絶賛混迷中?
妹迷走!
幸奈のやつ、突然帰ってきて俺の部屋に押し入ってきたかと思えば、マシンガントークかましてきやがったよ。もうね、呆気にとられて誤魔化す暇もなかったさ――。ま、そんなネタの一つもなかったけどね。
しっかしこの早とちりのトンチンカンはどうやら俺のこと、俺がどこかの子を連れ込んだと思ってるみたいだ。
確かに状況だけ見ればそう……思えなくもなくもないこともないってことはないってことは! 認めよう。一人暮らしの中年男、引き籠りオタの自宅警備員の家に子供がいると思えば、そういう疑いを持つこともあるかもしれない。
それでもだ。
幸奈め、あいつ俺がそんなことをするような男だと少しでも思ってやがったのかよ。俺ってそんなに信用なかったんか? なにげにちょっとショックだ――。
普通に近所の子が遊びに来てるとか思えなかったのか! って言いたいけどなぁ、無理か? 無理だよなぁ。小さい子、それもとびきり可愛い女の子ともなれば俺と関連もたせる方が難しいよなぁ……。
でもとりあえずそれでも無実な訳だし、そもそもがだ、俺自身のことなんで連れ込むもくそもない。事件でも事案でもないのである! 言いがかりの事実無根だ!
呆けてる俺を心配してか、妹が胸元まで俺を寄せ顔を覗いてくる。うぉ、でかい胸が目前に最接近、もげろ! 男の時の癖でつい照れて目をそらそうと上を見る。妹と目が合った。
なんか色々言ってくる。こいつなにげに俺のことディスってんな。
そんなことに負けん! ここはひとつ、はっきりと言ってやる。気合いだ。
「幸奈! 俺な、その……、目の前にいるから!」
――だからいくら俺を呼んでも探しても出てくるわけないんだぞ。
とは言え、幸奈がまごうことなき女の姿(へたしたら小学生女子に見えて、ついでに銀髪)をしている俺の今さっきの言葉……、信じるわけないか。
「は、はいっ??」
ほーれ。
何言ってるのこの子? みたいな顔してこっち見てるぞ、きっとあほの子って思われたぞ、――つらい。
「お嬢ちゃん? それ兄さんの真似? 笑えない冗談だけど……でも、私の名前呼んだね? う~ん、もしかして無理やり連れてこられたってわけじゃないのかな? ――えっ、もしかして私、早とちりしちゃった?」
おお! なんかいい流れか? いきなり信じてもらえるはずもなかったが、うまい具合に自己解決して落ち着いてくれそうな雰囲気だ。
「でもね、目上の人を呼び捨てにしちゃだめよ? 女の子なんだから俺っていうのもだめ。今からそんなこと言ってると変なくせついちゃうよ?」
幸奈め、そういいながらメって感じで俺の額を軽くこついてきた、マジ泣ける。説教はいいんだよ!
「うう。ほんとなのに……」
ついぽろりとこぼす。俺涙目。なんかこの体になってから涙もろくなってないか。
「ああ、ごめんねお嬢ちゃん、怒ってるわけじゃないの、泣かないでっ。そ、それでね、にい……この家の人はどこかな? もう知ってるのかもだけど、私の名前は北美幸奈。ここに住んでる男の人の妹よ」
なんか自己紹介されてしまった、ちょっときまずい。
「それで、あなたのお名前はなんていうのかな? どこのお家の子かな?」
もうカンペキ子供あやす口調で萎える。っていうか、えっ?
「な、名前……」
なん……だと! 名前っ、盲点だった。
か、考えてねぇ!
――ま、まぁいいか、とりあえず自分の名前言おう。間違いじゃないし。
っていうか真実、俺の名前だし。
「ゆ、幸紀だよ? うん、幸紀! それで家はここ、ここが家っ!」
だから俺は自信をもってそう言い切った。嘘は言ってない。真実だから! でも俺なんで子供口調で答えてんだろ……、く~~、きっと妹のせい。
そんな俺の言葉に妹の表情が心なしか曇った気がする。そんな顔、美人が台無しだぞ。
「ふぅ……、あのねお嬢ちゃん。幸紀は私の兄さんの名前なの、わかる? 私が聞いてるのはお嬢ちゃんのお名前よ? まさか……忘れちゃったなんてこと、ないよね……? え? 家がここって……どういう……」
おうおう、幸奈のやつ絶賛混乱中か? 声が尻すぼみになっていったぞ。
――あれっ?
えっと、俺なんかまずいことでも言った? 妹の顔……、なんかさっきにも増して曇ってきてるんですけど!
次回くらい問題解決……?




