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35話〜凍てついた心〜

後半注意

 雲一つない空の下で薪割りの音が響く。


「った~、疲れた」

「よし、じゃあ次は俺がやるよ」

「ありがとハヤ兄~」


 ユミナから斧を受け取って薪を割る。


(そういや家でも薪割りしてたなぁ……)


 薪を割りつつ、ウインドウッドでの日常を思い出す。

 あの村の人達は元気だろうか。

 家の管理は任せているけど何かお礼を買って帰ろうか。

 買って帰るのなら何が良いだろうか。


(お菓子なら子ども達は喜ぶだろうし、大人達には疲労回復のポーションか? うーん……何が良いかな)


 そんな事を思いながら薪を割る。

 フリストさんの所に来て三日。

 ロウエンがミナモに魔術を教える為に連れて来た地。

 雪によって彩られた地。

 そこに済むフリストという名の女性にミナモは魔術を習っている。

 そのフリストさんだが、まだ三日しか接していないが悪い人では無いようだ。

 ただロウエンに対しては当たりがキツい。


 別れる際に喧嘩でしたのだろうか。

 ただちゃんと食事の用意をしている辺り、完全に嫌いという訳では無いようだ。


 まぁ、俺等のと比べて量は少なめに見えるが、ロウエンは文句を言わずに食べているので良いのだろう。


「にしてもさ、フリストさんって本当教え方上手いよねー」

「え? お前も習ってんの?」

「うん。飛び入りで少しだけね」

「へぇ。良かったじゃん。そんで何習ったの?」

「それは……まだ言えないかな~」

「なんでだよ」

「年頃の女はね、秘密の一つや二つ持ちたいの」

「……そういうものなのか」

「そーゆーものなのー!!」

「そっかぁ……」


 そんな事を話しながら薪を割る。


「今日も習うの?」

「うーん。フリストさんの時間があればね~」

「そうなのか」

「うん。だって私飛び込みだもん。贅沢言えないよ」

「……なんか、大人になったな」

「そう? 当たり前の事だと思うけど……」

「そうかも……な」

「まぁそれに私はさ、狩りの技術は父ちゃんから見て盗んでいたからさ。私に教える為に時間を割いてくれるのが嬉しいってのもあるの」

「なるほどな」

「だから、ちゃんと学ばないと……」


 その言葉を聞いて俺は驚いた。

 俺より歳下でハヤ兄と呼び、怪我をする度に泣きながら俺の所に来ては手当てをしてあげた子が、ここまで真剣に相手と向き合っていたなんて。


(俺も負けてられないな……)


