間は流れて夕暮れ時。
俺達群狼はフリストさんの家に戻って来たのだが、何故かアニキとエラスもついて来た。
室内ではフリストさんや女性陣がウルとルフの鼻の具合を診ているので邪魔にならないように外で話している。
「謝るって別に良いよ」
「いやでも」
「それにアニキも利用されてたんだろ? なら被害者でもある」
「だけど……」
「しつこい男だな。切って良いか?」
「ひっ!?」
刀を僅かに抜き、刃をチラつかせるロウエン。
あ、彼が言うには鯉口を切る、とも言うらしい。
「……でも俺」
「今更謝られたってあの頃の辛かった気持ちが消える訳じゃ無いし、それに」
「そ、それに?」
「アニキが俺を置いて行ってくれたおかげでロウエン達に会えたんだ。そこに関しては感謝だな」
「うっ……」
俺の言葉に項垂れるアニキ。
「わ、私からもお願いします!!」
「お願いって何をだよ」
「このままでは、カラトは勇者としての任を全うできません。そしたら、人類はどうなるか」
「それは勇者であるアニキの仕事だろ。俺に関係無い」
「ですが聖装に選ばれたじゃないですか」
「だからってそのために戦う義務は無いはずだ」
「そうですが」
「エラス。君もそうだ。俺を置いて行ったんだろう?」
「それは……」
「俺を置いて行く事に異議を唱えたか? 少しでも反対したのか? どうなんだ?」
「……」
「答えられないのか? それとも、黙ってホイホイアニキについて行ったのか?」
「……申し訳ありま」
「ふん。シスターが聞いて呆れる」
「返す言葉がありません……」
反論せずにただただ頷き謝るエラス。
俺のご機嫌を取るのが目的だろう。
「今の俺には帰る家がある。帰る場所がある。今の俺はな、その場所に住む人達が傷付かなければ良いんだよ」
「その気持ちは分かります……」
「どう分かるの?」
「……え?」
「まぁ良いや。とにかく俺はアニキに協力する気は無いよ」
「……そ、そこを何とか!!」
どうしても協力が欲しいのか、服が汚れるのも気にせずに額を地面に付けるエラス。
「……アニキは?」
「え?」
「いや、何でも無いよ」
「……」
「お願いします。私にできる事でしたら何でも致します!! 靴を舐める事でも、雑用でも何でも致します。ですからどうか」
「それって俺の方が大変じゃない?」
「で、でしたら身の回りの事全てを致しますから」
「他には?」
「他には……他……う、ウルさん達のお世話も致します!!」
「他は?」
「フーさんのお世話も!!」
「他は?」
「……他、他は……その……えっと」
口籠るエラス。
どうやら思い付かないらしい。
「……ハヤテ。良いんじゃないか?」
「いや、まだだな」
「…………なるほど。そういう事か。ま、やり過ぎ無い程度に勝手にしろ」
ロウエンは俺が言いたい事がわかったのだろう。
肩をすくめると黙った。
だってそうだろう。
アニキが引き下がらずに言い続ければ俺も話は聞いた。
エラスだって頭を下げた。
にも関わらず、俺が少し皮肉を言ったら黙ってしまった。
そんなの、俺が憧れたあの頃のアニキじゃない。
ならば手加減する必要は無いな。
「エラス」
「は、はい」
「顔を上げて」
「……はい」
恐る恐る顔を上げて俺を見るエラス。
「エラスに免じて、協力してやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ。その代わり条件がある」
「じ、条件……なんですか。私にできる事なら」
「今日から俺の女になれ」
「……え?」
驚きのあまり目をパチクリさせるエラス。
アニキも目を見開き、ロウエンは手を顔に当てて俯いている。
「どうした? 何でもするんだろ?」
「で、ですが私が使うスキルには」
「知ってるよ。純潔が必要なんだろう? でももう必要無いじゃないか。だって、聖装に選ばれた俺と一緒にいるんだ。なら、お前が戦う必要なんて無いだろ?」
「そ、それは……」
「それとも何だ? 何でもするってのは嘘だったのか?」
「そ、そんな事は!!」
「無いんだね? なら」
「……はい」
「よし、じゃあ行こうか」
エラスを立ち上がらせ、服に着いた土を払い落とす。
「じゃあアニキ、そういう事だから」
そう言ってエラスを連れて行こうとした時だった。
「っ、すまなかった!!」
アニキが額を地面につけた。
「……何のつもり?」
「俺が、俺がした事は許されねぇ事だと思う。いや、許されねぇ事だ」
「だから?」
「だから、償わせてくれ!! 都合の良い事を言っているのは分かっている!! でも償いたいんだ!!」
地面を向いたまま叫ぶアニキ。
「勝手な事を言うね」
「勝手な事だって事は分かっているんだ!!」
「……」
「あの日に戻れるなら、あの日の俺を殴り倒したいぐらいだ……」
「だから?」
「許してくれとは言わない……せめてものケジメとして、セーラを倒すのを手伝ってくれ。頼む!! 今の俺にはできないんだ!!」
「セーラを倒す、ねぇ……倒した後はどうすんの? 八つ裂きにされても良いの?」
「……構わない」
「俺の目を見て言えるの?」
「構わない!!」
顔を上げて答えるアニキ。
その目は真っ直ぐ、俺の目を見ている。
その目は間違いなく、あの日の目だった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ロウエン」
「ん?」
「斧よこせ」
「……ほいよ」
ロウエンから斧を受け取り、振り上げる。
それでも俺から目を逸らさないアニキ。
俺はそのまま斧を真っ直ぐ振り下ろす。
「……」
「目、逸らさなかったね」
「……逸らしたら、許してもらえねぇ気がしたからな」
「……」
斧はアニキの鼻先スレスレを通り、地面に突き刺さっていた。
「……まだ、完全に許した訳じゃない」
「……ありがとうな」
「……ったは〜。演技するのも楽じゃねぇな。なぁロウエン」
「いや、バレバレだったけどな」
「だよな……」
「……え?」
「えっと、一体何が?」
俺が何をしようとしていたのか理解していたロウエンはクツクツと喉を鳴らすように笑い、アニキとエラスは目をパチクリさせている。
「悪いけど俺、好きでもない女を抱く気は無いよ」
「……え、じゃあ」
「アニキをその気にさせるためさ。ま、賭けだったと思うよ。だってあそこでアニキが動かなきゃそのままエラスとだったんだし」
「……あっ!!」
「荒療法だったと思うよ。でも、目は嘘を吐いていなかったから。だから、ひとまずは許してやる」
「……あ、ありがとう」
「違うだろ」
「え?」
「感謝する相手が違うだろ。一体誰が今日までアニキを支えてくれたんだよ」
「……あっ」
「全く……行こうぜロウエン」
「ん? あぁそうだな……ま、これでしばらくは薪割り当番には困らなさそうだな」
「あぁ……そうだな」
ロウエンと共に室内へ入る。
そんな俺の背後では掠れるような、絞り出すような声でアニキが本当に感謝すべき相手に感謝の言葉を送っていた。
今回もお読みくださり、ありがとうございます。
今回は賛否分かれるかな〜と思っております。
さて、遂にハヤテとカラトがセーラを敵として認識しましたね!!
セーラはセーラでどんどん歪んで行きますが、まぁ良いか。
置いていかれた手下達……彼等はどうなるのか……
前回もご感想ありがとうございます!!
本当にモチベの燃料になっております!!
次回も!!お楽しみに!!