立夏と麻衣
誤字報告ありがとうございます!
俺のカミングアウト発言の後、クラスみんなの反応が、まるで腫物に触るような雰囲気になってて泣ける。
はあぁぁ、自業自得とはいえ、自分の行いに激しく後悔せざるをえん。俺、この先、このクラスでうまくやってけるんか? 自信ねぇ。それに時折り、妙に視線を感じる時があるんだよな。色々悪目立ちしてる自覚ありすぎるので嫌になる。
休憩時間に入り、他の連中はだいたい同じ小学校出身とか、なじみの友達とかで自然に小集団をつくってるようである。あとは俺みたいに一人でスマホいじってるかだな。スマホは特に規制されてない。まぁ目に余るようなら取り上げられて職員室まで涙目で返してもらいに行く羽目になると。
俺の席は、五列あるうちの真ん中の列、しかも一番前である。くぅ、末永先生~。ちびとはいえ……、最前列だなんてヒドイと思うの。早急な席替えを要求する!
ちなみに聡は一列窓よりの最後尾である。奴もなじみ連中と、だべってるようである。う、羨ましくなんかないんだからね!
席順はどうやら五十音順で並んでるようだけど、なんか俺だけ、そのルールから微妙に外れてて憤慨しきりである!
「あ、あのっ、北美さん。対面式、一緒に行かない?」
声をかけてきたのは俺の左後ろの方に座る女の子だ。俺よりほんの20cmくらい背が高いだけの、可愛さより凛々しさが目立つ子である。だが胸はない。
「は、はぇ? えっと……」
まっず、俺、名前なんも覚えてないわ、ど、どしよ。
そんな俺の様子に、その子が苦笑いしながら続けた。
「もう、私は志倉、志倉立夏だよ、北美幸音ちゃん?」
「ご、ごめん。えっと、志倉……さん。対面式、私と一緒で、……いいの?」
対面式とは、えらそうな上級生と、か弱い新入生が面と向かって、ガンたれ合う儀式のことである。まぁ異論は認める。
「うん、いいよ、いいに決まってる。隣の咲元さんも一緒だけどかまわないよね!」
視線を追って左横を見たら、ぽっちゃりさんがはにかみながら小さく手を振ってきた。おおぅ、胸おっきいね君、机に乗ってるよ。
対面式のため体育館にクラスごと移動となった。隣のクラスもすでに移動を始めてる。
騒ぐな走るな、並んで歩けって、末永の指示が飛ぶが、中学にあがったばかりのガキどもはそう容易く制御できないのである。騒がしさを振りまきながらの移動となる。
「幸音ちゃんって呼んでいい? 私のことも立夏でいいし。麻衣もそれでいいよね?」
「うん、いいよ。幸音ちゃん、私、咲元麻衣だよ、よろしくね」
立夏ちゃんに、麻衣ちゃんか。まさかこの俺に声かけてくるとは。中学女子の行動力もあなどれんな! なんて思ってたらこいつらにも色々あるらしい。
「私と立夏は同じ小学校なんだよ。あと男子で藤原と月島がそうなんだけどね」
ほぉ~ん、どんな些細なことからでもグループは出来るもんだな。要は、立夏たちは出身小学校勢力でいうと一番少ないらしく、その人数合わせで俺をグループに入れたいらしい。ま、言葉にするとアレだけど、でも声かけてもらったのは素直にうれしい。
学校を聞いてみれば、何のことはない俺の元の出身校である。ここは大先輩が一肌脱いでやろうではないか。いや服は脱がんよ?
俺を挟んで三人横に並んで歩いてるわけだが、これが案外楽しい。ぼっちはやっぱ嫌だったらしい。一番背が高いのは立夏、女子平均よりかなり高いなこいつ。次が麻衣。この子ですら俺より10cmはでかい。最後が俺だ。なんなんだこの身長カーストは! く、悔しくなんてない、ないんだからね!
