幸音の晴れの日
前話、けっこう改稿してますので良ければ再読してもらえるとウレシイな^^
流れは変わってないです
四月最初の休み明けのこの日。
俺は朝起こされてからこっち、ずっとテンション下がる方向で高値安定している。
どんな日本語だよ、おい。
下らんセルフ突っ込み入れるほどには、気分最低である。
「幸音~、ほら、ぼーっとしてないで、自分でもおかしなとこないか見てごらんなさい」
「だいじょうぶ……、姉さん信用してるから」
そんな言葉とは裏腹に、結局ドレッサーの前でくるりと体を翻し、制服の着こなしを確認してしまう。何度か着せられてるからもう慣れたものである。そんな様子の俺に、なぜか幸奈がスマホを向けてる。
「姉さん、何してるのかな?」
「幸音の晴れ姿を残しておこうと思ってね。まかせておいてね、ちゃんと纏めてデータ共有するから。ふふっ、これからのこともあるし、ライブラリにしておこうか?」
「へっ? あぁ、そう、そうだね……」
な、なんたる余計な気遣い。いや違げ~、これはどう考えても幸奈がやりたいからやってるだけだろっ。だがしかし、それを追求する根性も気力も今の俺には存在しない。
はぁ、『入学式』かぁ……。
今更すぎて全くやる気出ねぇ。……ああ、ネトゲやりてぇ、レベル上げに埋没してぇよぉ。
そんな俺の気持ちをあざ笑うがごとく、時間は刻々と過ぎる。
「よし、準備も出来たし、後は玄関前で写真撮って出掛けるとしましょう」
ま、まだ撮るのかよ?
幸奈さんのテンションは俺と違って最高潮のようである。三脚まで用意してるし! マジすげぇわ。今日の写真とかも、数時間もすればきっと瑠美あたりもインレコで見るんだろうなぁ、世の中便利すぎるのも考え物だと思うの……。
泣ける――。
(※インレコ:物語中の写真などの共有SNS)
「天気良くてよかった。もう感慨ひとしおってところね……」
俺を助手席に乗せ、そんなことを呟く幸奈。そりゃそうだろうな。ここまで来るのに幸奈がどれだけ頑張ってくれたことか。感謝してもしきれない。面倒だって気持ちはほんとだけど、それとこれとは話が別だ。
「うん。姉さん……、ここまでしてくれてありがとう。やってくれたことが無駄にならないよう……、その、がんばるよ! ……えっと、その、出来る範囲で、だけど!」
幸奈の方を横で見つつ、そう言った。顔が赤くなってない自信はない。
幸奈の唇が緩やかな弧を描いた気がする。
「うわっ」
運転席から手が伸びてきて、俺の頭にぽすんとのった。最近俺の頭ってみんなの手休め場になってないか? まぁ、悪い気はしない。むしろ心地よいのだがな!
「ありがと。そう言ってもらえるだけでうれしいよ……。今日はがんばってね」
そんなこと言われたらもう、真面目に式に挑むしかないではないか。
「えうっ。まぁ……、そだね」
仕方ない、俺なりに頑張ってやるさ、うん。
丘陵地の広がる見通しの良い場所に、俺が通うことになる中学はあった。
家からは自転車で10分少々といったところか。大した距離じゃない。けど、引き籠りを甘く見ないでいただきたい。限りなく緩やかとは言え、坂道交じりの通学路を毎日自転車で走らなければいけないのだ! これだけで死ねる自信ある!
はぁ、マジ憂鬱だわ――。
車を学校指定の駐車場に止め、幸奈はかつて知ったるという感じで歩みを進める。そりゃそうか、先生だもんな。俺だって経験者だがそんな黒歴史、記憶の深すぎる闇に沈めこんでやったわ! ちなみに幸奈は学校を休んでこっちに来てくれてる。重ね重ねすまん!
「ほら幸音、ここで写真撮りましょう」
スーツ姿でドレスアップした幸奈と、可愛さ炸裂のこの俺のセットである。すでに周りの目を十分に引き付けながら歩いてる中、幸奈先生がとある看板の前を指さした。
入学式的に必ずある看板である。ないところは皆無であろう。ご丁寧に花飾りまでまき散らし、豪華なことである。きっと在校生に作らせたに違いない!
