フラグって不用意に立てちゃうよね?
引き籠りの俺にはいまいち、というか全く実感がないわけだが、世の中は今、春休みというものに突入しているらしい。それは即ち俺の中学入学が近づいてきてるってことでもある。
ああ~、やだやだ~~~!
行きたくない! 行きたくないでござる~~~!
まぁ、そんなふざけたこと考えててもくるものは来る。俺も男だ! 元だけど――。 潔く行ってやろうではないか、学校くらい!
……はぁ、ほんと、憂鬱だなぁ。
「ただいま~」
おう、幸奈帰ってきた。ってことは……、ああやだやだ。また今から着せ替えタイムか。めんどくせい、俺は残り少ない自由を満喫したいんだよぉ~。
とは言っても……、今までの幸奈の気持ちを思えば、俺はガマンするっ、の一択しかないわけで。
幸奈は、中学の制服が仕上がったってことで、あのショッピングモールに受け取りに行ってくれていたのである。
一応、俺も行ったほうがいい? って聞いたけど、予想通り、即、来なくていいって言われた。幸奈の心の中では、今だスタンガン事件の記憶が色濃く残ってる。俺が倒れ伏してる姿が目に焼き付いてしまってるんだ。ちょっとやそっとでは癒えてくれないのかもしれない……。複雑だよなぁ、ヤラレタ本人は全然平気で過ごしてるってのに。ほんと恨むぜ、スタンガン野郎!
「幸音~、私の部屋にいらっしゃいね~」
少しして、幸奈からお呼びがかかった。
「は~い」
俺は嫌だって気持ちをおくびにも出さず、元気な声で返事した。
よし、行くとするか!
「うんうん、良く似合ってる。幸音、とっても可愛いよ~」
幸奈部屋のドレッサーの前に立たされ、俺は中学指定の制服を着せられている。ちなみに俺が通う予定の中学は公立校で、残念なことに幸奈先生の授業を受けることは不可能である。幸奈、私立の先生だからねぇ……。
話それた。
俺は着用の制服を鏡越しにチェックだ、むむ!
デザインは奇をてらったものではなく、極々普通のものだ。ブレザーは濃紺の細めに見えるラインで、白が眩しいYシャツの襟もとには大き目のえんじ色をしたリボンが目立ってる。紺ベースの緑チェック柄の膝丈プリーツスカートに足元は白のハイソックスって感じである。細めのラインと言っても、全体的にサイズ大き目にしてるので台無しな。
――だれだ、この制服に着せられた感満載のがきんちょは。マジ子供感まる出しで、泣ける。やっぱ大きめのサイズだと締まりがないような気がする。
「ね、ねぇ、姉さん。これやっぱサイズ、けっこう大きいと思うんだけど、ホントに似合ってる? だいじょうぶかな?」
「もう、幸音ったら……。とっても可愛いって言ってるでしょう? 大丈夫よ、ほんとに可愛いんだから、私が保証する。それに、高校生や社会人ならともかく、体の出来上がってない新中学生なんて、みんな似たようなものよ。体に合った制服で来る子なんて、ほとんどいないから安心しなさい。――まぁ、その中でも幸音は小さいから相当目立っちゃうでしょうけど――」
「そ、それはそうなのかも知れないけどさぁ……」
なんかぼそぼそ小声で言ってたのがすっごく気になるんだけど!
そりゃあ、俺だって別に可愛くないとは思ってないけど……。
いや、むしろめっちゃ可愛いんだろうけどさ。サラサラの銀髪が真新しい制服に広がるようにかかってて、濃紺のブレザーのおかげもあって、すっごく映えて見える。やっぱ色白だとこういう制服着るとすっごく似合うと思うし。だからこそ、余計残念で仕方ないって感じてしまう。
だぶついた制服ほど、ダサく見えるものはないと思う! 袖口だって、俺の手のひら半分くらいまであって、これ、さすがにもうちょっと詰められなかったんかい~ってレベルだ。これで1サイズだけ上なんて、ほんとかなぁ。
ま、まさか! 俺、縮んでないだろな?
