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129話〜面倒でも……〜


「成程……今まで受けた分の仕返しを、聖勇教会の残党は受けていると」

「簡単に言っちまえばそうなるな。だろ? スティラ」

「はい……お恥ずかしい限りです。聖勇教会がここまで恨まれていたなんて……」


 悲しげに俯きながら話すスティラ。

 その話を俺は黙って聞いていた。


 今回の事は俺にも原因はある。

 俺が聖勇教会を邪教と定めたから。

 勇者の発言力の大きさを改めて実感する。


 そして今回も……


「んで、恨まれ憎まれているそのお荷物さんをこっちに押し付けに来たって訳か」

「やめろロウエン」

「だがなぁハヤテ。事実そうだろう?」


 遅れて部屋にやって来たロウエンは、壁に背を預けながら話す。


「教国で俺達抜きで裁判やってよ、出た判決ってのはハヤテに管理を任せて償わせる。これを押し付けたと言わずになんと言う? そこん所を勇者の子に聞きたいねぇ?」

「……」


 左目を瞑りながらガーラッドに尋ねるロウエン。

 対するガーラッドは返す言葉が見つからないといった表情でいる。


 事実そうだろう。

 俺等を省いて出した判決。

 国民や周辺を納得させるのには勇者の肩書きが必要だったのだろう。


「……その事に関しては済まないとは思っている。ただ、君達の力が必要なのも事実なんだ」

「ハッ、笑わせる。同じ勇者だったらお前でも良いだろうに」

「俺ではダメだ。俺はあくまで勇者の血を引く者。勇者の祝福は持ち合わせていないからな……」

「結局は勇者頼りかよ」


 やれやれと言うように肩を竦めるロウエン。


「それだけ、勇者の影響力は大きいって事だ」

「血を引くだけじゃ意味が無いって、大変だねぇ」

「迷惑かけるよ……」

「おいおい、まだ受けるとは言ってねぇぞ。なぁハヤテ」

「……あぁ。そうだな」


 そう返しながらメリットとデメリットを考える。


 まずメリットだが、教国に対して貸しを一つ作れるかもしれない。

 既に教国にはルクスィギスの一件で貸しがある。


 他に何のメリットがあるだろうかと考えるが、思い付かない。

 それに今のスティラに何の力があるだろうか。

 聖女としての力はあるだろうが他に何があるか。

 聖勇教会の力が無い今、ただの聖女だ。

 元聖勇教会と言ってしまえば迫害されるのは目に見えている。

 なら名前を変えれば良いと考えるが、それはそれで面倒事だ。


 次にデメリットだ。

 放り出した後に、俺に追い出されたと叫ばれれば面倒だ。

 それこそ、誰であろうと弱者を守りますなんて言う奴等に良いように利用される可能性がある。

 じゃあ受け入れるかとなった場合、確実に面倒だ。

 仲間に入れるのは簡単だが、問題はその後だ。

 関わる人達に何と説明するか。

 正直に言えば自分で邪教と言った組織の聖女を仲間に加えたのかと言われ、嘘を言えばその嘘を隠す為に更なる嘘を必要とされる。


 ハッキリ言って、面倒臭い相手だ。


(受け入れても放り出しても面倒だな……)