 彼女の姿を見て俺はそう思ったのだった。

 というのも……




 その日の夜。


「った~……疲れた」

「お疲れ様」


 俺もフリストさんに魔術を習っていたのだ。


「お前もあの子達と同じで見込みはあるな」

「そ、そうですか?」

「あぁ。中でも風属性に関してはな」

「そうなんでふか?」

「あぁ。風属性の魔術に関しては適性が高い。その内風属性の魔法も習得できるんじゃないか?」

「魔法、ですか?」

「あぁ」

「……魔術と魔法って何が違うんですか?」

「……そこからか」

「すんません」


 呆れたように言うフリストに思わず謝ってしまう。


「まぁ良い。魔法と魔術をごちゃ混ぜで覚えている奴も今は多いからな……一言で言うなら、適性がある程度あれば覚えられるのが魔術。適性が無いと覚えられないのが魔法だ」

「なんか、スキルと似てますね」

「そうだな。スキルは適性が無いと覚えられないが、魔術はある程度の適性があれば覚えられる。まぁその辺をロウも勘違いしても覚えていたようだがな」

「……ロウエンも勘違いってあるんだ」

「まぁ生きているからな。勘違いもあるさ」


 驚く俺にフリストは、なんて事ないように返す。


「ですね……で、魔術と魔法って他に違いはあるんですか?」

「うーん……そうだな。一言で言うなら魔法の中に魔術がある。他には規模や威力の違いだな」

「規模や威力?」

「そうだ。適性があれば一人でもできるのが魔術。一国家を滅ぼせる程の威力を秘めるのが魔法だな」

「……凄いですね」

「あぁ、そうだな。凄いな」

「……フリストさんは魔法は使えるのですか?」

「……さぁな?」


 笑顔でそう答えるフリストさん。

 氷の様に透き通った笑顔が美しくもあり、怖い。


「……さて、今日の講習は終わりだ」

「え、早くないですか?」

「そうだな。だから残りは」

「残りは?」

「そこに寝ろ」

「はい?」

「うつ伏せに寝ろ。特別にマッサージしてやる」

「え、えぇ……急ですね」

「ここの所頑張っているからな。魔術講習も、薪割りも」

「……ありがとうございます」


 フリストさんが指を鳴らして呼び出したマットにうつ伏せに寝る。

 その後、俺の腰に彼女が乗ると背中にわずかな重みと心地良さが生まれる。


「どうだ?」

「っ……最高です」

「そうか。良かった」

「……」

「……ロウの奴はどうだ?」

「どうだ、と言われましても」

「……そうだな。済まない」

「……あの」

「ん?」

「聞かせてくれませんか。ロウエンの事」

「……全ては話せんぞ。話せるのは、私が聞いた話だけだ」

「はい。もちろんです」

「……そうだな。どこから話したら良いかな」


 しばらく考えた後、フリストさんは話し出す。


「あの日は確か、晴れていたな……うん。晴れていた。晴れていた、良い日だった」


 思い出し、頷きながら話すフリストさん。


「でもアイツは一人でボロボロに傷付いて、私の家の中にいた」

「え!? 中にいたんですか?」

「あぁ。怪我の手当てをしようとしていたのだろうな。捨て犬みたいに怯えていたよ。アイツは……」

「そんな事が……」

「それで訳を聞いたんだがな……仲間に裏切られ、一人で彷徨っていた所私の家を見つけたと言ってな。とりあえず手当てだけはしてやったんだ」

「……」

「アイツからはどこまで聞いている?」

「……傭兵をしているとしか」

「そうか。じゃあ、アイツが魔族という事は聞いていないか」

「え!? ……アイツ魔族なの!?」

「そうだぞ。まぁ、普通の人間と外見の大差が無いからな。気付かなくても仕方ないか」

「そ、そうですか……」


 アイツが魔族である事にかなり驚く俺。

 そんな俺を気にする事なくフリストさんは続ける。


「何もかも失って、行くあてが無いからと私はアイツをこの家に住まわせてやってな……まぁなんていうか。同じ独り身同士。気付けばって奴さ」