「ね、ねぇ? 私……、小さくなってたり、してないよねっ?」
俺はちょっと茶目っ気を出し、両手の平を体の前に遠慮気味に出し、袖口が見えるようにして、幸奈を上目加減で窺い見る。なんか俺、こういうの普通に出来るようになってきて、泣ける。
「幸音、あなた……、ふざけちゃって、もう」
やってて我ながら恥ずかしくなったわ。でも、俺のそんな仕草がつぼったのか、突然肩を取られ、そのまま抱き寄せられてしまった。
「むぐぅ、姉さん、苦しい!」
冗談抜きで苦しいのである。この凶悪な胸め! もげろ!
「ふふん、幸音、ほんとに小さくなったんじゃない? 私の腕の中にすっぽり収まっちゃったわよ?」
「むむ~~~! ぷはっ、そんなことない! なるわけなんて、な~~いっ!」
からかったつもりがからかい返されたでござる……。
くっそ、小さくなったは冗談にしても、身長早く伸びて欲しい。まじで! 切実な願いだ。
神様、仏様、ペンダントのお守り石さま!
どうか幸音の願いを叶えてください!
最初は嫌々だったものの、終わってみれば、なんのかのとふざけ合いつつ、久しぶりに家族で和むことができた、楽しいひと時となったのだった。
――もう兄妹とは、いうまい。未練だ。つうか戸籍からたどれば、幸奈は叔母さんだけどな!
さて、入学前イベントはこなしたし、後は本番あるのみだな。あ~あ、ほんとに学校に行かなきゃいけないのか。毎日自転車で通学とか、俺死ぬ自信しかないわ!
って、あれ?
家って、自転車……、あったっけ?
ま、まぁ重要な忘れものに気付いたが、所詮、自転車。買ってしまえば問題ないのだろう?
そんなことよりもだ。
はよ、ネトゲにログインせねば! 貴重な一日が刻一刻と過ぎ去って行ってしまうではないか!
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ノリスケ:こんちゃ
鈴にゃん:こんこん~
鈴にゃん:ノリちゃん、おそ~~い、待ってたよ~ん!
けんぴ:こん。ノリちび~、春休み中にネトゲのオフイベあるんだけど行かないか~?
鈴にゃん:行こうよ、行こうよ~! マヌエルさんもなおっちも来れないって言ってるから~、ノリちゃんはぜひ、来て欲しいんだけど……、だめ?
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ま~た、この二人か。ったく、暴走コンビめ。
オフイベなんて難易度高い奴、引き籠りの俺に行けるわけなかろ~! 今は特に幸奈が外出許すとは思えんしな~。
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ノリスケ:ん~~~、ちょっと難しいかも。お姉ちゃんがOK出してくれるとは思えないし。
鈴にゃん:な~~っ! ユッキーナの許可か~~~! 難易度めちゃ高だねぇ。
けんぴ:鈴にゃん、やれ! お前なら出来る。ノリちび姉を説得しろ!
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このくそけんぴ、俺のキャラネームはノリちびじゃないっつうの! 勝手に改悪すんな! ったく、二人して好き勝手に名前付けてくれやがって、草も生えんわ。
でも、まぁ、ユッキーナって……ぷふっ。捻り足りないけど、いいかもなw
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鈴にゃん:じゃあさ、じゃあさ、ユッキーナの許可貰えたらOKってことでいいかな? かなっ?
ノリスケ:ん~~、まぁいいですけど。
鈴にゃん:よっしゃ~~! 鈴にゃん、がんばるからっ!
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気合い入りまくりだな。つうか鈴にゃん、こいつ幸奈と連絡とれるのかよ? いつのまに?
ま、まぁ、良いんだけど……。
――どうせOKなんて取れるわけないしな!
この時俺は、不覚にも自分自身で盛大にフラグ立てしてしまったことに、気付かなかったのである。
鈴にゃんを侮るなど……、一番してはいけないことだったのに――。
初投稿から1ヶ月経ってた




