幸音は小学生か?いえ中学生です!(確定)
う~ん……
「私がこのクラス、1年2組の担任をする末永和也だ。これから1年間、君たちと一緒に学校生活を送ることになる。出身校が違うもの、一緒だったもの、色々だと思うが、今日からはここにそろったみんなが同じ仲間だ。みんな揃って仲良く、勉学に励むことを希望する。改めて、1年間よろしくな!」
眠かった入学式から保護者共々教室に移って、またも話して聞かされたのがこれである。
なにこの教師。今時珍しい暑苦しさだ。まだまだ若いママさん連中にええカッコしようとか、してないだろうな?
へぇ、黒板にも色々書き込みがあるな。入学おめでとうやら、一緒に頑張ろうやら、花柄模様やら。きっと先輩方が先生に書かされてるんだろうなぁ……、先輩方乙!
むむぅ、俺ちょっとひねくれすぎだろうか?
保護者と言えばだ、なぜか芹沢さん家の遥さんも同じ教室にいる訳だ。ちょ、ちょっと待てや! あのくそガキと同じクラスだなんて最悪だわ。教室をこっそり見渡せば居たよ、見た目はまぁ、それなりに見れる奴だが、人をちび呼ばわりした不届きものである!
まぁ二クラスしかないので、こうなっても不思議ではないがな!
ちなみに男子14名、女子14名だそうだ。俺も女子、女子だってさ……。
「机の上に教科書が配布してあるが、持って帰ってしっかり名前を書いておくように。あと置き勉はするなとは言わないが、もしも悪戯や破損、最悪盗難などがあったとしても学校は責任持てんからな。それがいやなら毎日持って帰るように」
ほうほう、なら俺は確実に置いて帰るな。こんな重いもの毎日持って帰ってたら死んじゃう。スモールな体の幸音ちゃんを舐めてもらっては困るのだよ!
「あと自転車通学者にはヘルメットも配ってあると思うが、もし無いものが居たら教えてくれ。後で渡すようにする」
うん、あるな、白い半帽のヘルメットが。限りなくだせぇ……。やっぱ自転車通学やだ~~!
こんな感じで、手短に挨拶と諸連絡を受けたところで教室での行事は滞りなく終わった。生徒の挨拶は明日だそうだ。……もうしなくていいのに。お腹いっぱいだ。
トリは校舎の外に出ての集合写真である。教科書なんかはみんな保護者に押し付けてる。俺ももちろん、右に倣えだ。すまん、幸奈!
ここで桜が咲いてるとかしてれば絵になるんだろうけど、この辺りはあと少し先だ。
先生方が、昇降口前の階段をうまく使って雛壇みたいにしてみんなを並ばせてる。さすが慣れてるよな。
「小さい生徒は前の列に並んでね。は~い、あなたもこっちね」
俺の腕を掴んで、最前列に強制連行された。
ちっ、こっそり後ろに移動して写らないようにしようと思ってたのに! 幸奈さん、あなた、笑い堪えてない? この薄情ものっ! っていうか周りの保護者がこぞって優しい目で俺を見てくるんですが! ガキどもは俺のこと見慣れてないからか、それとも、まだ自分のことでいっぱいいっぱいなのか、いつもみたいな反応は少ない。
移動中、ふとあいつと目が合ってしまった。
「ち、ちびは前に決まってるだろ~」
むぅ、顔赤くしてまで言うことかよ! 聡、こんにゃろ、覚えとけよっ。
なかなか収拾がつかず大変だったとはいえ、なんとか集合写真を撮り終えたところで、入学式での学校行事はやっと終了した。
あとはもう自由解散だ。やっふ~ぃ! 早く帰ってネトゲしなきゃな!
「幸音~、ちょっとこっちにいらっしゃい。こちらのみなさんがあなたと一緒にお写真撮りたいんですって」
うげっ。なにそれ、マジ?
幸奈さん? そんな、そんな殺生な……。
見れば周りのママさんたちと随分と話が弾んでいらっしゃるようで。幸奈の友好スキル、ハンパねぇな。さすが教師、もうクラスの保護者の心を鷲掴みかよ。
ぐぬぬぅ、この先のことを考えれば好印象を残しておくことは重要ミッションといえるか……。親を押さえておけば俺へのイジメ予防としてもいい牽制になるだろうし。俺は打算と妥協から、あえて苦渋の選択をせざるをえないのである――。
「幸音ちゃんかわいいわねぇ、銀髪もきれいにお手入れしてもらってるのねぇ」
「小さくて、ほんとにもう、お人形さんのようね」
「でも、手足は長いし、頭は小さいし、ほんとうらやましい。将来はすごい美人さんになるんじゃない? 男が放っておかないわよ、きっと」
うげ、それは御免被りたい!
無限に続くかと思えるおしゃべりは加速度的に盛り上がっていく。もはやそこに俺が居ても居なくても関係ないような気がしてきた。
まぁそんなこんなで、俺はママさんたちのなすが儘、おしゃべりのネタとしていじられまくり、さすがの幸奈をして、引きまくる事案となっていったのだった。
格言。『女三十越えし、歴戦ママらに、抗う事能わず!』……おそまつ。
――こんな、保護者たちとの他愛もないやりとりが、後のトラブルの原因になろうとは。
この時の俺は、露ほどにも思ってなかった――。
「幸音、ほんと~にゴメン! まさかあそこまで収拾つかなくなるなんて思わなくって」
帰りの車の中。幸奈はずっとこんな調子で俺に謝ってくる。
俺は別にさっきのことを幸奈に愚痴ったわけでもなかったんだけど……、やっぱ表情に出ちまってるのかなぁ? 俺としてはこうやって謝ってもらうのは全く本意じゃない。いつも迷惑かけてるのは俺なのだからして。
「姉さん、私全然気にしてないんだから。そんなに謝らないで……。そ、それよりさ、今からエトワール行くんでしょ? それはいいんだけど何するの?」
「……うん。うん、そっか……。ふふっ、気になる? 気になるか~~」
幸奈は一瞬難しい表情を浮かべた後、俺の顔を覗き込み……、ふぅ、と息を吐いたあとは、いつもの幸奈にも戻ってた。
この後、エトワールの星川兄妹と幸奈で、俺の中学入学のお祝いをしてもらった。
くっそ、みんなで俺の涙腺破壊する気満々か!
こうして俺は無事中学に通う、JC、あ、いや、女子中学生となったのだった。
むっず




