BackSheep4
八月の間、私は結局一度も屋敷には行かなかった。高校を卒業して大学に通いだしてからは、それが当たり前だった。
だけど今年は何度もあの屋敷を訪れてしまった。近づかなかったことを後悔しているのか、それとも安堵しているのか上手く掴めない。
ただあの屋敷以外でも仲間たちとは出会うし、彼らと会話を重ねた。だから気が進まないけど、夏休みが終わる前に私は屋敷に向かうことにした。
見慣れた山道。鬱蒼とした洋館。思い出の風景とちっとも変っていない。あるいはそう思いたいだけなのか。
チャイムを鳴らすとトマスがすぐに顔を出した。そういえばトマスとだけはしばらく会っていなかった。
「久しぶり」
「うん。ごめんね」
「何が?」
「その全然来れなくて」
「気にしてない」
といって彼女は屋敷に私を迎え入れた。屋敷の中の気配が静かだ。
「もう学校行ってるよ。高校生だもの」
得意げな笑みをトマスが私に向けた。私はどうやら無意識にマリアの姿を探していたようだ。そしてトマスはそれに気づいていたようだ。
客室にまで案内されて、いつものように席につく。一月来なかっだけで、屋敷の様子は変わりない。
「トマスはマリアに話しているの?」
「なんのこと?」
「名前のこと」
名前というより苗字のことか。
「あーおば様は知ってるよ。ジーザスも知ってるけど、なんにも言わなかったよ。だから知ってると思う」
「そっか」
それなら私が気にすることではない。
「そういえばおば様があんたと話したいって言ってたよ」
「えっ。前のお手伝いの人だよね。そのマリアの親戚の人」
「なんだ。意外と詳しかったんだ」
あの人が私に話をしたいか。思い当たることと言えば、ジーザスのことか。一応私たちはこの間、初さんに付き合っていると嘘の報告をしたばかりだ。表向きの情報だけが、回ったのだろうか。
「まっまぁね」
私は平静を装いつつ、内心は憂鬱だった。
「吉相由紀美かぁ」
感慨深く言葉が零れた。口にしたのはトマスの本名だ。
「やめてよ。好きじゃないから」
「ごめんつい。聞こえた?」
字は違うけど、彼女はこの家と隠れた縁があった。今思えば、ジーザスが彼女と交流をとった理由には、苗字のことがあったのかもしれない。
彼は何も答えてはくれなさそうだけど。
「嫌なものは聞こえちゃうの。きっと警戒してるからね」
なるほど。嫌だから聞こえるし、見てしまう。
「ってマリアがこの間言ってた」
「なるほど。トマスらしくないと思った」
「酷いなー。まぁあんたたちみたいなロマンティストじゃないよ」
一体トマスは誰までのことを言っているのだろうか。そういえば、最近シモンに変な相談をされたことを思い出した。
「シモンが言ってたんだけど」
私がそう話を切り出し、先日シモンに会ったことを伝えた。トマスは目を丸くしていた。予想外の反応だ。
「どうしたの?」
「いや驚いてて」
「シモンらしくないよね」
「そっちもだけど、そっちじゃない」
トマスにマジマジと顔を見られたが気にしないことにした。
「はぁー私も恋したいなー」
トマスは深いため息をこぼした。
「いないの。相手?」
「私の理想が高いのかも。この家にいるからね。シモンもジーザスも優良物件だもの」
確かにあの二人を見ていると、自然とハードルは上がりそうだ。
そこで一端会話は途切れた。沈黙の中で、ここ最近あったみんなのことを思い出した。
そろそろ覚悟を決めるべきなのかもしれない。
「私が高校三年の冬の話なんだけど」
「どうしたのいきなり」
「そろそろ話そうかなって」
本音を言うなら私はまだ思い出話をしていたい。ただ私がこの話すことを待ちきれない人がいるのも確かだ。
果たして私はうまく話せるのだろうか。破滅の話。終わりの話。それとも始まりの話。私にはあの話を上手く話す責任がある。
ルカ 戸松陽歌
マリア 吉祥香恋
ジーザス 新道寺祐一
シモン 門田祐樹
トマス 吉相由紀美
レン 椎名蓮子
今
ルカ 戸松陽歌
マリア 椎名蓮子
ジーザス 新道寺祐一
シモン 門田祐樹
トマス 吉祥由紀美
新道寺初




