街は色々大変だった
かぜ気味……
この街は人口10万人程度のよくある地方都市だ。駅周辺に広がる繁華街や公共施設を中心にそこそこな規模でそこそこに発展したところである。
姉さんが教鞭をとってる中学もあるし、ほかにちゃんと大学や高校もある。郊外には大手のショッピングモールやホームセンターとかもあって何も困らない程度には満たされてる。俺的にはこれくらいの街が一番落ち着いていい。都会の喧騒は好きじゃない。
ペンダントは買い物を済ませた後受け取りに行くということにし、宝飾店を後にした。店主さん、うちの姉が強引ですまん。
「とりあえずお食事にしよっか。何か食べたいものとかある?」
「特にないけど美味しいものでお願い。量は食べられないから味優先!」
などと会話しつつ店の立ち並ぶ繁華街へと向かう。俺と姉さんが並んで歩くとまさに大人と子供。正直、一緒に歩くのは遠慮したいくらいだ。姉さんは女性としては背が高く、俺は逆に小学生並み。その差は30cm以上ある。泣きたい――。
休日のお昼時ともなるとさすがに人通りも多く、それなりの喧騒となるわけだが、何とも周囲の視線が気になる。はじめは勘違いかとも思ったが、鈍感な俺でもさすがに気付くくらいにはあからさまだ。
すれ違いざまにちら見してくる分には仕方ないとあきらめるのだが、これが若い女の子のグループだったりすると、それはもう遠慮がない。もうね、俺のことネタに話してるのが丸聞こえである。
まあ姉さんが頑張ってオシャレさせてくれたんだから誉めてもらえるのは俺だってうれしい。けど限度あるし。服とかじゃなくもうストレートに外見的特徴で騒がれるとうざすぎる。
「小さくて可愛い」とか「銀髪だ~」とか「ハーフかな」とか……、見ず知らずな俺のことできゃいきゃいとうるさいこと。そこのっ、小さい言うな! おまけにスマホを向けて勝手に写真まで撮り出す始末だ。学習した俺はそういう一団を見かけたらすかさず姉さんの影に隠れ、そんな奴らの目線から逃れるわけなのだが……、
「幸音、そういう行動も可愛らしくって萌えるシチュエーションね」
むむぅ。
覗き見してるのがたまらなくそそるのよ?
などとのたまう幸奈さまである。解せぬ!
まぁスタイリッシュで美人な姉さん(おまけに胸がでかい)と並んで歩いてる上に、今日の俺は超絶可愛いからな!(自画自賛)
仕方ないね。
などとぶつくさ言ったがまぁ、女の子たちが騒いでるだけなのである意味平和である。しかしながら中には鬱陶しい奴ら(もちろん男どもだ)もいたりするが、だいたいは姉さんのひと睨みで事なきを得る。
とはいえそんなのには近寄らない、かかわらないのが一番だけどな。ついでに女の嫉妬は恐ろしいっていうのも体感した。そういう視線は案外わかるもんだ。怖い怖い……。
お昼は結局イタリアンになった。姉さんと二人で色んなトッピングが載せられたピッツァをつまみつつ、俺はパスタをちゅるちゅる食べた。はしたないって怒られた。小さい手でナイフとスプーン使って食べるのは大変なんだよ。口も小さいしなっ! うまかったがチーズでちょっと胸やけした。
「おいしかったね。それじゃお買い物に行きましょうか。幸音のものいっぱい買わなきゃね」
幸奈さん、ほんと楽しそうですね。俺はすでにお腹いっぱいです。物理的にも精神的にも。
「冬物いっぱい買いましょうね。幸音も欲しいものあれば言うのよ? そうそう下着も可愛いのを買わなきゃね! 幸音はネット通販ばかりで味気ないったらないんだから」
そういった品々は元男にはきついんです。わかってるでしょ、あなた! ネット通販最高じゃないですか~。それで十分なんです、俺。
まぁ言えないんですけどね!
「わぁ、お人形さんみたいに可愛らしいお子様ですね!」
「お嬢さまのお歳くらいのお子様ですと、成長が早いですからね、まだまだ大丈夫、心配いらないです!」
最初の言葉はお店でのテンプレだ。
で、一体なにが大丈夫なんですかね? ほっといてください。何度も言わないで……。
――採寸なんてものをされた俺はもう涙目だ。俺のスリーサイズについては伝えることは無いから。ああそうさ、伝えるほどにもないんだよ! 泣く!
営業スマイルも板についてる店員さんである。店に入ったとたん獲物を見つけたケモノみたいに飛んできたかと思うと、姉さん相手にどんどん商品をお勧めしてる。姉さんも負けてないぞ。あれがいい、これがいい……ってなもんで、節約なんて言葉知らないんだろ?ってツッコミを入れて差し上げたい。
俺、もう帰っていい?
行く先々で可愛がられ、お世辞半分でも褒められれば、そりゃうれしいけど……、それが続けばもううんざりである。しかも店員だけならまだしも、たまたま居合わせたお客にまで好奇の目を向けられるもんだからたまったものではない。3人寄れば姦しいというが、俺は身をもって体験した。
「姉さんもう疲れた。帰ろうよ~」
買い物を始めてまだ2時間も経っていない。だがしかし、俺は早くも音を上げた。あげてみた。
「ええ? もう疲れちゃった? でも困ったなぁ、まだ早いし……ペンダントも仕上がってないと思うんだけど……」
「つ~か~れ~た~! 姉さんと一緒にしないで~~~~」
「う~ん、まだまだ行きたいお店、いっぱいあるんだけどなぁ」
そんなことをのたまうたくましい姉。幸奈さん? こう見えて俺子供。子供のはず、だぶん――。
だから体力ないの!
っていうかマジ疲れてきた。あれれ、おかしいな……。
冗談交じりでぐずったふりしてるだけだった、はずなのに――。




