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114話〜不安と心配と〜


「……朝、か」


 窓から差し込む陽射しを顔に受け、(カガリ)はゆっくり起き上がる。


 魔族軍を離れ、群狼に加わって数ヶ月。

 今ではこの生活にもだいぶ慣れたし、皆も私に慣れてくれた……と思う。


 初めは恨んだ。

 仲間を殺した者の下につく事に虫唾が走り、舌を噛み切りたくもなった。

 だが彼はそれを許さなかった。

 首に着けられた隷属の首輪。

 それを通して彼は私が自害できぬように縛った。

 縛って、しばらく側に置いたのだ。


 群狼の仲間がいる時でも、私を側に置いた。

 食事の時は常に隣に座らさせ、閨を共にさせられた。

 彼が何をしたいのかが、当時の私には分からなかった。

 初めは我が身の虜にしてやろうと思っていた。

 だが、私にそれはできない。


 私が彼の虜になったからではない。

 私は、彼を恐れた。

 彼は純粋だ。

 純粋故に、色が無い。

 彼自身の色が無いのだ。


 色が無いから何色にも染まる。

 我が無いから誰の影響も受ける。

 聖装に選ばれ、勇者と呼ばれ、戦場に出れば当然あてにされる。

 生まれてまだ20年も経ってないのにそれは重い責だと、私は思う。


 そしてそこに彼の生い立ちが来る。

 父親を幼い頃に失い、残った母親は兄だけを見て愛し、彼に愛を与えなかった。

 そのせいか彼は私達にその分の愛を求める。


 恋人から与えられる愛だけでなく、母親が子に与える愛を私達年上の恋人に求めてくる。

 私は魔族だが、ハッキリ分かる。

 それは異常だと。

 彼は恋人に、恋人以上の愛を求めているのだ。


 ただ幸いなのはそれを求める先が私やエンシ、ミナモといった年上だけという事。

 彼は壊れかけている。

 崖側ギリギリで踏ん張っている程に壊れている。

 それに彼やその周囲が気付いているのかは分からない。

 分からないが、このままではマズイだろう。


 もし気付いていなかったら、その歪みはたまりいずれ爆発する。

 その時、周囲にどれだけの被害をもたらすかは私には分からない。

 そして何の拍子にそれが爆発するかも分からない。

 ただもし、周囲が彼の歪みに気付いているのなら話しは変わってくる。

 変わってくるのだが……


「カラトは難しいだろうな……」


 ハヤテの兄であるカラト。

 彼はむしろ逆だ。

 側にいるだけでハヤテを追い込む。


 ハヤテが隣で寝ている時、彼の心を見た事がある。

 彼は、兄をまだ許していない。

 許したと口で言っても心が許していない。


 幼い頃、自らも受けるはずだった母からの愛を独り占めした事を恨んでいる。

 むしろ、今までよく爆発しなかったと思う。

 これも、仲間がいるおかげだろうか。


 ただ、これからはどうなるだろうか。

 彼が目指す、人と魔族が共に笑える国を作るという目標。


 それを叶える為に必要な領土を彼なら得る事は問題ないだろう。

 なんせ彼は勇者の祝福を受け、聖装にも選ばれた者。

 欲しいと言えば渡されはするだろう。


 だが彼には領地運営の知識が無い。

 まずそこからなのだ。

 近隣との付き合い方もある。

 そこの所を彼は知らない。


 全てこれからなのだ。


 だが、得られるだけの力を持ってしまった。


 だが、それを叶えるだけの知識を彼は持っていない。

 今の彼にできる事はせいぜい、言う事を聞かない人達を粛清する事ぐらい。

 それでは暴君だ。


 そんな者の下では誰も笑えない。

 彼の願いの最大の敵は今の彼自身なのだ。


「それを分かってくれると良いのだけれど……」


 分かっていないだろうなと、着替えながら呟く。


 加えて私は最近、嫌な予感を胸に抱えている。

 この前、オクリビ山の炎の中に捨てられたセーラという悪魔。

 彼女はまだ死んでいない。


 魔族故の頑丈な肉体と再生能力。

 それが彼女を生かし続け、絶えず苦しめる事となっているのも分かる。

 だが、だからこそ彼女は力を蓄えている。


