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幼い頃に、読んでもらった絵本なんて今は覚えていない。


歳を重ね、記憶に残っている本といえば、学校で使った教科書かな…。


本にはあまり興味がない。触れる機会もほとんど無い。


そんな人達に本を好きになって欲しい。彼女の様に…。


春風に舞う桜の花びらが、花咲はなさき 華南かなん の頬を悪戯にくすぐり、そのまま地面に優しく着地する。


風に舞っては地を目指す花びら達は、絶え間なく彼女の視界を支配する。


華南は眼鏡にかかる、黒く長い黒髪を、白く透き通る綺麗な指先で、耳までかきあげた。それから彼女は、胸に抱えた一冊の本をゆっくりと開き、そっと指で撫でた。

けれど不思議なことにその本は、真っ白の白紙のページばかりで、どのページにも文字ひとつ無い。

彼女は、そんな白紙のページを眺めながら、小さく微笑んだ。

「どんなお話になるのかしら…」

そう言いながら彼女は、そっと本を閉じた。



雲一つない晴天、程よく吹き抜ける風は暖かく、とても清々しい朝。


桜満開の遊歩道はとても穏やかな雰囲気が漂い、野良猫達も無防備にあちらこちらで居眠りをしている。

そして、そんな遊歩道を進むと大きな坂に出る。この坂はここの土地では少しなの通った有名な場所だ。

何故有名かというと、坂を下る途中、この坂から街が一望出来るというところだ。

そんな、絶景スポットにも気にもとめず、なれた足運びで行き交う人々、そして多くの学生が目に入る。

楽しく話をしながら歩く者、肩を組んだり、じゃれあったりする者、そんないったってどこにでもある光景が、この坂に広がっている。

だがしかし、そんな光景も一人の少年の登場によって状況は一変した。

少年は学生が群れをなす坂のど真ん中を肩で風を切って歩いている。

周りの学生達は逃げる様に道を開け、揃って皆んな冷たい視線を彼に向けている。

古谷(ふるや)だよ…」

「あの不良の?」

「そうそう、学校ではかなり有名人だよな…」

「えぇ、古谷くん今日珍しく学校来たんだ…」

「あんまり見ない様にしよう」

「うん」

周りの学生達は皆んな、口を揃えて彼の事をよく言うもはいなかった。

そんな周りの視線、言葉など気にも留めずに古谷ふるや 春一はるいちは淡々と歩みを進めた。


彼は紛れのない、一匹狼だ。


彼女は本が好きだ。いつなんどきも、本は常に持ち歩いている程に。


そしていつも通り彼女は本を片手に、今日は、ある目的地へ歩みを進めている。古風の民家が並ぶ住宅街を抜け、幅のある大きな川に架かる大橋を渡り、そこから少し歩くと、辺り一面満開の桜で埋め尽くされている遊歩道に出る。

彼女はこの道のりを大好きな本を読みながら歩く。誰もを魅力する満開の桜が両側に立ち並ぶそんな美しい景色も、本の虫の彼女の前では無力だった。

しかし、無数に舞い散る桜の花びらのうちの一片がそっと彼女の没頭する本の1ページに降り着いた。すると彼女は立ち止まり、本からゆっくりと視線を上げ桜木を見上げながら小さく微笑んだ。

「ふふ、一旦ここまでにするわ…」

そして彼女はさ、花びらをしおり代わりにするかの様に、本をゆっくりと閉じた。

「綺麗ね…」

彼女はそう桜に語りかけながら、また歩き出した。














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