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34話〜火の次は?〜


「おっ、らぁぁぁっ!!」

「くっ……やるように、なったな!!」

「そりゃ一週間もやれば少しはやれるようになるさ!!」

「達者な口は前からだがな!!」


 今日も屋敷の庭でフォンエンさんと組み手を行う。

 相変わらず投げられてはいるが俺だって投げ返す。もうやられてばかりでは無い。


「良い踏み込みだ!!」

「フォンエンさんの教えのおかげですよ!!」


 彼女の懐に滑り込むように入り、肘を打ち込む。


「おやおや。褒めたら直ぐに緩むタイプかな?」

「いやいや、経験値の差でしょ……」


 俺の肘を受け止めながらニヤリと笑うフォンエンさん。

 だけど俺はすかさずフォンエンさんの足の間に足を差し込み、踵を引っ掛ける。


「えっ!?」

「っ……セイハァッ!!」


 体勢を僅かに崩したフォンエンさんに、今度は肘ではなく肩を打ち込む勢いで背中からぶつかる。


「ちょっ!?」


 普段なら耐えられる一撃も、体勢を崩していれば耐えられない。

 そのまま尻もちをつくフォンエンさん。


「ほいっと」

「いたっ!?」


 尻もちをついたフォンエンさんの足を掴んで持ち上げ、彼女の背中を地面に付ける。


「な、何を!?」

「え? だって師匠の背中を地面に付ければ勝ちでしょ?」

「……全く」


 足から手を離されると苦笑いしながら立ち上がるフォンエンさん。


「確かに、私の背中を付ければ良いと言ったな。うん……よくやった」

「よっし!!」


 褒められ、嬉しさのあまりガッツポーズをとる。

 向こうではゲンエンさんが作った風に乗ってまう五枚の葉を槍で貫くエンシさんや木から吊るされた的を、ロープを矢で切る事で落とす事に成功したユミナがいる。


「ホッホッホッ。見事見事」

「え、あの落とし方で良いんですか?」

「的を落とせとしか言っておらんからな。発想の転換よ」

「確かに的に当てて落とせとは言っていなかったが……屁理屈じゃねぇか?」

「屁理屈も理屈の一つじゃよ。戦いではそうじゃろ?」

「……ま、まぁなぁ」

「道なんてものはいくらでもある。その中から自分に合った道を選べば良いだけじゃ」

「……ふん」

「して、儂からの課題を終えた今。次はどうするのだ?」

「……そりゃ、次に行くさ」

「明日には発つのか?」

「……あぁ」

「また、寂しくなるの〜」

「ったく……あんたもそろそろ良い歳なんだ。そろそろ弟子に譲っても良いんじゃねぇか?」

「ん〜……そうじゃのう。お主のような弟子の帰る場所を守るのも、儂の務めじゃからな。まだしばらくは続けると思うぞ」

「……そりゃ、ありがたい事で」


 朗らかに笑うゲンエンさんと短く息を吐くように笑うロウエン。


「……それってまだ私は未熟という……未熟ですね」


 二人の言葉に落ち込むフォンエンさん。


「ホホホッ……そうじゃなぁ。儂から一本取れたら、考えようかの」

「おいおい爺さん。まだ現役譲る気ねぇな?」

「当たり前じゃ。儂が安心してくたばれるほど、世界が安定しておらんからな……」

「そりゃ、しばらくかかるかもなぁ……」


 スッと。鋭い目をしながら呟くゲンエンさんとロウエン。

 だが二人はすぐにいつもの表情に戻り


「まぁ、明日発つのならお祝いも兼ねてご馳走にするかな」

「そりゃ楽しみだ」

「という訳でフォンエン。頼んだぞ」

「私がですか!?」

「ほう? 儂に手伝って欲しいのか?」

「……い、いえ。手を出さないでください。いつも通りおとなしくしていて下さい」

「ホッホッホッ」


 朗らかに笑うゲンエンさんと呆れ半分怒り半分で慌てて買い物に出かけるフォンエンさん。

 その光景を苦笑いしつつ眺める俺達。

 こうして俺達の一週間に及ぶ稽古は終わったのだった。



 翌日、俺達はここに来た時と同じようにウェイブに荷台を繋いで乗り込んでいた。


「元気でな。我が弟子達よ」

「いろいろとありがとうな爺さん」

「本当にお世話になりました」

「ありがとうございました!!」

「お元気で!!」

「いろいろとありがとうございました」

「ホッホッホッ。良い良い」

「おいハヤテ。これをやる」

「フォンエンさん……これは?」


 御者席に乗り込もうとする俺にフォンエンさんが何かを投げ渡す。

 それはネックレスだった。

 石を菱形に削って作られた飾りに紐を縛るように回して作られたネックレス。


「……これは?」

「私の一族に伝わる魔除けのお守りだ」

「魔除け……ですか」

「あぁ。一応、お前は私の初弟子。何かあっては寝覚めが悪いからな……持って行け」

「ど、どうも……」


 お守りネックレスを受け取り、首にかける。


「長さはちょうど良いようだな。良し」

「本当だ。ピッタリですね」

「……その、なんだ……元気でな」

「……は、はい」

