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100話〜血の価値〜


 アフロティティアと共に水晶の廊下を進む。

 この光景、ローライズ教国にある聖勇教会の教会で見た覚えがある。

 そうだ。確かあの時いた騎士達も女性ばかりだった。


(ここの神族も女性ばかりだし、何か関係あるのか? )


 そんな事を思いつつ歩く。


「そういえば話しってのは」

「はっ、申し訳ありません……話と言うのは、大恩の事なのです」

「うん、すっげぇ気になってたんだよ。その大恩ってのは一体」


 歩きながらアフロティティアが話す。


「貴方様の……ハヤテ様の前にも二人、左肩に星の痣を持つ勇者がいたのです。その方達は私達神族の国を襲った危機から我々を救ってくれた、紛れもない救世主でした」

「その二人ってのが、グリフィルとガスランサスなのか」

「はい。グリフィル様は魔族から、ガスランサス様は人間の欲望から我々を救ってくれました」

「……人間の欲望?」

「はい。私達の血肉に宿る、不老長寿の力を求めた人達の手から私達を救ってくれたのです」

「え……あれって本当だったんだ」

「……はい。ガスランサス様がその後に、そんな力はありはしないと言ってまわってくれたのですが、未だに私達を狙う者がいるという事は、効果はそれ程無かったようですね」

「……」

「あ、申し訳ありません。決して効果が無かったという訳では無いのですがその……」

「いや、良いよ。それよりも俺のご先祖様がここに来ていたとはな」

「……ご先祖様、ですか?」

「あぁ。俺の先祖の知り合いに会う機会があってな。グリフィルが俺のご先祖って教えてくれたんだ」

「そうだったのですね!!」


 って事はグリフィルの子孫であるガスランサスも俺のご先祖様って事か。


「でも本当に、御二方のおかげで私達神族はこうして生きながらえているのです。いえ、私達だけではありません。エルフ族も、セイレーンも……この辺りにいる者達は皆、彼等に感謝しております」

