幸音、覚醒?(笑)
朝からなぜか幸奈と晃生が怖い顔してこっち見てるんですが?
っていうか、何で晃生が朝っぱらから家に居るんだ?
『きゅぴ~ん』
幸音ちゃんのアホ毛アンテナに感アリ! むほほぅ。幸奈先生、やりますなぁ……。
むあっ? 目の前に影が大きく広がった。
「あいたっ」
幸奈先生に、わざわざテーブル越しに頭を小突かれたでござる。
「もう、幸音、なんて目でこっち見てるの、真面目にして!」
三人で居間のテーブルを囲んで楽しく談笑……なら良かったのに。現実はそう甘くなく、俺の目の前の二人はすでに臨戦態勢である。くぅ~、こっちはトイレから出たらそのままここに引きずり込まれたというのにぃ。俺は一体どういう状況なのだろうか? むむむぅ……、まだ頭がぼ~っとしてていまいちはっきりしない。俺が悠長にそんなことを悩んでたらお声が掛かった。
「幸音、その様子だと全然自分の今の状況をわかってないようだから……、私から説明する」
「お、お願いします……」
幸奈の横で強く頷く晃生を見つつ、俺はそう答える他、道はない。
俺は素直に、大人しく説明を受けた。
「むむぅ、私、そんなに寝てた……んだ?」
裏山に行ったのは土曜の午前、昼ごはんまでには戻ろうと思ってたから10時くらいだ。今は月曜の7時。うう、学校に間に合う時間だ……。いや、今はそんなことじゃなく、え~~っと……。
「44時間。幸音は土曜日から今の今まで44時間ずっと起きなかったの! これがどれだけ普通じゃないか、幸音にもわかるでしょ? 叩いても揺すっても、何しても反応もなかったの! 今日も今から病院に連れて行く予定だったんだから!」
「ごっ、ごめん……なさい。心配かけちゃって。そのぉ、晃生さんも……あ、ありがとうございます」
涙目でそう訴えた幸奈。俺はもう頭を低くして謝るほかない。なんか心配かけまくったみたいだし……。まったく自覚ないけど。
「うん。まぁ、それはもういいんだけどね。幸音ちゃん自身、あまりわかってないみたいだしね」
晃生の言葉に入っていた肩の力がすっと抜けた。一安心である。
「いいんだけど、聞きたいことは結構あるからね。正直に答えてね?」
ぐはぁ、そう来たか。めんどくさ! でも、もうなんでもこいだ。幸奈もほとんどゲロしてるみたいだし、俺が女の子になったことさえ死守すれば、OKとしよう!
「ペンダントの石。こうなっちゃったんだけど、君は今こうして元気だ。まずはこれかな。目の色も普通に綺麗な赤色だしね。不思議で仕方ないよ」
テーブルの真ん中に置かれたペンダント。嵌められてる石はもうただのガラス、いやガラス以下だなこれ。罅だらけで今にも崩れ落ちそうだ。手に取っても今まで感じていた安心感というか、胸が熱くなってくるような感覚もないし。これ……、俺にとってもただの石だな。
「この石、もう役立たずっぽい……。持ってても何も感じない。なんだろ、裏山でした実験のせいかな? ごめんなさい、ちゃんと答えられない」
「へぇ……、幸音ちゃんにとってもそうなんだ。君の中で一体なにがあったんだろうね? 興味深い……」
「もう、二人とも、そんなことは後回しでいいから。幸音! じゃあ、あなたの体はもうほんとに、なんともないの? その石が無くてももう倒れたりしない?」
幸奈がすごく心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。そんなにジッと目を見つめられると困るんですが!
