幸音
まぁ……
DNA鑑定の結果が出たらしい。
幸奈のやつめ、口では――「家族になろ? 兄さん!」――とか言って俺のこと認めてくれたのかと喜んでたのに、翌々日、いきなり俺の口に綿棒ぶちこんでかき混ぜてくれた。鑑定するのに口の中の粘膜が必要なんだと……。さいですか。
俺、幸奈の言葉にすっごく感動して、不覚にも泣いてしまったのに――。
ぶち壊しもいいとこだ。あのときの俺の感動を返せ!
――で、今からその結果を教えてくれるらしい。しかし早いな。
俺は間違いなく俺なわけだが、ちょっと心配だ。ほら、例の体質? 傷ついてもすぐ治るなんてわけのわからん体してるんだ。そういう鑑定の時、変なことにならないか気になるだろ? いや詳しいことなんか全然しらんけど。妙なことにならないこと祈りたい。
あれからもう10日経ってる。幸奈のやつはずっとこの家に居座ってる。仕事は余りまくってる休暇を2週間もらったそうだ。当然いい顔はされなかったようだが押し切ったみたいだ。いいのかよ、教師がそんなことで。
ちなみにその後もまだここに居座る気満々みたいで、仕事も家から行くってさ。俺を一人で住まわせておくのは心配だと。俺ずっと一人だったって言ったらため息つかれた。まぁ、俺は別に全然かまわんが……今住んでるマンションとか、どうすんのかね?
「幸音~、ちょっとこっちに来てくれる~?」
ほいほい、お姉様がお呼びだ。
「は~い」
名前は幸音になった。まぁ兄妹二人俺が幸紀、妹幸奈で、幸繋がりだったし妥当なところかな。北美幸音かぁ……、うん、悪くない。当然決めたのは妹だ。ああ、これからは叔母になるか。くく、笑える。おばさんって言ったら絶対怒るよな? あいつ。 おっと、ちんたらしてたら怒られるっ、急ごう。
居間にいる妹のところへ向かう。妹はローテーブルを前に足を崩して座ってる。手元にしっかり封書があるのが見えた。
「幸音、鑑定結果でたから伝えるね」
向かいに俺が座ったのを見て、妹がそう話し始めた。その表情はおだやかで、俺の緊張感がすこし和らいだ。しかしこいつ、なんというか適応力ぱねぇな。もう俺のこと普通に幸音よばわりだぜ。さすが教師って言うべきなのかねぇ……。
「幸音と私、母さんのDNAが一致してた。母さんの子供だった。これで私とあなたの血縁関係がまず証明されたの」
妹からあっさり出たその言葉に俺もほっと息を吐きだす。ん、まだこっちをじっと見てるな。続きがあるのか。
「それとなんだけど……、幸音が兄さんの子供には当たらないってこともこれではっきりした。調べた鑑定方法だと、もしね、もし幸音が兄さんと誰かの子供だった場合、母さんのDNAは確認出来なかったはずだからね。――幸音はほんとに、ほんとうに兄さんなの……ね」
そう言うやいなや、幸奈が俺の側に寄ってきて何も言う間もなく、きつく抱擁されてしまった。
「良かった。よかったよ……兄さん……」
幸奈、涙声……か。
ああそうか、そうだよな。言葉でどれだけ言って、信じるって気持ちになったとしてもさ、やっぱ100%なんてこと……ある訳ないよな。
実家に帰ったら俺の姿は無く、代わりにいたのがこんな俺。そりゃ困惑して不安にもなる。俺は、両手を妹の背中に回し、ぎゅっと抱きしめた。幸奈もそれに応えてまた強く抱きしめてきた。
妹とこうやって抱き合うことなんて、男の頃を通しても初めてじゃないか? あ、まぁ赤ん坊のときになら抱かせてもらったこともあったかもしれんが……、それはノーカンだろ?
俺はすぐに照れくさくなってきたものの、妹の気持ちを考え小さな体をじっとされるがままに任せるしかなかった。
「それでね、これからのことなんだけど」
落ち着いた幸音と俺は再び向かい合い、これからどうするかについて話し合うこととなった。
その結果、いやいや決まった方針がこれなわけだ……。
泣けるぞ?
まず男の俺のことだ。
幸紀の扱いをどうするかだけど、ひとまず行方不明にするしかない。かといって捜索願いを出して人の手を煩わせるのも気が引ける。ここは家出扱いでしばらく放置。しかるべき後に失踪届けを出すって流れになった。仕事先には迷惑かけてしまうがこればかりは仕方ない。と言ってもここ最近まったく仕事してなかったけどな! 失踪届けはすぐに受理されるわけじゃなく、色々条件があるようで面倒なようだ。
次に幸音の扱いだ。
こっちは相当問題だ。鑑定結果では俺は俺の子ではないと確認とれたわけだが、ここではそれはかえって都合悪い。何しろ結果から言えば幸音は母さんの子供。俺たちの兄妹ってことになってしまう! 何その展開。だからここはあえて、あえて幸音は俺の子供ってことにする。その設定も凝ってるぞ。妹が張り切って考えたからな。
――母親は幸音を半年前この家にいきなり連れてきたかと思うとそのまま行方知れず。しかも各地を転々としていたせいで学校にも行かせてもらえず、あまつさえ戸籍すらないときてる。お盆の時点では幸紀はそれを妹に言えず、結果悩んだ末、すべてを放り投げての家出って設定だ――。なんだこれ?
えええ? 幸奈さん? それ俺、どんだけハードモードなわけ? あと俺と母親どんだけ鬼畜なんだよ!! 母親いないけど……。
俺――、泣いていいよな?
幸紀! 強く生きろ!w