「……そっか。ご先祖様が聞いたら喜びそうだ」

「そう、直接伝えたいですね」


 そう話しながら水晶の廊下を進む。


「もうじき着きますので」

「おう……」


 キラキラ輝く水晶の廊下を進んでいると、やがて見覚えのある広い空間に出た。


「ここです」

「これはまた……凄いな」


 ビッシリと室内を覆う水晶。

 だが最奥の壁を覆う水晶の一部は色が違う。


「ここは?」

「神勇水晶の間と我々は呼んでおります」

「神勇水晶……」

「グリフィル様が我々に授けてくれたのです。有事の際にこれを通して呼びなさいと」

「そうなのか」

「グリフィル様が亡くなられた後には彼と同じく、清らかな勇者様の存在を教えて下さいました」

「それがガスランサス……なのか?」

「はい。今に思えば、グリフィル様の御子孫を教えてくれたのかもしれませんね」

「成程な……その水晶を通して彼等に助けを求めたんだ」


 助けを求めなさいという事は、呼びかけを受け取る側にも似た水晶があったのだろうな。


「はい。そして……」

「……そして?」

「その後、奪われたのです」

「奪われた? それはまたどうして」


 視線を落とし、表情を曇らせるアフロティティア。


「聖勇教会……彼等が奪って行ったのです」

「聖勇教会……」


 やたらと勇者を担ぎ上げるアイツらか、と思い出す。


「どうして……」

「勇者を選定する水晶を独占するとは許せない。人類の平和のために差し出せと言って、突然兵を向けて来たのです」

「酷いな……」

「その時に私達も戦ったのですが……」

「え、戦えるの?」

「はい。我等の中は神闘士(しんとうし)という、ハヤテ様でいう騎士と同じ役職がおりますので」

「成程……」

「ですが数がその……」

「そうか。相手が教会となれば聖騎士達がいるもんな」

「はい……」

「辛いよな……」


 俺の言葉に言葉による返しはなく、ただただ彼女は頷いた。


「……あの時死んだ民も、連れ去られた民も大勢いました。それだけは、それだけは許せないんです」

「……」


 そうか、だから聖勇教会の大水晶は勇者の選定で俺しか映さなかったのか。

 どうして俺が選ばれたのか疑問だったのだが、やっと納得した。

 おそらくあの水晶はグリフィルが何処にいるかを教える為のアイテムだったのだろう。

 それがグリフィルが亡くなり、近い存在を知らせるようになった。

 そしてその近い存在というのは星の痣を持つ者。

 いくら子孫といっても星の痣を持たない者は映さなかったのだろう。


「なぁ」

「何でしょうか?」

「その奪われた水晶の力ってのはまだ残っているのか?」

「多少は……その力で我々は星の痣を持つ勇者様の存在を知る事ができたので」

「そうか……その残った力で、俺の力を見る事はできるか?」

「ハヤテ様の力を、ですか?」

「あぁ」

「できる事はできますが……」

「なら頼む」

「わ、分かりました」


 頷き、水晶に手をかざすアフロティティア。

 彼女が目を閉じ、力を送ると水晶はそれに応じて輝き始める。

 だがその光はか細く、弱々しい。


「っ……くっ」


 やがてアフロティティアの額に玉のような汗が浮かび始める。

 どうやら今の水晶の力を使うと、彼女に負担が大きいようだ。




「お、お待たせ致しました」


 しばらくして水晶の光は消えた。

 それと同時に崩れ落ちるアフロティティア。


「大丈夫か!?」

「……は、はい」


 駆け寄り、慌てて支えるがその息は非常に荒い。

 肩を上下させ、服は汗で湿っている。


「ハ、ハヤテ様に……」

「俺に?」

「ハヤテ様に……伝えなければならない事が……」

「何が分かったんですか?」

「……ハァ、ハァ……ハァ……んっ、ハヤテ様の身には祝福が複数ございます」

「俺には祝福が複数?」


 まぁその可能性はあるだろう。

 俺が持つ勇者・陰の祝福はナサリアによって与えられたもの。

 ならばそれとは別に、俺が本来受けた祝福があっても不思議ではない。


「はい。その祝福なのですが……」


 彼女は一度言葉を切り、呼吸を整えてから告げた。


「勇者・風。それが、貴方が本来受けし祝福。そしてその祝福は今、変化しようとしています」

「変化? ……それはまたどうして」

「分かりません。ですが、何かが混ざった結果変化が生じています」

「混ざった?」

「はい。例えば、コーヒーにミルクを加えるように……別の何かが加わっています」

「……別の何か」

「何か、心当たりは?」

「……あるんだよなぁ」


 多分ミナモの血を飲んだからだろう。


「何か問題、あるか?」

「いえ。おそらく無いとは思います」

「そうなの?」

「はい。前例と言いますか、勇者・火は炎に変わったり、勇者・土から岩が生まれたりした事もありますので……もしかしたら」

「勇者・風から何か別の物に変わるかもって事か」

「はい」

「そういえば覚えてもいないのに水を出せたりしたけど」

「水、ですか……風に、水……」

「風と水……」

「聞いた事はありませんが、勇者・竜巻とかに変化するかもしれませんね」

「竜巻、か……カッコいいな」


 俺の言葉にクスリとアフロティティアが笑う。


「あの、ハヤテ様」

「何だ?」

「貴方様はその力、何に使いますか?」

「……何にって」

「権力を持つ為、欲望を満たす為、願いを叶える為。皆様々な願いを胸に戦います。では、貴方は何を胸に戦いますか?」

「……願い、ですか」


 俺の願い。

 カザミ村を出る前はアニキ達と一緒に旅をして世界を救いたいと思っていた。

