雪って……体力だよね
1週間が過ぎ、健康診断の結果を聞きに町医者に出かけた。
今は結果報告書を手に、幸奈と二人で例の渋いおじさま医師の所見を聞いてるところだ。
「姪御さんの診断結果は見ての通りです。概ね良好でしたが、年齢の割には低身長であることと、痩せ気味なところは気になりますね。……成長過程での事情は承知しております。ありきたりですが、規則正しい生活とバランスの良い食事、それに十分な運動をさせることを心がけてあげてください」
おじさま医師の気遣いを含ませながらの所見を、固い表情で聞きながらうなずく幸奈。
今の話はともかく、この報告書を一通り見たらそうなるか。俺は俺でちょっとビクッとした。運動はいやだ。
胸部エックス線検査のところ……、要精密検査ってなってる。まっ、俺的には予想通りというか想定の範疇だ。意外だったのは血液検査でなにも引っかからなかったとこか。普通でびっくりだ。ちなみに俺はAB型だ! さらに言えば幸奈はO型である。
「すでに確認いただいているかと思いますが、姪御さん、幸音ちゃんの胸のエックス線写真に気になる影が見られるのですが、心臓や血管と重なっているためはっきり確認できないのです」
説明にうなずく幸奈。相変わらず真剣な眼差しだ。俺は不謹慎だけど、その真剣さがちょっとうれしかった。
――ま、そういうこともあり、元より受けるつもりではあったと言え、精密検査は不可避となった。もうこれ以上のドッキリは要らない。
俺はただ淡々と暮らしていきたいだけなのになぁ……。
人生とはほんと、ままならない。
「まぁ元々精密検査受けるつもりだったんだし、理由も出来てちょうどいい的な?」
帰りの車の中、検査受けた本人よりもよほど落ち込んでる幸奈に、ちょっと軽めに声をかけた。その言葉に幸奈が過剰に反応した。
「ちょうどいい? 何言ってるの。ちょうどいいなんて冗談でも口にしないで」
むぅ、しまった、ちょっと言葉間違えたな。くそぅ、この体になってからというもの、どうも思考の程度が下がったというか……。んん~、気をつけないとダメだな。
「ご、ごめん。そうだね、自分のことなのに……。でもまぁあれだよ! これは確認のため、こうなることも覚悟の上で受けたんだしさ。あの、ね、心配しないで?」
慰めにもなんにもなってないと思うけど、俺はそう話しかけるしかなかった。
「……うん、そうね。そうだった。そもそも言い出しっぺは私なんだし。幸音のことだし大丈夫! よし、晩ごはんの買い物して帰ろう!」
無理やりテンション上げた感ぱないっす、幸奈さん――。
まぁいいか。落ち込んでる幸奈は見たくないしな! それより俺は買い物で目立ってしまう自分の心配でもすることにしよう、うん。
――翌日、外が妙に明るいので外を見てみれば……、
「おおぉ~、これはまた見事なまでに……」
一面銀世界が広がっていた。雪はすでにやみ、空は澄み切った青空が広がってる。
うん、見るだけならとても綺麗ダネー。
みごとに雪しか見えん。
青空駐車の俺の車はすでに雪面と一体化してて、こんもりとした丘になり果てた。笑えねぇ。それに対する幸奈様のフィアットは自動シャッターの豪華ガレージに収まってるから無事なのである。そこ、元はといえば俺のランクルの場所なんだけどっ! そんなちいせぇ車入れとく場所じゃねぇんだよっ! はぁ、むなしい。
「幸奈~、どうする? 外、すっごい雪で車出せないよ~?」
「ええっ、ほんとに? それ困る~、今日は街で買い物の予定だったのに!」
はいはい、で、そのあと晃生とデートなんだろ? いいねぇ。はよ、結婚しろ!
俺は巻き込まんといてな。今日は一日ネトゲすんだからね。
幸奈の彼氏は店主さんだった。もちろん、宝飾店『エトワール』の店主のことだ。
……しかし、気付くのに遅れたのは一生の不覚だった。もう少し、もう少し早く気付いてればもっとからかえたのに! 最近続いた石関連のやり取りの中でいやでも気付かされた。
「じゃ、幸音、ちょっとお願いね」
いい笑顔でそう言われた。
珍しく早起きした結果がこれだ。昨日の健康診断のせいなら恨む。
あ、ちょっとお願いとはもちろん、除雪……である。
くぅ、やられた。
でも幸奈には負い目ばかり。ここは頭脳は大人……の、幸音ちゃんが役に立つところを見せてあげようではないか!
『ぷあ~~~~~~んッ』
『ぷあ~~~~~~んッ』
軽快な音とともに、気持ちよい勢いで吹き飛んでいく雪。差し込んでくる日差しでキラキラ輝いて見てる分にはとても綺麗だ。
よきかな、よきかな。
お子様、女の子でも簡単、電動除雪機の活動音である。電源コードで電気とるので基本活動限界などない働き者である!
まぁ所詮小型の電動なので除雪できる範囲はたかがしれているのであるが、今は新雪。吹けば飛ぶような軽い雪。活躍するには丁度いい。
美少女と雪。
吹き飛び舞い上がる粉雪、時折り巻き起こる風に煽られてきらめく銀髪……。
うん、いいと思います!
すまんちょっと調子のった。実は、髪はぼんぼん付きニット帽の中に半分隠れてるから、大して煽られもしないし煌めかない。代わりにニット帽の耳当てに付いてるフリンジがぽよぽよ揺れて可愛いけどな!
「もう死ぬ~~」
玄関の土間に雪まみれで入ってきた俺はもうクタクタである。腕、ぷるぷるして上がらん。体も、もう冷え冷えだ。以前より寒さに強くなったと自負しているが、さすがにもう限界。
頭脳は大人でも体は、くぅ、子供……の俺にこれは無理ゲーの行いだった。
「お疲れさま。がんばったね~、前の道まで繋げてくれたんだね、すごい! でもね、もうちょっと……お願いできないかな? あのランクルだっけ? 使わせてもらいたいのよね~。さすがにこの雪でチンクちゃんは不安でしょ?」
「なん……だとっ」
オシャレを決め込んでる幸奈から追加オーダー入りました。ハーフアップにした髪がとてもお似合いですぜ……、こんにゃろ。
俺の車の雪かきが決定した。
よ、幼女虐待でうったえる~~~~! しまった、自分で幼女って言っちまった。
よ、幼女じゃないよ、春から中学に行く小学生(仮)だよ!
……って、変わらんわ!
これ終わったら俺もう絶対動けん、きっと死ぬ。うう~、ネトゲが~~、俺のネトゲ三昧の一日が~~!
くぅ、やっぱ人生はほんと、ままならないっ!
がんばれ!




