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30話〜届かぬ想い。届かぬ声〜

思ったより長くなりました。


今回、ちょっと覚悟して読んでください。


「っ、こいつら急に!!」

「愚痴を言っている暇があったら手を動かせ!!」

「分かってるわよ!!」


 (ユミナ)はロウエンさんとエンシさんと共に皇国最大の図書館に来ていた。

 その図書館の名は皇城図書館といい、皇城に隣接しており、皇城に勤める魔導師や騎士達も時折利用している。


 そこに私はスキルについて学びに来ていた。

 私は幼い頃から父親に連れられて狩りによく出かけていた。

 そのおかげで弓はそれなりに使える。

 弓関連のスキルも多少は覚えている。

 でもそのスキルの大半は狩りのために覚えた物。


 魔族といった、ハヤ兄の敵との戦いで必ず役に立つとは限らないスキル。

 だから私は少しでもハヤ兄の役に立てるよう、戦闘で使えるスキルを覚えるためにこの図書館に来ていたのだ。


 結果から言うと私はスキルを覚える事ができた。

 これでハヤ兄の役に立てる。そう思った矢先だった。


 外から轟音が聞こえたのだ。

 何事だと思い、ロウエンさんとエンシさんと共に外へ出る私。

 外に出てまず見たのは燃える建物と逃げ惑う人々。

 そしてその人達を襲う魔獣達だった。

 誰も何も言わない。

 言うまでもない。

 ロウエンさんは刀を抜き、エンシさんは槍を構え、私は弓に矢をつがえて放つ。


「グオォォォッ!!」

「タイラントベアだと? 何故こんな所に!!」

「おおかた誰かが放ったんだろ!!」

「とどめを!!」


 矢が眉間に刺さり、怯んだタイラントベアをロウエンさんとエンシさんが倒す。

 二人とも無駄のない動きで敵をバッサバッサと倒していく。


 エンシさんは騎士だけあってレベルも高く、戦い慣れているように見えた。


 ただ問題はロウエンさんだ。

 以前ハヤ兄から彼は傭兵をやっていたと言う話を聞いた。

 伏せてはいるがおそらく、風月内で一番レベルが高く、経験も豊富。

 そして初めて見る、刀という反りの入った珍しい剣を扱う。


 そして何より彼は、本心を幾重にも隠したうえで本心を話す。

 自分でも何を言っているのか、矛盾している事は分かっている。


 でもそうなのだ。

 狩りで得た感覚がそう告げているのだ。


 彼は間違いなく本心を話している。

 仲間として話している。

 ただその本心は本心にして本心ではない。

 だが話しているものは野心とも違う、敵対心でもない。

 本当に本心なのだ。


 何か重大な事実を隠したうえで。

 その事実を何重にも覆い隠して。

 彼は本心を話す。


 武力による戦いだけじゃない。

 おそらく、舌戦でも彼がこのパーティー内で最強だろう。

 少なくとも私は足元にも及ばない。


 いや、人間でも彼に及ぶ者は少ないだろう。

 それこそ何十年も研磨し、その道を極めた匠でなければ背中は捉えられないだろう。


 それ程までに、私の感覚は彼を化物レベルで捉えているのだ。

 そうしている間にも、彼は魔獣を斬り伏せて行く。


 背負っていた太刀も抜き、双刀で撃破していく。

 返り血を浴びる事も厭わない。

 嫌悪していない。

 まるで当たり前とでもいうように返り血を浴びながら魔獣達を掃討していく。


 その姿は聖騎士の反対。

 対となる存在である魔剣士に見える程に激しいものであり、私に恐怖を与えるものだった。


(ここまで荒ぶる姿……初めて見た。どうして……)


