またかよ……
後編が来ると思った人~
「幸奈~~、やばい、どうしよ~~」
そろそろ午前に変わろうかという時間、俺は幸奈に泣きついた。
「姉さん、でしょ?」
まず安定の突っ込みからだった――。
これは置いとく……な。
ともかく、もう寝る時間だというのに部屋に突入してきた俺に、渋々ながら相手をしてくれた。
「まったく……、呆れて物も言えない。自業自得ね。いいじゃない、断ってしまえば。会いたくないんでしょ?」
俺たちのネトゲでの付き合いを知らない幸奈はドライにバッサリ、そう言い放つ。別に会いたくないってわけじゃない。く~、それが出来るならこんなに悩まないっつうの。
「ふ~ん、不満そうな顔ね? なら、行くしかないじゃない。幸音はいい加減自分のことをしっかり認識した方がいい。いい機会だと思って、いろんな人と交流を深めてみれば?」
「うう~ん、それはそうなんだけど~~」
腹をくくったはずの俺の口から出るのははっきりしない言葉ばかりだ。……なんか我ながらちょっとカッコ悪い。でもなぁ、と俺は自分の体を見下ろす。
小さい体。日本人には見えない銀の髪にすみれ色の目。極めつけに、誰が見ても振り返るだろう可愛らしい見た目をした女の子な俺だ。
ネトゲでの俺のイメージと違いすぎだろ。それに……、
「集合場所にどうやって行くかって問題もあるし……、よその、それもすっごく遠くの大きな街まで出掛けなきゃいけないんだよ」
そんなことまで持ち出して、行かない理由を作ろうとしてる俺。やばい、俺ダサすぎ。
「まったくもう! ほんっと、じれったいんだから。もう観念なさい。よし、わかった! 私が連れて行ってあげる。車でも電車でも好きな方でね。お仲間さんに会ってる間はどこかで時間つぶしてるから、幸音は心置きな~く! 楽しんでくればいいわ」
至れり尽くせりな、そんな幸奈の言葉がとどめとなり、俺はもう引き下がるしかなかったのだった。
……なんともカッコ悪い、お騒がせな俺だったけど、幸奈と電車で集合場所に行くことで落ち着いた。世間の空気を感じろ! だそうだ。でもまぁ、これでとりあえず一件落着……かな。
ま、本番はまだこれからなんだけどさ――。
そんな日の深夜。
俺は思っても見なかった高熱に襲われた。
突然の異常に目が覚めた時には、すでに頭は熱で朦朧とし、胸が締め付けられるように苦しいって状態に陥っていた。
やばい……、これ俺死ぬかも。
そう思えるほどにはやばい苦しさが続いた。
「ゆ、ゆき……な……」
幸奈を呼びたいんだけど、声すらまともに出すことが出来ない。せめてものあがきで出来るのは、心の中で念じることくらいか。
熱と苦しさで動くことも儘ならない中、枕元に大切に置いてあるペンダントをなんとか手に取ろうと、あがくもそれもかなわず、もうマジ詰んだと思った……。
「うう……、くる、し……。あつ……い」
苦しさから出る弱々しいうめき声やうわ言が、部屋の外に出ることもなく空しく消え去っていく。
「幸音!」
そんなどうにもならない状態。そんな時、部屋のドアが勢いよく開き、幸奈が飛び込んできた。
「ねえ、さん……」
こんな時に限ってちゃんと言えたし……。でも驚いた。なんで、今、部屋に来れるの?
「幸音! 大丈夫? しっかり」
幸奈がくったりした俺の半身を起こし、様子を確認する。そこからのことはもう覚えていない。幸奈の優しい声に安心した俺はあっという間に意識を手放してしまったから……。
「なんか気持ち悪い……」
覚醒と同時に即そう感じた。後頭部や脇にアイスパックが添えられてた。ぬるくなってて、その役割はすでに終わってる。気持ち悪さの原因は、汗でぐっしょりと言っていいほど湿ってる部屋着のせいだった。
でもなんか……、
「すっげースッキリしてる……」
夜中の、あの苦しさが嘘のように消え失せ……、それどころか過去最高に気分がいい。いや、いっそ爽快!
「ふぁ~~~~」
俺は布団から体を起こし、大きく伸びをした。うん、なんか体の調子もいいみたいだ。なんだろ、これ。胸元を見ればしっかりペンダントがきらめいていた。きっと幸奈がかけてくれたんだな。
むぅ、幸奈にはすっごく迷惑かけちまったな……。
「幸音! もう起きて大丈夫なの?」
「うん、その、もう大丈夫……、迷惑かけて、……ごめんね」
部屋に入ってくるなり俺にそう声をかけてくれた幸奈。寝てないのか、その顔は疲れの色が濃い。ほんとごめんな幸奈……。
「そう、良かった。ほんとビックリしちゃったわ、一時はどうなることか、と……」
ん? 幸奈、どうしたんだろ、こっち見て固まってる。
「ゆ、幸音っ! あなた……、目が痛いとか、見えにくいとか、ない? その、違和感とかない?」
何言ってるんだ? 目だと?
「えっ、目? 全然、そんなことないよ。眠気もなくてスッキリしてるし、良く見えてるし。いいか悪いかで言えば、すっごくいい」
「そ、そう。良く見える……。見えてるんだ、そっか」
幸奈がそうブツブツ言いながら俺の手を取るとベッドから引っ張り出した。俺はそのまま、なすがままに洗面所まで引き連れられ、鏡を前に立たされた。
「鏡、よく見てみて」
訝し気な気持ちのまま、言われた通りにする。
「えっ?」
そこにはまるで白ウサギのように真っ赤になった目をした俺が、呆けた顔をして映っていた。
「目の色変わってる……、何それ」
「昨晩の高熱の影響? また石のせい? 幸音、自覚症状とか……ほんとになんともないのね?」
幸奈が矢継ぎ早に聞いてくるけど、俺にもなにがなんだかさっぱりだ。――しかし、この目の色、よく見るとあれだ、すみれ色がより濃くなって、赤に近づいたイメージかな。マゼンダって色があるけど、そんな印象受けるな。
「姉さん、目もそうだけど、体調も不思議なくらい良い。高熱と胸の痛みなんてなかったみたいにいい調子」
幸奈はまだまだ心配そうな表情を浮かべてるけど、いいものはいい。それより俺も気になることがある。
「ねぇ、姉さん。昨日の夜どうして私が苦しんでるってわかったの? 来てくれたのはうれしかったけど、それが不思議で……」
ほんと不思議だ。声も出せなかった訳だし、あんな深夜に起き出して、しかも俺の部屋になんて普通こないだろ。
「う~~ん、私にも良くわからない。急に目が覚めてね、なぜか行かなきゃって……、そう思ったんだよねぇ」
俺たちはそう言いながら二人頭を寄せ合って悩む。なんか、そんな様子がちょっとうれしく感じたのは内緒な。
で、もちろん……、解決なんて出来るわけもないのだった――。
すみませんです
また長い……