 個人的に考えるとデメリットの方が大きいと思い、俺は群狼内で一番信頼しているロウエンの意見を求める事にした。


「ロウエン」

「何だ?」

「この話、受けるべきだと思うか?」

「そうだな……俺個人としては断りたいが、ハヤテの理想である人と魔族がって奴を目指すのならば受け入れざるを得ないだろうな」

「……人一人受け入れない心の狭い奴がそんな夢を語るなって事か?」

「そう受け取ってもらって構わんよ」

「……」

「おいおいそんな怖い顔するなよ。俺が言ったのはあくまで、俺の想像できる範囲内での言葉だ。あくまで俺の主観しか入っていないよ」

「……いや、ロウエンの意見も一理ある。あの理想を語るくせに、女の子一人受け入れないのかって笑われそうだな」


 ロウエンの言葉に頷き、考えをまとめる。

 メリットだけじゃ無い、デメリットも受け入れなければならない事がこの先増えるだろう。

 この程度のデメリットを許容できずに領地は得られない。

 この程度のデメリットをなんとかできずに、人と魔族が共存できる国作りは無理だろう。


「分かったよ。スティラはこちらで預かる。そう教王に伝えてくれ」

「分かった。必ず伝える」

「レオンも今日はありがとう。ガーラッドを頼む」

「任せろ。我が誇りにかけて、彼を彼の国に送り届けよう」

「ありがとう。助かるよ」


 最後に礼を述べ、解散する俺達。

 レオン達を外で見送った後、俺達は屋敷内に戻る。




「さて、次の問題だな」

「何か心配事でもあるのか?」

「あるに決まってんだろ。俺達だけで決めたんだぞ? ミナモやユミナ達が頷くか」

「そんなの気にする事ないだろ」

「……どうしてだ?」

「簡単だ。スティラを群狼に入れる訳じゃないからな。ただ、ハヤテの領地内に引っ越して来ただけだ。問題は無いだろ」

「もし嫌がられたら?」

「その時はその時だ。ミナモ達を説得するか、スティラを追い出すかだ」

「結局はその二択か」

「人生はいつも、二択の繰り返しさ」

「その二択を誤れば、待っているのは修羅場か?」

「いや……地獄さ」

「地獄…….か。踏み入れたくない領域だな」

「ハハッ。そいつぁ……ちげぇねぇなぁ」


 目を細めながら言葉だけで笑うロウエン。


「あ、そう言えばスティラは今どうしている?」

「あぁ。侍従に言って風呂に入れてる」

「風呂に……そういえば汚れていたな」

「アイツも年頃の娘だ。綺麗な方が良いだろ?」

「そうだな……俺はそういった配慮が足りないな」

「……娘や妻に教わったんだ。まさか、こういう時に役立つとは思わなかったがな」

「そうだな。おかげで助かったよ」


 今は亡き奥さんとの思い出。

 再会できた娘さんとの思い出。


 最近ロウエンは時々出かける事がある。

 どうやら娘さんの所に行っているらしく、生まれたばかりの孫が可愛くて仕方ないらしい。


 この前はマリカに付き合ってもらいながら孫の服を買いに出かけたりしていた。


 だが、絶対に泊まったりはせず、抱きしめる事もしないそうだ。

 その訳を俺は聞いてみたのだが


『血塗れの手で触れて良い相手では無い』


 と寂しそうに言っていた。

 自分には孫を抱く資格が無いと、彼は思っているのだ。


 ただ話せるだけ。

 その姿を見れるだけ。

 それだけでも贅沢だと彼は言っているのだ。


「さて、んじゃ俺はスティラの家でも探してくるかな」

「良いのか?」

「今日は暇だからな。構わんさ」

「そうか……じゃあ頼むよ」

「おう、任せろ」


 スティラの家探しをロウエンに任せて別れる。

 ロウエンが何を考えているのかはまだ分からない。

 ただそれでも、信頼はできる。

 何を考えているか分からないが、彼を信頼はできる。

 信頼するに値する人物ではあると、俺は思う。


「……いや」


 思いたいだけかもしれない。

 そう思う事で、自分が今まで下して来た判断を肯定したいだけなのかもしれない。


 それはある意味で


「ずるい奴だな……俺は」


 そう呟きながら廊下を歩く。

 今日はもう特に用事が無いのでゆっくり過ごそうと思ったのだが、何をしようか。

 久し振りにウル達にブラッシングでもしてやろうかと思ったが、さっき中庭でユミナと昼寝しているのを見た。

 その側にはルフとフーもおり、気持ち良さそうに寝ていた。

 それはもう、起こすのは可哀想なぐらいに。


 なので別の相手と過ごそうと廊下を歩きながら相手を探す。

 年上の余裕さと温かさを持つエンシと過ごすのも良い。

 彼女と過ごしている時は身も心も委ねられる。