 彼はここまで強いのだろうか。

 彼の過去にいったい何があるのだろう。

 何を見て、何を聞いて、何を経験したらあんな怖い目になるのだろうか。

 知りたい。


 知りたいけど怖い。


「ユミナさん矢!!」

「わ、分かってる!!」


 エンシさんに言われ矢を放つ。

 ただ、一体一体に矢を放っていては敵の数を減らすのに時間がかかる。


 ならばと私は図書館で覚えたスキルを使う。

 そのスキルは放った矢が敵に触れた際に爆発するスキル。

 爆発属性付与というスキルだ。


 が、私がそれを使おうとした時にロウエンさんが振り返り


「慣れないスキルを使うな!!」


 と怒鳴ったのだ。


「え……でも」


 突然の事に狼狽る私。

 するとロウエンさんは


「確かにお前が覚えたスキルは強力だろう。だがな、慣れない事はするもんじゃない。この戦いがルールに則った決闘なら良いが今は違う。お前のミスが俺達でカバーできる範囲なら良いが、カバーできなかった時周囲だけじゃない。お前が傷付く事もあるんだ」

「……あ、それは」

「お前からすれば自分のミスで傷付いたのだから良いと解決できるかもしれん。だがな、その傷付いたお前を見る仲間の事を考えろ」

「……うん。分かった」

「よし。安心しろ。お前の弓の腕はたいしたもんだ。スキルに頼らずとも十分活躍してくれている。自信を持て」

「……ありがとう」


 叱った後にフォローも入れる。

 戦いながらそれをさらっとやる。

 こんな人が上司だった騎士達のやる気も上がるだろうかと思う。


「にしても……主達が遅いな」

「……ハヤテさん、確か療養所に行ってたんじゃ」

「……ユミナ!!」

「は、はい!?」

「ここは俺とエンシで十分だ。療養所までフーに乗って行け!!」

「えぇ!?」

「行け!!」

「は、はい!! ……フー!!」

「ギャォォォォォッ!!」


 呼び寄せたフーに乗り、飛び立つ。


「うっ……これは……」


 飛び立った私はそこで街の様子を理解した。


 民を襲う魔獣達。

 逃げ惑う民。

 魔獣達と戦う騎士達。

 至る所で悲鳴があがり、至る所で誰かが倒れている。


「酷い……」

「グルルゥ……」

「うん。早くハヤ兄の所へ行かないと」

「グルッ」


 フーに指示を出し療養所へと向かう。

 そんな中私は小さな疑問を抱いていた。


(なんで魔獣だけ? ……指示を出す魔族が全然見当たらない……)


 だが今はそんな疑問を解決する暇はないと頭の片隅にへと追いやる。




 フーの背に乗り、療養所へ向かう私。

 その最中でも狙える敵は矢で狙い、騎士達の援護をしたりする。

 騎士達もそれに気付いては私に向かって手を振ってくれた。

 一応役に立てたようだと思っていると


「ギャギャウ!!」

「フー!? ちょっと!!」


 フーが突然急降下し、路地裏にいる二頭のタイラントベアに襲い掛かったのだ。


「っ、襲われている!?」


 しかもそのタイラントベアは誰かを襲っていた。

 助けなくてはと頭が思うより先に私は矢を放っていた。


「ガッ!?」

「ギッ!?」

「ググルァァァァッ!!」


 矢を受けて怯んだタイラントベアの片方を噛み殺し、もう片方の頭を踏み潰すフー。

 私はフーの背中から飛び降り、襲われていた人に駆け寄る。


「大丈夫ですか!! ……って……」


 だけど、途中で足が止まってしまった。

 だって襲われていたのは……


「……ヤテ……あ……ぃ……て、……ま、……す」


 虚ろな目のまま彼女は呟く。


「嘘……どうして……」


 直後、私の手から弓が落ちた。




 (モーラ)が目を覚ました時、初めは驚いた。

 私が覚えているのはあの日、魔族の大軍と戦った日にセーラとヒモリに足を切られ、囮として魔族と共に川に落ちた所まで。


(なんで……)


 どうして川に落とされたんだって。

 あぁそうだ。

 二人にこの戦いが終わったら、一緒に行くからアルさんを殺した事を償ってと言ったんだ。

 その時は分かったと言ってくれたけど、実際は私を口封じするつもりで……


(っ!! ……頭が痛い)


 手で痛む頭を押さえる。

 するとヌルリという感触が。

 慌てて手を見ると掌は真っ赤に染まっていた。


(頭をぶつけたか……)


