妹きたる!
どうしよどうしよ?w
実家に帰るのはお盆に帰ったのが最後だから2か月半ぶりだ。いつもならお正月まで帰らないから今回はちょっと早い。なぜか兄さんが元気にしてるか無性に気になって早めに帰ってきたのだ。――なんていうのは嘘っ。ごめんなさい。実はちょっと彼氏とケンカしてむかついたので帰ってきただけだったりする。
あ、でも実家に一人で暮らしてる兄さんが心配なのも事実ではある。以前から出不精、引き籠りぎみだったけど、土地を売ってお金に余裕が出来てしまってからは輪をかけて酷くなってしまってる。もういい年なのに付き合ってる人とかもいないみたいで……。ほんと困った兄さんだ。
それにしてもこの辺りはいつ来ても変化ないなぁ。愛車のチンクちゃんから見える景色はまったく変わり映えしなくて退屈だ。ああ、勘違いしないで欲しいのだけど、すっごくきれいな風景ではあるんだよ。きれいなんだけどさ、ほんとな~~んにもないわけ。わかるでしょ? 私はこんなところでの生活は耐えられないよ。まぁ、ある意味兄さんにはぴったりだよね。なにしろ家からほとんど出ないんだから周りに遊ぶところやお店とか……、あってもなくても関係ないもんね。
などと兄をディスってたら実家が見えてきた。兄さん、急に帰ったら驚くだろうな。案外彼女さんとかと一緒に住んでたりしてね? ――ないか。ないよねぇ……。
兄さんの車の横にチンクちゃんを止める。トヨタのなんだっけ、ランドクルーザーだっけ? 無駄に大きい車だから私のが子供みたいに見えるよ。それにしても洗車全然してないのかすっごく汚れてる。お庭とか結構広いけど、そこはちゃんときれいにしてあるのにねぇ。
自分の荷物とお土産を持って玄関へと向かう。うんうん、ここもきれいにしてあるね、感心感心。出不精でもその辺はきっちりしてるとことか、まじめだねぇ。――兄さん、私が来たことまだ気付いてないよね? 静かに入っていきなり呼びかけよう。サプライズだ。
玄関は意外にも鍵が掛かってたので合い鍵で開け、そーっと入る。ふふっちょっとドキドキする。よし、せーのっ、
「兄さん、ただいまーー!」
声を張ってただいまのあいさつをする。玄関広いから声、けっこう響くんだよね~。
って、んん?
え? ちょっと、なにこの靴!
玄関のたたきのど真ん中にすごく小さい、どう見たって子供用の靴が脱ぎ散らかしてある。サイズのぞいてみたら22cmしかないじゃない。なんなのこれ? 他にサンダルとかまである。兄さんの靴はと見渡せばみんな下駄箱の隅っこのほうに追いやられていた。なんか埃かぶってるし……。わけわかんない。表に客が来てる様子もなかった!
「兄さ~ん、いるんでしょー? ……ちょっと、この小さい靴なに? 誰かいるの~?」
ついつい声のトーンを上げ、中に居るはずの兄に声をかける。よもや変なことしてないだろうな! オタクの兄がついにニュース沙汰に――、なんていけないことを想像してしまい、荷物のことも忘れ私は家の中に勢い込んで上がり込んだ。
ずんずん突き進む私。居間、いない! 洋間、いない! キッチンにもいない! むむ、これはやっぱ自分の部屋か! もし私の部屋だったら殴る。
兄の部屋の前に立ち、一呼吸おいてからノックと同時に声をかけ――、
「兄さん、居るんでしょ? 入るよ!」
一気に押し入った。
「ま、まってっ!――あっ、」
ドアを開けたと同時に出迎えてくれたのは幼さの残る声。ちょっと舌足らずだけど、とっても可愛らしい声だった。その子は驚いたのかあっけにとられ、くっきりとした大きな目をまんまるにし、小さなお口をぽかんと開けて呆け顔をしていた。あらやだ可愛い……っていうか、ええ? 銀髪? きれい――、じゃなくて!
「ま、ま、まじなの――」
一応覚悟はしてたけど……、ほんとに居た。しかも、しかも、よりによって居たのは女の子だっ!
おのれ兄さん、いたいけな少女を自分の部屋に連れ込んでいったい何をしてるんだ~~~~!
「に、に、兄さ~~ん! どこにいるのっ! 今すぐ出てきて。隠れたって無駄よ!」
私は大きな声で兄さんを呼びつつ、目の前の女の子の両肩に手を優しく添え、自分の胸元まで寄せる。それにまた驚いたのか私の顔をふわっと見上げてくる。くぅ、なんて可愛いの。この子、銀髪だしよく見れば目の色も変わってるし、まさか外国人? でも顔立ちとかは日本人っぽい感じがするし……、でもそれがまたやわらかな可愛さを引き立ててるよね。
「大丈夫? 変なことされてない? ごめんね、うちの兄がこんなところまで連れてきちゃって」
女の子はいまだ状況が理解できてないのか呆け続けてる。この子ちょっと……あれな子なんだろうか? 可愛いのに……。
「もう、兄さん。いい加減にして! いくら兄妹でも怒るよ。今ならまだ間に合うよ? ほら、早く出てきなさ~い!」
怒鳴ってるうちにだんだんヒートアップしてきた。いらいらする。ほんとどこ行ったのよ、ばか兄さんっ! そんなイラついて一人騒いでる私の前で、呆けてた女の子の表情がふとまじめなものに変わった――。
私をじーっと見つめてきた。
な、なに?
「幸奈! 俺な、その……、目の前にいるから!」
「は、はいっ??」
小さなお口からこぼれた、鈴の音が鳴るかのような可愛いらしい声。そんな声で私に伝えてくれたその言葉は――、私の認識のはるか上を越えていた。