初めての健診とあれ
くどいようですがこのお話は100%フィクションで出来ております
精密検査を受けなさいと言うのは簡単なのだが……。
それ以前の問題として、そもそも俺は健康診断すら受けたことがない!
……ことになってる――。
もちろん、今のこの体になってからの話だ。
俺は幸奈の扶養家族になってるから、医者にかかることに何の問題もない。とはいえ俺の現状は健診未受診とかいう以前に病院すら未受診であり、世間一般的には相当問題のある子供である。
実際、設定では両親失踪、育児放棄などというなんとも可哀そうな事情を抱えてるわけで、なんかもうね、こう言い連ねてるだけで泣けるね実際。今の俺、涙腺激弱だし。
――まぁ、嘘なんだけど。
色々御託並べたが、まあ幸奈様がやれと言ったら、もうやるしかないのである。
べ、別に受けたくないからこんなことグダグダ言ったわけじゃないんだからねっ!
身体検査程度ならともかく、精密検査だなんてもうマジやばそう、早くも泣きたい――。
受けなさい宣言から幾日か過ぎ、幸奈の尽力で検査を受ける手筈が整った。
が、何事にも順番がある。まずは町医者での健康診断である。
いきなりだが待合室にいたおばちゃん連中に飴玉とかもらってしまった。なんぞそれ。目立つ容貌、ちっちゃくて可愛い俺はその場の人気を独り占めだねっ!
――ひきオタにおばちゃんはきつい。そんなのにモテてもうれしくない。
待ち時間を利用して問診票に記入する。女性のみってとこで何気にへこむ。もちろん俺は記入だ。けど子供ボディの俺には全然関係ない内容だった……。幸奈が横からちゃちゃ入れてきてうざい。
ようやく俺の番。たかが健診に待ち時間長すぎじゃね。
ちょっとお肉が増量されてるお姉さんが俺の相手をしてくれた。
「はい、幸音ちゃん。まずは身長、体重からね~」
完全子供相手の対応である。
「あらあら、幸音ちゃん、足長いわねぇ、お顔も可愛らしいし将来はモデルさんかな?」
そんな言葉に幸奈が笑顔を振りまいてる。うれしそうね。言っとくけど俺のことだからね?
ま、なんだね、座高なんて別に測らなくてもいいのになっ。ふふっ、身長に対する座高の何たる低さよ。ひれ伏すがよい! 身長? いいんですよ、そんなの知らなくて。
なんて馬鹿なこと考えつつ検査へと進む。視力に聴力、歯とか、お、おしっことか! 何言わせるんだ、レディに対して失礼だぞ!
そしてこれで緊張が走る。血液検査だ。ぷすっとされた後、ジッと見られないようにしよ。さりげなくすぐ押さえよう。自分の血がちゃんと赤いのは確認済だ、きっと大丈夫……かな……。
「ほら、幸音、大丈夫かな~、お姉ちゃんに見せてごらん~」
血をいっぱい抜かれた後、幸奈がめちゃ大げさなフォローしてきた。ありがたいけど、恥ずかしすぎるわ!
そんなこんなで最後にレントゲンが待ってた。これもちょっと緊張する。
「大丈夫、怖がらないでいってらっしゃい」
「べ、別に怖がってないし」
「そう、ならいいんだけど」
なんか幸奈の余裕ぶった態度が癪にさわるんですけど!
ちなみに俺のかっこは無地のTシャツに短パンである。健診にオシャレは必要ない。レントゲンにプリントTはご法度である。
「はい、大きく息を吸って~」
レントゲン係りのお兄さんの言葉に、俺は胸いっぱいに息を吸い込んで止める。つるぺただからぴったりフィット、機器が冷たいん。息くるしい、まだ~?
「はい、終わり。がんばったね~、これをお母さんに渡してね」
持って回っていた健診の用紙を返された。ふふ、幸奈さん。きみは母親と間違えられたぞ~。むふふ、お兄さんの命のためにもこれは俺の心にしまっておいてやろう。
さて、残すは本日の締め、お医者様による問診である。よりによって渋いおじさまである。胸元には聴診器がキラリと光り、その存在感を示している。まるで俺をあざ笑っているかのようである。
「さて、幸音ちゃん、今日はお疲れ様だったね。これでお終いだからあと少し我慢しよう。それじゃ……」
渋い先生の声を聴きながら俺は無心になれと自分を叱咤した。あれ? なんだこの葛藤は――。無意識に拒む俺のことを読んでいたかのように幸奈のやつが、やつががっ……、
「ひあっ」
俺のTシャツを後ろから無慈悲に捲くり上げたのだった。
健康診断は無事終わり、結果が出るのは1週間後だそうだ。
つるぺたの胸をじじいに見られたからって気にしてないんだからね!
精密検査は、健診結果を受けてからとなる予定。結果に要検査がなかったとしても受けろというのが幸奈さまの方針であるからして、絶対受けなきゃいけない流れだ。
ああ、めんどくさい。
検査の件はもう言ってても仕方ない。
実は、俺はもう一つ確認したいことがあったわけなのだが、偶然にもそれを確認する機会に恵まれた。いや、恵まれたというとちょっと語弊があるか。
確認したかったこと。
それは石を他の人が持った場合、何かしらの影響があるのかということだ。放射線のようなものが出ていないのは幸奈が確認した通りだが……、ぶっちゃければ怪我をしたとして、傷の治りが早まったりするのか――? ってことを知りたかった。
――結果から言えば、何も変化は無かった。
ほんと、たまたま、たまたま幸奈が指先を切ったから試してもらっただけだから。ワザとじゃないからな。
「ちょっと残念。それ、つまるところ、ほんとに幸音にしか意味のないものだったね……。一体どうなってるんだろ」
大騒ぎの顛末としてはお寒いが、ある意味安心できたな。そして微妙に残念そうな幸奈ではあるが、俺的には予想通りと言えた。やっぱあれだな。俺とこの石はお互い共鳴しあってるような感じなんだと思う。
あ~、でもどちらかというと……、俺の一方的な依存か――。
こいつの恩恵がいつまで続くのかわからないってのはほんと怖い。他にまだ無いか探してみるべきか……。
ちっ。
こんなこと絶対…………、
幸奈には言えないな――。
なんか後味が……