 今になって思えば、随分と視野の狭い願いだったと思う。


 村を出てロウエンと出会ってからは特にこれといった願いも無く、ただただ敵を倒していた。

 その内群狼の仲間も増えるに連れ、群狼の仲間やウインドウッドの人達は守りたいに変わった。


 そして今は新しい願いが加わった。

 ウインドウッドでエルフの子が攫われる現場を見た。

 セーラによって人生を狂わせられた人達を見た。

 ひっそりと暮らしているだけなのに、教会に命を狙われた魔族がいた。

 革命の為に戦い、命を落とした者を見た。

 魔族と戦い、お互いに犠牲を出した。


 村を出て俺は、多くの命が消える瞬間に立ち会った。


 そして、命を繋ぐ瞬間にも立ち会った。


 だから、だからこそ俺はある願いに行き着いた。


「……そうだな。可能なら、魔族や神族や人といった種族関係無く、本当に共に暮らせる……国とまではいかなくても良い。そうだな、村とかそんな感じで良いから作りたいな」

「共に暮らせる、ですか?」

「うん。そんな所を作りたいな」

「……作れると、良いですね」

「もし作れたら遊びに来てよ」

「はい、その時はぜひ」


 微笑むアフロティティア。

 もう具合は良いのか、立ち上がると来た道へと歩き出す。


「皆さんの所へご案内致しますので」

「あ、あぁ。ありがとう」


 そう言えばこの国に入ってからは皆と別行動をしていたなと思い出す。


「あの、もしよろしければこの国に滞在する間は城の部屋をお使い下さい」

「良いのか?」

「はい。その方が皆も喜びます」

「そっか……なら、そうさせてもらうよ」

「食事の方も楽しみにしてくださいね」


 そう言って微笑むアフロティティア。


 その笑顔はとても優しいもの。

 だけれどそれは国の長としてのもの。

 辛さも、悲しみも怒りも。

 全てを隠し、民を安心させるための仮面。


 その笑顔を。

 仮面じゃない、本当の笑顔を民に見せてあげたい。


 その為には必要な物がある。

 聖勇教会の奴等が奪ったという神勇水晶。

 それを取り戻す必要がある。

 あれは、この国にあるべき物だ。


 だが群狼だけでは聖勇教会とは戦えない。


 それにもう一つの方の夢も俺の力だけでは叶えられない。


 ならば彼の元を久しぶりに尋ねよう。

 この手の事は彼に尋ねるのが一番だからな。


「あの、皆さん苦手な食材とかありますか?」

「苦手な物ですか? ……特に無いですよ」

「そうですか。それなら良かったです」


 だが今はここで過ごす時を噛み締めよう。


 前まではこんな事を思う事は無かった。

 やはり、何かが俺の中で変わっているのだろう。

 その変化が果たして良い事なのかは分からない。

 分からないが、きっとその変化は悪い物では無いと思う。


 もし悪い変化だったとしても俺には頼りになる仲間がいる。

 きっと彼等が俺を引き戻してくれる。

 そう信じている。




「お、ハヤテ。無事だったか」

「別にとって食われりゃしねぇよ」

「ハヤテー!!」

「っとユミナ……心配させたな」

「全くだよー!!」


 皆が休んでいる部屋に着くならユミナのハグか飛んで来た。

 遅れてやって来たルフとフーも交互に撫でてやると頭を押し付けて甘えてきた。

 そんな中ウルは暖炉の前で休んでいる。


「だいぶ長く話していたようだが……手出したのか?」

「おいおいロウエン」

「何だ。せっかくの美人なのに勿体ねぇなぁ」

「今度ロウカさんに会ったら今の言葉伝えておきますね」

「済まない。それだけは勘弁してくれ」


 そんなやりとりを見て笑う群狼のメンバー。


「皆さん、仲が良いのですね」


 その光景を見て微笑むアフロティティアに俺はこう返す。


「はい。これが俺の大事な仲間なんです」


 そう。彼等は俺の大切な仲間で、家族だ。












「そう。彼本来の祝福は勇者・風なのね」


 魔族領タルガヘイムにある屋敷で彼女は水晶を通し、遠方の様子を眺めながら紅茶を飲んでいた。

 本来ならば敵であるはずの勇者の力を得た者に興味を抱いた彼女。


「勇者・風。滅多に現れず、現れた時は世に新たな風を吹き込む存在……だったかしらね」


 彼女は昔読んだ文献に記されていた一文を思い出しながら呟く。


「……貴方はどんな風を吹き込むつもりなのかしら」


 水晶に映る映像を消し、窓の外へと視線を向ける。


「私もそろそろ、動く頃合いかしら……ね? フェリル」

「……グァゥ……」


 彼女の呟きに応えるように、足元で大人しく伏せをしているレイブウルフが低い声で返した。

お読みくださり、本当にありがとうございます。

気付けばもう100話…早いもんです……

これも全て、読んでくださる皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。


ハヤテの願い、それは人も魔族も神族も、種族関係無く平和に暮らせる国を作る事。

理想ですけれど、難しそうですね……


そしてやらかしていたよ聖勇教会。

ロウカさん達の村を襲った事もありますし、ケジメはつけないと……


そしてラスト。

また誰かが動き出しそうですね……


ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます!!

いつも励みになっております!!本当にありがとうございます。

次回も読んでいただけると嬉しいです。


次回もお楽しみに!!

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