「……おーい。良い感じになっている所悪いんだけど、そろそろ行くぞ?」

「い、良い感じだと!?」

「ホッホッホッ。安心せい安心せい。フォンエンにはちゃ〜んと、心に決めた相手がおるもんな〜?」

「し、師匠!?」

「だからハヤテ。アタックしても無駄じゃぞ?」

「やめてください師匠!! 今日の夕飯、師匠のは水だけにしますよ!?」

「……別に構わんよ?」

「師匠〜!!」

「ホッホッホッ」


 賑やかなゲンエンさん達にそのまま見送られ、カグニスを発つ俺達。

 次に向かうのは……




 カグニスを発ってから五日。俺達は山道を進んでいた。


「うぅ〜……寒い」

「そう? 私平気だけど」

「それはウルを抱いているからでしょ? ほら、私にも譲りなさいよ。ルフはエンシの所だし、フーは前の二人の所に行ったっきり帰って来ないんだから」

「え〜、やだー」

「やだじゃない!!」


 後ろの女子達の会話の通り、暖かかったカグニスと違って今度は寒かった。

 その証拠に山道は徐々に雪に覆われていっている。


「えっと、ロウエン。ここは?」

「帝国領のタドラトスだ。ちょうど帝都の北西に位置している」

「へ、へ〜……」


 かつてアビスドランを倒したイノース山はこのタドラトスに隣接している。

 このタドラトスは年中雪に覆われており、木の枝にも常に雪が積もっている。

 その寒さから住む人はほとんどおらず、ごく少数の民族だけが暮らしている。


「で、今度はここに何の用なんだ?」

「まぁ、ちょっとな……」

「ちょっとって何だよ」

「良いから良いから」


 そう言ってウェイブを進ませるロウエン。

 俺達が向かうのは一体……




「お疲れさん。着いたぞ」

「ざむい〜……」

「わふふふわふわわふ……」

「…………」

「は、早く火を……」

「う〜、冷える」


 ロウエンがウェイブを止めたのは一軒の家の前。家、といってもそこそこ大きい家だ。


「さぁて、アイツはいるかな?」


 そう言いつつ玄関へ向かいノックするロウエン。


「はぁい。どちら様?」

「俺だ。ちょっと用があってな。開けてくれるか?」


 中からの応答に答えるロウエン。

 すると……


「その声、ロウエンか!!」

「っとと……」


 戸が開け放たれると同時に中から鋭い氷柱が飛び出して来たのだ。

 それを躱すロウエン。


「いきなりだな」

「フン。いきなり出て行ったくせに用があるだと? 貴様、どの面を下げ、て……」


 文句を言いながら出て来たのは一人の女性。

 腰まである長い銀髪に氷のように透き通った水色の目。

 肌は雪のように白い女性。

 ただその表情は険しく、敵とまではいかないがあまり良い感情は持っていないようだった。


「……まぁ、連れもいるようだし入れ」

「お、悪いな〜」

「本当だよ……全く」


 文句を言いつつ俺達を招き入れてくれる女性。


「ほら、犬っころと竜。足拭くから来なさい」

「わ、わふ〜」

「わう〜」

「くるる〜?」


 女性に呼ばれ、ついて行きおとなしく足を拭かれる三頭。


「はい、もう良いわよ。散らかさないのなら自由にしてていわ」

「ワフ!!」

「ワウ!!」

「クルルッ!!」

「……さて、と。適当にかけてくれる?」


 スッと彼女が指を振ると何処からともなくソファーが現れるが


「あの、俺の分は?」

「お前は床で良いだろ」

「えぇ〜」

「ふん……」


 ロウエン以外はソファーに座り、ロウエンは床に座る。

 ソファーを用意してくれた彼女は台所の方に行って何か作業を始めている。


「……な、なぁロウエン」

「ん? なんだよ」

「あの人、誰?」

「……あぁ、言っていなかったな。アイツの名前はフリスト。俺の元カノだ」

「え、マジで!?」

「おう。マジだぞ」


 なんと、彼女はロウエンの……


「おい」

「あ、やっべ……」

「余計な事を言ったようだな……ロウ。覚悟は良いな?」

「は、はは……」


 スッと。持って来たトレイをテーブルに置くとフリストさんはロウエンを睨み付け


「その身の芯まで凍るか?」

「わ、悪かったって」


 言葉に温度があるのなら間違いなく凍る温度の声でロウエンに問う。

 がとうのロウエンは何処吹く風と言うように肩を竦めるだけ。

 それを見てフリストさんは呆れるように溜息を吐くのだった。


「……で、そっちの子達は?」

「今の俺の仲間だ」

「へぇ……あれから仲間、できたのね。良かった」

「いろいろあったんだよ。な?」

「あ……遅れました。ハヤテです」

「ミナモと言います」

「エンシです」

「ユミナでーす」

「そんであっちのがフー、ウル、ルフです」

「そう。で、そこの駄犬ことロウを入れて全員って事ね……私はフリスト。ロウが言った通り、ソイツの元カノ。まぁ今じゃ別れて正解だったと思っているけどね。ささ。冷めない内に飲んでちょうだい。温まるから」