 簡単な止血魔法を使い、応急処置を済ませる。


(そのあと、どうなったんだっけ……)


 思い出そうとしなくても勝手に思い出してくれる。

 そうだ。確か……


「っ!! ……うぅっ……!!」


 思い出してしまう。

 足を切られ、魔族と共に川に落ちる前にセーラから告げられた真実。

 私の心はヒモリの心移しというスキルによって捻じ曲げられていたこと。


 その結果私が、好きでもない男に恋をさせられていた事。

 そして私が本当に好きだった相手に、酷い仕打ちをしたというものだった。


 それを思い出すと同時にこみ上げてくる吐き気。

 出来る事なら吐き出したいがそれを堪える。


「グルルルゥ……」

「ははっ……病み上がりの私に相手をしろってか」

「ガウゥルルル……」

「上等じゃない……くらいなさい!!」


 目の前で唸るタイラントベアに向かって炎を纏った蹴りを見舞う。

 のだが


「なんで!?」


 炎が出ないのだ。


「まさか……キャッ!?」

「ガアァァァァッ!!」


 炎が無くても敵だと分かったのだ。

 タイラントベアは鋭い爪による一撃を私に打ち込み、吹っ飛ばす。

 防御なんて関係無い。

 私は木の葉のように宙を舞い、背中から壁に叩き付けられる。

 傷口からボタボタと血が垂れ落ちる。


(逃げないと……)


 今の私に勝てる相手じゃない。

 そう判断してその場から逃げ出す私。

 どうやら私がいたのは療養所らしい。


 そこからひたすら駆ける。

 向かう先は街。

 そこに行けば騎士達が助けてくれるだろう。

 そう思っていた。


「嘘……」

「あっ……がっ……逃げ…………ろ」


 タイラントベアやレイジボア、更には危険性の高いシュラトラが倒した騎士を貪り食っていたのだ。


「あ、あぁ……」

「逃げ……ろ!! ……ガハァァァァッ!? ギャァァァァッ!!」


 目の前で食われる騎士。

 丈夫なはずの鎧は噛み砕かれ吐き出される。

 もはや私がどうこうできるレベルじゃない。


 ただ単に、目の前の恐怖から逃げる為に足を動かす。

 背後からは私に気付き、追い始めた魔獣達の足音だけが聞こえる。


(何で。何で何で何で……何でスキルが使えないの!? )


 逃げながら確認する。

 まず分かったのが私のレベルが、28から9にまで下がっていた事だ。

 それに伴い私が使えるスキルも消えている。


 今使えるのは初歩の筋力強化スキル程度。

 あとはいざと言う時のために補助用に覚えていた治療魔法程度だった。


「何で? ……」


 そう呟きながら立ち止まる。

 一応魔獣達は撒けたようなので、考えるついでに体力を回復させる。

 レベルが下がった事もあり、疲れやすくなっていたようだ。


「何でレベルが下がっていたの……」


 一番怪しいのはセーラとヒモリだろう。

 私の足を切った時に何かしたのだろう。

 だが何をした? 

 見た所普通のナイフだったが……々


(まさかエンチャントによる属性付与か効果追加をした? )


 でもそんな事があの二人にできるだろうか。

 そこで私は思い出す。

 ヒモリの家はカザミ村を治めており、様々な書物も置いていた。

 その中にはスキル関連の物も少なくなかった。


(ならばその中に……)


 そう考えると納得できる。

 そう思いながら私は歩き出す。


(アイツ等……クソッ。私は何で早く気付けなかったの……)


 いやそもそもあのパーティーに行かなければ良かった。

 ハヤテが誘われなかったのにカラトは誘われ、私も半ば無理やり連れて行かれた。


(あそこで突っぱねるべきだったんだ……クソッ)


 そう思いながら私は路地裏へ入る。

 例えその後私の居場所が減ったとしても、私はあのパーティーに行くべきでなかったのだ。

 そう、思った時だった。


 ドゴォォォォン!! 


