122話〜旅先で思わぬ人と……〜
「これで、ラスト!!」
「ミギゲェ!!」
俺の放った氷弾を受け、凍りついたゴブリンが粉々に砕ける。
「そっちも終わったね。お疲れ様っとと」
「ステラさんもお疲れ様です」
ゴブリンを切り倒したステラさんと合流し、抱きつく。
俺達は今日、森に住み着いたゴブリン退治の依頼を受けて来ていたのだ。
「おやおや、甘えん坊さんだな」
そう言いながらステラさんは俺の頭を撫でてくれる。
ただ、すぐに離されてしまった。
というのも彼女、ゴブリンを斬りまくっていたので返り血まみれ。
おかげで俺も返り血が着いてしまった。
「さ、集会所に戻って血を落として少し休もう」
「そうですね。にしても、最近忙しくなりましたね」
「あぁ……そうだね」
俺の言葉に難しそうな顔をするステラ。
だが次の瞬間にはいつもの優しい顔に戻しており、共に滞在している集会所へと戻ったのだった。
次の日俺達はまた新たな依頼を受け、昨日行った森へと来ていた。
依頼内容は昨日と同じくゴブリン退治……だったのだが
「こいつ等……昨日のよりも強い」
「ゴブリン退治の依頼のはずなのに……コイツ等、ホブゴブリンか……」
俺達を取り囲むのは鎧を着込んだゴブリン達。
その手には棍棒ではなく、奪った物と思われる剣や盾、槍を持っている。
しかも中には、武器に属性付与がなされた物を持っている個体もいる。
そんな事、自然界ではまずありえない。
「どうする……ここは一旦下がるか?」
「できれば下がりたいんですけど、ね!!」
飛びかかってきた一体に電撃網を放ち、その動きを止める。
止まった相手をステラが切り倒す。
が、その相手を別の個体が治癒する。
どれだけ倒そうとも復活する相手。
戦うに連れて減っていく俺の魔力。
相手も魔力の消費はあるだろうが、数で勝る相手と俺ではその差は比べるまでないだろう。
そして、ついに……
「うぐっ!!」
「くうっ……は、離せ!! 彼を今すぐに!!」
俺達はホブゴブリンに押さえ付けられた。
うつ伏せで倒され、両手両足をそれぞれ一体ずつが掴み、地面に押し付ける。
魔術の詠唱、スキルの使用ができないよう、俺には布が噛ませられた。
「な、何をする!! 離せ!! 私に触るな!!」
俺の視線の先では仰向けに倒され、押さえ付けられたステラの鎧がホブゴブリン達によって剥ぎ取られていた。
そしてその体をジロジロと見るホブゴブリン達。
やがて奴等のリーダー格と思われるホブゴブリンが、ステラを見て口を開いた。
「コイツは連れて帰ル。我ラの子を産ませル、メスとして使ウ。そっちの男モ連れ帰ル。我ラのメスと子を作らせる種馬に使う」
「ウッギギィ!!」
リーダー格の指示を受け、俺達を巣へと連れ去るべく立ち上がらせるホブゴブリン達。
だが、その時だった。
「悪鬼凍結すべし!!」
森の中を駆け抜けた冷気がホブゴブリン達を瞬く間に凍てつかせたのだった。
「グルゴガァァァッ!!」
更にその冷気から免れたホブゴブリンへと飛びかかるモンスター。
そのモンスターは雪よりも、雲よりも白い体毛でその身を覆っており、更にその身には青い縞模様が走っている。
そのモンスターは強靭な前足でホブゴブリンを押し倒し、地面に押さえつけると反撃させる間も無く頭に噛み付き、砕いた。
モンスターの巨体と屈強な足のおかげで口元は見えないが、聞こえてくる音から察するに原型を留めてはいないだろう。
「ギギャン!?」
続けて一つの首が宙を舞う。
ホブゴブリンの首を切り飛ばした剣。
それを振るった一人の騎士。
「大丈夫か!!」
肩越しに俺を見て叫ぶ騎士。
「もう大丈夫だ。俺達が来たからな」
「……え?」
俺を安心させるように微笑む騎士。
俺達、とは騎士とモンスターの事だろうか。
そう思っていた時だった。
「ウゴオォォォッ!!」
「ッケェェェェン!!」
「グオォォォォン!!」