 カガリと過ごすのも良い。

 出会いは敵だった。

 憎い相手に復讐するために彼女を弄んだ。

 でもその彼女は、憎いはずの俺を理解しようとし、理解した。

 そして今では、側にいてくれると心が休まる相手になった。

 エンシとは違う安心感を彼女はくれる。


 次にマリカ。

 親の道具にされかけていた彼女は見ていて、面白い。

 マリカは一言で言うならば教養がある子だ。

 その理由は思い出したく無いが、知識はある。

 ただ本物を見たり、実践した事が無い事の方が多い。

 水が冷たいと知っているが、水に初めて触れてそれを体感する子どものように、様々な反応を見せてくれるので面白い。

 一緒にいると楽しいと思わせてくれる。


 と、彼女達を思い出していると前方にマリカを発見。

 最近剣の腕がまた上がったと嬉しそうに言っていたし、技を見せてもらおうと思った俺は彼女に声をかけようと口を開く。


「そうなんですか? カラトさんも色々と教えてくれますから、一緒にいて楽しいです!!」

「そ、そうですか? それなら良かったです。僕も嬉しいですよ」


 楽しそうにアニキと話すマリカを見て声が出なかった。


 両手を合わせてニコニコと笑うマリカ。

 その笑顔は俺にだけ向けられていたはずのもの。

 いや一緒に過ごしている以上、アニキに向けられる事だってあるだろう。

 でも、嫌だ。


 奪われるのではないかと。

 取られてしまうのではないかと。

 不安になってしまう。


 あの笑顔は俺だけに向けて欲しい。

 アニキと話さないで欲しい。


 そんな事を思ってしまう。

 醜い感情がムクムクと膨らんでくる。

 そんな俺を見られたくなくて、踵を返してもと来た廊下を戻る。


 マリカは優しいからきっと、今の俺を見たら心配してしまう。

 だから、今は彼女から離れる事にした。

 彼女の優しさはきっと、今の俺には痛いだけだろうから。




「はぁ……」


 ある程度落ち着きはしたが、俺は別の問題に直面していた。


「ねぇねぇ。そんな顔してどうしたのかしら?」


 そう言うのは俺の左腕に抱き付いているラナ。

 彼女は面白いイタズラを思い付いた子どものように目を細め、ギュッと両腕に力を込めて俺の腕に胸を押し当てながら見上げる。


「怖い怖い、こわ〜い顔。いつもの優しい顔が台無しよ?」


 クスリと笑いながら話す彼女は一見すると美しい美女だが、その正体は魔族だ。

 長い時を生きており、頼りになる人なのだが……


「クスッ。何か嫌なものでも見ちゃったかしら?」


 とても気分屋であり、時折こうしてからかいに来るのだ。


「何を見たのか、教えて欲しいわぁ? ねぇ、カガリ?」

「そうですねぇ。私も知りたいです〜」


 ラナに言われて頷くのは右腕に抱き付いているカガリだ。


 両腕にそれぞれ抱きつく美女。

 俺が逃げないよう、腕に力を入れてくる。


 どうやら二人とも俺が話すまで離す気は無いようだ。


「はぁ……分かった分かった。話すから離せ」

「そうねぇ。カガリが離したら、離してあげても良いわよ」

「そうですねぇ。ラナスティアが離しましたら、離しますよ」

「離す気が無いという事は分かったよ……」


 二人の様子に諦めて白状する。

 マリカがアニキに笑顔で話している所を見て嫌な気分になったと。


 それを聞いてラナはニンマリと笑い、カガリは目をパチクリさせている。


「あらあら〜。フフフッ……嫉妬したのね〜」


 ラナはそう言いながら人差し指で俺の鼻にチョンっと触れる。


「そんなに嫉妬させるなんて、あの子もやるわね」

「別に……その」

「でも、男の嫉妬はみっともないわよ」

「うぐっ……それは」

「そんなみっともない事する暇があるのなら、私達に慰められてみたらどう?」


 そう言いながら俺の腕から離れるラナ。


「生憎とそういう気分には」

「嫉妬して良いと思いますよ」

「カガリ?」


 俺の言葉を遮るように話したカガリ。

 その言葉はラナと違い、肯定するものだった。


「だって、嫉妬するって事はそれだけ相手の事を愛しているって事ですから」


 力を弱めつつも右腕に抱きつきながら、話す。


「嫉妬すらしなくなったら、もうその人の事を愛しているとは言えないと思いますよ」

「カガリ……ありがとうな」

「はう……」


 ラナが見ている前でカガリを撫でてやる。

 髪をすく様に撫でる。

 するとカガリは気持ちよさそうな、うっとりとした表情に変わる。

 可愛い。


 それを見るラナは面白くなさそうな顔で俺達を見ている。