「っ!?」

「グガァァァァァッ!!」

「グルァァァァァッ!!」


 二頭のタイラントベアが壁を突き破って現れ、大口を開けて私に迫って来た。











「……ん、んん…………」


 気が付くと私は、辺り一面満開の花畑で寝ていた。

 頭の感触から誰かに膝枕をしてもらっているみたいだ。


(あれ……私。襲われかけて……)


 頭も怪我した。

 引っ掻かれて血も流した。

 セーラやヒモリに感情を弄られて……そこまで考えていた時だった。


「どうした? モーラ」


 そう言って私の顔を上から覗き込むのはなんとハヤテ。


「え……あれ、何で……」

「何でってそりゃ変な質問だな」

「……え?」

「お前から誘ったんだろ? ピクニックに行きたいって。そしたら眠いから膝枕しろって……ちょっとわがままだぞ?」

「あれ……えっと……」


 今まで見ていたのは、夢? 

 ならばとんでもない悪夢だ。


「ね、ねぇ」

「ん?」

「私達ってどう言う関係?」

「は? ……今更それを聞くのか?」

「お、教えてよ」

「……ったく。恥ずかしい事をずけずけと聞いてくるなぁ」

「教えてよ!!」

「わ、分かったよ……そんなに怒鳴るなって……」


 照れ臭そうに鼻先を指でかきながらハヤテは言う。


「俺達、夫婦だろ。お前からプロポーズして来たくせに……」

「わ、私から?」

「そうだよ……おいどうした? さっきから少し変だ」


 そこまで彼が言ったところで私は彼の顔を引き寄せて唇を重ねる。


「……っ、お、おい……本当に変だぞ?」

「え、へへ……ごめんね。さっきまで凄く怖い夢を見ていたの」

「怖い夢?」

「うん……だから、今が凄い幸せなの」

「……全く。仕方ねぇ嫁だな。お前は」

「えへへ……ね、もう一回キスしても良い?」

「あのなぁ……そんな事聞くなよ」

「えへへ。ありがと」


 もう一度キスをする。

 とても。

 とても幸せな時間だった。


 あぁそうだ。

 私は彼の事が好きだったんだ。

 幼馴染みとしてずっといたから好きなんじゃなくて、異性として、一人の男性として好きだったんだ。


 恋していたんだ。


 愛していたんだ。


 だから、今が幸せだ。


「ハヤテ」

「何だよ」

「名前で呼んでよ〜」

「……何だよモーラ」

「ハヤテ、愛してます」

「あぁ。俺もだよ」


 お互いにニッコリと笑う。

 とても幸せな時間を、私は最愛の人と過ごしたのです。










 路地裏にグチャグチャという湿った音が響く。

 二頭のタイラントベアがモーラの腹部に顔をうずめている。

 そのタイラントベアの口元からその湿った音は発生している。

 もう、モーラは叫ばない。

 激痛のあまり、感覚が無いのだ。

 虚ろな目のまま、ブツブツとうわ言を呟く。


 怖い夢を見たと。


 今が凄い幸せだと。


 名前で呼んでと。


 呟く。


 直後、そのタイラントベアが突如現れた飛竜よって片方は噛み殺され、片方は踏み潰される。

 そしてその飛竜の背から一人の少女が飛び降り、モーラへと駆け寄る。


「大丈夫ですか!! ……って……」


 少女は驚きのあまり足を止める。


「……ヤテ……あ……ぃ……て、……ま、……す」


 そんななかモーラは、虚ろな目で最後の言葉を呟いた。

お読みくださり、本当にありがとうございます。

書いてて辛かった……


モーラの最期は最初から決めていましたが、いざ書くとなると辛かったです……


これも全部……アイツ等のせいなんだって、書きながら悪堕ちしかけました。


前回のご感想。ありがとうございました。

返信を書きながら心の中で泣いていました。

モーラへの応援コメントを書いてくださった皆さん。本当にありがとうございました。

おかげで彼女の最期を書き切る事ができました。

皆さんからの応援コメントがあるからこそ最期を変えてはいけないと思い、書き切る事ができました。

本当に、ありがとうございます。

彼女の救いは、作中ではなくきっと皆さんが応援をしてくれた事だと思います。

重ね重ねになりますが、本当にありがとうございます。


引き続きお読みいただけましたら幸甚です。

次回もお楽しみに。

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