「すみません、ちょっとこの子と一緒に撮ってもらってもいいでしょうか?」
物怖じって言葉をどこかに捨ててる幸奈先生は、同じ目的でその場にいた人たちの中で、グループじゃない、ソロ活動してらっしゃる女性に声をかけた。もち子供、しかも男の子付きである。こっち見やがった。なんだよてめぇ、文句あっか。
しかしあれだ、親子で俺のことを同じ仕草で見つめてきたのがウケた、そっくりかよ!
「ああ、はぃ、構いませんよ、私でよろしければ喜んで~」
ま、それはともかく、育ちの良さそうな、可愛らしい感じの母親である。レベルは高い。幸奈は感謝の言葉とともにスマホを手渡し、どうしたいかだけ伝えてる。まぁ、今時使い方知らない人のがレアである。
少しの順番待ちの後、幸奈と二人、入学式看板を横に肩を並べて立った。くぅ、相変わらずの身長差、萎える……。ちょっと周りの知らない人たち? 気が散るからあっちいって。好奇心旺盛なママさんやガキどもが興味深々って感じで、チラ見どころかガッツリ見てきたり、ヒソヒソうわさ話したりするからウザ過ぎ。
「こほん、撮りますね~、はぁい」
なんとも気の抜けそうな可愛いかけ声で、二人一緒の写真をいくつか撮ってもらい、続けて俺一人でも同じように撮ってもらった。
おいおい、それ、自分でも撮れるだろ? 余計なツッコミが発生したが、ま、いい人で良かった。
「折角ですので、そちらもお撮りしましょうか?」
まぁ、そうなるか。お互いソロ活動は大変そうだ。ママ友付き合いも大事にしないとな。おっと失言、幸奈はママじゃないがな!
ギャラリーの興味を大いに引きつつ、プチ撮影会を終えた俺たちは、ごく自然な流れでそのまま一緒に入学式会場へと向かうことになった。幸奈押し強いし、相手さんも一人は心細かったろうからある意味必然だな。
「そっか、幸音ちゃんっていうんだね? お邪魔しちゃってごめんなさい。でもちょっとだけご一緒させてもらえると嬉しいな。よろしくね」
顔に似合わず、律儀な挨拶とともに笑顔をもらった。こちらも返さねば失礼というものだろう。
「気にしないで……いいです。その、よろしくお願いします」
俺は舌ったらずな言葉ながらもそう返し、笑顔を振りまいた。銀髪赤目美少女、掛け値なしの笑顔である。お母さんの方はなんとか耐えたが、隣の野郎はあほずら晒して、しばらく美少女に見入っていた。まぁ、我に返ったとたん、ぷいっと横向いて目を逸らしたがな。ふふっ、ただで振りまいてやったんだ。ありがたく思うがよい!
あちらさんは、芹沢さん家の遥さんと言うらしい。見た目と一緒で可愛らしくていいと思うの。野郎は知らん。――ま、それも気の毒か。聡だと。まぁすぐ忘れてやるがな!
「ほら、聡もご挨拶なさい」
「ええっ! ……ちぇ、わかったよ。よろしくな、ちび」
くっそ、俺のこと『ちび』って言わなきゃいけない決まりでもあんのか? けんぴといい、こいつといい、忌々しい。まぁ、そう言った後、親に頭を叩かれて注意されるまでがテンプレな。
そんなこんなで、俺と幸奈、二人っきりで静かに進むはずだった入学式は存外、賑やかなものとなった。でもまぁ、こんな雰囲気も悪くないかもな。何より幸奈が楽しそうに笑顔を浮かべてる。それだけで今日ここに来た甲斐があるというものである。
専用の講堂などはなく、式は体育館で行なわれた。
新中学生はみんな初々しいけど、今時のガキは発育いいから男女ともでかいのも多い。女なんて高校生かよ? って見た目のやつまでいるっての。俺にケンカ売ってる? すまん、俺が悪かった。
入学式自体は俺の時代から相も変わらず、学校行事特有のつまらなさで、眠気を抑えるの俺必死。全国の校長先生は聞いててつまらなくない、面白い話をする勉強をもっと必死こいてするべき!
そんなことをつらつら考えながら、俺はこれからの学校生活を思うと、涙目にならざるをえん!
とりあえずこの後教室に集まって話とかも聞かなあかんらしい。
ああもう、おうち帰りたい!
ゲームしてぇ~~~~。
俺はこんな式を考えたやつらを恨みつつ、ただただ時間が過ぎ去ることを祈りながら過ごす他ないのだった。
遅れた




