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女の子になったけど淡々と暮らしたい──ちょっと不思議もあるかもね──  作者: あやちん


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33/51

フラグって不用意に立てちゃうよね?

 引き籠りの俺にはいまいち、というか全く実感がないわけだが、世の中は今、春休みというものに突入しているらしい。それは(すなわ)ち俺の中学入学が近づいてきてるってことでもある。


 ああ~、やだやだ~~~!

 行きたくない! 行きたくないでござる~~~!


 まぁ、そんなふざけたこと考えててもくるものは来る。俺も男だ! 元だけど――。 (いさぎよ)く行ってやろうではないか、学校くらい!


 ……はぁ、ほんと、憂鬱(ゆううつ)だなぁ。



「ただいま~」

 

 おう、幸奈帰ってきた。ってことは……、ああやだやだ。また今から着せ替えタイムか。めんどくせい、俺は残り少ない自由を満喫したいんだよぉ~。


 とは言っても……、今までの幸奈の気持ちを思えば、俺はガマンするっ、の一択しかないわけで。


 幸奈は、中学の制服が仕上がったってことで、あの(・・)ショッピングモールに受け取りに行ってくれていたのである。

 一応、俺も行ったほうがいい? って聞いたけど、予想通り、即、来なくていいって言われた。幸奈の心の中では、今だスタンガン事件の記憶が色濃く残ってる。俺が倒れ伏してる姿が目に焼き付いてしまってるんだ。ちょっとやそっとでは()えてくれないのかもしれない……。複雑だよなぁ、ヤラレタ本人は全然平気で過ごしてるってのに。ほんと恨むぜ、スタンガン野郎!



「幸音~、私の部屋にいらっしゃいね~」


 少しして、幸奈からお呼びがかかった。


「は~い」


 俺は嫌だって気持ちをおくびにも出さず、元気な声で返事した。

 よし、行くとするか!



「うんうん、良く似合ってる。幸音、とっても可愛いよ~」


 幸奈部屋のドレッサーの前に立たされ、俺は中学指定の制服を着せられている。ちなみに俺が通う予定の中学は公立校で、残念なことに幸奈先生の授業を受けることは不可能である。幸奈、私立(・・)の先生だからねぇ……。


 話それた。


 俺は着用の制服を鏡越しにチェックだ、むむ!

 デザインは奇をてらったものではなく、極々普通のものだ。ブレザーは濃紺の細めに見えるラインで、白が眩しいYシャツの襟もとには大き目のえんじ色をしたリボンが目立ってる。紺ベースの緑チェック柄の膝丈プリーツスカートに足元は白のハイソックスって感じである。細めのラインと言っても、全体的にサイズ大き目にしてるので台無しな。


 ――だれだ、この制服に着せられた感満載のがきんちょは。マジ子供感まる出しで、泣ける。やっぱ大きめのサイズだと締まりがないような気がする。


「ね、ねぇ、姉さん。これやっぱサイズ、けっこう大きいと思うんだけど、ホントに似合ってる? だいじょうぶかな?」

「もう、幸音ったら……。とっても可愛いって言ってるでしょう? 大丈夫よ、ほんとに可愛いんだから、私が保証する。それに、高校生や社会人ならともかく、体の出来上がってない新中学生なんて、みんな似たようなものよ。体に合った制服で来る子なんて、ほとんどいないから安心しなさい。――まぁ、その中でも幸音は小さいから相当目立っちゃうでしょうけど――」


「そ、それはそうなのかも知れないけどさぁ……」


 なんかぼそぼそ小声で言ってたのがすっごく気になるんだけど!


 そりゃあ、俺だって別に可愛くないとは思ってないけど……。

 いや、むしろめっちゃ可愛いんだろうけどさ。サラサラの銀髪が真新しい制服に広がるようにかかってて、濃紺のブレザーのおかげもあって、すっごく映えて見える。やっぱ色白だとこういう制服着るとすっごく似合うと思うし。だからこそ、余計残念で仕方ないって感じてしまう。


 だぶついた制服ほど、ダサく見えるものはないと思う! 袖口だって、俺の手のひら半分くらいまであって、これ、さすがにもうちょっと詰められなかったんかい~ってレベルだ。これで1サイズだけ上なんて、ほんとかなぁ。


ま、まさか! 俺、縮んでないだろな?