 よく聞くだろう。

 思いが力を与えると。

 おそらく、今の彼女はそれかもしれない。

 恨み、憎しみ、怒り。

 それをひっくるめて、溶岩に身を焼かれ続ける。


 群狼の人達から聞いたセーラの性格からすると、それは確実だと思う。

 そして外に出た暁にはハヤテに復讐をすると私は睨んでいる。


 だが、その時が来る事を私は望んでいる。

 だってその時がくれば私は、私が愛する者を裏切り、傷付けた愚者をこの手で討つ事ができるのだから。


(あぁ、なんだ……私は私で歪んでいるじゃない……)


 魔族であり、敵対していたが今は違う。

 私は、ハヤテを愛している。

 彼と結ばれ、子を成し、死す時が来るまで隣にいたい。

 今ではそう思っている。

 おそらく、彼の女になった者達全員がそう思っているはずだ。


 そしてそれは同時に、彼を裏切って傷付けたセーラへの憎しみの共有でもある。

 彼女は幸いだ。

 今私達が手を出せない溶岩の中でヌクヌクと過ごせているのだから。

 だから早く出て来い。

 出て来て姿を見せろ。

 そうすれば……


「その首……私が貰い受けよう……」


 鏡に映る私の顔は……






 その頃、聖勇教会ではある話が交わされていた。


「……確か、ハヤテとか言う若造の故郷は」

「カザミ村ですが」

「焼け」

「……宜しいのですか? そのような事をすれば彼からの印象は」

「構わん。噂では奴は人と魔族が共存できる国を作ろうとしていると聞く。誠か?」

「はい。私もそのような話は耳に」

「だからだ。そのような過ちを犯そうとしている奴に警告してやるのだ。魔族は滅ぼす物。共存する者ではないと、教えてやるのだ」

「は、はぁ……」

「不服か?」

「……いえ」

「ならば急ぎ用意をしろ」

「承知しました!!」


 ハヤテの知らぬ所で動き出した悪意。

 その炎は、周り巡って自らを焼く事となると


「故郷という家を無くせば、我等聖勇教会を頼るはずだ……」


 彼等は思いもしないのだった。






 そしてオクリビ山でも動きがあった。


「ひぃ〜、あっちぃあっちぃ。老体に頼む仕事じゃないぜ? 全く」


 火口までヒイコラヒイコラ言いながら登って来たのはロウエンの父、エンジ。

 彼がここに来た目的というのが……


「キバの野郎……使わないなら俺が欲しいとか言いやがって。ならテメェで取りに来いってんだ」


 溶岩の中でグツグツと煮込まれる悪魔を連れ帰る事だった。


「ま、その分良い金もらってんだけどねぇ」


 やりたくねぇ、やりたくねぇと言いながらどう釣り上げようか考えるエンジ。

 その後無事、釣り上げる事に成功するのだが釣り上げられた悪魔はまだ知らない。

 溶岩で焼かれ続ける方が、はるかに良かった事に。


「ウッ……ァァ……ハ、ヤ、テ……コロ、スゥ……」


 彼女はまた、助かってしまった。

 だがこの救いが最後になり、また彼女の最期につながる事となる。

お読みくださり、ありがとうございます。


久しぶりの更新となってしまい、申し訳ありません。

もう一つ、新たに投稿しましてそちらを少々……


さて、最後まで読んだ皆さん、こう言いたいと思います。

しつけぇ、と。

自分でも書いててしつけぇなぁと思って思いましたが同時に、あんな最後で皆さんが納得するだろうか?

否!!

断じて否!!

という結論に至りました。


よって、書かせていただきます。

しっかりと書かせて頂こうと思います。


ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます。

励みに繋がり過ぎるあまり、新作が生まれました!!

そちらもよろしければ読んでいただけると嬉しいです。


次回もお楽しみに!!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  大きな台風が迫ってくるような不穏さがたまらなくいいですね……
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