霊長類タイプ、鳥系タイプ、それと亀の姿をしたモンスターがホブゴブリン達を蹴散らしていく。
「あ、貴方はいったい……」
突然の助っ人に思わず呟いてしまう。
その呟きに、相手はニッコリ笑って答える。
「私か? 私は……って貴方は」
私の名はジュリアス・アイスハルト。
今年で43になる、オーブ王国にて民を守る騎士の一人だ。
が、私の出身はオーブ王国ではない。
パルメチズ王国の出身だ。
パルメチズ王国のアイスハルト卿が母に一目惚れし、猛アタックの末結婚したのだそうだ。
そして産まれたのが私なのだ。
母親の家系の水髪と父親の家系の銀髪がちょうど良く混ざった水銀髪。
父母とお揃いの透き通った翠眼。
背もそこそこ高く、女性からはモテた。
そんな私も結婚をした。
それは今から20年前の事。
相手はオーブ王国の貴族の家の娘。
そこの娘と結婚し、私はオーブ王国に住む事となった。
彼女の家は流通を生業としており、私の実家やフリジシア皇国のシンローラ家とも繋がりがある家だった。
遅くなったが、私の家も物流を生業としている家。
結婚前からパーティー等で何度か会った事はあった。
その娘との結婚生活だが、楽しかったとは思う。
少なくとも、私は彼女を愛していたし、大切にしていたと思う。
やがて子にも恵まれ、私は一層仕事に励んだ。
元より剣の腕に自信のあった私は騎士団に途中入団し、隊を持つまでには至らなかったが隊長の補佐にまで上り詰めた。
そんなある日だった。
翌週に結婚20年目の記念日を控えたある日、私は国境警備の任に就けられた。
期間は半年。
妻には申し訳なかったが、上からの任には逆らえない。
謝罪し、私は国境へと向かった。
結果から言うと、任務は無事に終わった。
入国しようとする者の検査を流れ作業のように行うだけ。
それだけだった。
そして半年後、家に帰ったら私を待っていたのは……
「ごめんなさい……貴方」
妻の謝罪と
「私……」
お腹が大きくなり始めた妻だった。
結論から言うと、妻は子を身篭っていた。
相手はなんと、私が所属する隊の長。
私が支えてきた隊長だった。
突然の事に理解が追いつかない私をよそに、泣きながら話す妻。
出会いは三年前にあった騎士団のパーティー。
そこでお互いに一目惚れしたのだそうだ。
お互いに家庭があったのに妻とも関係を持ってしまったらしい。
そこから私が留守の時に度々会うようになり、時には寝室で二人きりで過ごす時もあったそうだ。
つまり妻は、長い間私を欺いていたのだ。
よくよく思い出してみれば、妻はそれから騎士団のパーティーにちょくちょく顔を出していた。
全く、なのに今の今まで気付かなかった私も私だと、自己嫌悪してしまう。
結局、私達は別れる事となった。
今年で19になる娘のアバランシアは私が引き取る事となった。
娘がそれを望んだからだ。
そうして私はパルメチズ王国にある家に娘と共に帰り、両親に報告。
それから私はフリジシア皇国へと向かった。
というのもフリジシア皇国は母の祖国。
私がオーブ王国で騎士になる際にもいろいろと力を貸してくれたのだ。
結婚の際にも色々と力を貸してくれた事もあり、別れた事を伝えに行ったのだ。
別れた理由がお互いに理由があるのなら良かったのだが理由が理由だった事もあり、パルメチズの家とフリジシアの家が大激怒。
パルメチズの家は妻の家との商いを停止。
自慢ではないがパルメチズの家が扱う商品の品質は国内で三本の指に入る程。
オーブ王国内でも大人気だったのだ。
それに加えてフリジシア皇国の家は、オーブ王国の騎士団にて教導していた騎士を全員引き上げさせたのだ。
それから私は家を出た。
旅に出たいと言い出した娘に無理やり連れ出されたのだ。
その際パルメチズの家からはセイギンタイガーという名のモンスターを私に。