「ね、ねぇ? 私……、小さくなってたり、してないよねっ?」


 俺はちょっと茶目っ気を出し、両手の平を体の前に遠慮気味に出し、袖口が見えるようにして、幸奈を上目加減で(うかが)い見る。なんか俺、こういうの普通に出来るようになってきて、泣ける。


「幸音、あなた……、ふざけちゃって、もう」


 やってて我ながら恥ずかしくなったわ。でも、俺のそんな仕草がつぼったのか、突然肩を取られ、そのまま抱き寄せられてしまった。


「むぐぅ、姉さん、苦しい!」

 

 冗談抜きで苦しいのである。この凶悪な胸め! もげろ!


「ふふん、幸音、ほんとに小さくなったんじゃない? 私の腕の中にすっぽり収まっちゃったわよ?」

「むむ~~~! ぷはっ、そんなことない! なるわけなんて、な~~いっ!」


 からかったつもりがからかい返されたでござる……。


 くっそ、小さくなったは冗談にしても、身長早く伸びて欲しい。まじで! 切実な願いだ。

 神様、仏様、ペンダントのお守り石さま!


 どうか幸音(おれ)の願いを叶えてください!


 最初は嫌々だったものの、終わってみれば、なんのかのとふざけ合いつつ、久しぶりに家族で(なご)むことができた、楽しいひと時となったのだった。


 ――もう兄妹とは、いうまい。未練だ。つうか戸籍からたどれば、幸奈は叔母さんだけどな!



 さて、入学前イベントはこなしたし、後は本番あるのみだな。あ~あ、ほんとに学校に行かなきゃいけないのか。毎日自転車で通学とか、俺死ぬ自信しかないわ!


 って、あれ?


 (うち)って、自転車……、あったっけ?


 ま、まぁ重要な忘れものに気付いたが、所詮、自転車。買ってしまえば問題ないのだろう?


 そんなことよりもだ。

 はよ、ネトゲにログインせねば! 貴重な一日が刻一刻と過ぎ去って行ってしまうではないか!



-+-+-+-+-+-+-+-+-


ノリスケ:こんちゃ

鈴にゃん:こんこん~

鈴にゃん:ノリちゃん、おそ~~い、待ってたよ~ん!

けんぴ:こん。ノリちび~、春休み中にネトゲのオフイベあるんだけど行かないか~?

鈴にゃん:行こうよ、行こうよ~! マヌエルさんもなおっちも来れないって言ってるから~、ノリちゃんはぜひ、来て欲しいんだけど……、だめ?


-+-+-+-+-+-+-+-+-


ま~た、この二人か。ったく、暴走コンビめ。

オフイベなんて難易度高い奴、引き籠りの俺に行けるわけなかろ~! 今は特に幸奈が外出許すとは思えんしな~。


-+-+-+-+-+-+-+-+-


ノリスケ:ん~~~、ちょっと難しいかも。お姉ちゃんがOK出してくれるとは思えないし。

鈴にゃん:な~~っ! ユッキーナの許可か~~~! 難易度めちゃ高だねぇ。

けんぴ:鈴にゃん、やれ! お前なら出来る。ノリちび姉を説得しろ!


-+-+-+-+-+-+-+-+-


 このくそけんぴ、俺のキャラネームはノリちび(・・)じゃないっつうの! 勝手に改悪すんな! ったく、二人して好き勝手に名前付けてくれやがって、草も生えんわ。

 でも、まぁ、ユッキーナって……ぷふっ。(ひね)り足りないけど、いいかもなw


-+-+-+-+-+-+-+-+-


鈴にゃん:じゃあさ、じゃあさ、ユッキーナの許可(もら)えたらOKってことでいいかな? かなっ?

ノリスケ:ん~~、まぁいいですけど。

鈴にゃん:よっしゃ~~! 鈴にゃん、がんばるからっ!


-+-+-+-+-+-+-+-+-


 気合い入りまくりだな。つうか鈴にゃん、こいつ幸奈と連絡とれるのかよ? いつのまに?

 ま、まぁ、良いんだけど……。


 ――どうせOKなんて取れるわけないしな!



 この時俺は、不覚にも自分自身で盛大にフラグ立てしてしまったことに、気付かなかったのである。



 鈴にゃんを(あなど)るなど……、一番してはいけないことだったのに――。


初投稿から1ヶ月経ってた

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― 新着の感想 ―
[一言] 一ヶ月おめでとうございます
[良い点] 幸奈の愛称?がユッキーナって…本当にププッですね いや確かにそのまんまではありますが、時事ネタとしてその名前はイメージが悪過ぎて思わず笑っちゃいました。 [一言] 背が伸びる(又は縮む)フ…
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