―閑話― 悩ましい新入生がやってきた件
人によっては不快に思うかもしれない……勘違い系ハートフルストーリー!
な訳ないお話
俺は末永和也、教師になって7年、この中学校への赴任してからだと3年目の、まぁ中堅どころの教師である。
それなりの経験をしてきたと自負もしているが、今年はちょっとばかり問題を抱えた生徒が入るということで、その対応について苦慮しているところだ。何しろその生徒を受け持つのは俺なんだからな。真剣にもなろうというものだ。
受け持つのは小学校から上がりたての、まだ子供っぽさが多分に残る新入生で、1年2組、男女合わせて28人の面倒を見ることになる。
「末永先生、いよいよ新学期が始まりますね。君のことだからまぁ問題ないと思うが、何分、その、あれだ。変わった生徒が入りましたからね、対応には万全を期してくださいよ」
「わかっています。せいぜい問題を起こさないよう、学校に迷惑をかけないよう、細心の注意を払うようにしますよ、教頭先生」
「……そ、そうか、わかっているのなら、いいのです。くれぐれもよろしく頼みましたよ」
やれやれ。黙って見ていればいいものを、いちいち小うるさい。……まぁ、教頭の立場もわからんでもないが、面倒この上ないよな、まったく。
足早に去っていく教頭を見送りながら、俺は思わず肩を竦めた。
北美幸音……ね――。
俺は何度か確認した資料を飽きもせずまた確認する。
――母親が誰かもわからず、父親は娘を残して失踪。今は叔母が引き取って、父親が住んでいた家で一緒に暮らしている……と。なんとも気の毒というか、可哀そうというか……、ふん、何度見てもマジ最低な両親だな。こいつはかなりの確率で出生をネタにした、いじめが考えられるよな。
それに加えてだ……。
日本人では普通あり得ない銀色の髪に、目の色は赤いと。栄養不足からきたのか……体の成長もかなり遅れてて、身長、体重とも平均を下回っている。まぁ、それについては今の家族が献身的に面倒をみたおかげで随分改善されてきているようだが。
ん~、この家族、叔母ということだが、あの北美先生なんだよな……。教員の研修会で何度か一緒になったことがある。俺よりも若いくせに、ずばずば言いたい放題言われたっけな――。こんないわくアリアリな、姪がいたんだな。意外だ……。
っと、それはともかくだ。
外見の特徴が子供たちの中でどう扱われるか……、これはまぁ実際、経過を観察していくしかないな。しかしまぁ、これだけ整った容姿で、可愛らしい子なんだし、いじめられる方向に進むことはないと思いたいがな。
……しかしまぁ、母親がわからないねぇ。
言い方悪いが、父親と行きずりで致して子供が出来て、後から気付いたパターンなんだろうな。まだおろさなかっただけ、ましと言うべきか。小さい頃から一緒にあちこちを連れまわされていた……というが、本人はよくわからない、覚えていないと……。
戸籍すら取得してなかっただなんて……まったく、最低な母親だな。これじゃあ、家族の暖かさなんか、知ることもなかっただろうな。……不憫な子だ。
結局父親を見つけ出し、そのまま置き去りにして逃げていったというが、その先の行方は知れずか。父親は父親でそのことを受け止められずに娘を放置して失踪――。
まったく、こんなひどい環境で育って、心にどんな闇が潜んでいるか……、わかったもんじゃないな。
まぁ、北美先生に引き取られてからは随分良くしてもらって、今ではごく普通に暮らしていて、笑顔も見せているというが……。一応、対外的には父親が日本人、母親は北欧系の二人の間から生まれた、ハーフってことで通すんだったな。
やれやれ、マジで頭痛くなってきたぞ。うまく馴染んでくれるといいんだけどなぁ……。
「私がこのクラス、1年2組の担任をする末永和也だ。これから1年間、君たちと一緒に学校生活を送ることになる。出身校が違うもの、一緒だったもの、色々だと思うが、今日からはここにそろったみんなが同じ仲間だ。みんな揃って仲良く、勉学に励むことを希望する。改めて、1年間よろしくな!」
新一年生を前に挨拶をかます。難しく言いすぎたかな?
まだまだ幼さが残る顔つきの生徒が多い。ま、中には大人びた奴もいるし、背伸びしたがる年頃でもあるしな。大丈夫だろう。
しっかしなんだ。やはりこの子、目立つな。
目を瞠るような銀髪が目に飛び込んでくる。色白すぎるのと、ずっと伏し目がちなのが気になるが、非常に整った、愛くるしい顔は半端なく可愛いな。聞きしに勝るとはこのことか。体の小ささは予想通りだが、これは席順とか困るな。万年前列にならないことを祈っておこう。
周りの生徒も気になって仕方ないようだな。こりゃあクラスの様子をこまめに確認するようにしないとまずいかもな。
ま、何はともあれだ。
俺はこの子らが問題なく学校生活が送れるよう、支えてやることが仕事なんだ。頼ってもらえるよう、せいぜい努力することにしよう。
おちびちゃん。
楽しい学校生活になるといいな、がんばれよ!
おつかれさま