「えぇ……」

「時には後から愛が生まれる事もあるのさ」

「……ふ、深いですね」

「ただの言い訳だ」

「そ、そうですか……」

「でも、私ではアイツの傷は癒せなかった」

「……え?」

「アイツが一人だったと言ったろ?」

「はい……それが」

「家族を失っていたんだよ」

「家族を?」

「あぁ。妻子だけじゃない。仲間も失ったと言っていた……その傷を私で埋めようとしていたのだろうな」

「……なんでそれを」


 俺の問いにフリストさんは嫌な顔せずに答えてくれた。


「ある日、寝言で言っていたんだよ。奥さんの名前と子の名をな。泣きながら呼んでいたんだ……まるで、見つからぬ仲間を呼ぶ狼のようにな」

「……」

「それからしばらくしてからだったよ。王都に知り合いがいるからと出て行った……」

「その王都の知り合いってお父さんですか?」

「ん? ……いや、父親とは喧嘩別れしたと聞いているが、王都に父親がいるのか?」

「初めて会った日に王族の護衛についていると……」

「ふむ……それは初耳だ。ま、アイツにも秘密はあるさ」

「……そう、ですね」

「結局私にはアイツの傷を癒す力は無かったのさ……全く、好きになった相手の傷一つ癒せぬとは、情けないよ」

「……」

「こらこら、そこは思っていなくてもそんな事は無いですよと言うところだぞ」

「あ、すみません……そんな事無いですよ」

「……ま、選ばれなかったって訳じゃ無いけどさ、奴が君達を選んだんだ。ロウの事、よろしく頼むよ」

「……はい」

「……頼んだよ」


 フリストさんのおかげでロウエンの過去を少しだけ知る事ができた。


 彼は彼で大切な人達を失っている事。

 そして初めて会った時に言っていた父親の件。フリストさんが言うには彼は父親と喧嘩別れしていると言う。


 そしてなにより、彼が魔族である事。

 これは大きな収穫だろう。


 でも何故彼はそれを黙っていたのだろう。

 知られたら俺達から攻撃されるとでも思ったのだろうか。


 いやそれは無いだろう。

 今の俺達だったら、ロウエンと敵対したとしても勝てるか怪しいし、ロウエンだって無傷では済まないだろうが負けはしないだろう。

 では何故だ。何故黙っていたのだろうか。


「さぁ、マッサージは終わりだ」

「あ、どうも」

「調子はどうだ?」

「……あ、身体が軽い」

「良し良し。そら、もう今日は休め」

「はい、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ。また明日、な」

「はい」


 礼をしてフリストさんと別れ、部屋に向かう。


 フリストさんのおかげでロウエンについて少しは知る事ができた。

 だからだろうか。

 もっとロウエンの事を知りたい。

 そう思うと同時に知って良いのだろうか。

 彼が話すのを待った方が良いのだろうかとも思ってしまう。

 そう思いつつ俺は結局彼といつも通り接し、眠りに就いた。






 時間は少し流れて星が夜空を彩る頃。

 大砂漠にある村は燃え上がり、人々の悲鳴が至る所で上がっていた。


「オラオラァ!! 金目の物と女は頂いて行けぇ!!」

「男も忘れんじゃないよー!!」


 盗賊団の襲撃に遭ったのだ。

 馬に乗り、村人に襲いかかる盗賊の男。

 馬から降り、気に入った男を縛っては拐って行く女。

 彼等は家に押し入り、金目の物を洗いざらい奪って行く。

 中には村人の抵抗に遭う者もいるが、それがなんだと言わんばかりに痛め付ける。


「や、やめて!! 彼を連れて行かないで!! お願いだから!!」

「やめろ離せ!! カナ!! カナ!!」

「ん~? あ、もしかして貴方達ってカップルだったりするの~? なら残念ね~彼氏くんは今から私のモ・ノ。安心なさいな。あんな貧相女の事なんかす~ぐに忘れさせてあげるわ」