「あ、はい……いただきます」


 フリストさんに勧められ、彼女が持って来た飲み物をいただく。

 温かくて甘くて茶色い飲み物。

 初めて飲んだが、とても美味しい。


「……で、ここに来た用件は?」

「道に迷っ……」

「次誤魔化したら凍らせるから」

「はい、サーセンした」

「……ったく。で、本当はどうなのよ」

「あぁ。お前って魔法上手いじゃん?」

「は?」

「だからさ、そこのミナモに魔法教えてやってくれ」

「……ごめん、話が見えないんだけど」

「話すと長くなるぞ」

「じゃあ話して」

「なら椅子をくれ」

「凍らせんぞ?」

「ここに来る前にゲンエンの所に寄ったんだがな。手に余ると言われてしまってな」

「それで?」

「それだけだ」

「長くなると言ったじゃないか」

「手短に纏めたんだよ」

「初めからそうしてくれ……」

「悪かったな」

「はぁ……」

「で、受けんのか? 受けないのか?」

「受ける、と言うまで座るのだろ? ……はぁ、全く」


 グイッとコップの中身を飲み干すフリストさん。


「薪割りぐらいはやってもらうぞ」

「ありがとうな」

「ふん。おい、ミナモと言ったな」

「は、はい!!」

「見た所、エルフ……ハイエルフに近い種族か」

「はい」

「来い。まずは適性を見てやる」

「……えっと」

「安心しろ。素直な子は好きだよ」

「は、はい……」


 フリストさんを追い、階段を上がって行くミナモ。


「さて俺達は薪割りでもするか……」

「そうですね。鍛錬の代わりにはなるでしょうし」

「……俺もやるか」

「あ、私も〜」

「いや、こんなに人数いらんだろ……よし、まずは俺とエンシが薪割りするからハヤテとユミナは休んでろ」

「良いのか?」

「良いの?」

「まかせろ。これでも私は騎士だぞ。薪割りぐらいこなして見せるさ」

「……だ、そうだ。ほれ、行くぞエンシ」

「承知した」


 外に出るロウエンとエンシさんを見送る俺達。

 ソファーに座り、フリストさんが用意してくれた飲み物をまた飲む。

 運ばれた時ほど温かくはなかったが、まだ温もりは残っていた。






「それじゃあ、行って来ますね」

「…………」


 修道服を着た少女がベッドの上の青年に話しかける。

 が、相手から返事は無い。ただ青年は自身の膝を抱くようしてに座っている。


「……遅くならないようにしますからね」

「……」

「……では」


 そう言って修道服を着た少女は部屋を出て行く。

 ここは今ハヤテ達がいるタドラトスにほど近い小さな町の安宿の一室。

 その部屋を借りているのは先程の修道服の少女と、ベッドの上の青年。


 青年の目はどこか虚ろ。

 前までは自慢であったサラサラの金髪も艶がなくなり、今ではパサついている。

 彼はあの日全てを捨てた。

 そしてあの日に全てを失った。

 レベルを吸い出されて奪われた。

 スキルも魔法もそれに伴い奪われた。

 残ったスキルと魔法もあるが今の彼のレベルでは使えない。


 そして金の大半もその時に持っていかれた。

 奪い取ったと思ったら、自分は良いように利用されていただけだったのだ。


 一時は勇者ともてはやされた。

 でもそれも彼女に利用されていただけの事。


 気付いた時は失った時だった。

 かけられていた術は解かれ、盲目から解放された彼を襲ったのは後悔と懺悔の念。


 それに苦しむ彼を見て彼女達は笑って去って行った。

 残されたのは勇者の印と言われるアイテムとエラスという名の少女だけ。


 何故彼女がここに残ったのかは分からない。

 何故彼女が自分を宿に連れて行き、その宿代まで稼いでくれているのか分からない。


 でもおかげで追い出されずに済んでいる。

 彼女が一体どうやって稼いでいるのかは知らない。

 だが、そんな彼でも今の現状ぐらい理解する事はできる。


「……本当に、情けねぇ……なぁ……」


 そう呟くと同時に両目から涙が溢れ出す。

 誰にも聞かれずに彼は泣く。

 独りで泣く。

 彼の名はカラト。ハヤテの双子の兄である。

お読みくださり、ありがとうございます。


火の次は雪…氷でしたー!!


ロウエンの元カノことフリストさん。

ロウエンに対してキツイ態度ですが、過去に何があったのでしょうね……


そして最後に出たよ。

久しぶりのアニキ。

どうやらセーラ達に全てを奪われて安宿で暮らしているようです。

エラスがいなかったらどうなっていた事やら……


…エラス。どうやって稼いでいるんだろうね。


前回のご感想も本当にありがとうございました!!

いや〜、本当に燃料を貰えると嬉しいです!!


次回もお楽しみに!!

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