世の中ロリコンばかりだな!
裏山での忘れられない出来事からこっち、俺の環境は怒涛の変化を見せた。しかし一番の変化は環境なんかじゃなく俺自身だったことは紛れもない事実だ。ほんと、色々あったよなぁ……。
体に出来てたアーモンド状の異物。あれって、どう考えても裏山で浴びた光が原因だよなぁ。俺、気を失ってたからわからんけど、あの時なんかあったりしたのかなぁ……。
ふとそんなことを考えてみたり。ま、何もかも今更だけどな。
俺ってこいつに命握られてんのかねぇ……。肌身離さず胸にぶら下げてるペンダントを手に取り、じっと見つめる。いつ見ても透き通った綺麗な輝きを見せる青色も鮮やかな石。
はぁ、ただの綺麗な石にしか見えないのになぁ。ほんと、面倒まじ勘弁。
『ごぉ~~ん……』
『ごぉ~~ん……』
おお、鐘の音かぁ……、
今年も終わりだなぁ……、なんか和む。
平和だ――。
年越しそばも食ったし、あとはもう朝までネトゲ三昧で決まりだな。チムメンとニューイヤーイベのクエするんだ!
一人になった俺は少しまったりと過ごしたのち、意気揚々とPCの電源を入れる。電気が通った時の電子機器特有の音とともに、画面に光がともる。さてやるか!
小さくなった体に合わせ特注したゲーミングチェアに深々と身を沈め、俺は体勢を整える。足元にはフットレスト、両腕を支えるアームレスト、背中にはランバーサポート、首元にはヘッドレスト。ちな、マッサージ機能付き。もうね、長時間プレイに備えた装備はばっちりである! 幸奈は呆れまくってたけど、これだけは譲れないってね。
なんて盛り上がってたらピヨピヨ音がした。
ん、スマホ? ……ああ、CHAINか? 見れば瑠美からメッセージが入ってる。何々……、
「はぁ~~~~~~~?」
初詣行こう……だと?
引き籠りの俺を舐めてますか? 舐めてますね! くぅ~~、もうなんでそうなんだよ! 俺の周りの女どもは俺の意思をもうちょっと尊重してくれって思うのっ!!
「幸音~! 居るね? 入るね~」
ノックと同時に幸奈が突入してきた。幸奈さんや、返事する時間くらいください。
おおう、なぜか隣に瑠美がいる……。くっそ、こいつらツルんでやがる!
はかったな~~~!
今思えばおかしいと思うべきだった。大晦日にしては幸奈が静かすぎた。俺に何も言ってこなかった。あれやれ、これやれって指図が少なかった。くっそ~~~、覚えてろよ~~。
俺は二人の悪魔に身を託す羽目となり、それは1時間ほど続いたという――。
あの~、子供は寝る時間なんスけど。あ、ゲームは別口なんでそこんとこは良しなに!
ったく、久しぶりに泣いていい案件だと思う……。
「さすがに寒いね~」
「そだね」
「雪やんでくれて良かったね~」
「そだね」
「思ったより人少なくて良かったね~」
「そだね」
「…………幸音ちゃん、瑠美のこと、だ~い好きだよね~」
「そだ……、っ!」
ぬわっ、あっぶね! 時限式の罠かよ!
「わっ、やっとこっち見てくれた~。もう幸音ちゃん、いい加減ご機嫌直してよ~」
そんな言葉とともに瑠美が俺の腕を引き抱きすくめてきた。こいつ段々知能犯になってきてないか? もういいや、俺も拗ねつかれたわ……。
鐘の音が鳴りやんでしばらく経った頃、俺たちは近郊の神社に初詣に出たわけだが――。
俺はもう拗ね捲くったわけだ。そりゃそうだろ、いきなり誘われて、有無を言わさず着替えさせられ、頭もいじられ、寒い外に連れ出され……、俺ネトゲ仲間に挨拶も出来てないっての。拗ねるなって言うのが無理ってもんだ!
神社へは星川兄妹が乗ってきた車に、幸奈と便乗した形だ。晃生の野郎、さりげな~くポルシェのSUVなんてものを乗ってやがる。いやだね、金持ちイケメン野郎は! 成金の家とは大違いだ。……うらやましい。
そんなこんなで、今俺たちは神社に向け歩いてるってわけだ。瑠美が俺と手を繋ぎ、その後ろを幸奈と晃生が並んで歩いてる。たまに二人してこっち見て笑ってやんの。くっそ。仲のおよろしいことで。き~~~っ!
街の郊外のさして有名でもない神社だ。人手の方は、最初の内はそれほど混雑するわけでもなく、順調に進んだ。さすがに露店が出ているところではそれなりの人混みになってきたものの、密集してて歩けないってほどでもない。ないのだが……、いつものやつになった。
俺のかっこは、髪は、肩から下をゆるふわ巻きにして下ろしてて、グレイのニット帽をかぶってる。ニット帽から伸びた銀の光が首の両脇から胸元に流れるように落ちてて、めちゃ映えるし可愛い。タートルネックのセーターにミニスカート、その下に寒さ対策でレギンス、足元はスノーブーツで、仕上げにチェック柄のダッフルコートを羽織ってる感じである。手袋まで装備させられこれがまた可愛いんだ――。しっかし、俺がミニスカートだなんて世も末だ……。まぁ子供のミニスカなんて色っぽさのかけらもないがな!
えっと、要は、周りの目線とかもろもろが鬱陶しい。今回は更に、瑠美も幸奈も気合い入れて着飾ってるからもう最強の組み合わせである。大中小、美少女から美女まで揃い踏みとなればもう、視線攻撃、ひそひそ話攻撃、こっそり盗撮攻撃などの良い的である。
「すみませ~ん、一緒に写真撮らせてもらっていいですか~」
中にはこんなチャレンジャーも出てくる。振袖を着た若い女性の3人組だ。大学生ってとこかな? 目線はどう見ても俺の方に向かってる。うへぇ。俺は瑠美の腕をぎゅっと抱えながら、慌てて幸奈の方を振り返って目線で訴える。た、頼むぞ幸奈。わかってるよな~!
「ごめんなさいね。せっかく声を掛けてもらっているのに、申し訳ないんですけど、ご遠慮願えますか?」
幸奈が丁寧に断りの言葉を返した。
「そうですか~、残念。でも仕方ないですね、あきらめます。すっごく可愛かったのでつい声をかけちゃいました。――お引止めしてすみませんでした。じゃあね、お嬢ちゃん! 風邪ひかないようにね~」
3人組のお姉さんたちは幸奈の言葉にすぐ諦めてくれて、なんか心配までされた。
うん、世の中変な奴だけじゃないんだな。っていうか、そもそも盗撮してるやつがいっぱいいるから正直者が損してる感じで逆に申し訳なく思っちゃうな――。
手を振りながら去っていくお姉さんたちに、俺はそんなことを考えながら思わず小さな手を振り返していた。
まぁこんなトラブルとも言えない出来事が、いくつかあったものの、無事お参りを済ませた俺たちは帰途についた。
俺が帰りの車の中でぐーすか眠ってしまったのは仕方ないことなのである。子供を夜中に引っ張りまわしたんだ、俺は悪くない!
あ、そうだ、気付いたことがある。
晃生――、出番なかったな。
運転手乙!
字数どんどん増えてくなぁ……