「うん、大丈夫! すっごく気分いいし、たぶん今までで一番、体調いい」
その後、細々としたことを色々聞かれ、最後に裏山での実験について説明がてら簡単に見せることにした。もう俺の中でそれについて悩むようなことはない。わかるのだから……。
『念の……ため……離れる』
二人の頭にそう送ってやった。
驚いた二人の顔はご褒美です。まだ慣れてないし、意味のある言葉で伝えるのむずいな。
「ふふん、驚いた? 今のが念話かな、たぶん。じゃ、離れてて。大丈夫なよう、頑張るけど……」
庭先の広いスペースで実演する。ガレージから道路へと続く車道には結構砂ぼこりとか落ち葉、溜まってるからな。その辺使おう。前回は一気にやっちまったから、大変な目にあった。今度はじわじわいくぞ。勘はもうあれでバッチリつかんだと思うし……。
「いく、ねっ」
俺はイメージした。視界に妙なモヤモヤというか霞のようなものが重なるのがわかる。透け感たっぷりの、そのモヤモヤを嬲るイメージである。手を動かすと余計感覚掴みやすいな。
刹那、車道にある細かい色々なものが突如巻き起こった風に乗り、渦になって空に舞い上がっていた。結構大きい。直径4、5mはあるかも。
「おおっ、すごいな!」
「ちょっと、幸音、これ……大丈夫?」
むふっ、幸奈の心配遠からずか。埃や葉っぱはいいんだけど、小石も一緒に上がったから、時間と共にそれがパラパラ落ちてきた。
「あぁ、もうっ、幸音! もうちょっと落ちる場所とか考えて!」
「あ、ご、ごめん。気が回らなかった……」
幸奈が落ちてきた小石の貴重な犠牲となった。すまん、落ちるやつのことまで考えられんかった。あ、それも俺が……っと、これは内緒な。
「くくっ、幸奈とろいよね? それぐらい避けたら?」
しっかり避けてた晃生、あ~あ、余計なことを……、しーらね。ま、晃生の明日はともかく、二人には納得するまで見せつけてやった。
「ねぇ、幸音。させておいてなんだけど……体の方はなんともない? また倒れたり、気を失ったりはいやだからね?」
幸奈のマジな問いかけに俺もしっかり答える。
「大丈夫! 今までみたいな不安な感じ、全然ない。もう息するみたいな普通の感覚。加減だってちゃんとわかる。体が疲れるのと一緒、誰だってそれは自然とわかるでしょ? 今はさっきの力だって、そんな感じでわかる」
そう、だから今までみたいに急にぷっつり、なんてことあり得ない。基本的には、たぶん! どうやらこの間の実験で厨二的言い方すれば覚醒ってやつをしたみたいである。くぅ、言っててハズすぎだわ!
「そう……、ならいい」
幸奈はそう言いながらそばに寄ってきたかと思うと、そのままぎゅっと抱きしめられた。相変わらず幸奈の乳はでかい。もげろ!
う~ん、感動的シーンなんだけど……。ずっと寝たままだったし? 起きた時のままだし、お風呂だって入ってないし……。なんかやだな。臭ってないかな? そんなどうでもいいこと考えてる俺だった。
風呂に放り込まれ、身だしなみを整えさせられた俺は、街の病院に連れ出された。結局行くことになんのね。ま、仕方ないか。なんか晃生も付いてきた。もうこの二人、明け透けだな。Dデイは近いと見た!
とは言っても、具合が悪いとこもなく、変な能力のことは言えないしで。いつも通り精密検査を受けただけである。で、いつものごとく結果出るまで1週間待ちな。
三人で待合で精算待ちしてたら『CHAIN』が入った。見れば杏珠からである。
『あんじゅ:学校休んだけど大丈夫なの? お見舞い、三人で行っていいよね? 行くから! 待ってなさいよね!』
『りっか:こら~、幸音の都合も考えろ~』
『りっか:じゃ、行くからさ。待っててね幸音』
『マイマイ:二人とも結局いくんだねぇ』
『マイマイ:もらったプリントとか持ってくね~』
こ、こいつらときたら……。来ることは決定じゃねぇかよ! ったく。
「ねぇ、姉さん、これ……」
俺は横に座ってる幸奈の袖をくいくい引っ張り、スマホを見せる。
「うん、なに? ……ふんふん、う~ん、困った子たちだけど、心配してくれてるんだしねぇ。仕方ない、友だち優先しなさい。ついでだから晃生と戻って、色々話すこともあったんだけど……、明日以降にしよう」
「別に今晩でもいいだろ、俺がまたそっちに行けばいいだけだし」
などと多少ごたついたが、結局、俺は三人組の相手をすることになった。
で、夜はまたなんか話だと……。
やれやれだ。
はぁ、めんどくせぇ~~~!
ネトゲさせろ~~!