 そんな彼女を無視する様にカガリを撫で続ける。

 俺をからかった罰だ。


 するとラナが動く。


「ねぇ、私もいるんだけど」

「カガリは本当に良い子だな〜」

「ご主人様ったら〜」

「ねぇちょっと」


「いつもありがとうな」

「ご主人様を支えるのが私の役目ですから」

「ね、ねぇ……」


「大好きだ」

「私もです」

「……」


 ついに黙ってしまったラナ。

 そろそろ可哀想かと思い、ラナの頭を撫でる。


「ごめんって。お前の事も頼りにしているからさ」

「……むぅ!!」

「悪かったって」


 頬を膨らませ、そっぽを向くラナ。

 初めて見るその表情、本人に言ったら怒りそうだがメチャクチャ可愛い。


「ねぇご主人様。ラナがご主人様のためにって大浴場を作ってくれたの。良かったら三人で行かない?」


 そんな時だった。

 カガリがそんな魅力的な提案をして来たのだ。

 が……


「冗談じゃないわ。貴方達と一緒に入るなんて……貴方達二人だけで行ったら?」


 機嫌の直らないラナはそっぽを向いたまま。

 ただそのままでは面白くない。

 さっきからかわれた仕返しがまだ少し足りないと思っていた俺は、カガリを腕から離れさせてラナに近づく。


「……何よ」

「ん? お前も一緒に……」

「……ちょっと!?」

「来るんだよ」


 ラナを抱き抱える。

 抱き方は女の子の憧れのお姫様抱っこ。


 そんな事されると思っていなかったラナは俺の腕の中でおとなしくなっている。

 いや、反応を見るに初めてのようだ。


「ぇ、ぇっと……」

「一緒に風呂、行くぞ」

「ま、まだ日が高いわよ……」

「昼間っから風呂に入っちゃいけないって決まりがあったとしても、勇者の力でそんな決まり変えられるよ」

「そんな事に力を使わないでよ……」


 呆れたようにラナは返して来たが、どうやら機嫌は直してくれたみたいだ。


 そのまま三人で新しくできた大浴場へと向かう。


「……へぇ。本当に広いな」

「当然よ。私が作ったのだか」

「ご主人様〜!! 泳げますよー!!」


 大理石の床。

 カガリの言う通り、泳いでも全然余裕のある浴槽。

 その広さは俺達群狼が全員浸かってもなお、余裕があると思われる、ら


「あのねぇ。泳ぐために作ったんじゃ……」

「まぁまぁ良いんじゃない? カガリはカガリで楽しそうにしているしさ。それに迷惑はかけていないだろ?」

「でも……はぁ。分かったわよ。その代わり、さっき寂しかったんだから。ね?」


 そう言いながら俺に抱きつくラナ。

 これから何が起きるのか察したのだろう。

 先程まではしゃいでいたはずのカガリが、背後から抱きついていた。




「良い湯ね……疲れも取れそう」

「うぅ〜……極楽です〜」


 俺の両脇で湯に浸かりながら悦に浸る二人。

 俺は俺で程よい温度の湯に身を委ねながら考え事をしていた。


「……別の女の事を考えるのは失礼ではなくて?」

「……何の事かな」

「おおかた、今日来たあの聖女様の事についてでしょ。ここで上手くやってくれるかどうかって」

「……ラナに隠し事はできないな」

「まぁね。で、どうするの?」


 俺に跨り、両腕を首に回し、目を見つめて尋ねてくるラナ。


「どうするもこうするも……合わないと言われたら出て行ってもらうさ」

「あら意外ね。説得するのかと思ったわ」

「彼女がいたいと思わない所に縛り付ける訳にはいかないよ」


 そう返しながらラナを抱き寄せる。


「それもそうね。少し、考え方が変わったかしら?」

「……そうかもしれない。でも、まだよくは分からない」

「そう。なら、ゆっくり知れば良いわ。貴方自身の事を。もちろん、私の事も……ね」


 そう言って顔を近付けるラナ。


 だが、その時だった。


「あー!! 狡いです!! 私も」

「フフッ、早い者勝ちよ」


 カガリの抗議の声に短く返し、俺とキスするラナ。

 その声音はどこか楽しそうだった。

お読みくださり、ありがとうございます。


スティラ、ハヤテの所でどう過ごすのですかね……

カラト……大丈夫だよね?

嫉妬しないは愛していないと同じと言うカガリの言葉。

皆さんはどう思いますか?

それと拗ねたラナはどうでしたか!?

可愛かったでしょうか!?


ブクマ、ポイント、本当にありがとうございます!!

いつも励みになっております!!

次回もお楽しみに!!

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