幸音すりーぴんぐストーム
さぶタイはいきおい!
深く考えてはいけないのです
「ふぬっ…………、…………、……ぷはっ」
「むむむむむむぅうっ」
「ぐぬぬぬぁ~」
「んぐぁ~~~」
「うぬぬぬぬにゅあぁ~~」
「ふっとべ~!!!!!」
「うごかんか~~い!」
「浮け~~~~」
「…………」
「むりっ!」
「あほらし……、やめたっ!」
俺は裏山の隕石地点までママチャリをえっちら漕いで、実験しに来ていた。歩いてくる選択肢などない。あるものは使わないとすぐ悪くなるしな!
実験とはもちろん、あの変な訳のわからん謎石パワー? の実験だ。まぁ、そもそも石の力なのか、俺自身で出来てることなのかすら良くわからん訳だが。ま、ここなら家の土地だし、誰の文句も受けん!
色々試してはみた。
隕石孔跡に積もった葉っぱを吹っ飛ばすつもりだった。すまん、吹っ飛ばすはいいすぎた。ざわめかすくらい……かな? うん、そう、それくらい。
念じてみたり。唸ってみたり。力んでみたり。大声出してみたり。
やってて恥ずかしくなってきたわ。誰も見てないだろうな? 見てたら俺、死んじゃう!
「ダメじゃん! ぜんっぜん、ダメじゃん!」
俺、才能ないかもしれん。……って、なんの才能だよ?
「おい、お前! どうやったらあの力、使えんだよっ! 教えてくんない?」
胸元からペンダントを引っ張りだし、目の前でプラプラさせつつ、そう問いかけた。雪解けの水のように透明感のある綺麗な石だ。中心にいくほど赤く染まったその様は、今の俺のほっぺたを連想させる。恥ずかしさで真っ赤であるからして。
……俺は石と会話するなんて痛いことをしてしまった。
幸音は心に深いダメージを負った。
くぅ~~~~っ、はずっ、はずい! 恥ずい! 恥ずかしすぎるっ! 恥ずかしさで熱い、体、熱い!
「……ぬうぇ? まじ熱くなってきた。熱い、熱い、胸熱っ! なにこれ!」
なんかこれ……、なんかこれ、……いける?
わけのわからん、確信めいたものが厨二心に生まれた。あれ?
「吹っ飛べ~~っ!」
思いっきり、力いっぱい念じた。
だからなんで、吹っ飛ばすん? 俺、実は欲求不満なんか?
そう考えたのと起こったことはほぼ同時。
目の前の、もう以前の面影が全く無くなったミニクレーターあと。深さはもう最初の半分くらいだ。そこに更に積もりまくった落ち葉。それも雪の重みでぺしゃんこになって、半分土みたくなってるやつだ。そいつが……、
ビクッとするような乾いた炸裂音と、重苦しいズシリとした音が同時に、ひどく大きく鳴り響いた。
爆風の勢いすさまじく、俺の銀髪が上へ下へとばっさばっさと暴れまくり、煽られてスカートがこれ以上ないところまで捲くれあがった。クマさんパンツ丸見え。くぅ、ショートパンツにすればよかった……。
一瞬の間の後、辺りを包み込むような、ガサガサ、ザワザワと騒々しい耳障りな音とともに、空高く吹き飛んだ土や落ち葉のなれの果てが豪雨のように降ってきた。俺の頭や顔面にも細かい土くれ、粉砕された落ち葉のなれの果てが容赦なく降り注ぎ、もうわやくちゃ、痛いのなんの、ひどいわ!
まさに土砂降りだった――。
くぅ、だ、だれがうまいこと言えと……。
ああ、耳がキーンと鳴って痛い。
体中もう泥だらけ。服の中も、いや、これはもうパンツの中まで入ってきちまったぞ。
あ~~、おろしたてのブラトップキャミが一日でボロに……。胸に当ての付いたやつで、幸奈がせっかく俺の(胸の)成長喜んで買ってくたやつなのに……。
失意と、幸奈に怒られることへの恐怖で、しばし時間を忘れた。
……なかなか前が見えんかったが、ようやく見えてきた。
土煙ひどすぎだっての。
「う、うっそぉ……」
まさかの大穴が開いてた。って訳ではなかった。
「めちゃ期待外れだ……」
あんだけ派手に吹っ飛んでたのでもっと大穴開いてるかと思いきや、広く浅くで、吹っ飛ばしただけだったようだ。要は元のミニクレーターに積もった堆積物がお退きになっただけだったわけだ。ぴょんぴょんクレーターの中心まで降りてみる。
綺麗さっぱり、分厚く積もってた葉っぱ……なくなったな。
これやるのだけでもけっこう大変だと考え直す。
それなりにすごいだろ、これ。うん、これすごい。俺すごい。ジワジワ思いが滲みだす。
「やったぜ、俺! 使えんじゃん、俺!」
興奮覚めやらないとはこのことか。
俺は自らが引き起こした現象に、すっかり頭に血が上り、自分の体調がどんどんまずいものに変わって行っているのに気付くのが遅れ……、
いつものごとく、意識を手放すこととなった――。
「な、なに? 今の音」
幸音が裏山に行くと言って自転車に乗って出かけていったけど、それからまだいくらも経っていない。
「幸音がなにかやったにしても、音が大きすぎるけど……。もう、あの子ったら、一体なにしてるんだろ? う~ん、行かせないほうがよかったかな……。でもあんまり束縛すると逆効果だし……」
最近ようやく、友達も多く出来てきて、外に出やすい環境になってきたし、あまりうるさく物を言うのもどうかと思っているのだ。
「でも、やっぱり心配。様子見に行ってみよう」
そんなことを考えた矢先。
「もう、またっ?」
最近よくありすぎて、慣れつつある自分がいる。
それにしてもこの感情はなんだろ? 驚き? 喜び? 失意? 入り混じってて意味不明すぎ!
何にしろ、行ってみなければ始まらない。私は深いため息を一つついてから、車の元へと向かう。もうね、歩いていくのもあほらしい。車でとっとと行ってしまうことにした。
「な、なにこれ……」
現地に着いて見て、その光景に言葉を失った。
以前見た時は落ち葉に覆われた寂れた雑木林だった。幸音のいうミニクレーターっていうのもほとんど落ち葉に埋もれて確認できなかったし。それがどうだろう、辺り一面に落ち葉と土が入り混じった状態で散乱しているというか……、なんだかまるで、なにかが爆発したような――。
「幸音!」
もう、この子ったら、一体何度私の心臓を縮みあがらせれば、気が済むんだろう!
大きな窪地の中心、そこには、土や落ち葉でドロドロ、ボロボロになった幸音が静かに、眠るように横たわっていた。
「ここで力尽きたって感じなのかな? ほんと世話焼けるわ。一体なにをしでかしたらこんなことになるのかしらねぇ……」
ほんと、これでもかってくらい、全身ドロドロである。あ~あ、髪がバサバサじゃない。幸音はまだまだ女の子としての自覚が足らなさすぎる! 目が覚めたらお説教決定ね。
私は何度目かのため息をつきつつ、幸音をおんぶして運び、4WDのリアシートに寝かせてあげた。それにしても、この子ったら相変わらず軽いこと。早く成長した姿、見せて欲しいものだわ。
この時の私はまだこんなのん気なことを考えていた。
まさか幸音が帰ってからもずっと目を覚まさないだなんて、夢にも思っていなかった――。
全50話くらいで終わりの予定……




