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女の子になったけど淡々と暮らしたい──ちょっと不思議もあるかもね──  作者: あやちん


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まじですか?

少し自傷表現があります。苦手な方はご注意ください。

 家に戻った俺は、荷物を玄関に放り出すとまずシャワーを浴びに風呂へ向かう。なんかもう汗と砂で気持ち悪くってさ。がまんならなかった。


 で、俺はそれに気付いた。


「あれ?」


 左手の指先をじっと見つめる。


「あれれ??」


 ケガ……、してたよな?

 血が出てたよな? けっこう深く切れてたはずだぞ。俺チューチュー吸ってたし。


 でもこれ……、ないよな。

 すみれ色の目でじーーっと見つめる指先は、切り傷どころかささくれや肌荒れ、しみ一つないきれいな肌だ。俺はつい他の指も確認する。間抜けにも反対側の手指まで見てしまう始末だ。


「治ってる……」


 こう結論づけざるをえない。


 むむむ。これどう考えればいいんだ? なんかどこの漫画かファンタジー小説か?って感じなんですけどっ! 切り傷なんて完全に治るには1週間以上は普通にかかるよな? 今日あそこからここまで行って帰ってくるのって実質2時間もかかってないんですけどっ!


 混乱の中なんとかシャワーを終え、髪も生乾きのまま急いで部屋に戻った。もちろんネット検索するためだ。結果はまぁ、予想通りというかやっぱ傷の治りなんてものはどう見ても1週間から10日、深めの傷だったら2週間以上はみとかないとダメなレベルだった。そりゃそうだよな、俺だって今までの人生経験から1週間以上って思ったんだからな。俺は改めて傷があったはずの指先を見る。


「う~~ん、もうどこにあったのかすらわからん。いっそそんなことは無かったんじゃないかって思えるレベルだ。傷跡すら残らないなんて、俺、どうなっちまってるんだ?」


 そんなことをつぶやきつつ、俺はふと悪魔の考えが頭に浮かんだ。簡単だ。傷つけてみてそれを観察すればいい。我ながら怖い考えだがどうにも興味がそれを上回った。早速とばかりにPCデスク脇の引き出しからカッターを出す。あまり使ってないから刃先に錆が浮いてたので先の部分を折る。さらに消毒になるかどうかわからんけど、顔の汗とかふき取るフェイスペーパーで軽く拭った。


「よしやる!」


 俺はカッターをぎゅっと握りしめ、右手首の甲側、ちょっと腕よりあたりに刃先を進める。その辺だとあまり痛くなさそうだし、ケガが治らなかったとしても袖で隠せるから目立たないだろうと思いそこにした。


「うっ」


 腕に沿うように思い切ってやった――痛い。覚悟していたとはいえ、つい声が漏れてしまった。

 見てみると2cmくらいの長さで切れていて、ちょっと深かったのかそこからはぷつぷつと早くも血玉がふき出してきた。さっきのケガの時は気にしてなかったけど、普通に赤かった。あんなこと(もちろん女に変わったことだ)があった後だし、変な色になってなくて良かった。SF映画とか見すぎか。

 せっかくだし、スマホで動画でも撮っておくか。そう思ってベッド脇のテーブルにずっと放置してあったスマホを取り上げようとしたものの、取り落した。なにこれ重い。

 むむ、何でも一番いいものじゃないと気が済まない俺はスマホもハイスペック最上級のものを使ってる。だから端末重量はそれなりにある。


「くっそ、スマホのくせに生意気な」


 気を取り直してPCデスクの椅子にしっかり座り(高さはしっかり調整済だ、ぷらぷらなんてしない!)、万全の体勢で動画撮影を始めようとしたものの、今度は顔認証で蹴られた。


「ざけんなこらっ」


 思わず悪態ついた俺は悪くない。しかも舌足らずな悪態の声が可愛すぎて悪態になってない件。


 ――泣いていい?


 結局ずっと持ったまま動画撮影なんて無理なことに気付いた俺は早々にあきらめ、写真だけ撮ることにした。そっと血をふき取って見やすくしたあと、傷を眺めつつ、そういやあの青い石どうしたっけと思い出す。たぶんジャージパンツのポケットに入れた気がするな。あっ、玄関にスコップとか放り出しっぱなしだわ。などと考えてたらおいおいちょっと待て。


「んなっ」


 変な声を出し、思わず立ち上がってしまう俺。

 白い肌のせいで余計に目立つ赤く腫れあがっていた切り傷まわりが、少しの間に治まっていた。それよりもだ。痛々しく真っ赤に付いてた切り傷がだんだんピンク色に変わっていってるんですけど! 最初は気付かないレベルでじわじわと――それがゆるやかとはいえ早くなっていく感じ。俺はその様子をぽけーっと呆けた顔をして見つめていた。見てる間に治ってくっておまっ、おかしいだろ!


 結局1時間もかからないうちに、俺が付けた傷はきれいさっぱり治ってしまい写真撮る気もおこらなかった。なんなんだこれ。


 って、まてよ――。


 よくよく考えてみればだ。俺がこの体になったときも古傷どころか火傷の跡まで消えたんだよな。それって広い意味で治ったってことになるはず。ずっと昔だけど怪我した跡なわけだからな。そう考えると余計すごいなこれ……。


 俺は自分の体ながらそら恐ろしいものを感じ、思わず両肩を抱きしめそのまま床にぺたりと座りこんでしまった。



 ま、まじですか――。



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