幸音の告白
ぐだってるかな……
「幸音~、お風呂入るよ~」
「は~い、ちょっと待って~」
幸奈が機嫌のいい声で俺に呼びかけてきた。
む~、面倒だが仕方ない。とりあえず了解の返事を返す。ここでいやと言っても無駄だ。強制連行が待っている!
そんな教訓を得るくらいには、幸奈と一緒に入ることが多くなってしまった。
これも女の子指導の一環なんだと。俺の体の洗い方ががさつにすぎると。特に髪の毛。ひどすぎらしい。ほっといてくれ! そんなことで死なない。もう最初にばっさり切っとけばよかったな……などと後悔。――ごめん嘘。このつやっつやの長い銀髪は俺も気に入ってるんだ。雑な扱いにも耐えた髪なんだ大事にしよ。
っていうかだ、俺には幸奈が単に一緒に入りたいだけの気がする。かなり昔のことだが俺なんかより妹が欲しかったみたいなこと、冗談めかして母さんに言ってた気がするんだ……。まぁいいんだけど。
あーーー、ちなみにだが、これっぽっちも興奮などしない。殺意湧くようなでかい胸にだって、興奮したりしていない、いやまじで。不思議というか、当然というべきなのか? 女の子に変わってしまった俺にその手の興奮は皆無だ。――失ったものはあまりに大きいのかもしれない。これ、今までで一番泣いていい案件だと思う、主に男の尊厳的に。
それよりもなにより、――姉さんは一緒に入って恥ずかしくないの?――って最初は聞いたものだ。
「はぁ? 幸音は幸音、兄さんと入るわけじゃあるまいし、女の子と入るのにどうして恥ずかしがる必要あるの?」
これが返事だった。いやね、兄だった元男と一緒に入ってるわけなんだがね。そう言う幸奈の顔は少しにやけてたように見えたのは気のせいじゃないだろう。
やっぱ俺、からかわれてるよな絶対。
ま、幸奈も割り切ってくれてるんだし、俺も気にしないことにしたのだ。
まぁ昔、小さい頃はよく一緒に入ってたことだしな! うん、関係ないな!
着替えを用意し総ヒノキのでかい風呂へと向かう。二人くらいなら余裕で入れてヒノキの温かみと香りがとてもいい。俺も幸奈も大のお気に入りである。
脱衣所に入れば、幸奈が俺とは全く違う、出るところが出て、くびれるところはしっかりくびれた、女性らしい体を惜しげもなく披露していた。なんともやわらかそうで、それでいてしっかり張りのある素晴らしいおっぱいである。ちっ、うらやましくなんてないんだからねっ! なんてお約束を心の中でかましつつ、俺も隣で部屋着(これもまた幸奈の趣味で、やたらかわいらしいもこもこなやつだ。俺はもう無抵抗である)を脱いでたら声をかけられた。
「幸音、そのネックレスってお守り? いつも大事そうに身に着けてるようだけど」
幸奈の言葉に、何気にこれから成長してくるはずの胸元を見る。例の青い石を入れたネックレスが俺の首元に当然とばかりにかけられている。
「え、ああこれ? そうおまも……り……」
あ、ああっ!
しまった……。
例の体質の話、しようしようと思いつつすっかり忘れてた。お守りって聞いて思い出したわ!
くぅ~、内容が内容なだけに言いそびれてしまってた。色々忙しかったし……。それに、そもそもどうしてこんな体になってしまったかって理由すら俺、まだちゃんと話してなかった。
そう思うとすーっと体から血が引いていく気がした。
なんてうかつで無責任な奴なんだ、俺!
幸奈のやつ、きっと気になってただろうに……俺が言い出すのをずっと待ってくれてるんじゃないのか?
散々今まで面倒かけてきたってのに。俺ひでぇ。まじ兄失格だ。
風呂でたらちゃんと説明しなきゃな……。
「へぇ……、そうなんだ。幸音がそういうの着けてるのはめずらしいね。じゃ、冷えちゃうし早く入りましょ」
俺はそんな幸奈の言葉にも気もそぞろで、風呂でも危うく転げそうになってしまった。幸奈がとっさに支えて事なきを得た。ほんと面目ない。
「姉さん、ちょっとお話がある。いいかな?」
お風呂から上がり、髪を乾かしてもらっている最中、背後に幸奈を感じながら俺はそう声をかけた。正面から声をかけるのはなんだか怖かった。
「どうしたの? かしこまっちゃって。変な幸音」
訝しみながらもやわらかい笑顔でうなずいてくれた。
そして俺はこれまでの経緯をすべて、包み隠さず姉さん……、幸奈に話して聞かせた。幸奈は黙ってそんな俺の話を聞いてくれていた――。
話も終盤、論より証拠ってなもので、さくっと実演して見せたら、思いっきり頭から掻き抱かれた。そのまま「2度とこんなことしないでっ!」ってマジ顔のマジ泣きで、きつ~~~~~~く言い含められた。ここまで泣くとは思ってもいなかった……。
は、反省してます! ごめん!
だから、まじ、もう泣かないでくれぇ。
しばらくして落ち着いてから、姉さんが首元のネックレスを手で弄びながら言ってきた。
「それにしても幸音、そのネックレス……、姉さん的にはちょっとね。せっかく細い首にきめ細かな白い肌してるのに、これじゃその、ねぇ?」
青い石の入った小袋を指でつまんでプラプラさせつつ、そうのたまいよった!
ぶっちゃけ「ださい」と苦笑いされちまった。
な、なんだよ。石を小袋に入れるのはいかにもお守りっぽくていいじゃないか! 俺的にはこれで十分だっつうの。でもまぁ、そんな俺の意見は通るはずがないのはいつも通りだ。
ってことで、近いうちに街でちゃんと加工してもらおうってことになった。
「私は行かなくていいよね? っていうか出かけるのいや」
「却下です。幸音が行かなくてどうするの?」
却下はやっ!
「よし、今週末は街で買い物! 決定ね、楽しみだね~~幸音」
あれ?
おいおぃ~、買い物メインか~い!