言っとくが顔面偏差値はダントツ俺。異論認めず! 立夏と麻衣は方向性は違うが平均値よりは上なのは間違いない。ただ麻衣はあれだな、頑張ってやせろや! 話はそれからだ。
「それにしても幸音の銀髪、ほんと綺麗で羨ましい。私なんてほら、ばっさばさだから」
「……そ、そっかな? 私ハーフだし……、いつも姉さんがキレイに手入れしてくれてるから……だと思う」
「やっぱハーフなんだぁ、綺麗だもんねその髪! じゃあ、お姉さんも銀髪なのっ? 幸音のお姉さんならすっごい美人だろね~?」
立夏はもうすでにタメ口である。馴染むのはえぇ……。まぁ、俺もその方が気使わなくていいからよい。こいつは見るからにスポーツ少女って感じだからなぁ。この時期で程よく日焼けしてるし、ショートボブの黒髪がそうなってしまうのも仕方なかろう。
しかしまぁ、ちょっと返事に困る……。
「こら~、急に立ち入ったこと聞きすぎ。あと、立夏はもうちょっと身だしなみに気を付けないとダメだと思う。幸音ちゃん見習ったほうがいい。私だってお母さんに教えてもらいながらお手入れしてるよ」
ナイスなフォローの麻衣がフンスと、ドヤ顔で言う。ありがてぇ。でもね、麻衣さん。だから君はそんなこと言う前に、やることあるでしょ?
「ええぇ~、幸音と比べるの反則。ハーフってやっぱ美人が多いよね! これと比べられたら一生勝てないよ。寺前さんや成瀬さんでも無理でしょ」
「くふふ、ごめんごめん、幸音ちゃんはちょっと別格すぎたか。でも立夏も素材はばっちりなんだからがんばろ!」
「はいはい。でもさ、麻衣。あんたもやることやれ!」
そう言いながら立夏は麻衣のほっぺを指でぷすりと付いた。ごもっともである。まぁ寺前や成瀬がどれほどのもんか知らんが、かかってこいや!
……うそです。こないで、ゴメン。
ぷんすか麻衣と、生き生きと歩く立夏、そして俺、三人仲良く体育館へと突入していった。
体育館はすでに上級生たちが勢揃いしてて、拍手の中迎え入れられた。二年三年の先輩たちがステージに向かって左側、奥の方から中央を過ぎたところまでを占めるように並んでて、俺たちは残りの右エリアを埋める形だ。全校生で180人程度の小規模な中学なのでそれでも余裕すぎだ。
先輩たちは始業式をしてたはずって、立夏が言ってた。今は背の順に男女二列に並んでるので、立夏たちと別れ、俺は当然ながら女子最前列である。ちなみに立夏のやつは女子最後尾だ。
ステージ上でまずは校長を始めとした先生方の挨拶があり、その後、生徒会面々の挨拶が続いた。それが終わるといよいよ、感動のご対面である。先輩たちは式典長々と乙! である。
「在校生、右向け右!」
生徒会長さんの号令で先輩たちがキビキビした動きで一斉にこっちむいた。
「新入生、左向け左!」
今度の声は、は副会長さんだ。
新入生も、とまどいつつもなんとか動く。けど……、
俺かっ、くっそ、出遅れた!
よたよた慌てて方向転換する俺。先輩方の方からクスクスと笑い声が聞こえてきた。は、恥ずかしすぎ! し、仕方ないじゃん! 引きオタの俺にそんなキビキビした動き期待すんなし!
向かい合ってからは更に俺は受難続きである。
それはもう、先輩方の視線、独り占めである。在校生代表の挨拶、新入生代表の挨拶と続いたのだが、なかなかざわめきが収まらない。
「なにあれ、銀髪? すごくない?」
「お前知らんかったの? 遅れてんな、もう超がつくくらい有名な子じゃん」
「めちゃちみっこな!」
「目が赤くない? カラコン?」
『あ~みなさん、今は式典中です。静粛にしてください!』
ついには三年の学年主任の先生? から、注意の声が入ってしまった。こんなこと、なかなかないのではないか? お、俺のせい? し、知らんし!
それにしてもなんだ? 俺ってそんな有名なの?
やめて、うそだろ。
あと、だからちみっこ言うな!
ま、途中でちょっと騒然とすることもあったが、その後は一応、問題なく対面式は進み、最後に生徒一同で校歌斉唱を行い、終了となった。
ああ、やっぱおうちがいい。
立夏と麻衣には悪いが、そう切に思う俺だった。
対面式のやり方はフィクションです