フリジシア皇国の家からはクラックゴリラ、シンティアレイブン、ニトロタートルという名のモンスターがアバランシアにパートナーとして与えられた。
皆、私達に懐いてくれたので非常に助かっている。
セイギンタイガーは雪や雲よりも白い体毛で全身覆っており、青い縞模様を持つ四足タイプの中型肉食獣だ。
屈強な四肢と強靭な顎を持ち、捕らえた獲物を骨ごと噛み砕く。
非常に強力で獰猛なモンスターだが、群れの中での上下関係はしっかりしており、一度上と認めた相手には家族含めて服従という、珍しい性格だ。
その珍しい性格のためか、貴族の中では生まれた赤子を守らせる人もいるらしい。
だがその性格のおかげが、俺の言う事もよく聞いてくれて非常に助かる。
因みに、メスだ。
次にクラックゴリラだが、槍や剣を通さぬ程の剛毛で身を包んだ中型モンスターだ。
人と同じように後ろ足で立つ事は可能だが、普段は拳も地につけて歩いている。
先に剛毛と言ったが普段は柔らかく、警戒状態に入ると毛が一気に硬くなる。
一番の武器はその剛腕による怪力。
自慢の腕を叩きつけて地割れを起こすのは朝飯前。
個体によっては地面を揺らす事も可能な程の怪力を宿すモンスターだ。
因みにだがこのクラックゴリラ、簡単な人語なら話せるぐらいには知能が高い。
更にこのクラックゴリラ、メスの個体数の方が圧倒的に多いためか本能でオスや子どもを守ろうとする。
そのためこの子達も貴族達の中では子どものボディーガードとして飼われているらしい。
次のシンティラレイブンだが、鳥の中では大型に入る部類のモンスターだ。
背に人を乗せられるほど大きくはないが、足で掴んで運ぶ事はできるぐらいの大きさなのがシンティラレイブンだ。
体内に蓄電器官を持っているシンティラレイブンは、静電気を生みやすい羽根に包まれており自身の羽で作った電気を蓄え、獲物を獲る際や戦闘の際に使っている。
性格はとても穏やかだが、いたずら好きとの事だ。
最後にニトロタートルだが、レンガ色といえば良いだろうか。
赤っぽい茶色の大型寄りの中型モンスターだ。
その背に背負う硬い甲羅は大砲の球を容易く弾き返すほど頑丈である。
更に体内では可燃性の液体を分泌しており、それを吐きかける、もしくは着火させて口から吐き、火炎攻撃を行う事で敵を撃退している。
性格は至っておとなしく、攻撃されたり、命令されない限りは基本、争わないモンスターである。
そんな仲間と共に娘に冒険に引っ張り出されたのだが、その旅先でホブゴブリンに襲われていた二人組の冒険者を助けたのだが、その相手がまさかの相手だった。
「あ、貴方はいったい……」
「私か? 私は……って貴方は確か勇者パーティーとして旅に出た」
オーブ王国の勇者と共に旅に出たはずの魔術師カナト氏だったのだ。
「お父さん向こうはあらかた片付いたよ!! って……怪我してるじゃない!!」
ホブゴブリンを蹴散らした娘のアバランシアが合流するなりカナト氏の怪我に気付き駆け寄る。
彼だけじゃない。
彼の仲間と思われる女性の怪我にも気付いた娘は迷わずこう言った。
「とりあえず街まで戻ろう!! そこでならちゃんと治療ができるから!! クラリラはそっちの男の人を。ニートルはこの女性を運ぶの手伝って!!」
「ッホウ!!」
「ンゴォォウ!!」
「シィレイは周囲の警戒」
「グワァァァッ!!」
「はい行動!! お父さんも!!」
娘に仕切られながら、私は彼等を街へと運ぶのでした。
お読みくださり、ありがとうございます〜
ジュリアス……心を強く持ってな……
娘さんのアバランシアは良い子っぽそうですね……今の所は良かった良かった。
20年前に結婚したって辺り、書いてて頭の中こんがらがりました……(数学苦手
にしても、人語を話すホブゴブリン達。
あれなんだったんですかね……
ブクマ、星ポイント本当にありがとうございます!!
お話を考えるのってやっぱり楽しいですね!!
次回もお楽しみに!!