幸音の危機
ええっ↑
先日のオフ会は俺の記憶に確実に黒歴史として刻み込まれた。
女の子バレしてしまったのは、まぁ……、仕方ないこととはいえ、チムメンの前で泣き出すとか、もうね。……ここんとこの俺、マジですぐ泣きすぎじゃね? このままじゃ泣き虫認定されそうで、ホントつらい。
どうにも気持ちの抑えが効かない。感情的になるというか、気持ちが理性を上回っちまうというか。……そうならないよう行動には十分気をつけねばならんな、うん。
オフ会あとのチムメンの対応は、まあ変わったといえば、変わったけど(ちゃん付け、ほんとは勘弁してほしい)、別段やりにくくなったということにもならず、感謝する他ない。まぁさすがに俺がいるときはシモネタを控えてるみたいだ。鈴にゃん相手には平気でしてたはずだからちょっと不満だ。俺は別に全然かまわないんだけどな!
変わってしまった目の色に関しては、俺は別に気にしてなかったんだが、幸奈的にそれはないらしく、医者に強制連行された。
目の虹彩の色素の色から変わってるらしく、医者曰く普通ありえないそうだ。視力も普通にあった。まぁ、悪い病気とかではないみたいなので、ひとまず幸奈は引き下がってくれた。心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっとメンドクサイ。
しかし、医者の先生にはまた君かって見られてて、ちょっとめげる。そのうち特異体質とかで、変な学会に呼びだされないか心配だ。――しらんけど!
とまぁ色んな出来事があったけど、ここ最近はゆっくり過ごせる時間がとれてて、俺的には非常によろしい。外は雪がすごいし出られないんだから仕方ないね!
「幸音~! 出掛けるよ~。1時間後には出るから準備してね」
平和を満喫しながらネトゲをしてた俺に、それをぶち壊す魔の手がドアの向こうからやってきた!
「ええ~、聞いてないし~、行かなきゃダメなの?」
「だ~め、急で悪いんだけど、今日行っておかないと、時間がなかなか取れなくて間に合わなくなる」
「え? 何が間に合わないの?」
「制服よ、制服。必要でしょ中学で着る服」
なんですとっ!
まじか~~~。そう言えば、俺って春から学校に行かなきゃいけないんだっけか。嫌だから頭の片隅からも放り投げてた。
むむぅ、制服か……。確実に採寸とか試着とか……あるな。またあの苦行を受けなければいけないのか! くぅ、急にお腹が痛く……
「言っておくけど、仮病とか使ってもダメよ。今の今までゲームしててそれは通用しないからね。ほらほら、さっさと準備する」
ちっ、幸奈はニュ〇タイプか!
「む~~、試着とかあるんだったら着替えやすい服がいいよね? スウェットとかジャージでいい?」
「ダメに決まってるでしょ!」
1時間後、俺は幸奈に嫌々ながらもランクルに乗せられ(もう幸奈の車と化してる)、街の郊外にあるショッピングモールへと繰り出した。車の中で幸奈が今日までの経緯を軽く説明してくれた。
「入学の手続きとか説明会とか、面倒ごとはなんとか済ませたけど、制服ばかりは幸音にも来てもらわないとね」
むむ、そ、そうか、幸奈……、俺が家でのほほんと過ごしてた間にも、色々動いてくれてたんだな。小学校も出ていない俺の手続きなんだ、大変だったろうに。
それなのに俺ときたら……、
「ね、姉さん、ごめん、ごめんなさい。私そんなこと全然気にも留めてなくて……、遊んでばっかで、迷惑かけまくってる……」
俺は見るからにしょぼくれて幸奈に謝った。
「ふふっ、らしくないよ、幸音。あなたはそんなこと気にしなくていいから、春からしっかり学校にいって、友だちたくさん作りなさいよね。勉強はまぁ、幸音には退屈かもしれないけど……、復習だと思って我慢してね」
むぅ、リアル教師の言うことは、いちいち身に染みる。けど俺にとってなんて難易度の高い要求を!
「あとねぇ、ゲームもダメとは言わないけど……、現実の生活も、もっと大切にして欲しいかな」
くぅ……、無理ゲーにすぎる。
「はいぃ、肝に銘じることといたしまするぅ……」
出来るとはいってない!
でも俺なりに頑張るから許して欲しい……、すまん幸奈。
モール内にある学校指定の洋服店に入る。中には時期的なものか、いろんなデザインの制服がたくさん並んでて、たかが学校の制服になんでこんなに種類があるのかとびっくりだ。俺が入学する中学はブレザータイプの制服らしい。
「すみません。この子の中学の制服を作りたいので採寸からお願い出来ますか? 春から公立中学に進学なんです」
早速、幸奈が店員さんに声をかけた。
「いらっしゃいませ! まぁ、可愛らしいお嬢様ですね」
女性店員さんが定番のセリフを言いながらも、俺を見て目をまん丸にして驚いてる。まぁいつもの反応だけど、赤目になってから更にひどくなった気がする。やっぱ、目立つよな赤は。――サングラスは余りにも似合ってなかったって、鈴にゃんに言われてしまい(けんぴにははっきりダサいって言われた)、ショックを受けた俺はそれ以来かけてない。
「ではこちらへどうぞ」
店員さんに付き従い、試着スペースに案内された。ここで測るらしい。今日はほとんど屋内だし採寸や試着もあるってことで、服装はロンTの上にパーカー、下はフリーススカートにスパッツで、一応暖かいボアベストを羽織ってる感じだ。髪は久しぶりにポニーテールで、動きやすさを重視な。
「じゃあ測りますので、ベストだけ脱いでもらってもいいかな~?」
子供扱いはデフォだ……。服は脱がなくていいけど、さすがにベストは邪魔っぽい。それ以外は、もう慣れた感じでさくさく測られた。
その結果、俺はこの春中学生になる奴らどもより、10cm以上低いらしい。ちっ。
おかげで制服のサイズをどうするか非常に悩ましい。普通は成長を見込んで多少大きめのサイズを買うらしい。
「サイズはどのようにいたしますか?」
うむうむ、俺は3年間で最低10cmは伸びる予定だからな! 大きめで頼む!
「そうねぇ、サイズは1サイズ上で見ておいてもらえますか?」
「わかりました。そのようにいたしますね。では一度合わせてみますか?」
ま、まぁ、ともかく、俺はいつものごとく大人二人にいたぶられ、疲れ果てて店から脱出した。ちなみについでに学校指定のジャージとかもご購入である。制服とかジャージは夏冬あるし、何かと入用で大変だな。まぁうちは金には困ってないから問題ないがな!(成金ばんざい)
その後もせっかく来たついでだからと、買い物は続く。
靴とかカバンとか、筆記用具やらなんやらかんやら……。俺もう、今日一日で1ヶ月分くらいは歩いた気がするわ。もうね、周りの目を気にする余裕ないほど疲れたわ……。
幸奈さん、やっぱパネェ。
そんな中、幸奈がスマホで『CHAIN』してるのを見て、ここぞとばかりにトイレに駆け込む(逃げる)ことにした。
「まじ疲れた……、うち帰ってネトゲした~い」
トイレを済まし、ぐちぐち言いながら通路に出たところで、不意に首筋に衝撃を感じ……、俺の意識は暗転した――。
どきどき




