幸音と学校生活の始まり
時間取れないので
毎日はむずい……
色々あった初登校の日から一夜明けた、今日。
朝も早くから幸奈に起こされ、トイレ行って身だしなみを整え、朝ごはん食って……ってな具合に登校の準備が完了するまででにかかった時間、1時間と少し。二日目も始まったばかりだけど、もう嫌になってきた……。
だがしかし!
幸奈なんて、俺より早く起きて朝ごはんの準備と、更にお弁当を作るって仕事まである。もうこのことだけで十分尊敬に値するって思うわ!
とはいうものの。それはそれ、これはこれ。ああもうやだやだやだ~!
どれだけ嫌がっても時間は無常に過ぎる。幸奈に頑張ってねの言葉を受けつつ、俺は家を出た。
自転車なんてものを乗ったのはもう記憶のはるか彼方の大昔の話だ。幸音になっても覚えているってのはある意味すごい。素直に関心する。さすが俺!
ま、中身一緒なんだから当然である。
買ってもらったママチャリで学校へ向かう。
おかしい! 俺、車でも何でも自分で買ってたはずなのに、今やママチャリ一つ、自分で買えないんですけどっ?
と、ともかくだ、小さな体とはいえ足は長いのである。24インチサイズであるならば周りと比べても何ら遜色ないはずだ! だよね?
銀髪を風になびかせながら田舎道をママチャリで行く。
とはならない……。
鬱陶しいので、ゆるめの三つ編みのツインテールとなっている。要はおさげである。先っぽにはえんじ色の小さなリボン付きである。かわいい。
ただそれも、くそダサヘルメットで台無しであるが、俺は超絶可愛いから補って余りあるのである!
学校が近くなるにつれ、残念なことに登校してくる他の生徒が目に付きだす。いやな時間の始まりである。こっち見ながら何かヒソヒソ言ってるやつ、ジワジワ増量中。銀髪赤目美少女はつらいね。俺は小さい体を更に小さくして黙々と進む。空気になれ、俺。
でも案の定、自己主張の激しい奴は見てるだけでは終わらないのである。
「うっわ、あいつの髪、銀髪じゃん、あれ色抜いてんの? なんであれで来れるんだよ~」
「ああ、あの女の子? もしそうなら校則違反だけどね、新入生みたいだけど……、うん、また随分ちみっこい子だね」
これだから男子はいやなんだよ。もっとこっちに聞こえないよう気ぃ付けろや! これは地毛だんだよ! 地毛。あと、ちみっこ言うな。
「もう、あなたたち、先生の話何も聞いてなかったでしょ! あの子はハーフなの! あれは色を抜いてるわけじゃないの。生まれつきなの! 校則違反だなんて……、本人に聞こえるようなところで言っちゃうんだから……もう。デリカシーなさすぎ」
ふぁ?
な、な、なんぞ? これもしかして、委員長きた? もっと言ってやってください。
ほんとに委員長かどうか知らんけど!
「んだよ、急に脅かすなよ! わかった、わかったって」
「あ~~、そう言えば、言ってたような気もするね」
「あ、てめぇ、自分だけいい子になるなよ。お前も言ってたじゃんかよ」
「いやだなぁ、もしそうならって言ったでしょ? 決めつけは良くないよね」
「ちぇ、お前ってやつは……、ったくよぉ」
こいつら楽しんでるだろ。そしてずっとこの調子である。煩わしいったらない。他の新入生はドン引きで離れたとこからこっち見てるし。
泣ける――。
でも、学校の方で一応フォローしてくれてたんだな。さすがひなびた田舎のせせこましい中学だ。細かいとこまで行き届いてんなぁ。
「おい、お前。変なこと言って悪かったな」
「ごめんね、気を悪くしないでね。こいつも悪気があるわけじゃないんだよ。ただバカ正直なだけでね」
「は、はいぃ……」
俺はいったいいつまでこの茶番に付き合わなければいけないのか……。っていうかこの先輩たち、背高っ。ほんとに中学生なん? 170は確実に越えてるな。世の中理不尽すぎだろ。委員長は、まぁ普通だな。俺よりちょっとだけでかいことは認める。
「まだまだ慣れないでしょうけど、ここもこんな奴らばかりじゃないからね? 楽しい学校生活になるといいね! がんばって」
「は、はい、ありがとう……ございます、……先輩」
委員長役の人、普通にいい人っぽい。
「ちぇ、こんな奴ら扱いかよ……。じゃあな、ちび。がんばれよ!」
がんばれはもう聞き飽きました……めんどくさ。俺は会釈だけ返し、先輩たちを一応見送ってからトボトボ自分の教室へと向かった。なんかもう朝からモチベさげさげだ。
はぁ、気が重い……。
そもそも俺は引き籠りオタなのだ! 頑張るのはネトゲだけで充分だ。
教室へと向かうその足取りも遅々として進まない。どこもかしも、どいつもこいつも、俺を物珍し気に見てきて萎える。俺は珍獣かっ。どんどん体が縮こまり、顔も上げられなくなってくる。嫌で嫌でたまらない。
もうほんとに帰りたいよぉ。引き籠りてぇ……。
「ちびっ! なに縮こまって歩いてるんだよ。そんなんじゃいつまでたっても教室つかないぞっ」
むっ、こんな偉そうで、ふてぶてしい物言いのやつを俺は一人しかしらない!
「ほらいくぞ!」
あ、こら、こいつっ!
「ちょ、ま、まって、痛いって……」
こんくらいのガキは程度というか、加減というか……、ああくっそ、か弱い女の子の扱い方をもっと勉強しろ!
俺は聡に思いっきり手をひっつかまれ、そのままの勢いで引きずるように教室近くまで連れていかれる羽目になった。リーチ違うんだから、も、もっとゆっくり、お願い!
「ご、強引っ! でも、あ、ありが……と。あとね……私、ちびじゃない。幸音って名前なんだからね」
「つ、ついでだ、ついで! ちび……、あ、その、ゆき……、いや、お、おまえは周り気にしすぎなんだよ!」
こいつ……、いいやつか。そんでもってどんだけ、初心なやつなんだよ! ぷふふ、耳、真っ赤だから。
でも……、おかげでちょっと気が楽になった。ありがとな、あきら。
教室での並々ならないプレッシャーになんとか押しつぶされないで済んだ俺は、そのままの勢いで中学生活二日目の最大のイベント。この後の自己紹介という高難易度ミッションに挑んだのだった。
「北美幸音。ずっと引き籠りだったから……学校は初めて……です。わからないことばかりで、その……、みんなに迷惑かけちゃうかもだけど。よろしく……です」
やったった。
いつもながらの舌足らずな声は、全然様にならないけど……、
カミングアウトしてやった!
そんな俺の自己紹介にクラスは騒然となったのだった――。
ただし設定のなっw




