たった二人の家族
設定厨……
目の前にいる、可愛いけど、余りにも変わった女の子のことを私はどう捉えたらいいんだろ?
――「ゆ、幸紀だよ? うん、幸紀! それで家はここ、ここが家っ!」――
さっきの発言はいったいどういう意味??
兄さんは今年で35歳になる男性である。背は高いものの華奢で、ずっと家に引き籠ってるから色は白かったし、イケメンってわけじゃないけど人の良さそうなやさしい雰囲気の、いわゆるいい人を地でいってる人である。私にとって唯一の家族な訳だし嫌ってるはずもなく、こうして時々様子を見に来ているわけだけど。まさかこんなことになっているとは――。
兄さん……、この女の子と二人で住んでるってことなの? いつから? お盆に来た時いなかったよね? 隠してた? どうしてこんなこと言わせるの? なんだかもう頭の中、いろんな考えでぐるぐる回ってる。
ああもう、ぐだぐだ考えてても仕方ない! 再確認だ。
「ねぇ、もう一度聞くね? お名前なんていうのかな? 兄さんの名前じゃなくて、あなたの名前。私の言ってることわかるよね?」
まずは名前だ。ここから始めよう。
「だから、幸紀だって! 信じてくれよ幸奈~~!」
可愛らしい顔に必死な表情を浮かべ、私に訴えかけてくる。体はかなり細身ですごい色白だけど、血色が悪いという感じでもないし健康状態は悪くなさそうに見える。きれいな銀髪で目の色も紫っぽくて白人でも珍しいような色だ。そこだけ見れば日本人にはとても見えない。でもさっきも思ったけど、体の特徴は日本人っぽくて、この子もしかしてハーフかもなんて思う。兄さん、もしかして外国の人といい関係になって……、この子はそれで出来ちゃった子だったりして? いけないまた考えが逸れだした。
「う~ん、そうはいってもねぇ……」
私はどうしたものか言葉に迷う。できればこの子のこと傷付けたくないし、信じてあげたいけど、言ってることが余りにも、その、荒唐無稽というか……。
そんな私を見てその子は、とんでもないことを言いだした。
「じゃ、俺とお前しか知らないこととか、父さんや母さんのこと言えば信じるか? 覚えてる限りなんだって言うぞ! なんなら俺に聞いてくれたっていい! 全部答えるっ!」
乱暴な言葉に思わず眉を顰める私。でもそんなことなどお構いなしにその子は必死に、次から次へと話し始めた――。
とても女の子が使う言葉遣いじゃなかった。ぶっきらぼうで乱暴な、それこそほんとに兄さんが話してるような――顔と声さえ気にしなければ――、そこにいて喋ってるような、そんな気にさえさせてしまう話ぶりだった。
話の内容にしてもそうだ。兄さんと私しか知らない知り得ない、小さい頃や学生の頃の話、大人になってからの出来事とか、土地を売った時のお金の話とか、もちろん母さん父さんたちの思い出……、それに、あの事故の時のこととか――。
「ふぅ……。どう? ……これで信じてくれる……か?」
ずいぶん長く話し続けて疲れたのか、ため息をつき、小さな肩を弱々しく落としながらそう聞いてきた『自称兄』の女の子。その淡い紫色をした目は私のことをじっと見つめたまま離れない。
「そ、それは……」
どうしよう。
気持ちの上では信じてあげてもいい気がしてきた。いえ、信じたい。
けど、けどだよ!
兄さんは180cm近くあった痩身長躯な男性。比べて今私の目の前にいるこの子は130cmの半ばくらいあればいいところ。何より男の人が女の子になったなんて言う話――、眉唾もいいところ。私では理解の範疇を超えすぎて意味不明すぎ。そこがどうしても私の中で看過できないこと……として居座ってる。
「ごめん……、お話し自体はね、嘘は言ってないって理解したのよ? 兄さんと私しか知らないこととか、びっくりするぐらい詳しく出てきて恥ずかしいったらなかった。母さんや父さんのこととかも……、よくそこまで覚えてたなって感心した。もう、うれしくて懐かしくて……泣きたいくらいだった。ほんと兄さんと話してるみたい、だった――」
ほんと悲しいことまで思い出させてくれちゃって。まさしく兄さんそのままだったよ――。その見た目さえ女の子じゃなかったらきっと……
あっ! ……ああそうか、そうだよね。なんだか話してるうちに考えがまとまってきた。
私の結論――。
「でもね。やっぱりあなたが兄さんだっていうことは認められない。ううん、違うね。認めること自体に意味なんてないってことかな」
ふふっ、私の言うことが理解できないみたいでまたぽか~んとした表情をしてる、可愛らしい。
そう、そんなこと、意味なんてなかった。
目の前のこの子は兄さんの知ってることを話せるし、兄さんの経験してきたことも出来るのかもしれない。父さん、母さんのことも一緒にお話しできる。ぶっちゃけ兄さんの記憶を持った少女と言ってしまったほうが世の中の通りはいいかもしれない。(輪廻転生みたいな意味合いでね。姿形が変化したっていうよりよっぽど理解しやすいと思う。まぁいずれも普通ありえないのは変わらないけど)
でもそれがどうだというの? 何にもならない。
女の子の中の兄さんのアイデンティティを、仮に認めたとしても世間的にはなんの意味もなく、そのまま置換して兄の存在に成り変われるはずもない。無理すじなのだ。だからと言って一生世に出ることも出来ず、こそこそ隠れるように過ごしていくなんて、私はぜったい認められない!
「だからね、あなたはもう、あなたとして生きましょう。兄さんじゃない、女の子としてのあなたとして」
だから私はそう言ってあげた。
「女の子としての……俺? って、ええっ?」
驚いてる、驚いてる。
「私が認めます。これからのことも私がなんとかします。だからね――」
私は一呼吸置く。
女の子……、兄さんが息をするのも忘れたかのように私を見つめてる。
私も素直になろう。そう、ほんとは認めてる。なぜかあんな突拍子もない話を信じちゃってるんだ……私は。だから言うぞ!
「改めて――、家族になろ? 兄さん!」
簡単な文章苦手……
くどくてすみません