「お願いだからユーマを連れて行かないで!! お願い!!」

「あ~もううっさいな~……おい、お前達にあの女やるわ。好きになさい」

「よっしゃー!! 流石はさっすがバクナさん!!」

「俺達の事分かってる~」

「んじゃ、連れてく前にまずは……」

「い、嫌だ!! やだ来ないで!! 嫌ぁぁぁぁっ!!」

「カナァァァァッ!!」


 村の至る所で同じ様な光景が繰り広げられている。

 それは村長の家でも同じで……


「兄貴兄貴!!」

「おせぇぞボケ。んで、他には何かあったのかよ」

「これで全部ですぜ」

「そうかい……しけてんなぁ。村長のくせに全く」


 村長夫婦と息子、そしてセーラは両腕を背後で縛られ、盗賊団団長の前に跪かされていた。


「まぁこんな痩せた土地じゃ仕方ねぇか。なぁ!!」

「全くもってそうですぜ!! ゲヘヘ!!」


 団長の声に応じる様に手下達が笑う。


「頼む!! 金なら全てやる!! だから村の者に手は」

「出すなってか? ソイツァ無理な相談だなぁ?」

「な、何故だ!! 金なら……」

「だって、もう捕っちゃってるも~ん。ガハハハハハッ!!」

「な、なんて事を……この畜生共め!!」

「あーん? 何とでも言えよ負け犬」

「グッ!?」

「あなた!!」

「親父!!」


 団長に蹴り倒された村長を見て息子と妻が声を上げる。

 が、息子は反抗しようとしない。

 縛られているからというのもあるが、そもそも体格が違うのだ。

 息子もそれなりに筋肉はあるのだが、あくまでそれなり。

 対する団長はまさに筋骨隆々と言った具合。

 その筋肉を見せ付けるつもりなのか、着ている服もチョッキのような薄着。

 しかも巨大な斧まで背負っているのだ。

 縛られた状態で何をしても意味は無いと息子は判断したのだ。

 と、そこで


「さ~て、おいそこの金髪女。こっち来い」

「はい」

「ま、待てセーラ!! ダメだ!!」


 団長の言葉に従い立ち上がるセーラ。

 それを止めようと叫ぶ息子。

 だがセーラは


「大丈夫よ」


 そう言って団長のもとへと歩いて行く。

 そして……


「おかえり。待ってたぜ~?」

「ふふ……ただいま」


 団長の手で彼女の腕を縛っていたロープが解かれる。


「……え、な……なんで……」


 その状況を飲み込めない息子。

 この村に辿り着いた彼女を保護し、接して来た彼。

 そんな彼はいつしか彼女に恋を……


「なんで、さっきまで……あんなに」


 していたはずだったのに。


「ふふっ、ふふふ……キャハッ」

「セーラ。君はいったい……」

「ごっめんね~? 私、アンタを利用したの」

「利用って……」

「勘が鈍いわね~。この村のお金を根こそぎ貰うために、アンタに取り入って住み付いてたの。ほら、この村はどの辺りに年寄りが多いとか調べてね」

「そ、そんな……じゃあ君は」

「あ~。好きな訳無いじゃない。ありきたりな愛の言葉とか、それこそ夜だってありきたり過ぎて……演技って気付かなかった?」

「演技……」

「そうよぉ? 盲目の心ってスキルで、貴方を無条件で私を愛する様にしていたの。まぁおかげで、村の中で好きにできたけどね~」

「じ、じゃあ……」

「そ。あなたが私に利用されたおかげで、村がこうなっているの。ごめんなさいね?」

「あ、ぁあぁ……そんな、じゃあ……じゃあ村での君は全て嘘だったのか?」

「んー?」

「怪我をした子どもに手当てをしていた君も、腰の悪いジッちゃんに代わって戸棚を直していた君も、好きな子がいるけど勇気が出せないって言っていた子の相談に乗ってあげていた君も全部……嘘だったって言うのか?」

「そ・う・よ。だってそうした方が信頼されやすいじゃない?」

「そんな……」


 ニンマリと笑いながら答えるセーラと項垂れ絶望する息子。


「そんな、そんな君と……僕は」

「あ~、そう言えば結婚とか言ってたわね~。答えはノーよ」


 そう言うとセーラは息子へと歩み寄り


「顔上げて?」

「……せ、セーラ? ……あぁ、セーラ!!」

「な、なに。うちの子に何をしたの!!」

「お前バカ? さっき言ってたスキルをかけてあげたの。だから今の彼は私に夢中なのよ」

「そんな……ショウマ!! ショウマ目を覚まして!! ショウ……」

「うるせぇよババア!!」

「ヒギャッ!?」


 息子に呼びかける母親の顔を蹴り、黙らせるセーラ。


「あぁ。あぁ、セーラ。大変だ村が……」

「クスッ、そうね……大変ね。でもこれからがもっと大変よ?」

「え? ……それどういう」

「だって……」

「だって? ……か、母さん!!」

「アッ、ハハハハハハ!! 本当にアンタバカね!! そうよその顔!! 偽りの感情から解放されて全てを知った時のその顔……あぁ~、たまらない。その顔がたまらなく好きなの」

「っ……この外道!! クソ女がっ!?」

「おいおい、ボスの女にクソって言うのは、失礼じゃないかい? ボウズ!!」

「ガッ!? ガハッ!! ……ウグッ!!」


 数人の手下に床に押し付けられて殴られ蹴られるショウマ。

 セーラはそんなショウマを見ながら……


「やっぱ男は逞しい人が好き~」

「へへっ。やっぱりお前は悪い女だな~?」

「ん~? 嫌い?」

「いんや、たまんなく好きだぜ」

「えへへ~」


 ボスの熱を確かめるように抱き付いていた。


「ごはっ!! ……ゲフッ!! ぐっ……こ、この……地獄に落ち、やがれ……クソビッ……がっ!!」

「おい!! 今のは聞き捨てならねぇなぁ……もう良い!! ここでぶっ殺してやる!! テメェ等どいてろ!!」

「あん……もう。クラックったら……」


 ショウマの言葉に激昂した団長は背中の斧を手に持ち、彼へとズカズカと迫って行く。


「へ、へへ……地獄に落ち……」


 クラックは真っ直ぐ斧をショウマの頭へと振り下ろした。


「……ったく。せっかくのムードが台無しだぜ」

「フフッ。まぁまぁ、アジトに戻ったら楽しみましょう?」

「そうだなぁ……しばらくはお前にも休みをやらないといけないからな。たっぷり可愛がってやるぜ」

「あらあら、それは楽しみだわ~」


 クラックの腕に抱き付きながら笑うセーラ。

 その笑みは邪悪なものであり、その笑みを見てクラックとまた笑うのだった。

お読み下さり、ありがとうございます。


セーラマジ許さん。

善意で受け入れてくれた村はこうして滅びました……

セーラマジで許さん。


さて、今回でロウエンの過去が少しだけ分かりましたね。

なんと、ロウエン!!妻子持ちだったら!!

でも失っていたなんて……


さて次回は久しぶりアイツ主役で書こうかな……


次回もお楽しみに!!

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― 新着の感想 ―
[一言] モブとはいえ人の命が軽すぎますね。なんという世紀末。悪女は早く処理しなきゃ、汚物は消毒だ~!!
[一言] セーラは天性の悪女って奴だな。だけどハヤテも今のような優しいだけの性格のままだとこの村と同じような末路になりそうだな。 時には冷酷な判断が出来る様にならないと……
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